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超能力という名の呪い  作者: ノーム
五章 封印前夜・後編
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91話(神サイド) 始祖の悪魔との戦い④


「なっ……!?」


 凌駕の左眼が潰れると同時に、アルドノイズの右側に、黒い楕円形のナニカが現れた。

 一瞬。

 アルドノイズが反応するより先に、驚異的な速さで楕円形が割れた。

 いや、ギザギザを中心とするように、開いた。

 それは──まるで化け物の口のようで。


「右腕」


 凌駕が呟いたと同時、それが閉じたと思ったら……アルドノイズの右腕が無くなっていた。

 アルドノイズの右腕の付け根から、大量の血が噴出する。


「回避不能の絶対攻撃……まさか人間にそんなものが与えられているのはな……!」


 アルドノイズは腕を抑えながら、凌駕を睨む。

 凌駕の左目は、なくなっていた。

 凌駕はそんなアルドノイズにニヤッと笑いながら口を開く。

 もちろん、余裕などない、無理やり作った笑みである。


「『牙眼』は自分の目を失う代わりに、相手の腕か足を殺す能力だ。この能力は特殊でな、代償にした目は『蘇生』でも回復系の『超能力』でも復活させることは出来ない二回限定のものだ」


「……何が言いたい?」


「……見逃せ」


 凌駕の言葉に、アルドノイズは目を細めた。

 その後アルドノイズは何かを考えるように顎に手を添え、俯いたまま十秒程固まった。

 そして、考えが決まったのか、凌駕の目を見る。


「お前はともかく、俺が食われた腕や足は治せるはずだ」


「ウソだろ……」


 アルドノイズはそう言うとともに、凌駕に手を向けた。

 凌駕も覚悟を決めたように、右の『眼』を見開く。

 数秒の沈黙。

 そして、どちらとも同じ瞬間、叫んだ。


「『エンブレム』!」


「牙……は?」


 アルドノイズと同時に凌駕も『牙眼』を発動しようとしたが、上にあるこの『世界』の……『暗館』の門が開いたのを感じ、中断してしまった。

 思わぬ失態。

 身体に寒気がさし、心臓がバクバクとうるさくなる。

 心音だけが耳に聞こえる中、アルドノイズの『エンブレム』が近づいてくるのが分かる。

 何かないかと自分に問い続けながらも、一向に答えが見つからない。

 走馬灯に近いように、必死にこの状況の脱出方法を模索する。

 だが、出てこない。

 凌駕の耳に、雫が『金剛』と叫んでいる声が聞こえる。

 しかし、雫の『金剛』はまだ凌駕には使えないようだ。

 使用してからまだギリギリ五分経っていない。

 もう、炎が、目の前に──

 

「『魔手』!」


「かっ──!?」


 突然、黒い手が凌駕を掴み、投げ飛ばした。

 突然の空中。

 能力の枯渇。

 全身打撲、骨折。

 凌駕には、対処する術がない。

 落ちる──!


「『金剛』!」


「雫……!」


 地面に落ちる寸前、雫の『金剛』が凌駕を包んだ。

 そして凌駕は地面に頭から落ちたが、一切の痛みも傷すらもなかった。


 ……だが。


「凌駕!後で覚えてろよ!」


「凌駕!情けない話だが……あとは任せた!」


 『死神』の鎌が、雫と快を襲う。

 だが、二人は余裕の笑みを凌駕に向けたまま。

 『死神』の鎌は、死を殺す。

 致命傷を食らえば、回復不可能の絶望を捧げてくる、化け物。

 だが、二人はゆっくりと目を閉じていき──


「『魔手』、『引き込み』」


「『金剛』、『金剛』」


 雫と快は互いに『金剛』に身を包まれ、『魔手』に掴まれた。

 

 異常は、ここからだった。


 通常なら『魔手』で使用出来る腕は一本までだ。

 だが……虚空から、両腕が出現し、右手で雫と快を起用に掴み、左手で『死神』の鎌を受け止めた。

 

「なんだ、これは……」


 セバスも異常な事態に動揺しているようだったが、気にせず鎌を振るい、左手の『魔手』を引き裂いた。


 だがその時には──


 右手の『魔手』が付け根の虚空に二人を連れていっていた。


「何が起きたんだ……?」


 突然の事態に凌駕は動揺を隠せなかったが、アルドノイズとセバスは至極落ち着きながらゆっくりと凌駕の方へ歩いてきた。

 いくら雫と快に任されたといっても、明らかにアルドノイズより強いセバスも敵に加わっては何も出来ない。

 だが、凌駕は右目を見開いた。


「……『バースホーシャ』」


 *


 世界が、不安定だ。

 そう表現するしか出来ないほど、歪んでいる。

 その中で、向井宏人は目を開けた。


「……は?」


 見渡すと、『YES』の拠点に残っていた全員が宙に浮かんでいた。

 北岡飛鳥、永井美琴、長野華、クンネル、クリストフ・ナイン、チャン・ナン、そして山崎智也も。

 みんながみんな、眠った様に静かに浮遊していた。


「……智也も?」


 宏人はさっきまでの出来事を思い返す。

 ここは、智也が『式神展開』という能力を使って構築された世界だ。

 なのに、作った張本人である智也も気絶している。

 華と美琴の慌てようからなんらかのアクシデントがあったのではと宏人は思考するが、何を考えても結論は出そうにない為飽きらめた。

 宏人は、もう一度『世界』を見渡した。

 『YES』のメンバーと智也以外、本当に何もない世界だ。


 黒。


 そう、この世界はいたるところ全てが黒い。

 通常の黒い空間とは違い、ちゃんと視界がはっきりとしている。


 これは宏人のみではない、そういう仕組み。

 『式神展開』が構築された場所に『式神展開』を構築しようとした際の、バグった世界。

 本来なら行ける事の出来ない……()()の世界。


「おい、ナンチャン起きろ!」


 宏人はチャンを起こそうと揺さぶった。

 チャンの頭がぐわんぐわんと揺れるが、一向に起きる気配がない。

 他のみなも同様だ。

 じゃあなぜ自分だけ目を覚ます事が出来たのかと宏人は疑問に思ったが、今はそれどころじゃないため思考を中断し……ある決意を固める。


 そして、行動した。


「……オイ、智也!」


 宏人は浮遊している智也を、全力で殴った。


「ッ!?」


 ここは無重力空間だからか、智也の体は吹っ飛ばずに凄まじい速度で回転した。

 だが、宏人はそれだけでは止まらなかった。

 宏人たち『NoS』のチームメイトであった6番、ライン・カーゴイスの死。

 ライン・カーゴイスを殺害したのは、この山崎智也なのだから。

 宏人は、智也の胸ぐらを掴んで叫ぶ。


「お前、6ば……ラインと仲良かったろ!なんで殺した!」


「……ちょ、ま……!」


「他の死んでいった『NoS』のやつらの事だってそうだ!お前と任務に挑んで死んだ3人!明らかに不自然な死に方だった!」


「……分かった!分かったから……!」


「お前は、一体何しようとしてんだよ!」


「分かった……て、言ってんだろ!」


 宏人が智也を強く揺さぶりながら叫び続けた。

 やがて智也は宏人の手を振り払って制する。


「それはあとで話してやるから……取り敢えずここはどこだよ?」


 智也は服を直しながら辺りを見渡す。

 さすがの智也も、この不気味な世界に不安を感じた。

 そんな智也を宏人は見て、やはりこの世界は智也が創ったモノではないと確信するが……それと同時に何者がこの世界を構築したのかはさらに分からなくなる。

 

「こんなかで分かってそうな奴は……この2人か」


 智也はそう言うと、美琴と華のもとへ歩き出した。

 宏人もこの2人が何か知っていると思考していたため智也について行く。

 やがて着くと、智也は美琴を蹴った。


「ぐぇっ!?」


「って、お前……!」


 宏人は智也の突然の行動に驚き、強く肩を掴んだ。

 智也はそんな宏人に呆れるような視線を向けた後、顎で美琴を指す。

 すると美琴は相変わらず倒れたままだったが、悲鳴をあげたのに加え腹を抑えていた。

 

「こうでもしないと起きねぇだろ」


「いやそうだけどさぁ……」


 智也の呆れた視線を浴びたまま、宏人は頭を掻きながらそう言った。

 だが確かにこれで美琴は起きそうだ。

 そのため宏人は揺さぶって起こそうと腰を下ろし──

 

「……どうしてここにいるの?」


「「ッ!?」」


 突然、宏人と智也の前に一人の少女が現れた。

 銀髪の長髪に、血を連想させる紅色の目を持つ童顔の少女……その名は。


「……ダクネス、なんでここにいる?」


 智也は、静かにそう聞いた。

 それに対し、ダクネスは可愛く答える。

 宏人は、分かった。

 分かってしまった。

 この少女は、まずい、と。

 そんな宏人に、ダクネスはウィンクしながら──


「『死神』殺し♡」

 

 

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