82話(神サイド) 終戦②
(ここは……どこだ……?)
私ーーセバスーーは困惑していた。
アルドノイズに『バースホーシャ』を撃ってもらってから、次の瞬間にはただただ暗い世界にいた。
何も見えず、暗闇はどこへいっても変わらない。
一切の明かりを切り捨てた、異質な雰囲気に私は背筋を凍らせながらも、ただただ歩く。
歩く、歩く、歩く。
進むべきか、そうでないかなど考える事すら出来ない、暗黒。
死後の世界とも、地獄とも表現が出来るこの世界に、私は吐き気をーー
「よう。セバス」
「っーー!」
そんな私に、いきなり話しかけてきたのはやはり『死神』であった。
心臓が止まりかけたが、私はすぐ様戦闘態勢を取る。
……まあ、戦闘態勢を取ろうが戦いになったらフルボッコにされるのは私なのだが……。
そんな私に、『死神』は言う。
「俺は……冥王星の神を殺したい。だから……人の魂が必要なんだ」
珍しくまともな言葉使い……かと思ったら案の定訳の分からない事を言う。
ハテナマークを頭に咲かせる私に、『死神』は続ける。
「人の『魂』っていうのは一つのエネルギーでもある。もちろん、個々の力は小さいが……塵も積もればなんとやらとも言うだろ?まあ、そんな感じな訳で。お前が死ぬたび他の奴の魂使って蘇らせんのも結構キツくてよ」
『死神』はそんな事を言いながらポリポリと頭を掻く。
今更だが、『死神』カールデス・デスエンドの容姿は、全身黒尽くめ、としか表現する事が出来ない。
肌は真っ黒く、さらに肌を覆うコートもどす黒い。
唯一仮面は真っ白であり、ピエロの様に笑っているその仮面からは真っ赤な目が覗いている。
まあ、今いるこの空間は真っ暗なので赤く光っている目しか見えないが、十分怖い。
そんな異質に、異様な事を言われても、なんと言葉を返せばいいか分からない私だが……。
一つだけ、理解出来たことがある。
「……要するに俺が死ぬと、そのメイオウセイの神さんを殺すために必要な『魂』を削っちゃうから、俺の中にあんたの半身を入れて死なないようにするって訳か?」
私のそんな推測に、『死神』は「ああ。その通りだ」と呟きながら、続ける。
「だから……お前の身体、もらうぞ」
「……ッ!」
『死神』はさも当然だとでも言うかのように、私にそう言った。
だが……私は、それを肯定することは出来ない。
出来なかったし、したくもなかった。
「悪いがアルドノイズに一生仕えるって約束しちゃったからな。だから、こんなんで勘弁してくれないか?いや……勘弁してください。……お願いします……!」
私はそう言うと、その「こんなん」について提案した……!
*
「おい、おい!大丈夫か、セバス!」
「あ……?」
いつの間にか寝ていたセバスは、アルドノイズによって叩き起こされた。
アルドノイズは必死の形相だ。
なにせ、仲間の口からあの『死神』カールデス・デスエンドの声が発せられたのである。
そしてしかも急に倒れたのだ。
結構非常だと自他共に認められているアルドノイズでさえ、心配になった。
そんなアルドノイズに向かって、セバスは。
「ああ、おはようございます、ね」
「せ、セバス?」
アルドノイズは、いきなり口調や雰囲気が変わったセバスに、とにかく動揺したーー
*
私の提案、それは……。
「俺の人格も、少し残しといてくれないか……?」
そんな、些細なものだった。
それに対し『死神』も「そんなんだったら許可してやる」と言い、私は身体を預けた。
『死神』の身体が、一瞬瞬いた後、次目を開いたら……。
「ありゃ……。まあというかやっぱり、『融合』なんてしたらそりゃバグって変な人格になるよなぁ」
『死神』はまるで他人事のように呟く。
そんな『死神』の目線の先にはーー
「酷いじゃないですか。デスエンド様、ね?」
そう言いながら、セバスは行儀よく片手を胸に当て、頭を下げた。
そう。
そこには、セバス・ブレスレットがいた。
*
そこは、異次元。
何もなく、何も感じず、誰も立ち入れない、そんな次元。
そこに入ったとしても、一瞬で消滅するであろう。
なにせ、世界の『力』が凄まじく密集しているからだ。
そんな、危険を通り越した、狂気な場所にて。
「で、次は何をすべきだっけ?」
「アスファスは、今回の件で俺たちをさらに警戒する事だろう。だから当分動きはないはずだ。今回も、他のループと同じ様に『神仰教』の勢力集めやら『アスファス親衛隊』の強化、そしてその親衛隊からもれた奴らを『NoS』として表向きの組織を作る事に走るだろうな」
「まあ、そうなるだろうな。今日戦ってみた限り向井宏人の『器』適性もまだ全然だ。しばらく時間がかかるだろうな。だから……それまでに、何をするか、か」
「ああ、そうだろうね。でもねぇ……ぶっちゃけこの時期ってとにかく鍛えるくらいしかな、い……?」
「ん?どうした?」
「……いや、僕、面白い事考えたんだけどさ……凌駕、凪!こんな展開はどう思う?」
狂弥は、そう言うと、その「展開」とやらを話しだした。
「『器』の中に、アルドノイズを入れるっていうのは?」
*
そこは、荒れ果てた地。
空気は悪く、音もなく、ダクネスの許可なく立ち入れない、そんな旧い世界。
そこに入ったら、『超能力』も、『カミノミワザ』も使えないであろう。
なにせ、そういう風に『設定』されている、『神能力だからだ。
そんな、異質を通り越した異常な場所にて。
「凪の野郎……狂弥の力使って私の『世界』から逃やがった挙句、私をあいつの『式神』の中に閉じ込めやがったんだけど!」
「まあ、落ち着いきなさってください。ダクネス様」
「相変わらず、アスファスの半身くせに及び腰よね。直しなさい、舐められるわよ」
「はい、これからは気をつけてますが……まあ、ダクネス様に対しては直せそうにございませんね」
「そう。まあどーでもいーけど。ともかく、これからの方針よね」
「はい。……まあ、お互いに考えている事は同じでしょうがね」
「だよねー。せっかく神ノーズからのハンデももらって答え合わせが出来た事だし」
「ええ。吐夢狂弥ですね?」
「うん。吐夢狂弥だよ♪……なるたけ早く、ぶち殺さないとね!」
「はい。私も今回の戦いに参加出来ず残念でしたからね。殺しましょう。吐夢、狂弥を」
「うん!それとね、もう一つやりたい事があるんだ」
「ほう、何ですかな?」
ダクネスは、そう言うと、エラメスに向かって、その「やりたい事」とやらを話しだした。
「『死神』、カールデス・デスエンドも殺すっていうのは?」
間章『呪いの生誕』 完




