70話(神サイド) セバスの過去①②
「……」
アルドノイズの首が、重力に従って、勢いよく落ちていくのを、コットはただただ呆然と眺めていた。
それは、強敵と会う際の緊張感。
死神の鎌に首を捉えられるような緊迫感。
そして、高揚。
「私はミリィ。アスファス様の、重要要請十大人間兵器の一人だよぉ」
現在地、上空およそ一万メートルにて。
地球よりも巨大と言われる隕石を片手で、まるで吸い込むようにどんどん小さくさせていたアルドノイズの首を、ミリィと名乗る少女が、特殊な鎌によって、切断した。
ミリィは、突然、まるで虚空から飛び出してきたかのように、現れた。
コット・スフォッファムという、特殊な悪魔がいる。
その悪魔は、人間の権能である『超能力』を使える、純粋な、純然たる悪魔。
アルドノイズの、アルファブルームになるために必要な能力を宿す、いわば偽の神。
だが、偽の神だからと言って侮ることなからず。
例え偽物でも、神は、神だ。
薄黒い肌に、肢体をドス黒い部分的な甲冑のような物で覆い、背にもまた真っ黒な翼が生えている。
まさに、悪魔。
だがその顔は、まるで聖職者のような、優しいような、胡散臭いような穏やかな表情をしており、その身体とのギャップが見て取れる。
そんな、偽神。
そして、アルドノイズも認めるざるを得ないものを、その偽神は持っていた。
コットの力は、現在のアルドノイズを、遥かに超えている。
まあ、当たり前だ。
前述にも述べたように、アルファブルームの『存在』のカケラを、その身に宿しているのだから。
*
「ミリィ、か。いい名前ですね。いい名前すぎて、僕も子供が産まれたらミリィって名前を付けちゃいそうです」
コットは、まるでふざけるように、そんな軽口を言った。
だが、コットの目は、まるで恋する乙女のような羨望をし、その先にはミリィがいた。
そう、実際、コットは、アルドノイズを瞬殺した少女に、焦がれたのだ。
「ありがとぉ。でも、残念。悪魔に生殖機能なんてないのなよぉ?」
「愛さえあれば、なんでも出来ます」
「そう。私には分からないわぁ」
ミリィはそう言うと同時に、コットに肉薄した。
いや、その言い方は正しくなく、突如虚空に消えた後、それも突如虚空が開き、コットの首を正確に捉えた。
まさに、文字通りの死神の鎌。
もうあとコンマ一秒でもすれば、コットの首も、アルドノイズの首と一緒に仲良くバンジーダイブだろう。
だが、コットはそんな結末を許さなかった。
「……『変換』」
「!?」
ミリィの鎌がコットの首を切断する瞬間、コットはその鎌の腹に触れ、霧散させた。
「……なに?なんなのなんなのその能力ぅ!強スギィ!絶対それアスファスサマの『超能力』一覧に設定されてないしぃ!」
そんな事実に、ミリィは興奮するように、独り言のように、叫んだ。
そんなミリィに対して、コットは誇るように胸を張ったのち、右目を閉じてーーいわゆるウィンクをしてーーミリィに言った。
「僕に、惚れたか?子猫ちゃん」




