75話(神サイド) セバスの過去①⑦
「はぁ、はぁ、は?」
男は、目を覚ました。
あり得ない致命者ーー首飛びーーをしたのにもかかわらず蘇るその様は、まさしく悪魔。
悪魔ーーセバス・ブレスレットであった。
(俺、なんか信じられないような体験をした気がするんだが……記憶にモヤがかかったみたい……?)
そんな事を思考しながら、ふと周りを見渡すと、人が誰一人としていない、商店街だった。
後ろを振り向くと、裏路地につながる一本道がある。
「……」
そう、これは、ここは。
「俺、生き返った?」
「……何で?」と付け足しながら、私は呟いた。
*
さっきから何度も思っているが、やっぱりここはあの「じゃあ、バイバイ」ととっても気持ちのいい爽やか笑顔を向けてきたイケメンに殺された場所であった。
その時私の首は吹っ飛ばされたはずだったが、見事綺麗に戻っており、当たり前だがあの怖い二人(セバス観)はいなかった。
「……まあ、とりあえず」
私は真上を見上げると、そこには異様な光景を確認した。
隕石だ。
それも、落ちてきたら簡単に地球がパックリ逝きそうな程の。
そんな隕石の両隣りには、空間が割れたような亀裂がある。
もう、地球の終焉の時にしか見えない。
「……ん?」
ここには、おそらく私が出現した事により悪魔発生警報が出されており、人々は悪魔災害専用非常口に逃げ込んでいるのだろう。
周辺に、しかも日々人々の行き交う音やざわめく声で満ちているはずの商店街には、人っ子一人もいない。
なのに、ビルの屋上で、影が蠢いた。
それも、明らかに人間のシルエットの。
「現状把握したいんだけど……あれってもしかして……」
*
アルドノイズは、体感では、延々とした落下を続け、適当な縦に長い建物に掴まり、その反動のままに空に駆け出した。
目指すは、呪いである。
だが、その呪いの周辺には……。
案の定といえばいいのだろうか。
「……全く。いい加減にしようぜ……アスファス!」
不敵な笑みを顔に貼り付けたーーなぜか『器』を用いていないそのままのーーアスファスがいた。
もちろん、このアスファスという男は常に自分を脅かすかもしれない『不確定要素』を警戒しているので、両隣には中年の男性と中学生ぐらいに見える少年が侍っていた。
「すごいじゃないか、アルドノイズ。まさか、ダクネスちゃんから逃げてくるなんてね、驚いたよ」
アスファスは、アルドノイズを称賛するように、拍手する。
アルドノイズはそんなアスファスの上から目線の態度に苛つくが、抑えながら返す。
「そうか。んで、ここに来てまだあと残りカスぐらいしかねぇ『呪い』を吸収してないってことは……完全にするためか?」
「もちろん」
アスファスは歪んだ笑みを顔面に貼り付けながら、アルドノイズの問いを肯定する。
そう。
なぜ、アスファスが、未だ空を覆うように浮遊している『呪い』を吸収しないかというと、アルドノイズが既に三分の一を吸収してしまっているからである。
別にだからなんだと三分の一を吸収しきってもいいのだが……その場合、この『隕石』の中にインストールされた『呪い』の一部分に、不具合、または不完全なものが生じてしまう。
そのため、今現在圧倒的有利なアスファスは、まずアルドノイズがインストールした『呪い』を取り出し、隕石と融合した後に吸収するという算段である。
そんな、自分がいい様にされている状態にされるーー尚且つその状態を打開できないーー己に歯嚙みするアルドノイズに向かって、アスファスは、
「じゃあ、オルグトール、カミルド……奴を、殺すぞ」
手をゆっくりと上に挙げた後、勢いよく下げた。
瞬間、アルドノイズに向かってオルグトールと呼ばれた男性は両手に八角形のクリスタルを創りだし、カミルドと呼ばれた少年は黄金に輝く神々しい弓矢を形成した後構え……アスファスは、右手に蒼色の剣を、左手に紅色の剣を顕現させ、構えた。
アルドノイズの主な戦法は術だが、アスファスの場合は間接戦なのだ。
まあ、両者それぞれその戦法は得意なだけであり、実際は他者を凌駕するほど優れたオールラウンダーであるのだが。
「……アスファス」
アルドノイズは、疲れた瞳でアスファスを睨みながら、己の兄弟の名を、ボソッと呟いた。
さーてさて。最近投稿率がどんどん下がっている気がしないでもないですが、やっとセバスくんの過去が佳境となりました!僕としては宏人くんの話を早く進めたいと思っていますので、これからはこういう番外編を少なくしていくよう頑張ります!……まあ、なんだかんだ言って突入する事がたくさんあるから今回のような長い過去編が生まれるんですが。




