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超能力という名の呪い  作者: ノーム
最終章 灼熱の魔神編
299/301

291話(神サイド) 新時代


 燃え盛る焔の監獄の中で。

 ──俺は、一人倒れていた。


 無様に地を舐める俺の……那種の長い前髪を掴んで持ち上げるのは、アルドノイズ。



 俺は、負けた。



「無様だな、向井宏人」


「……言ってろ」


「クハハ。強気な態度を崩さないことは褒めてやろう」


 アルドノイズは少し笑った後……パチンッと指を鳴らした。


 ──その途端。


「──ぐぁ……!?」


 突如全身に駆け走る激痛。

 四肢がもげるような、頭をかち割られるような。

 痛みが許容量を超えて、もはやどこが痛いのかすら分からない。

 『森羅万象』により、一定以上の痛覚を遮断しているのにもかかわらず……そうか。


 これは、焔。


 アルドノイズの、『魂』を焼く炎。

 『那種』ではなく、『向井宏人』を殺す力。

 ……そう思うと。


 不思議と、安心できた。

 

「安心しろ。これで一勝一敗だ。オレが負けた際は生き恥を晒させたくせに、お前だけのうのうと死ぬことは許さん。……だが、このままのうのうと生きていくことも許し難い。だからな」


 薄れゆく視界の中で、アルドノイズは嗤う。


 

「オレと同じように、眠れ。向井宏人。そして──時が来たら、もう一度オレのもとに来い。その時こそ、完膚なきまでに燃やし尽くしてやろう」



 視界が、暗転していく。

 もう痛みは感じない。

 アルドノイズの言葉も、耳に入ってこない。

 だが不思議と理解できた。


 ……ははっ、アルドノイズとは一心同体だったからか?


 それとも、まだアルドノイズが俺の姿をしているからだろうか。

 知らないが……ともかく。



「……ありがとな、アルドノイズ……」



 那種は殺さないでくれて。

 なぜ、自分がそう言ったのか、そう思ったのかは理解できない。

 だけど自然と、口に出た。


 その言葉を最後に、俺は。


 深い深い、眠りに落ちた。

 いつか、誰かが起こしてくれると信じて。



 * * *



「──クハハ。起きろ、智也」


 アルドノイズはそう言って、山崎智也の死体に手を伸ばす。

 すると──ぱちっ、と智也の目が開いた。


「お……。結構時間かかったな、アルドノイズ」


 アルドノイズのカミノキョクチ『迦具土神』は、『魂』を焼く焔。

 『魂』に影響する異能なのだ。

 アルドノイズともなれば、焼かずに保護することなど容易い。

 それで智也の『魂』を保護しつつ、長年向井宏人と共にあることで『魂』に染みついた『変化』で死体の外傷を回復させ、『魂』を戻せば死者蘇生が可能なのである。

 とは言え最高難易度の神業なのだが……当たり前のような反応を見せる智也に、アルドノイズは少し機嫌を悪くしつつ鼻を鳴らして。


「そうだな。さっさとここを発つぞ」


「おっけー……ってあれ。宏人殺さねぇの?あそこで伸びてるけど」


「ああ。次回な」


 そう言って、アルドノイズは智也と共に歩き出す。

 『封印』から解放されて、晴れて自由になったこの世界を。


 ──純神とは、神ノーズから漏れ出たエネルギー生命体のことである。


 その存在意義とは──新たな神ノーズの選定。


 現存する純神が最後の一柱となった時、その純神は神ノーズへの『資格』を得ることができる。

 アルドノイズたち初代純神である八柱は、現在アルドノイズとニーラグラのみ。

 本来であればアルドノイズはニーラグラさえ殺せば『資格』を獲得できるが……事はそうはいかない。


 次代の純神が、命を宿らせつつある。


 アルドノイズは既に凪から、現在の三柱の神ノーズ殲滅作戦を聞いている。

 作戦を聞いていた時はそんな荒唐無稽な……と本気にしていなかったが……ドクンッと心臓が跳ねた音がした。

 これは──


「クハハ。準備しろ智也。時代が、動くぞ」


 アルドノイズは嗤う──その瞬間。

 

 新たな十柱の純神が産声を上げた。

 天から桜吹雪が舞う。

 『世界』が、祝福している。

 新たな神の誕生を。

 呆気に取られる智也をよそに、アルドノイズは嗤う。



「退屈せずに済みそうだ。クハハ!礼を言うぞ、吐夢狂弥ァ!!」



 

 * * *



「さて、これで準備は整った」


 狂弥はニッと笑い、天に手を翳す。

 狂弥の手に宿るは、第一世界『繁栄世界』の式神。

 

「じゃ、頼むよ。凌駕、凪」


 凌駕と凪はコクリと頷き──二人も、天に手を翳した。

 狂弥の場合は闇裏菱花から直接『世界』をもらったが、凌駕と凪は違う。

 『世界』の管理権を渡される前に、前神ノーズであるダガルガンドとハーヴェストを手にかけた。

 


 だから、凌駕は創造した──『天使世界』を。

 だから、凪は創造した──『悪魔世界』を。



 狂弥の『繁栄世界』。


 凌駕の『天使世界』。


 凪の『悪魔世界』。



 それらが、たった今──融合される。



 かつてこの宇宙を創り出した初代神ノーズが断念した、一つの『世界』の存在維持。

 だから『世界』を三つに分け、己の存在をも三つに引き裂き、最も信用の置ける三人の人間に分け与えた。

 

 だというのに。



「できた……やっとできた!三つの『世界』の統合!」


 

 狂弥は無邪気に嗤う。

 緊張の面持ちの凌駕と凪とは正反対に。

 

 『世界』は悲鳴をあげる。

 三つの『世界』が、混ざり合う。

 『世界』は歓喜する。

 新たな十柱の純神が誕生する。

 『世界』は非難する──新たな神ノーズを。

 初代神ノーズが仕掛けた、なってはいけない存在が神ノーズになってしまった際の応急措置を発動──その直前、狂弥は微笑んで。



「凪」


「ああ──式神構築『八紘一宇』」



 凪は元第四世界を展開し──『世界』の応急措置をまるまると飲み込んだ。

 一瞬後、三人の頭の片隅には一部の『世界』が崩壊する音が。

 『世界』の応急処置が凪の『世界』を破壊し尽くしたのだ。


 これが、狂弥が凪を神ノーズにさせた理由。


 狂弥の目的は三世界の統合だ。

 だが初代神ノーズは悪神に支配される『世界』は滅んだ方がいいという思考から、応急処置として『世界』の破滅を設定した。

 それを、必要のない凪の『世界』に送り込んだのだ。


 これにて、たった今この瞬間、『八紘一宇』は完全消滅することとなった。


 ──そもそも。


 狂弥だけでなく、凌駕も、凪ですら現存している理由。

 答えはシンプル。

 単純に、この三人は戦ってすらないから。

 今まで宏人たちと関わってきた狂弥、凌駕、凪はこの世界線の三人であって、狂弥と共に世界線を行き来している三人ではないからだ。

 とはいえ狂弥にはループで得た記憶を再現する力があるため、この世界線の彼らも好きなように操れるのである。


 何より──神ノーズの力は絶対。


 別の世界線で神ノーズになれば、全ての世界線で神ノーズと成るのだ。

 だからこの凪も『八紘一宇』を使用できた。

 


 全ては吐夢狂弥の手のひらの上。

 


 これは、凪とカナメを神ノーズへと昇格させ──確実に狂弥たちが神ノーズへと至る道筋を作り出すための世界線。

 カナメの神ノーズ化は失敗に終わったが、それでも向井宏人という駒がなかなかの働きをしてくれた。

 カナメを神ノーズにしたかった理由は単純に最強になれるだろうからという曖昧な狂弥の想像でしかないのだが……それゆえに、失敗しても何も問題はない。

 狂弥は向井宏人の『変化』にも期待していたが、カミノキョクチへと至ったものの、神の名を冠することはなかった。

 これでは、完全な一撃必殺まで、あと一歩足りない。

 

 狂弥まで、あと少し届かない。


 そのためもう用済みだったのだが……菱花の言葉なら、無碍にはできない。

 菱花は、狂弥の数少ない友人の一人だから。




「それじゃあ、最後のお仕事をしましょーか」




 狂弥はそう言って、凌駕と凪とともに。

 宏人のもとへ。

 

次回最終回です!

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