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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

歩道橋

作者: あべけん

 私は車を走らせていた。もう一年になる。

 翌日に仕事のない金曜と土曜、午前零時から三時までハンドルを握り続ける。近場で一番歩道橋を多く通るルート。


「今日も''なし''か。」



 こんな話を聞いた事があるだろうか。

 なぜ歩道橋の上は幽霊が出ると言われることが多いのか。

 それはもちろん、歩道橋で自殺する人がいるからなのだが、なにより歩道橋の上からの飛び降りというものは非常に絶妙な高さなのだ。10mもないその高さから飛び降りる者は大抵即死しない。

 身体中の骨は折れ、助けを求めることも出来ず、流れゆく自分の血を見ながら苦しみに苦しみ抜いて死ぬのだ。

 そして飛び降りた者は歩道橋を選んだことを悔やみ、現世に対する恨みと共に、怨念はその場に残り続ける。

 


 もうこのドライブは当初の目的から変わりつつあり、私は毎週のルーティンとしてただ深夜のドライブを楽しむようになった。

 帰り道、私は鼻歌を歌いながらハンドルに掛けた指を弾ませていた。

 欠伸をしながら、最後に自分の家に一番近い歩道橋をくぐろうとしたその時、私は慌ててブレーキをかけた。

 助手席に置いていたカバンを手に取り車から降りて確認すると、なにやら蠢く物体が道を遮っていた。それが人間と分かるのに数秒、そして女性だと分かるのにもう数秒かかった。


 車のライトで私に気づいたその女はゆっくりとこちらに顔を向けた。

「た...たすけて...」

 女は指の一本でも触れればバラバラになりそうなほどに体を震わせ、なんとか形を保っていた。

 「きゅ...きゅうきゅうしゃを...」

 必死に助けを求める彼女を横目に私はカバンに手を入れた。

 遂に役目を果たすときが来たのだ。

 そして、一年間日の目を浴びてこなかった真っ新な包丁を噛み締めるようにゆっくりと取り出した。

「いま楽にしてやるからな。」

 

 仕事を終え、えも言われぬ達成感と満足感に浸っていた私はふと思い出した。



 そういえば、車を停めた時に慌てて階段を駆け下りていったあの男は一体なんだったのだろう。

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