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超能力という名の呪い  作者: ノーム
最終章 灼熱の魔神編
296/301

288話(神サイド) 宏人&アスファスvsアルファブルーム


「ッ──!『森羅万象』ッ!!!」


 俺は自分の顔から血の気が引くのを感じながら、必死に『森羅万象』を解き放ち真っ赤な津波から身を守る。

 アルドノイズの『迦具土神』の権能の一つ──『焔ノ海』。

 それは言葉そのままに全てを焼き尽くす炎の津波。

 何人も逃れることを許さない結末が定められた力、その様はまさにカミノキョクチ。

 俺の隣でアスファスも全力で『天水分神』を発動し凌いでいたが──海の外から、アルドノイズがアスファスの顔を掴んだ。


「アスファスッ!」


 俺はアスファスを助けに駆け出そうとしたが、未だ全く焔の勢いが弱まらない。

 それになにより、俺の目の前の海の外からも気配が。

 クソ、今ここでこいつが来るか……!


「──さあ、俺らもやろうぜ!宏人ォ!!」


「……ったく。ああそうだな!いい加減ここで潰してやるよ──智也ァ!」


 俺が叫ぶと同時、『森羅万象』が『焔ノ海』を喰らい尽くした。

 智也のカミノミワザ『天魔波旬』は、完全にダクネスの下位互換。


「ぶっちゃけ、お前は敵じゃないんだよ」


「言ってくれるねぇ。後悔してもおせぇぞ!」


 俺が右手から『万里一空』で衝撃波を繰り出すと、智也は背中から生えた凶悪な両翼で身を包み衝撃をいなした。

 そして翼から出てくると同時に、鋭い攻撃が俺を襲う。

 智也の指先から伸びるツメの攻撃だ。

 その鋭さはそこらの剣と同等かそれ以上。

 だが、それでも。


「だから、お前は敵じゃないんだって」


 俺は防御もせず全身にツメを浴びながら、全身を己の血に染めながら智也に特攻。

 さすがの智也もこれには顔を引き攣らせ後退するが……遅い。


「『万里一空』」


「クッ──!」


 今度はモロに衝撃波を当てることに成功。

 智也は苦悶の表情を浮かべながら吹っ飛ぶ。

 そして、地にて肩で息をする智也のもとへ、俺は歩む。


「ちっくしょう……!ははっ、最期なんて呆気ないもんだな」


「……いい加減お前は眠れ。永遠にな──『森羅万象』」


 俺は手中から『森羅万象』を放出し──智也を喰らい尽くす。

 ここまでくればいかなる存在も逃れることは不可能。

 俺の『森羅万象』が、智也の命を刈り取る寸前。


 智也は、嗤う。



「俺の全てを、アルドノイズに捧げてやる。せいぜい頑張ることだな宏人──あばよ」


 

 智也が俺を見据えながらその言葉を紡いだ直後。

 智也は、消滅した。



 * * *


 

 アルドノイズはアスファスの顔面を掴むと同時、直接爆炎をぶち込む!

 それに対しアスファスは一瞬で全身を水のベールで多い防御態勢を取るが、間に合わず全身を多大な火傷が覆う。


「……フハハッ!火力でゴリ押しとは、キサマも随分と戦い方に華が無くなったなぁアルドノイズ!」


 アスファスは純神の回復能力でこの傷を癒すのは難しいと瞬時に判断し、勢いのままアルドノイズに畳み掛ける。

 『天水分神』で後方に無数の槍型の水を生成し、一気に解き放つ。

 しかしそれらは全てアルドノイズに届く前に、蒸発して霧散する。


「向井宏人の姿だから尚更ムカつくものだな!」


 異能だけでは効果がない。

 だからアスファスは触れるものを全て切断する威力の水を見に纏いアルドノイズに肉薄する。

 

「『神水流転』ッ!」


 アスファスは叫ぶ。

 『マーレ・サイズミック』の進化した姿を。

 アスファスのオーラから大量の水が溢れ、それらがアルドノイズを飲み込み暴走する!

 アスファスはその中心にいるアルドノイズに向けて拳を叩き込む──が。


 

「お前は、向井宏人よりつまらん」



 アスファスの右腕が、消失した。


「グッ……!」


 激痛に顔を歪めるアスファスの身体を──さらに焔の剣が壊していく。

 焔の剣──『神剣赫怒龍』。

 『迦具土神』の権能の一つでしかない『神剣赫怒龍』は、いくらでも生成することが可能なのだ。

 だからアルドノイズは、幾本もの神剣を創り出し、全てアスファスに向けて解き放ったのだ。

 ただえさえ強力な神剣の制限なき生成。

 これが、今最も神ノーズに近しい存在たる純神──アルドノイズの力。

 蹲りながらも、充血した眼光をアルドノイズに向けるアスファスに。



「さらばだ──アスファス」



「まだそいつにはやってもらわなきゃいけないことが山ほどあるからなぁ!死なせるかよ!」




 アルドノイズの背後から凄まじい衝撃波。

 当然のように察知していたアルドノイズは、それを平然と焔で防ぐ。


「智也を殺したか、向井宏人」



 * * *



 アルドノイズに後方から『万里一空』を放ったが、予想されていたように簡単に防がれてしまった。

 畳み掛けたいところだが……それよりも。


「アスファス!大丈夫か」


 俺はアスファスに駆け寄り、アスファスの身体を起こす。

 全身火傷に全身裂傷、そして千切れた右腕。

 どうやらアルドノイズの焔には回復能力の阻害があるみたいだな……。

 俺が『森羅万象』で強制完全回復させると、アスファスは舌打ちとともに起き上がった。


「キサマのその回復の仕方は違和感が凄まじいぞ……。最悪だ、絶対もう使ってほしくないな」


「おまっ、ほんとにクソ野郎だな。アルドノイズぶっ倒したらぶっ飛ばす」


「ああ。アルドノイズを倒したら、戦おう」


 俺とアスファスは並び立ち、無表情で睥睨するアルドノイズを睨み返す。


 アルドノイズは、正直俺一人では倒せない。

 かと言ってアスファスの助力があっても難しい。

 ……今の、アスファスなら。


「邪魔者は消えた、残るはアルドノイズのみ……フハハ。そろそろ、じゃないか?向井宏人」


「あーあ。本当は嫌なんだけどなぁ……そんなこと言ってる場合じゃねぇしな」


 俺ははぁとため息を吐き出し──内包していた力を解き放つ。



「封印解放──アスファス。存分に暴れろ」



「フハハッ!言われずとも──」


 俺の片手から解き放たれたエネルギーがアスファスを包み込み──その身に紫色のエネルギーが荒れ狂う。

 アスファスはその力を収束させ──!

 アルドノイズの目が、見開く。




「──カミノキョクチ『黄泉津神(イザナミ)』」




 刹那──アスファスは右手から、ドス黒い光線をアルドノイズに放った。

 それは、俺が封印したアスファスの中に取り込まれたソウマトウの力。

 

 『ファントムファンタジー』の、カミノキョクチへと神化した姿。


 おそらく、ずっと俺の中に保管していたから、俺がカミノキョクチに目覚める影響を受けたのだろう。

 加えてニーラグラやアルドノイズ、アスファスもカミノキョクチへと至ったのもあり、共振した結果、この力もカミノキョクチと化したのだ。

 ……まさかまさか、この力をアスファスに返す時が来るとはな。

 それに共闘とは、本当に、人生何が起こるか分からないものだ。


 しかし。


 『黄泉津神』は内包されたエネルギー量は他の異能とは一線を画す力だが、その欠点は致命的な速度不足。

 案の定アルドノイズに回避されることとなるが、アルドノイズの表情は険しい。


 『ファントムファンタジー』の神化した姿、その意味が差すこととは。


 一撃必殺。


 これなら、アルドノイズを、殺せる。


 アスファスはすぅー、と大きく息を吸って──大声で啖呵を切る!





「フハハ……フアーーーハッハッハ!!さぁ向井宏人──畳み掛けるぞぉ!」





 アスファスの合図とともに、俺もアルドノイズへと駆け出す!

 だがアルドノイズは。

 ダメージを与えるために距離を詰める俺とアスファスを、腕を組んで悠然と見つめて。


「『神剣赫怒龍』──乱舞」


 アルドノイズは無数の『神剣赫怒龍』を生成し──一気に解き放つ。

 これは先程アスファスが手も足も出なかった超威力の乱射攻撃。

 しかし、今のアスファスならば。

 俺と一緒に、腕を前に突き出して。


「「滅し尽くせ──」」


 同時に、放つ!


「『森羅万象』ッ!」


「『黄泉津神』ッ!」


 無数の『神剣赫怒龍』を、一瞬で全て消滅し尽くす。

 そのまま、一気に距離を詰める!


「ッ──ほう」


 アルドノイズは冷静に、そして冷徹に──神剣の雨を凌ぎ切った俺たちに追撃する。



「そろそろ鬱陶しいぞ──『焔ノ海』」



 ──やはりこれが来るか……!

 アルドノイズの足元に禍々しい地獄の門が出現し──それが開かれると同時。


 焔の津波が、俺とアスファスを飲み込まんとばかりに口を広げる。

 

「……アスファス!また俺の『森羅万象』とお前の『黄泉津神』でどうにか──!」


「──フハッ。キサマの力など必要ない。アルドノイズ。私に二度目が通用すると思うなよ──『神ナル海』」


 アルドノイズと同様に、アスファスの足元にも豪華で煌びやかな装飾が施された門が出現し──大量の神水が溢れ出す。

 その鋭利に半物質化した水が、アルドノイズの焔と激突する!


「ちょ、おいアスファステメー俺のことも考えろよ──!!!」


 そんな中俺は中心地にてアスファスとアルドノイズの猛攻を真正面から受け止めることに。

 当然だ、なにせ逃げ場がない。

 必死に、文字通り死ぬ気で『森羅万象』と『万里一空』で耐え忍ぶ。

 

 やがて、やっと攻撃が止んだ──と安心したと同時、アルドノイズが俺の目の前に。


「ッ──!」


「オレの前で油断とはな」


 アルドノイズの、限界まで焔が圧縮された拳。

 その威力は、とてつもなく──!


「『須佐ノ女』ォ!」


「なんだと──!?」


 俺は『契約』で確立したニーラグラとの回廊をフル回転させ、無理やりニーラグラのカミノキョクチをぶっ放す!

 これにはさすがのアルドノイズも対応し切れず、攻撃の狙いが外れる。

 しかし、即席かつ無茶な使い方をしてしまったせいか、威力が不十分のようで、アルドノイズへのダメージは皆無。

 そして響く、パリンという音。


 さすがに『契約』ではカミノキョクチを扱い切れないのか、ニーラグラとの回廊が壊れた音が。

 これにて完全に俺とニーラグラの『契約』は壊れたことになる。

 ……そういえば、これはアスファスとの戦いの時、凪が俺を勝たせるためにくれたものだったな。


「何をボーッとしている向井宏人!」


 至近距離で叫ぶアスファスの声にハッとする。

 気づいた頃には、アルドノイズが既に俺に向けて攻撃を。

 俺はギリギリで回避し、アスファスの『天水分神』とともにアルドノイズに『万里一空』をぶつける。

 だがアルドノイズはそれらを『神剣赫怒龍』で易々と切り裂く──


 アルドノイズが、不敵に嗤う。


「クハハ。ぬるい」


 俺とアスファスは、アルドノイズを目の前にして。

 剣を、持っていない──!


 アルドノイズの剣先が、光り輝く。


 死──



「──『シペ・トテック』ッ!」



 寸前、アスファスが叫ぶ!

 俺の知らない異能……だが、知っている効果。

 アスファスの『存在』が、幻体と成って有耶無耶と化す。

 これは──『ダーク・ナイトメア』の、神化した姿。


 禍々しい死のオーラを纏う幻体のアスファスの手が、アルドノイズの『神剣赫怒龍』を破壊し──そのままアルドノイズの右腕も握り潰した。

 『死』で死を制す──それが、『ダーク・ナイトメア』改め『シペ・トテック』の力。


「ッ──!?」


 急激なアスファスの変化に、アルドノイズの目はアスファスに釘付けになり──




「俺の前で、油断か?」


「ッ──!向井──宏人ォォォォォォォォ!!!」




 怒りの形相で叫ぶアルドノイズへ、俺は。



「出力最大──『万里一空』!」



 全身全霊の一撃を、叩き込んだ。

 

 俺の姿をしたアルドノイズが吹っ飛び、地に仰向けで転がる。

 ……未だ、アルドノイズは俺の姿をしている。

 『神の代姿』すら、破壊し切れていない。


 なぜか、ゾッと寒気がした。


 

 思わず、目を瞑る。



 次に、目を開けた時には。


 既にアルドノイズの姿はなかった。

 代わりにいたのは、巨大な人の姿形をした焔。

 既に俺の面影はなく、『存在』そのものが焔の神──否、悪魔。

 その焔の悪魔が、燃え盛る翼を広げた──まるで、智也の『天魔波旬』のような。


 そう思った頃には──


「……は?」



 俺の身体は、翼で貫かれていた。


 

「……ゴフッ」


 さらに速くなっている──!?

 まずい……!

 アルドノイズの焔は、回復能力を阻害する……!



「──アマリセワヲヤカセルナ」



 アスファスは俺の首根っこを掴み、俺を後方へと飛ばしアルドノイズの前に立つ。

 そうか、今のアスファスは暴走状態にあるのか。

 『シペ・トテック』の神化前である『ダーク・ナイトメア』は、自我を失う代わりに己以上の力を得ることができるソウマトウの異能。

 その神化となるとかなり負担を要しそうだが……アスファスは、ギリギリ自我を保っているようだ。

 だがそれでもアルドノイズは倒せない。

 早く俺もアスファスのもとに──


「──いッ……!クソ、まだ回復してないだと……!?」


 回復能力だけでなく、完全に『森羅万象』の妨害をしている俺特化型の付与効果……!

 アルファブルームと成ったことで、一切の制限がなくなったアルファブルームだからこそできる芸当。

 俺が戦線離脱している間に、アスファスとアルドノイズはぶつかる──

 いや、もうアルドノイズはアルドノイズではなく。


「フハハッ!ヤットスベテヲカイホウシタカアルファブルーム!」


「お前も中々強くなったようだが、それでも俺には敵わんよ」


 なぜか。

 なぜか、アルドノイズは純神の中で唯一一時的により高位の存在に至ることができる。

 それが、アルファブルーム。


 アルドノイズの──本気の姿。


 兄である純神を、アスファスを圧倒する神ノーズに次ぐ強さを持つ悪魔。


 しかしそれでも──アスファスだって、強い。



「ソウマトウ──モットチカラヲカセ──ッ!」



 アスファスの纏う闇のオーラが一層濃くなり、やがて──浄化されるように、鮮やかな蒼色に。

 アスファスの純粋なオーラへと、変換されていく。


「慣れてきたぞ、アルファブルーム」


「確かに俺らに情などなかったが……仮にも妹であるソウマトウの力を使って、どうして誇れる」


 アスファスの全てを飲み込む聖水を、アルドノイズの翼を形取った焔が易々と蒸発させ、そのままアスファスへと襲い掛かる。

 だがアスファスに触れる直前で翼は消滅──ソウマトウの力の、問答無用の完全消滅だ。

 

 それでも。


 アルファブルームの焔は、ソウマトウの力を上回る。


「ッ……!ハハッ、消滅をも燃やすか」


 顔を引き攣らせるアスファスに、アルファブルームは地に手を突き──これは、『インフェルノサークル』……!

 

「アスファス!」


 俺は痛む身体にムチを打ち気合いで立ち上がり──刹那の間にアスファスとアルファブルームの間に割って入る。

 俺なら、『万里一空』で『インフェルノサークル』の指向性を弄れ──



「──『深炎業火』」



 ──は?

 『インフェルノサークル』が、神化している……!

 足元に浮かぶ無数の紋章が、一斉に俺の周囲へと収集される。

 回避不可能、防御不可能、回復不可能。

 それでも。




「『森羅万象』!」




 俺は直に地に『森羅万象』を発動し、全ての紋章を無に変換する。

 今までの俺ならできなかった、一度に複数の対象に効果を与える『森羅万象』。

 アルファブルームが進化し続けているように。


「俺だって進化してんだよ……!」


「余計なことをするな向井宏人」


 俺を抜き去り、アスファスがアルファブルームに『天水分神』で創り出した圧縮された聖水に、『黄泉津神』の効果を加えたレーザービームを繰り出す。

 

「──グッ……!」


 『深炎業火』を打ち消すと同時の攻撃ということもあり、アルファブルームはモロにアスファスの一撃を受け──身体の中心に巨大な穴が空く。

 『天水分神』の超スピードと、『黄泉津神』の破壊力を組み合わせる反則技だからこそ可能な芸当。

 アスファスが、ニヤリと笑う。


「フハハッ!気合いを入れろ向井宏人ォ!グランドフィナーレはすぐそこだ」


「小癪な──ッ!」


 叫ぶアスファスと俺の目の前で、膝を突くアルファブルームを囲うように天まで届きうる炎柱が溢れる。

 それはアルファブルームを護る砦──だが。


「お前には効かなくてもなぁ!お前の能力には効くんだよ──『森羅万象』ッ!」


 俺が触れると、炎柱は最初から無かったかのように霧散し、消え去る。

 晴れた視界には、既に焔が消えかけ、俺の面影が見え始めているアルファブルームが。

 身体の中心の大きな穴は、まだ癒えていない!

 アスファスが、虚空より神剣『白銀龍』を取り出し──刀身に『黄泉津神』を付与する。

 それは、何物をも切り裂く必滅の断罪。



「さらばだ、我が弟よ──」



 アスファスの流麗な剣技が、アルファブルームにトドメを──刺す、直前。

 アルファブルームは──天に手を翳した。

 まるで諦めたかのような、天に救いを求めるような、なんてことのない仕草。


 だけど。



「……あ」



 気付いた頃には、もう手遅れで──






「アスファス──逃げろォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!」


「──『ビックバン』──」






 アルファブルームを中心に、周囲の全てが『無』と変換されていく──!

 俺は全力で出力最大の『森羅万象』と『万里一空』で身を守る。

 だけど、それでも、足りない……!

 アスファスほどではないが至近距離で放たれてしまった『ビックバン』は、容赦なく俺を飲み込もうと──



「……ク、ソが……!」


「……は?」



 絶望的な破壊に身体が壊されつつある中。


 俺を庇うように、アスファスが身を挺していた。


 何が起こっているか脳が処理し切れない俺に、アスファスは相変わらずエラそうに。





「──いつか私を蘇らせろ。……いいな?」





 その一言を最後に。

 アスファスは、『ビックバン』と共に消え去った。

 

 嘘みたいな静寂の中、黒煙の向こうから歩み寄るアルファブルームがはぁとため息を吐く。



「なるほどな。『黄泉津神』で己ごと『ビックバン』の『存在』を消去したか。何もせずとも死んでいた距離にいた者としては、どうやら最善を尽くしたようだな」



 呆然とする俺を、アルファブルームは見下ろして。


「──どう思う?向井宏人」


「……なんで」


 なんで。

 どうして。



「なんで、お前が『ビックバン』を持っている!?」



 俺は叫ぶと同時にノータイムで『万里一空』を撃ち込むが、アルファブルームはそれを腕を払い無効化した。

 まさか、それも──


 凪の、力。


「『崩壊』を創り出した凪の残滓のさらに残りカスがオレに吸収された、それだけだ」


「意味わかんねーよ!もっと詳しく──」


「クハハ。この状況で、呑気なことを言うものだな」


「何言って──」


 そこで、やっと気付いた。

 致命的なまでに対応が遅れた……いや、どっちみちだろう。

 気付いていたところで、ってやつだ。




 『世界』は──既に、アルファブルームの『光焰万丈』と化していた。




 ……そりゃそうか。

 アスファスがいてやっと拮抗していたんだ。

 そのアスファスがいない状況じゃあ──いや。



「──クハッ。クハハハハハ!そうでなくてはなぁ向井宏人!」



 ゆらりと立ち上がる俺を見て、アルファブルームが快活に嗤う。



「これで勝利を諦めていたら、オレはお前を見限っていたよ」


「どうでもいい。心底どうでもいいな。お前の『世界』が展開されようが、お前が俺を見限ろうがな──いつだって、最後に勝つのは俺なんだよ!」



 地獄と化した『世界』の中で。

 俺は神剣『暗黒龍』に全神経を捧げ──己の全てを込める。

 一閃で遍く存在を切り捨てる、『森羅万象』を司りし剣。


 

 俺と、アルファブルームの視線が交差する。







「──簡単に死んでくれるなよ?向井宏人」


「──さっさと死ねよ。アルファブルーム」





 

 俺は、俺の全てを懸けて。


 アルファブルームに、肉薄した。



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