85話(神サイド) 超能力者同士の戦い①
「『魔眼』!『電眼』!」
「『炎華』!」
太刀花創弥が右目に『魔眼』左目に『電眼』を展開し、アリウスクラウン・カシャ・ミラーが『炎華』を放つ。
創弥の『魔眼』は対象に己の『能力』を刻ませる『超能力』であり、『電眼』は対象に向けて目から電撃を撃つ『超能力』である。
そして、アリウスクラウンの『炎華』は、己の身の周りに炎を纏い、自在に操るというものだ。
そう、それこそが、今回、アスファスがアリウスクラウンにこの場を頼んだ理由だ。
己の周りの炎を操る──つまり、アリアスクラウンに『爆破』は効かない!
「『爆破』!」
すると、創弥とアリウスクラウンの能力が、大爆発によって掻き消された。
もくもくと煙が辺りに発生し、その煙の中から男が歩いてくる。
たった今、この爆発を起こした張本人である、七録要だ。
要はハイライトを消した目で二人を睨みながら、叫ぶ。
「だから、アスファスは敵だ!確証を持ってなくてすまないが、取り敢えず手を引いてくれ!……頼む!」
要は切羽詰まったように言う。
なにせ、要の『爆破者』は、ロクに手加減が出来ないのだ。
殺しかねない。
「ごめんなさいね、要。私たちは、知った上でアスファスに協力してるの。……狂弥を殺すためにね」
「ああ!俺も同じだぞ要!だから、悪魔側になったあの元『勇者』もこれから殺すつもりだ!分かったなら戦え!俺はお前と全力で戦いたい!」
要の懇願を、二人は拒絶した。
しかも、創弥の方は仲間であった元『勇者』である海野維祐雅を殺すと言い出した。
要は確信する。
……アスファスにとって、人は駒でしかないと……!
要は知っている。
強い者の協力を得るため、今までアスファスが何をやってきたか。
そう、いわゆる戦う対象を無理やり作る、という事だ。
アリウスクラウンにとっては、要の知るよしもない狂弥という人物。
創弥にとっては、アルドノイズ。
要は創弥がアルドノイズを殺すと誓っている理由を知っている。
アスファスが、アルドノイズとの戦闘を誘導し、創弥の知人を巻き込み、結果的に皆殺しにしたからだ。
アルドノイズはもちろんだが……これはアスファスが殺したといっても過言ではないだろう。
こうやって、「アルドノイズの敵」を集め、構成されたのがアスファスサイドだ。
「……反吐が出る」
「「……!?」」
そう言い、要は辺り一面を『爆破』した。
退散するのだ。
別に勝てないという訳でもない。
ただ……アスファスに無理やり戦う運命にされたこの二人を、要は殺したくなかっただけだ。
辺りに土煙が舞い、視覚が制限されている。
今なら、要自身が巻き込まれない程下の地面の中で『爆破』する事により、勢いで吹っ飛ばされる事が出来る。
地面に落下する直前でそれを繰り返していく事により、凄まじいスピードで駆けることが出来る。
これは要の戦闘スタイルでもあるのだ。
だから、要はそれを行った。
バゴン!
耳を痛める程の音量と共に、地面が爆ぜる。
「要!どこだ!早く出てこい!」
「はいはい。私達の仕事はこれで終わりでしょ?今からはアイツの出番よ」
要か天に向かって跳躍する瞬間、そんな会話が聞こえたが、要は構わず飛んだ。
どんどんと空の上まで登り、落ちるところで己の真後ろに『爆破』。
そして、凄まじい勢いで、璃子や幸太郎のいる場所へ戻ろうとした時ーー
「……は?」
要は、思わず間抜けな顔をしていた。
だってそうだ。
ーー目の前に、幸太郎がいるのだからーー!
「戻るぞ。要」
幸太郎も跳躍しているだけなのか、少しずつ落下していっていると確認した瞬間。
「『身体者』」
「かぁっーーーーーーーーー!?」
幸太郎から、回し蹴りをくらった。
それも、ただの回し蹴りではない。
『超能力者』である七音字幸太郎の、『身体者』の回し蹴りである。
要は咄嗟に幸太郎に右手で抑えようとしたが、それだけでは足りないと直前に察し、己の右手を自ら『爆破』した。
それのおかげか、幸太郎の足の起動は逸れ、威力は軽減された回し蹴りが腹に直撃したのだが……。
それでも、要を彼方まで吹っ飛ばす威力を持っていた。
「つぅぅぅぅぅぅ!『爆破』ぁ!」
要は地面に直撃する直前に、さっきのように地面の中を爆破し、己をも少し吹き飛ばせると同時に落下速度を殺し、地面にバウンドして着地する。
「はぁー、はぁー、はぁー。がはっ……」
満身創痍な要はフラフラと立ち上がり、荒い呼吸の後に口から何か込み上げてき、吐き出した。
どす黒い血だった。
「よう、要。今ぶりだな!」
「あんた、手酷くやられたわねー。てうわ!血、黒……。内臓ヤバイんじゃない?」
すると、畳み掛けるようにさっきの二人が要の元へやってきた。
(おい……これ、ガチで死ぬパターンじゃね……?」
要は片頬を引きつらせながら、そう思った。
だが、やられっぱなしは性に合わない要である。
もう立っていられるのもやっとな程ボロボロだが、無理やり立ち、聞く。
「……幸太も、アスファス側なのか?」
「そうだ。要」
しかし、答えたのは別の人物だった。
そう、七音字幸太郎本人であった。
「でも、安心しろ。俺もアスファスが本当はヤバイって事は承知している。その上で、協力しているんだ」
幸太郎は要に向かって少しずつ歩きながら、続ける。
もう、距離は十五メートル程だ。
「……そうか。じゃあ、璃子はどうした?」
「殺そうとしたんだけどな、逃げられた。まぁかなり手酷くやったから今もう死んでんじゃね?」
「……」
幸太郎の挑発に対し、要は静かに頷いた。
別に、怒っている訳でもない。
ただ、自分ではなく、なぜアスファス側に幸太郎は付こうと思ったのか。
それだけが知りたかった。
「言っても、意味ねぇじゃんよ?」
要が思考の渦にはまっていると、もう目の前に幸太郎が立っていた。
幸太郎は要の頭に手を置くと、要が聞こうとしてた質問を察し、事前に拒絶した。
そして、言う。
「今から頭を握り潰される覚悟は?」
「……出来てねぇよ?」
幸太郎の質問に、要は少しずつ頭を上げ、目が合うと共に笑いながら言った。
そんな要に不信感を覚える幸太郎だが、聞いたのにも関わらず「お前の意見は聞いてない」と呟くと、己の手に力を込めた。
『身体者』、と、言いながらーー!
『身体者』とは、『身体能力上昇』の上位互換ーー否、『者』級と成ったものである。
人類の約六割が持って産まれるという『身体能力上昇』は、基本的に四つに分類される。
『身体能力上昇・下』。
『身体能力上昇・中』。
『身体能力上昇・上』。
そして、『身体能力上昇・特大』。
一般的にこの四つに分類されてはいるが、実際に『上』はおろか、『特大』の所有者を見た事のあるものはそうそういないだろう。
なにせ、人類が持つ六割の『身体能力上昇』は『下』であり、運が良ければ『中』といったところだ。
『上』クラスとなると、簡単にスポーツ選手や体操選手になれるのは当然といったところであり、本気を出せば残像を残せるくらい『速く』、速くなれる。
……そのため、『特大』所有者は、異次元の身体能力者となる。
だが、産まれて持つ者は全く居ない。
……産まれて持つ者だが。
そう、なにせ『者』と成ればなんと『身体能力上昇・特大』がセットに付いてくるのである。
そのため……いや、それも併せるため、『超能力者』は人間を軽く凌駕する。
そんな『身体能力上昇』と『超能力者』を、併せ持つ者がいる。
それが、七音字幸太郎だ。
持って産まれた『身体能力上昇・上』が、『身体者』と成れた者だ。
もちろん、『特大』を軽く超え、人間が出せる……否、人類が作り出せるスピードを超えている。
そんな幸太郎に、『身体能力上昇』は、更に力を与えた。
そう、『超能力者』特典である、『身体能力上昇・特大』だ。
「幸太あああああああああああああ!」
『身体能力上昇・特大』と『身体者』を併せ持つ人間の完全体に向けて、『爆破者』七録要は叫んだ。




