77話(神サイド) セバスの過去①⑨
アスファスが持つ固有の『カミノミワザ』である『流水群』という名の技がある。
『神水』という、神界ーー神ノーズの領地ーーで採れる水を纏った、隕石。
『神水』は『超能力』でいうところの『超回復』と同じ性能を持つ、文字通り飲んだ者の身体を癒す水。
だがそれは『設定』された能力であり、設定を施す事が出来るのならそれはまた『改変』出来る事と同意であり……つまり、何を述べたいのかと言うと。
改変し、身体を『壊す』という性能を、神の一柱であるアスファスなら、施せるという事だ。
そんな『流水群』が、降ってきた。
*
「なっ……!?オルグトール!」
アスファスは、一瞬の驚愕の後、一瞬で状況を把握し、一瞬でオルグトールの名を叫んだ。
オルグトールは振ってくる『流水群』を見たまま固まっていたが、アスファスに名を呼ばれ、意識を引き戻し、己の『超能力』を叫んだ。
「はっ!『八戒群』!」
「『流水群』!」
オルグトールがいくつものクリスタルを形成し、自身とアスファスとカミルドの前に隙間のない盾の形に収集し、迫り来る隕石を必死に抑える。
このクリスタルは術者の思い通りに動くため、抑えるためにも術者が動かさなければならない。
そのため、オルグトールは歯を食いしばりながら、両手を突き出して操る。
そんなオルグトールを片目に、アスファスも己の能力である『流水群』を使用した。
本家本元の『流水群』が、敵対する『流水群』と相殺する。
「は、『破矢』!」
アスファスに続き、今思い出したかのようにカミルドが『超能力』を使う。
そうして、やっと姿が知れぬ敵の攻撃が止み、今度はアスファスの『流水群』が敵の方へ飛んでいく。
「ふぅ……」
「……」
アスファスの『流水群』も終わり、静寂な空にオルグトールの安堵したため息だけが響いた。
だが、アスファスは未だに唇を強く噛み締めている。
それはそうだ。
なにせ、アスファス専用の『カミノミワザ』である『流水群』が、誰かに使われたのである。
それは驚異であると同時に、恐怖でもある。
とは言いつつも、アスファスには心当たりがあった。
敵についても、『流水群』をなぜ使えるのかについても。
「出てこい。神ノ凪」
だから、アスファスは確信と共に呟いた。
相手の『能力』をコピーし、自分のモノにする『模倣』という能力がある。
だが、その『模倣』も『カミノミワザ』は模倣する事が出来ない。
それはなぜか。
もちろん、神のみが使える、正真正銘の神の技だからだ。
そんな力を、人間が使っていい訳がない。
だが……それを可能とする能力がある。
『模倣者』。
『模倣』の顕現を超え、『超能力』の上位互換。
それが、『者』級。
そして、『模倣者』を使う者は一人しかいない。
その人物は……。
「がっ!?」
「久しぶ……いや。初めまして……だっけ?『造神』アスファス。……俺の名前は、新野凪だぞ。覚えとけ」
オルグトールの密集して固まっていた『八戒群』を貫き、オルグトールの腹に穴を開けながら、一人の少年が姿を現した。
男にしては結構長い方である黒髪を空に遊ばせながら、黒いコートを靡かせアスファスの目の前で浮遊する。
目は無気力であり、全体的にやる気のない大学生にしか見えないのだが……。
「アスファス……いい加減、自重してくれ」
凪はため息と共に言った。
凪は「まったく……邪魔してこないルートがないってどういう事だよ……」と付け足しながら、頭をポリポリと掻いた。
そんな凪に対し、アスファスも言葉を返そうとした途端。
「『バースホーシャ』!」
「え……?」
アルドノイズがカミルドに向かって『バースホーシャ』を使った。
カミルドは今までオルグトールに『神水』を飲ませ続けていたので、油断していたのか、瞬時に反応したが右半分が焼かれてしまい、オルグトールは完全に燃え尽きた。
カミルドの右腕は消滅し、右腕だけでは足りないとでもいうかのような凄まじい炎が、更にカミルドの身体を焼く。
「くぅ……!」
その威力に耐えられなくなったのか、カミルドは落ちていった。
「……」
アスファスはそれを見届けると、カミルドを助けに行こうとし……やめた。
今、目の前には凪とアルドノイズがいるからだ。
誰かのために、しかも人間如きのために自分の命を散らす可能性がある行為をするほど、アスファスの心に良心はない。
「自己犠牲など、反吐が出る……。まあ、仇はとるが」
アスファスは、ゆっくりと、小さく呟いた。
ーー勝利を、確信しながらーー
「ダクネス、とな」




