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超能力という名の呪い  作者: ノーム
最終章 灼熱の魔神編
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289話(神サイド) 神殺し


「──さて」


 コトンッ、とテーブルの上にカップが置かれた。

 まだ中に入っていた珈琲の水面が揺れる。

 その黒い水面に映るのは、狂弥。


 吐夢狂弥。


 時空を操る別世界軸の神人。

 

 ここは、そんな狂弥が創り出した時空の狭間──時の間。

 狂弥らしく、この名称は神の間からパクったものだ。

 

 現在、時の間には狂弥以外にも人物が。


「長いようで短くて、でもやっぱり長かったこの物語もついに終盤だね」


 狂弥は楽しげに。

 まるで無邪気な子供のように身振り手振りで、その人物に語り出す。


「能力と人格的に一番成長速度が著しい向井宏人だけど、正直期待外れ、かな。最後の最後で予想が狂った。やっぱ『世界真理』じゃカミノキョクチが絡む未来を完璧に予言するのは無理だったみたいだね。まあ?ここまで育てた以上は責任持ってなんとか軌道修正するけどねぇ」


「……」


「だから多少無茶してでも『神話掌握』は確保しておくべきだったなぁ。僕の力使えば過去に戻れなくはない……いやぁやっぱ無理だね。あの戦いカミノキョクチ絡みすぎ。たとえ神ノーズが僕の力使ってもあの決戦には戻れないだろうね──そうだよね、ダガルガンド」


 狂弥が向ける視線の先──そこには。

 神ノーズが一柱、ダガルガンドの姿が。

 現存する三世界の頂点の一角に、狂弥は馴れ馴れしく肩に手をかける。

 

「凪に回収させるのも良かったんだけど、やっぱ手っ取り早く、かつ状況的に凪を神ノーズにするためにはあの手段しかなかったわけで……まったく、世の中ままならないねぇ」


 ダガルガンドが、静かに狂弥に顔を向ける。

 そして、怒りの形相で。


「……やはり、テメェが一連の黒幕ってことでいいんだな?あ?」


 ダガルガンドは言葉が終わると同時、己の全てのオーラを解放し──刹那、ダガルガンドに掛けていた狂弥の腕が爆ぜた。

 オーラ──力の残滓だけで、神人たる狂弥の腕を消滅させる。


 これが、神ノーズが一柱、ダガルガンド・ダーバーホイル。


 狂弥の鮮血で身体を濡らしながらも、ダガルガンドは立ち上がり狂弥の胸ぐらを掴む。


「話したいから共に茶でも飲もうってテメェから言われた時はクッセェ罠でも仕掛けてんのかと思えば……まさかまさか本当に茶を飲むだけとはな。舐めてんのか?」


「あっははは。なぁんでダクネスちゃんもきみもそんなに短気なのかなぁ。あ、短気の波長が合ったからダクネスちゃんを神人に──」


 ──グチャ。

 ダガルガンドのオーラが手に集中し、一瞬で狂弥が肉塊と化した。

 ダガルガンドは狂弥だったものを適当に投げ捨て、悪態を吐きながら踵を返す。


「……テメェみたいなクソ野郎がいなけりゃあ菱花も狂わなかったんだろうがなぁ。ったく、ムカつくぜ」


「──逆に、僕はきみみたいなお邪魔虫がいなくなれば楽なんだけどね」


「……。なるほどな。この空間じゃ、テメェは死なねぇか」


 ダガルガンドがため息を吐きながら振り返ると、そこには満面の笑みの狂弥が。

 ここは狂弥のテリトリー。

 簡易的な『世界』だ。

 時空を操る狂弥なら、己の死を無かったことにすることなど容易いことだろう。


「そのまま死んだフリをしていりゃあ死ぬのはまだ先だったろうにな。つくづくテメェは何がしてぇのか分からなくて気持ちわりぃよ」


「あれ?僕、僕の目的言ってなかったっけ」


 狂弥は「それはね──」と大仰に両手を広げると。


「──四世界の統合」


「……は?」


 狂弥の言葉に、ダガルガンドは柄にもなくすっとんきょんな声を漏らした。

 

 

 ──かつて、『世界』は一つだけだった。

 一つの『世界』に、一人の神ノーズ。

 ある時、神ノーズはこの『世界』の寿命がもう長くないことを悟る。

 情報量が多すぎたのだ。

 一つの『世界』が抱え込めるキャパシティを、とっくに超えていた。

 だから神ノーズは『世界』を三つに分割させ、己の力を最も信頼する三人の人間に分け与え──一人一つの『世界』の管理を命じた。

 それが、とある『世界』の終わりとこの『世界』の始まりの逸話。


 

 つまり。

 吐夢狂弥の言う四世界の統合というのは──


 ダガルガンドの脳裏に、第四世界『八紘一宇』が過ぎる。


「テメェを絶対に殺さなけりゃいけない理由が出来た。久々に本気を出してやるよ──あんま、神を舐めんなよ?」


「僕も一応神なんだけどねー。一応」


 狂弥は笑う。

 どんな時でも、どんな状況でも。


 手のひらで踊る道化を見ては……尚更。



 * * *



「ダガルガンド!ハーヴェスト!」


 菱花は宏人と別れてすぐ神ノーズの会合する場──円卓の間へと駆け込んだ。

 そこにはハーヴェストが静かに一人で目を瞑っていた。

 落ち着いているように見えるが、身体が微かに震えている。

 

「……菱花、これは一体……」


「きみにも分からないか。……ッ。ダガルガンドはどこだ──」


 常に冷静な菱花とハーヴェストは二人とも顔を青褪めさせながらダガルガンドを待つ。

 感じたことのない喪失感。



 そして、第三世界が崩壊していく音色を聞きながら──菱花は、微かに笑う。




 * * *




「──神人にしては、なかなかやるようだな」




「あっはは……。お褒めに預かり光え──ごほっ……」


 ──ダガルガンドは、時の間にて。


 己の血に沈む狂弥を見下ろしていた。


 神人と神ノーズによる戦い。

 そんなもの、戦う前から結果は火を見るより明らかだ。

 もちろん結果は狂弥の大敗。

 ダガルガンドに触れることさえ叶わず、戦いは一方的であった。


「カミノキョクチでも持っていればもう少し粘れただろうがよ……テメェ、この弱さでよく我を呼び出せたものだな」


 ダガルガンドはそう言い終えると──次の瞬間、狂弥が消えた。

 ダガルガンドが、消したのだ。

 これが圧倒的な神ノーズの力。

 神人でさえ足元にも及ばない、『世界』の頂点──神。

 それが、神ノーズが一柱、ダガルガンドなのである。

 

 ──しかし。


 そんな化物を相手にしても、狂弥の態度は依然そのまま。


「──いったいなぁ。いやぁ……やっぱ強いね神ノーズ!」


「……テメェ」


 狂弥は己の時を巻き戻し、再度飄々と復活した。

 死んだフリをしていれば逃れることのできる可能性があるというのに、ここまで圧倒的な差を見せつけられても尚、狂弥はダガルガンドに笑顔を向ける。

 そんな狂弥にダガルガンドは──憐みの目を向けた。

 

「ここまでバカだと可愛く見えてきちまうのは何故だろうな──安心しろ。今度は、きっちり殺してやる」


 ダガルガンドは天に手を掲げ──『時の間』を、破壊した。

 簡易的とはいえ、狂弥の『世界』を、自身の『世界』を展開するまでもなく、展開しようとした余波だけで破壊したのだ。

 これに狂弥は──薄気味悪い、満面の笑みを。

 ダガルガンドが不審に思った次の瞬間、狂弥の後方の空間一帯から──!



「──神殺し、いっきまーす!」



 水平線すらも覆い尽くす回避不可能の量の破滅の光──『崩壊』を、ダガルガンドにぶっ放す!

 

 ──狂弥は、ずっと待っていた。


 ダガルガンドが、『世界』を壊す瞬間を。

 正直、ここでダガルガンドが『世界』を展開していたら詰んでいた。

 だから狂弥はダガルガンドに何度も殺されながら待った。

 自分が、取るに足らない弱者だと認識されることを。

 わざわざ『世界』を展開するまでもなく、簡単に殺せるようなニンゲンだと。


 そして狂弥は、菱花から直接受け取った──凪の『崩壊』エネルギーを解放したのだ。


 


「──舐めやがって──ニンゲンがァァァァァァァァァァァァァァ!!!」




 ダガルガンドは咆哮と共に、己の全てを解き放つ──寸前。

 時の間の大扉がバンッ!と開かれる。


 そこから現れるは二人の少年。


 茶髪の活発そうな雰囲気を出す少年と、冷淡な瞳に、鮮やかなやや長髪の青髪を揺らす少年。


 河合凌駕と、新野凪。



「──それはさせねーよ!」

「──それはさせない」



 凌駕と凪は同時に異能を放ち──ダガルガンドの動きを止める!


 目を見開くダガルガンド。

 だがその頃には既に──!


 無防備なダガルガンドに、狂弥のありったけの『崩壊』が注がれた。


 同格の神ノーズたる闇裏菱花の『世界』さえも易々と壊してしまえる威力を遥かに超えた一撃。


 だがしかし。



「──カッ、カカ……」



 ダガルガンドの、静かな笑い声が。


「カッカッカッカ!よくもまあテメェらニンゲン如きにここまでの仕掛けができたもんよなぁ!」


「「「──ッ!?」」」


 強烈な旋風が巻き起こり、狂弥、凌駕、凪を吹き飛ばす。


 あまりの風圧に狂弥は瞬きし──目を開いた時には、ダガルガンドが目の前に。


「簡単には死なせねぇ!文字通りの地獄を見せてやるから覚悟しろよなぁ!アァ!?」


「……くっそぉ。ははっ。僕の負け負け。最後に一ついいかな?」


「ほっほぉ。おもしれぇ。まだ何か仕掛けでもあんのか?」


 胸ぐらを掴み至近距離で叫ぶダガルガンドを、狂弥は迷惑そうに目を細めながら。


「もうないよさすがに〜。それで、えっと……なんで今ので死ななかったの?」


「カカッ。簡単だ。確かに今のは神ノーズの致死量を超えていたがなぁ……我の異能は簡単に言やぁ存在の否定だから──」


「──凌駕。やって」


「おうよ!」


 ダガルガンドの言葉の途中で狂弥が一言を発した頃には、既に凌駕は動き始めていて──異変を察知したダガルガンドが動いた頃には、もう。


「ありがとね凌駕──じゃあ、僕も本気を出しホガッ──」


 狂弥の身体半分は、消し飛んでおり──それでも。

 狂弥は、発動する。


 己の──カミノキョクチを。



「カミノキョクチ──『月読命神(ツクヨミ)』」



 ダガルガンドが怒りで目を真っ赤に染め上げる中──狂弥は、時を動かす。



 

「──神殺し、今度こそ──いきます」




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