64話(神サイド) セバスの過去⑥
「どの面下げて俺の元へ来た?アスファス」
「そう警戒するなよアルドノイズ。基本的ステータスは一緒だろ?」
とある平凡な家庭で生まれ、病んでいった少年が住み、家賃も格安なアパートの一室にて。
神族の兄弟二人が睨み合っていた。
なんというか、色々とカオスである。
まあ、アスファスはやけに色っぽい男性を器としており、アルドノイズはとても美人でスタイル抜群の女性であるため、はたから見たら恋の諍いにしか見えないが。
「まあ、そんな事は置いといて」
「……」
アスファスはそう言いながら平行に手を構え、それを横にやった。
面もいいため、やけにムカつく手振りである。
アルドノイズはそんな事を考えながら、特に何も身構えずに聞いているとーー
「たった今から、このカルテット3、地球にいる人類全てに、第五プラン目である『呪い』を授ける事を、シンノーズが承諾した」
と。
アスファスはーーアスファスが器にしている男がーーいやらしい笑みを顔面に貼り付けながら、そう言い放った。
アルドノイズにとって、その言葉は、まるでーー
勝利への福音であった。
*
「はあ……一体俺が何言ったってんだよ……。何か傷付くような事や重大な事は何一つ言ってないような気がするが……」
私は、細長い路地裏を歩きながら、ぶつくさと言っていた。
この路地裏、実は自宅への近道なのである。
じゃなきゃ、一回殺されかけた……というか死んだ場所をもう一度通ろうとは思わない。
「悪魔って、元は人間なの?」
ふと、私はさっきダフネスという少女がそんな事を言っていたのを思い返した。
自分はもう、人間ではなく、悪魔だと。
そんな事実を、さっき確認した。
丁度この路地裏に捨てられていた鏡があったため、覗いてみると、目の前には褐色肌で頭に禍々しい角が生えているーー悪魔であった。
「はあ……」
そんな事実を再度思い出し、セバスは深いため息を吐いた。
ため息を吐くと幸せが逃げるというが、幸せが逃げたからため息を吐くのではないかという屁理屈と共に。
「幸せが逃げた、か……」
セバスはそんな事を思いながらも、どこか楽観視している自分に気づいた。
そう、別に自分は言うほど不幸ではないのだ。
なにせ、セバスはアルドノイズと出会う事が出来たのだから。
「よしっ」
セバスは色々吹っ切れたように、路地裏から出た。
セバスの頭にはもう、ダフネスのことなんてこれっぽっちも残っていなかった。
……セバスの頭にはもう、自分が人間ではなく、褐色肌に角が生えている悪魔だということは、これっぽっちも残っていなかった……!




