67話(神サイド) セバスの過去⑨
……もう、どれくらいの時が経ったのだろうか?
たゆたいながら、私はそんな事を考えていた。
いや、たゆたうというのは適切ではない。
私は、ただただ、意識に飲み込まれそうになっているだけだ。
死。
万物にとって絶対の脅威であり、逃れようもない終焉。
ただ来る時間は違えども、絶対にやってくる絶対。
そんな死に、私は招かれていた。
(……死ぬのか、俺)
私はどんどん深く飲み込まれていくなか、死神の手に捕まり……。
「お前……。あー、これ絶対アスファスじゃん。あいつ……まぁた変な物を作りやがって」
(!?)
いきなり、私はぶん投げられた。
誰に?
死神(?)に。
……死神に!?
*
『終わり』が、落ちてくる。
その事に人々は戦慄し、その事実に人々は逃げ惑い、その終焉に人々は咽び泣く。
そう、地球の上には、地球なんて目じゃないくらいの大きさを誇る隕石が、凄まじい勢いで降ってきたのである。
惑星に設置されていた自立カメラでさえも、事前に見抜けなかったほど速いーー
と、いうことにしている隕石が。
「「……」」
アルドノイズとコットは呆然と上を見上げていた。
いくらなんでも、やりすぎじゃね?と。
なにせ地球よりもデカいのである。
もう、隕石じゃなくて惑星ではないかと叫びたいアルドノイズであった。
「もうこれ隕石じゃなきて惑星じゃん!」
「……」
コットも同じ事を思っていたらしい。
口に出されると、なんか負けた気がするアルドノイズであった。
まあ、今はそんな事をやっている場合ではない。
アルドノイズは文字通りの世界の終わりを見上げて、拳を握りなおす。
地球よりも遥かに大きな隕石は、ついさっきまでは青かった空を覆い、雲を殺し、風圧とぶつかりあいながら落ちてこようとしている。
もちろん、こんな隕石が自然に降ってくる事なんて千年にあるかないかだ。
むしろない可能性の方が高い。
まあ、これよりも規模が小さい隕石ーーというが、十分に一瞬で生命を消し去るーーなら2回ほど降ってくるだろうが。
そんな事はともかく、これは神ノーズとアスファスの仕業だ。
こんな事は、神ノーズの承認がないとできないからである。
そして、ついさっきのアスファスが「たった今から、このカルテット3、地球にいる人類全てに、第五プラン目である『呪い』を授ける事を、シンノーズが承諾した」という事を言っていた事から、この二人はグルとしか思えない。
神ノーズは人間で『遊んでいる』から皆殺しが目的ではなく『面白い』事が起こる事が目的なのだろう。
それに対してアスファスは、ただただかわいがりたいがために自身のサイドの力を膨張させて、人類を『強調』したがためだ。
この隕石の大きさも、そんな人類を、超能力を圧倒するために作られた、おそらく超能力と互換か、下位互換。
まさかいきなり超能力よりも大きな力を与えて、耐えきれずに人類みな爆破となれば、神ノーズも黙っていない。
まあ、超能力の上位互換ならもっと隕石は大きかったろうが。
「アルドノイズ、いける?」
「いかなければ、ならないからな」
アルドノイズは、コットの試すような質問に、一言一句はっきりと答えながら。
「アスファス。お前は……調子に乗りすぎた」
アルドノイズはそう呟くと、空に、隕石に、『呪い』に向かって、飛んだ。




