57話(神サイド) 廻る
目まぐるしいほど、世界が回る、周る、廻る。
吐き気を催すため、口に手を持っていきたいところだが……。
まず、自分の口がどこだか分からない。
というか、手を動かす事もできない。
体の機能は失われてないが……なんというのだろうか、自分の体の動かし方を忘れた、という表現が正しいのかもしれない。
背を丸め、胎児のように黒く、暗い空間で蹲る少年、向井宏人は、一瞬のときの中、そう考え混んでいた。
まあ、宏人自体は何時間もいたのではないかと錯覚していたが。
それはそうだ。
ただでさえ不定形な式神構築で、バグを起こしてしまったのだから。
そんな空間では、自分が生きているのか、それとも死んでいるのかすらも分からない……というか、曖昧だ。
宏人は必死に考え込む。
何を考えるべきか考え、その浮かんだ考えを考え、また新しい考えを考える。
それをひたすら繰りかえす。
それは、自分がまだ生きている、という事を実感したいのでもあるが……今、自分はなぜこうなり、どんな状況かすらも分からないからだ。
そんな思考を繰り返し、考え、考え、考え続けた先にーー地獄は開け、また新しい地獄に引き込まれた。
その地獄の名は……式神構築『獄廻界』
式神『地獄犬』を媒介とした、アルドノイズとその眷属のみが使役する事のできる、地獄が。
宏人と、数名を飲み込み、戦場へと誘う。
*
ついこないだまで平和な日常という、高価で、幸福で、高級な日々を送っていたであろう、悪魔の死骸があっちこっちに広がっている大地を見て、とある人間は、はあとため息を吐いた。
なにせ、さっきまで悪魔が大量にいたところには、巨大なクレーターしかなかったのである。
「『爆破者』、か……」
要の能力であり、称号でもあるその名を呟いきながら、その人間はその人口クレーターの中を見下ろした。
「……」
案の定とでもいうべきなのだろうか。
そのクレーターは、横幅だけでも五十メートルはあるのに、深さはおよそ二十メートルほどあった。
この横幅に対してこの深さは、恐らく一気に纏めて片付けた訳ではなく、何回も連発して仕留めていったのだろう。
「……さっすが、要だ」
人間は、ため息を吐きながらも、そのクレーターを作った犯人を称賛した。
その人間の友人……というか親友であり、よき好敵手であり……たった今から、敵となる少年に。
「でも、お前じゃ、シェスには勝てない」
人間は、そう呟くと、要に背を向けるかのように、クレーターから後にした。
「……ごめん、な」
人間は、小さく、小さく、そう呟いた。




