蒼いガラス
お題箱より
「セーラー服」「なびく髪」「ガラス細工」です。
物語のテーマは
「ありがとう」
書く練習用なので読みづらい所もあろうかと思います。ご容赦ください。
初めての飛行機でテンションが上がっていた私は隣に座る親友の雪に話しかけっぱなしだった。
「ねぇ! 雲の上飛んでるよ!」
「そりゃそうでしょ。てか茜はそのノリでずーっといくの? まだ初日なのに持たないよ」
高校2年で行く修学旅行は沖縄か東京どちらかを選ぶものだった。都会に憧れる子たちは東京に行くと嬉しそうに話していたが、私は海が好きだったので沖縄を選んだ。
高校から知り合った親友の雪はどちらでも良いと言っていたのでこっちに付き合ってもらっている。5月の時点で沖縄は既に海開きもしているから泳げるらしい。多分前半はお勉強ばかりだろうけど、後半は自由時間にショッピングやレジャースポーツも楽しめる。もちろんスクール水着なんてものじゃなくて二人でこの為に水着も買いに行った。ホテルの部屋も同室で外泊もした事無かった私は何もかもが楽しくてしょうがなかった。
◇◇◇◇
首里城やひめゆりの塔など沖縄の歴史を勉強し、ホテルでは地元料理も味わえた。少し背伸びした水着は恥ずかしかったが開放的な雰囲気と周りの生徒たちのテンションの高さにすぐに気にならなくなった。地元の海とは違う海の色や生き物など楽しい時間はすぐに過ぎてしまった。雪は海水がベタベタすると海にはあまり入らず、写真を撮ったり貝を拾ったりして楽しんでいた。
「茜! 早くしないと集合時間に間に合わないでしょっ!」
「ちょっと待って〜。前髪がうねって上手くいかないんだもん」
「ピンで留めな。諦めも肝心よ」
しょうがないのでピンで抑えて更衣室から出てくるといつものように雪がセーラー服のリボンを直してくれた。
「また曲がってるし」
「ありがとう〜。でも誰も気にしないよ?」
「私が気になるの」
これもいつもの光景だ。リボンが曲がっていたり校章がズレているとすかさず直してくれる。雪はきっちりとした性格なのに、よく私のようなズボラ人間と仲良くしてくれるものだ。
◇◇◇◇
4泊5日の修学旅行も明日には帰るので、家族にお土産を買わなければいけない。
「おばあちゃんにもお小遣い貰ったから何か買って帰らないと」
「お菓子が無難だよね」
最終日は国際通りでショッピングをする事にした。他に水族館に行くと言っていたグループもいたし、同じく今日はショッピングにした同級生も多く見られた。お菓子やシーサーの置物など色々目移りしていると雪がくいっと袖を引っ張った。
「ねぇ、あれ綺麗じゃない?」
指を刺した方を見ると沖縄の海を連想させるような鮮やかなブルーやグリーン、シュノーケリングで海の中からみた気泡が入ったような丸いコップが置いてあった。
「へえ〜、可愛い。【琉球ガラス】だって」
ひとつと同じものがない感じから量産されたものではなくて手作りなのだろう。
「茜。修学旅行の思い出にさ、お揃いで似たようなコップ買っていかない? 」
「あーっ! それ良い! 早速いいかんじなの探そう」
あれこれ見比べながら選んだのは、ブルーの丸くてコロンとしたコップ。この2個は他に比べると色が濃く、沖縄の海を連想させてくれるので思い出の品にぴったりだ。
「これで、大人になったらお酒飲もうね」
「…3年後ね。わかった」
何年経っても私たちの友情は永遠よなんて言って笑いながら店を後にした。
高校を卒業し私は海洋生物を学ぶために県外の大学に進学した。雪は管理栄養士になりたいと言っていたので別々の大学だ。その後大学を卒業した私は地元の水産振興課に就職。
「雪。久しぶり。お酒持ってきたよ」
今でもたまに雪に会いに行っている。お墓の前で花とお酒、あの時のグラスを持って。
ずっと知らなかったのだが、雪は幼い頃から脳の中の血管に瘤があったらしい。取り出すにも難しい場所で、サイズが大きくならなければ日常生活に問題がない事から経過観察を続けていた。大学に入る直前にその瘤が破裂して、くも膜下出血を起こしそのまま帰らぬ人となった。
母親からの知らせに急いで帰ったが、既に雪は棺の中に入っていた。つい数日前に会ったばかりで元気だったのにもういくら呼びかけても答えてくれない。
突然の事に唖然とし、何も言えずにいると雪のご両親が話しかけてくれた。
「茜ちゃん…よね? 雪と仲良くしてくれてありがとう」
「いつも雪から聞いていたよ。本当に感謝しているんだ」
ご両親の話によると、雪はその瘤の事もあって、小さい頃から運動は制限していたそうだ。確かに高校の体育でも喘息だからと見学が多かったし、修学旅行でもシュノーケリングは断られた。元々の性格が大人しいのもあって小中学は友達もいなかったらしい。少しずつ、本当に少しずつだが大きくなっていく瘤。手術をいつするのか、微妙なサイズになってきたのが高校入学頃だったそうだ。
雪は高校に入ってすぐ、同級生に話しかけられたと家に帰っては嬉しそうに報告するようになった。それが、私である。
そう、確か初めて見たのは入試の時で、前の席に雪が座っていた。癖っ毛がコンプレックスだったので、雪の綺麗なストレートの髪をいいなぁ羨ましいなぁと思ったのを覚えている。私にとってこの高校はかなり背伸びしないと入れないところだった為、少々諦めもあってかあまり緊張していなかったのでそんな事を考えていた。結果、合格して飛び上がるぐらい喜んだけど。
それから入学式でまた雪を見かけた。春の風にサラサラとなびく髪がとても綺麗だった。あの時の子だと思っていたら同じクラスではないか。これは話しかけるしかないと勇気を振り絞って声をかけてみた。
「ねえ、一緒にお昼食べない?」
突然の事で驚いていたが、こくこくと頷いてくれた。そこから私が喋って雪が聞き役となり、数ヶ月もすると雪も色々と話してくれるようになった。私が勉強で躓くと教えてくれたり、帰りに一緒にプリクラ撮りたいと言うと付き合ってくれて、普通の女子高生を満喫した。少々振り回した覚えがあるが、それすらも雪は嬉しかったらしい。
「茜といると自分の病気の事、少しだけどっかいっちゃうんだよね。忘れたわけじゃないけど、他の皆みたいに普通の女子高生って感じがする」
「私、大学に行きたい。管理栄養士になりたい」
いつ血管が破裂するかわからない状態な事もあって将来について話したりしなかった雪が、両親に夢を語ったのが本当に嬉しかったそうだ。大学に入る前に手術をするのか、入ってから休学して手術するか、担当の先生とも話していたらしい。その矢先でのくも膜下出血だった。
もう涙で前が見えない。悩んでいたなんて全然気が付かなかった自分が情けなくてしょうがなかった。
「茜ちゃんにはね、手術が終わったら話そうとしてたのよ? 心配かけちゃったらいけないからって」
「私たちには出来なかったんだ。あの子に沢山の思い出をありがとう」
ご両親を前に泣くことしか出来なかった。私も雪と友達で楽しかったし、ご両親の知らない雪の姿を知ってもらいたい。いっぱい話すことがあるのに出てくるのは嗚咽のみだった。
お葬式も終わり四十九日を過ぎた頃、雪のご両親から連絡が来た。雪の片見分けをするそうだ。出来れば貰って欲しいと言われ、1番に思い付いたのが琉球ガラスのコップだった。
ご両親に話すと、すぐわかってくれて次に帰省した時に引き取りに行くということになった。その時には私もちゃんと話が出来るようになっていたので、持っていたプリクラを見ながら思い出話をしてきた。受け取ったコップは見るだけで泣きそうになる。20歳になった後からの命日はいつもお酒とこのコップ2個をもって墓参りするようになった。
「今度来た新人がさぁ、注意すると少し顎上げてハイって返事するの! 全然反省してなくない? 私舐められてるのかなぁ」
墓前にコップを置き、少し日本酒を注ぐ。チンとコップ同士を鳴らして舐める程度に口をつける。あまりお酒が強くないのである。
「今年のお酒はどうよ? 来年はワインにしようか?」
いくら話しかけても返事がないのが本当に寂しい。
『背伸びしちゃって! ジュースにしときなよ』
きっと雪ならそう言ってくれるだろう。でも約束だからね、これからもこのコップで二人で飲もうね。雪。
ガラス細工のお題を見てぱっと思いついたのが琉球ガラスでした。綺麗ですよね。
最後の茜は30歳ぐらいかな?今は修学旅行先でも私服が有りだと思いますが自分は制服で移動しろって言う学校だったので2人にもそうしてもらいました。
作者の修学旅行先は真冬の北海道だったので真逆です。沖縄行ってみたいです。