79話(神サイド) セバスの過去②①
「な、何?なになになになにぃ!?気持ち悪いぃ!痛いぃ!死ねぇ!死んでぇ!なんでそれで死なないのぉ!?」
辺りに、ミリィの絶叫だけが響く。
ミリィの右腕は完全に切断されており、右肩からは血が大量に、まるで滝のように噴出している。
そんなミリィに対し、セバスは首からミリィと比べ物にならないくらい、また、更に大量に血を撒き散らしている。
ミリィも確かに致命者だが……首を吹っ飛ばされたセバスはもう完全に『死』だ。
当たり前だが、人間も、もちろん悪魔も、首が吹っ飛ばされた死ぬ。
セバスが悪魔だから死なないという事はない。
もちろん、アルドノイズも首が飛ばされたら死ぬ。
「俺の能力が……『アンデット』だからだ!」
そう叫びながら、セバスはミリィの鎌を使ってミリィの首を斬ろうとする。
どうやら、ミリィの右腕を斬るのに使用した得物も一瞬でミリィから奪った鎌だったようだ。
そして、ミリィの首に直撃するように思われた途端。
「『移動』ぅ!」
ミリィは歯を食いしばり、痛みを堪えながらセバスの頭上に『移動』し、丁度セバスの位置に再度『移動』を使用した。
落ちる先は……一センチ先。
「……?」
相変わらずどこでどうやって見たり聞いたり喋っているのか分からないセバスだが、そのセバスも疑問に思ったらしい。
今のは、なんの意味があるのか、と。
だが、その答えはすぐに知れる。
「!?」
瞬間、セバスの身体が、急に重力に落とされていった。
何が起こったか一瞬分からないセバスであったが、答えも一瞬で分かった。
なぜ、ここにいる『超能力』者達がこのおよそ上空一万メートルの空の上で戦えているのかというと……それぞれの神から『加護』を授かっているからだ。
例えばミリィならアスファスの。
例えばセバスならアルドノイズの。
ミリィの『移動』の際に生じる異空間は、外界との通信を遮断するため、それらが全て切り離される。
無論、解除された途端にアルドノイズが再接続すればいいのだが……アルドノイズはミリィの目的を未だ理解していなかったため、一瞬の隙が生まれてしまった。
その隙が、セバスにとって致命的であった。
「死ねえええええええええええええぇ!」
ミリィは絶叫ともいえる叫びと共に、セバスに抱きつき、自ら降下した。
セバスは、ミリィのしようとしている事が分かり、セバスの背中に悪寒が走る。
そう。
ミリィは、セバスと共に落下し、地面に叩きつけるつもりなのだ。
そうなればミリィも無事では済まないどころか死ぬが、ミリィには『移動』がある。
セバスを叩きつけた後一人で『移動』するくらい訳ないだろう。
「くそおおおおおおおおおおおおおお!」
セバスは抱きつくミリィを引き剥がそうと必死に抵抗するが、いかんせん『超能力』が完全に攻撃型ではないセバスには人間の三倍程の身体能力を持つ悪魔としての力しかない。
しかもアルドノイズが呆然としている今、ロクな『加護』も貰えないのに加え、貰えたとしても『能力』残量が残りカスぐらいしかないアルドノイズの『加護』なんて使い物にならないだろう。
だから、だからこそ……!
「詰みぃ♡!」
ミリィの嬉しそうな声と共に……。
「っーーーーーーーーーーー!」
セバスは背中から地面に叩きつけられ、背骨が一つ残らず砕ける音だけが辺りに木霊する。
セバス自身完全回復していると気付かなかった頭をまた粉々に砕き、己の頭蓋骨の欠片で脳を串刺しにした。
そんな打撃を受けて生きられる者など、少なくともただの人間にはいない。
どんな柔道家でも、空手家だとしても、『人間』という枠の中にいる以上、そういう設定がされている以上、この『死』を覆す事は不可能だ。
だから、セバスは、三回目の死を遂げた。
*
「あはぁっ!」
ミリィは高揚していた。
なにせ、この『移動』を終えた先には未だに間抜け面を崩さない程呆然としているアルドノイズがいるのだ。
死んだかと思っていた奴がまるでゾンビのように、頭がない状態で復活を遂げ、ミリィの右腕を吹っ飛ばした挙げ句、自分の『超能力』は『アンデット』と言ったのである。
感動というか、笑える話だ。
だから思わずミリィは笑……。
(……あれぇ?)
そこで、ミリィはとある疑問を浮かべる。
『超能力』は基本的に二時熟語だ。
まあ、たまに二時熟語に抑えるのが無理だったかのような能力は見かけるが、今回は全く違う。
『アンデット』。
ここで、ミリィの頭には一つの可能性が過ぎる。
今回神ノーズとアスファスがアップデートした神能力……『呪い』の存在が。
まあ、今考えても詮無い事だろう。
そう一蹴すると、ミリィは考えるのを止め、一瞬後に生産されるアルドノイズの死体を想像し笑みを浮かべる。
……発言や口調から誤解されがちだが、ミリィのIQは一般人を軽く凌駕する程高い。
無理やりアスファスがそう設定しているのもあるが、元の素材がちゃんと成ってないと成らないため、本物の天才というやつなのだろう。
……馬鹿と天才は紙一重というし。
ミリィは相変わらず人を不快にさせる笑みを顔面に貼り付けながら、『移動』の出口を目指し、抜け出した。
この時間はおよそ一秒にすら満たない、僅かな時間。
そんな一瞬に、ミリィがここまで思考出来たのは、やはり天才だからだろう。
そして、抜け出した先にはーー
「お前がアスファスの手下だな?そしてセバスを殺した奴だな?うぜぇ」
「えっ……?」
抜け出した瞬間、ミリィの上半身と下半身が泣き別れた。
性格には腹のへそ部分であり、身体の中に住み着いていた血が上下全てから逃げ出そうとする。
ブシャー!という絶望音を他人事のように聞いた後、ミリィは理解する。
今、自分に下半身がないという事を。
「う、うあああああああああああああああああ!?」
「俺は『死神』カールデス・デスエンド。仕事は魂の管理、処理、構成。趣味は人造人間の生成。あ、仕事がついさっき追加されたばっかりだったな……」
『死神』と名乗る男は、顔を不気味な笑顔に染まると。
「『アンデット』セバス・ブレスレットの、復活の際に用いる他の魂の合成だ」
今回も相変わらず長い『セバスの過去』でした。まあ、もうあと3話で終わります!戦いも今回が佳境でしたね。あとはまあ蛇足と言っても過言ではありません(自分で言うな)!とにかく、やっと本編である五章を書くので、頑張ります(主に自分のために)!




