74話(神サイド) セバスの過去①⑥
「……あちゃー、逃げちゃったよ。アルドノイズさん」
「……」
旧世界という、『能力』関連を全て『無』とする世界にて、少女と悪魔が対峙していた。
悪魔の方は、全ての悪魔の始祖であるアルドノイズの片割れであるのに対し、人間を統べる神であるアスファスの片割れの力を引き継いだ少女。
その二人が対峙する様は、実に異様であった。
「なぁるほーどねー。コットさんは私の世界内でコットさんの世界を創り、その世界の中にアルドノイズさんを入れて、すぐに閉じた、と。実にいい逃げ道であると思いますが……」
ダクネスは、そう言いながら、コットに切断された己の両手を修復した……かと思った瞬間。
「おりゃ」
可愛らしい年相応の少女の声と共に、凄まじい威力を誇る拳が、コットを狙ってきた。
コットは突然のダクネスの行動に驚いたが、すぐさま反応し、ダクネスの手を受け流す。
「……っ!」
だが、その事をまるで予期していたかのように、ダクネスは受け流されたまま、物理的法則を無視する形で回転し、コットを蹴った。
コットはそれすらも反応したが、避けきれないと判断し、腕をクロスして顔面を守ったが……。
「あがっ!?」
ダクネスの蹴りはコットのクロスした腕をバキバキとおり、その勢いのまま顔面を潰し、吹っ飛ばした。
「くぅっ!」
「もういっちょ!」
吹っ飛ばしたコットを追いかけるように、ダクネスは跳躍し、さらに拳をたたみかける。
さながら格闘家のようなその攻撃は、少女とは思えない綺麗な型であり、威力である。
幼い頃から習っていた、という言葉が世間では通じない、もはや戦いの世界でも通じないその攻撃に、危うくコットも意識を落としかける。
コットの黒い鎧のような外装が、ダクネスが殴るたび凹み、潰れ、破壊される。
コットは歯を食いしばりながら必死に耐えるが、ダクネスはやがて飽きたのか、再度大きく振りかぶり、反対方向に吹っ飛ばした。
まるで、今のは自分の強さを確認させるための行為に過ぎないというかのように。
「コットさんの式神内にアルドノイズさんを逃すっていう、さっきの話の続きですが、これもまたさっきも言った通り、いい逃げ道だと思いますよ。だけど、コットさんはミリィとの戦闘で疲弊していますよね?そんな疲弊している上で式神を構築し、私と戦う。実に無謀です」
コットは、ペラペラと喋るダクネスを見つめながら、とある事を考えていた。
「ところで、ミリィには勝ったんですか?コットさん」
喋りながら、アルドノイズの時と同じように近づいて来るダクネス。
今、疲弊しているコットが式神を構築しても、おそらく簡単に簡易式神構築である『旧世界』に押し負けてしまうだろう。
……まあ、万全の状態でも五分五分といったところだが。
「なんでさっきから黙っているんですかコットさん。もう死んじゃうんですから、今の内に話しときましょうよ」
今、コットが死んだら、アルドノイズはどうなるのだろうか。
コットの式神の中にいることはもちろん、コットはアルドノイズが『アルファブルーム』となるためのスイッチでもある。
そんなコットが死んだら、たとえ『呪い』を手にしたとしても、今までよりも余計戦況が悪くなる。
裏返すとそれは、『アルファブルーム』と『式神』さえ無事なら解決する話でもある。
だから、だからこそ。
「式神顕現『獄炎犬!」
*
「なっ……!?」
コットに突き飛ばされた瞬間から、アルドノイズは訳もわからないまま落ちていた。
コットの式神の中に入ったのは一瞬であり、気がつけば放り出され、空にいた。
「コット……!」
確かに、今アルドノイズは無事だが、あのダクネスという少女に疲弊しているコットが戦うのは些か無謀すぎる。
そんな現状に、アルドノイズの脳裏に嫌な予感が過ぎる。
(無謀の範囲を超えているというか……死ぬ気か?……いや、まさかな)
まあ、今考えても詮無いことである。
だから、今、アルドノイズがすべき事といえば。
呪いを、手に入れる事である。
*
「はぁ、はぁ、はぁ……あはぁっ」
高層ビルの屋上にて、一人の女が血だらけで仰向けになっていた。
このビルは一般開放されていないため、誰も気付くことはない。
だからこそ、今この瞬間まで休むことが出来た。
いや、まあたった五分程なのだが。
だが、この異様な女にとって五分は十分過ぎる休憩時間であった。
「見いつけたぁ。アルドノイズ!」
ミリィは、興奮する様に、舌を舐めた。
最近、毎話千五百文字程度になってきているので、これからは一話千文字ではなく千五百文字にしていきたいと思います。自分でもたまに見返すと、短かっ!と思う事が多々あったので……。……まあ、千五百文字になっても短いのには変わりありませんが。




