86話(神サイド) 超能力者同士の戦い②
要は喉が引きちぎれんばかりに幸太郎の名を叫びながら、幸太郎に迫る。
「『爆破』ァ!」
「『身体能力向上』!」
要が幸太郎に向かって『爆破』すると同時に、幸太郎は『身体者』を使い高く跳躍して回避した。
そして一瞬のフリーズが起きた要の元へ、創弥が大声で叫びながら剣を突き立て、『眼』を輝かして突進してきた。
「いくぜカナメええええええええ!『魔眼』!」
『魔眼』は相手に己特有の『能力』を染み込ませ、相手の身体に定着させる『超能力』だ。
殺傷力は皆無だが、何度もくらうとまずい。
『式神』は、強力だからだ。
だが、創弥は剣でも攻撃してきているため、今回はくらうのを見逃し、要は剣を対処しようとしたのだが……。
「……ッ!『勇者剣』!?」
そう、創弥の手に持つ剣は、かつて『勇者』海野維祐雅が所有していた『勇者剣』だった。
要はその事に驚愕しながらも、冷静に対応し、バックステップをすると共に自身と創弥の間を『爆破』した。
「ッ!」
かなり近距離で『爆破』してしまったため、術者である要の鼓膜を強く叩き、細かい粉塵が身体を攻撃する。
要の『爆破者』の欠点は接近戦になると自分の攻撃で自分自身にも被害が及ぶというところである。
「ルアァァァァァァァアイアアア!」
もちろん創弥も要の弱点を理解しているのだろう。
粉塵や煙なんて関係ないとでも言うかのように真っ直ぐ要の方に突っ走ってき、手に持つ『勇者剣』を再度突いた。
「『魔眼』!」
「『身体能力上昇・特大』!」
創弥は『爆破』は今さっきの二の舞だと踏み、『者』級に与えられる能力である『身体能力上昇・特大』を選択した。
「ほぉ!」
創弥は要の選択を面白そうに笑う。
別に狙い通りな訳でも要のミスを笑った訳ではない。
ただ単純に、戦いが楽しいだけだ。
相手と自分のほんの僅かな一挙手一投足が、相手か自分の命を散らす原因となる、油断なんて言葉が存在しない戦い。
創弥にとって、戦いは生きる意味なのだ。
「チッ!」
「ほら、よ!」
空中に逃げたはいいものの、更に厄介な奴がいる事を思い出した要は、盛大な舌打ちと共に上空を『爆破』した。
案の定未だ空中には幸太郎がおり、かかと落としを自由落下と共に要へ繰り出すが、『爆破』によって起動をずらされそのまま落ちていった。
……が、空中で一回転し、虚空を蹴って要に向かってきた。
「『爆破者』!」
「ッ!」
「いいねぇ!」
創弥と幸太郎が凌駕に一切攻撃を仕掛けようとした瞬間、要が叫ぶ。
『爆破者』、と。
『爆破』とは、その名の通り指定した箇所を爆破する事が出来る能力だ。
『爆破者』とはその上位互換であり、一気に何箇所にも撃てる事が出来、威力も高い。
だが、非常にコスパが悪く、連発しようものならしばらく寝込む事になるだろう。
しかし、要がしばらく使わなかったのはそのためだけではない。
単純に、要自身がもう満身創痍であり、死にそうだからである。
だが、『超能力者』は、人間としての存在を一部書き換えられており、非常に頑丈に作られている。
だが、辛いものは辛いのだ。
……しかし、今、そんな事を言っている場合ではない。
辺り一面、巨大な火の玉が出現したかと思えば……対象に向かって凄まじいスピードで向かってきた。
創弥に。
幸太郎に。
アリウスクラウンに。
だが……。
「私が、ただボーッと突っ立ってるだけってほんとに思ってたわけ?」
アリウスクラウンはそう言いながら、両手を合わせた。
その儀式は……。
「チイイイイイ!」
目の前に『爆破者』を避けた幸太郎の拳が迫る。
おそらく、直撃したら軽く頭蓋骨は粉砕される事だろう。
間に合うか、否か。
もう、かけだった。
「「『式神展開』!!」」
両者の声が、重なる。
「『血花乱舞』」
「『傷炎都市』」
二つの『世界』が、ぶつかった。
間に合っ……!
「残念。失敗のようだ」
それぞれの『世界』が競り合っている中、幸太郎の拳が、要の頭を粉砕した。
要は、そのまま落下していった。
*
「ふぅ……。案外、呆気なかったな」
幸太郎は、どこか残念そうに要が落ちていった地上を見つめた。
何もない地面の上に、俯きになりながら血の花を咲かせている。
昔から今まで、お互いを高めあい、友達として、ライバルとして、パートナーとして共にいた要は、たった今幸太郎の手によって殺された。
「……」
途端、自分が微かに不安に震えるのが分かった。
━本当に、この選択は正しかったのだろうか。
と。
もう、手遅れなのだと、気付きながらも、思わずにはいられなかった。
少しセンチな気持ちになりながら、幸太郎はもう動かない要を見つめていた。
「幸太郎!」
「幸太郎!オイ、聞いてんのかよ!」
すると、幸太郎の鼓膜を叩く音に気が付いた。
すぐに声のする方を見ると……。
「……ッ!」
大きな『ナニか』が、アリウスクラウンと創弥を襲っていた。
いや、正確に述べると襲われているのはアリウスクラウンだけだ。
創弥はその『ナニか』を『勇者剣』で切り裂いている。
アリウスクラウンは両手を突き出し、その『ナニか』を自分の『式神展開』の塊によって抑えている。
もう、アリウスクラウンの『式神』は消滅する寸前だ。
「まさか……」
そこで幸太郎は気が付いた。
その『ナニか』は、アリウスクラウンの『式神展開』の塊と酷似しているのである。
いや、酷似しているというかそのまんまだ。
じゃあ、誰がこの『式神』を『展開』したか。
答えは決まっている。
というかつい今使用して、死んだ。
新野要だ。
創弥の攻撃により、実際ダメージは蓄積されているのか、その『式神』は少しながらも、縮まってきている。
このまま斬り続ければ壊せるだろう。
このまま、斬り続けられれば、だが。
「ハァ!」
幸太郎はその『式神』に触れる事を嫌がって、『身体者』と『身体能力向上・特大』によって強化された拳を振り切り、突き放す事によって真空派を作り飛ばした。
もちろん人間が作り出すのは到底不可能な『者』急の真空派は、ちょうど近くにいた鳥を巻き込みながらその『式神』に迫った。
創弥も幸太郎の真空派が絶大なものだと分かり、飛び退いた。
「きゃっ……!」
出来るだけアリウスクラウンに被害がない位置に飛ばしたといえど、衝突した瞬間凄まじい突風が吹き荒れ、アリウスクラウンは吹き飛ばされてしまった。
だが、ちゃんと自分で軌道を整え、自分で空中に留まった。
女の子らしい声を出しながらも、ちゃんと人間辞めているのだ。
いや、もう女の子といえな
「……ッ!」
創弥の舌打ちで、幸太郎は思考を中断し、真空派と『式神』がどうなったか見た。
結果は━
「嘘でしょ……」
アリウスクラウンは、そう呟いた。
その言葉通り、結果は……『式神』は、まだあった。
最初見た時よりは大分縮小したが、まだ大きい。
こんなダメージを与えたのに、未だこれ程の大きさを誇っている。
改めて、新野要という男の恐ろしさが分かった。
死んで制御が外れても、『式神』はちゃんと制御されている。
恐ろしい事だ。
幸太郎は、なんとはなしにもう一度要の死体を見た。
……が。
「……マジかよ」
自分が高揚しているのが分かる。
身体を熱が支配し、犯される。
これは、いわゆる、幸太郎は、興奮していた。
地面に要はいなかった。
「また会おう!要!」
幸太郎はそうまだ近くにいるであろう要に向けて叫んだ。
幸太郎と、創弥と、アリウスクラウンは、要の『式神』に吸い込まれていった。
「……俺は、もう勘弁だけどな」
幸太郎の声に、反応した声があった。
それは、誰の耳にも届かなかった。
すっっっっごい遅れた87話です!今新作を書いているので、これからこのちょうのろの物語の進行率がさらに悪くなっていくかと思います……!まあ、続けますので……ぜひ、みてくださぁーい(小声)。




