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超能力という名の呪い  作者: ノーム
最終章 灼熱の魔神編
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284話(神サイド) さあ──


「宏人」


 俺が見つめるその先──そこには、腰に手を当てながら静かに俺に目を細める瑠璃の姿が。

 予想していたことだ。

 なんてったって、瑠璃の『読心』は他人の思考を読むことができる。

 それは神人だって例外じゃないのは菜緒との戦いで証明されたことだ。

 ……ただ一つ。

 予想外なことが、一つ。


「……なあ瑠璃。その力は、なんだ」


 神人に成って、俺は他人の強さを正確に認識できるようになった。

 まとっているオーラでその者の持つ力の上限を把握できるのだ。

 だから驚く──瑠璃のまとっているオーラが、アリウスクラウンやセバス並みにあるということに。


「アリウスクラウンがカミノミワザ『炎舞魔神』に覚醒した時に結合した異能って分かるかしら」


「あ?『炎舞』と生神の異能……あと、その生神を取り込んでたモルルの能力か」


「ええ。あなたを殺した能力、『破壊光線』ね。その名の通り威力は桁違い。ただの能力なのにカミノミワザクラスの力を持つ超級異能よ。まあ、一回使用すれば一週間近く使用不可能になる不便な代物なのだけれど」


「……今更なんの話だよ。モルルの話は気分が悪い」


 それは俺がモルルに殺されたというのもあるが……何の罪もないのに殺してしまったライオの影がチラつくから。


「アリウスクラウンは、『炎舞魔神』の作成に『炎舞』と『破壊光線』と『ライフブラングレイク』……そして、『勇者剣』を生贄にした」


「『勇者剣』。……なるほど」


 確かに、アリウスクラウンは祐雅との戦いで『勇者剣』を手にしていた。

 あの剣は特殊で、勝手に主人と認めた人間の能力となる。

 だからカミノミワザへの生贄としても活用できる……それだけならいいのだが。

 問題は、さっきの戦いでアリウスクラウンが『勇者剣』らしきものを使っていなかったことで。

 俺の嫌な予感は、大体的中する。



「あなたの予想通りよ。権限──『希望ノ剣』」



 『希望ノ剣』……それは、アリウスクラウンが凪との戦いで使用していた剣。

 『勇者剣』という能力ともカミノミワザとも判別がつかない曖昧な武器の、進化した姿。

 そんな剣を、瑠璃は虚空から取り出しその手に収めた。


「アリウスクラウンから借りたのか?」


「いえ。なんだか気付いたら私の手元にあったのよ。とはいえこの剣の所有者はアリウスクラウンだからその気になれば……まあともかく、今の私はちょっと強いってことよ」


「そうか。それで、俺と戦おうってか」


 俺は『万里一空』の発動準備をしながら、瑠璃に向けて構える。

 ぶっちゃけ負ける気はしないが、相手の思考を読める瑠璃が相手だとどんな搦手を使ってくるか分からないのが怖いところ。

 とはいえカミノミワザレベルの時点で十分に警戒すべき対象だ。

 戦闘態勢を盤石にする俺に対し、瑠璃はゆっくりと俺に歩み寄り……小さく笑った。



「別に戦わないわよ」



「……は?」


「は?じゃないわよ。なんで私があなたと戦わなきゃいけないのよ」


「……じゃあなんでンな物騒な剣取り出したんだよ」


 俺の指摘に、瑠璃ははぁとため息を吐く。

 

「この力で、宏人がいなくなった後に那種を助けるって言ってるのよ。基本的に私からこの剣を人に振るうことはないわ」


「……。そうか。なんというか、ありがとな」


 この感謝は、多分、那種の件というより。

 瑠璃と戦うことにならなくてよかったことに対してだろう。

 最後の最後に、瑠璃とも戦うなんて、正直嫌だった。


「ふふっ。じゃあ、今度は那種の件についての感謝も頂こうかしら」


「……勝手に人の思考見んな。まあ、それももちろんありがとな!」


 俺がヤケクソになって大声でそう言うと、また瑠璃は小さく笑った。

 瑠璃が俺を止めないのは、俺の思考を読み解くと同時に俺の力量を把握して、勝てないことを悟ったというのもあるだろう。

 そして、俺の意志が固いことも分かっている。

 だから戦うことよりも、最後まで笑って会話することを望んでくれた。


 そのことが、何よりも嬉しかった。


 そうして、俺は、ダクネスと藍津、莉子とともにアルドノイズのもとへ歩き出した。

 ……やるべきことを、果たすとしよう。


 菱花のこと、神ノーズのこと、狂弥のこと。

 まだ片付いてない件は山ほどある。

 だが……それでも。




 アルドノイズは、俺が倒さなくちゃいけない。




 それが、俺のやるべき使命だから。


 さあ──やるか。



 * * *



「ところで宏人くん?アルドノイズの居場所は知っているの?」


 一晩を明かし、次の日。

 ダクネスの純粋な疑問に俺は素気なく。


「しらん」


「ありゃりゃ」


 俺の言葉に、ダクネスはあざとく驚いたフリをする。

 俺が説明するのがめんどくさいと思っていると、それを見かねた藍津がふふんと自慢げに指を立てて説明した。

 

「宏人様とアルドノイズは長い間一つの身体に存在していたのでぇ一心同体。だから深層心理で会話ができるらしいですよぉ」


「へぇー。宏人くんはそれでアルドノイズになんて言ったの?」


「とにかくコロシアムに来いって」


「ふーん。なかなか強気だねぇ」


 ダクネスがおもしろそうに笑う。

 対して莉子は顔面を蒼白にして震えている。


「私は、何をすればいいんだっけ……?」


「お前と藍津はただ周りを見張ってくれればそれでいい。あとそうだな……智也に関してだ」


「どぇ!?私たちで智也って奴の相手をしろと!?」


「そうじゃない。あいつが逃げたりした際はどうにかして足止めしてくれ。アルドノイズと違って、あいつは平気でそういうことするからな」


「は、はぁ……」


 俺の命令に莉子は不満げだ。

 藍津と莉子の二人は凪との戦いが終わったのにもかかわらず、俺たちの協力してくれている。

 いや、ここは俺だけと言うべきだろうか。

 莉子はともかく、藍津は藍津でまた面倒な企みでもあるのだろう。

 まあ、これから死ぬ俺にはなんの関係もないから放っておくが。



「ほら散った散った──着いたぞ」



 俺たちの目先──それは、懐かしのコロシアム。

 アトミックと黒夜とともに調査し……最後にはフィヨルドと戦ったところ。

 俺がここを戦場に選択した理由。


 それは、ここでならどんな派手な戦闘だって──見せ物になるんだから。




「「「「ウオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォ!!!!」」」



 

 絶叫に似た叫びが観覧席から児玉する。

 コロシアムの観覧席には、見渡す限りの人々が熱狂しながらバトルフィールド中央を見ていた。

 俺がここを選んだ理由。

 それは……誰かに、見ていてもらいたかったから。

 誰でもいい。

 誰でもいいから、俺の生きた証明を。

 俺が死んだ、証明を。


「……さて」


 藍津と莉子はちゃんと持ち場に行ったみたいだ。

 これでもう、思い残すことはない。

 二人にはああ言ったが、当然俺は智也も流すつもりはない。

 ただ藍津と莉子には生き残って……俺の最期を、皆んなに伝えてほしい。

 そんな俺の女々しい理由のためにも、二人にはなんとか生き残ってもらわなきゃいけないな。


「ふふっ。宏人くんって、ほんとバカだよね」


「なんだ。そう言ってここでまた裏切るつもりか?」


「あっはは。私はさすがにそこまで鬼じゃないよ。だって宏人くんが死んじゃったら私も死んじゃうから──だから。死体だけは、残しとかなきゃダメだよ?」


 ダクネスは上目遣いで、その深い深い深淵のような瞳が俺を射抜く。

 俺はため息を一つ。


「当たり前だ。俺はここで死んで、那種に身体を返す」


「そうだよね〜。じゃあ、せいぜい頑張ってね。一応応援はしといてあげるよ」


 そう言って、ダクネスの身体が無数の光の粒子となって……俺の身体に吸い込まれた。

 俺の中で──『森羅万象』が芽生えたことを自覚する。


 そうしてやっと、俺はコロシアムのバトルフィールド中央に目を向けた。




「戦闘準備は、これで完全か?」




 誰よりも、聴き慣れた声。

 そこには、舐めるように俺を見ながら髪をかき上げる智也と──邪悪な笑みを浮かべる、俺の姿が。

 ……やはり、か。


「っへ〜!ダクネスは戦わないんだ。よかった〜!これで、俺も本気出して宏人を殺せるよ」


「お前は手を出すなと言っている。少なくとも俺が生きている間は向井宏人に攻撃を加えることは許さない。俺が死んだ後に好きにやれ」


「俺はアルドノイズが宏人を殺すって確信してるから先にヤリたいって言ってるんだよ。まあいいけどさ」


 智也は俺にヒラヒラと手を振って、観覧席に飛び乗った。

 智也だけなら信用できないところだが……それを命じたのは俺──否、アルドノイズ。

 俺の死体を『器』とした、アルドノイズ。

 こいつは、嘘はつかない。



「ずいぶんと俺のことを知ったような思考をしているな」



「お前だって、だいぶ俺のことを信用しているよな。ここにアリウスクラウンとセバス──ニーラグラを連れてきたら、いくらお前でもヤバかっただろ」



「……そうだな。忌々しいことに、俺はお前を信用しているらしい。一心同体だったがゆえか──クハハ。神と人間が二つに一つ……思い返してみても笑えてくる」



「神ねぇ。俺にも凪にも負けた奴が笑わせてくれるな」



「フッ。それこそ光栄だな。なにせ、今お前が挙げた二つの名はどちらも神なのだから」



 凪はともかく、俺もか。

 そういえば俺はもう神だったな。

 思い出せば、人間だった頃の俺にとってダクネスたち神人は勝てるはずない化物という印象だった。

 だがいざ自分が成ってみると、そこには更に上がいて……。



「……つくづく、何が起こるか分からないもんだな」



「ああ、まったくその通りだ」



「それにしても、お前俺のこと好きすぎだろ。俺の身体使っちゃってよ」


「クハッ。目の前にやけに丈夫で戦闘慣れして──完全に『変化』に順応している身体が落ちていたんだ。拾うしかあるまい。お前も、随分と可愛らしくなったものだな」


「うっせぇよ。お前と同じだ。ちょうど目の前に神人の『資格』を持った女がいたんでね」



「……ハッ」



「クハハ」



 俺とアルドノイズは小さく笑い合う。

 俺の虚勢は、俺と一心同体のアルドノイズならすぐにウソだと見破れるだろう。

 だから笑う。

 アルドノイズは純粋に、俺は相変わらず虚勢を張って。

 そして、やがて。

 俺たちはどちらからともなく「さて」と呟き。

 たった一言。

 されど、内包された意味は重く。

 俺とアルドノイズは。

 



「「殺す」」



 

 俺は手中に『森羅万象』を、全身に『万里一空』を継続発動する。

 対してアルドノイズは、その理不尽なほど凶悪なオーラを解放した。

 オーラはただのありあまる能力の奔流ではなく、強大な力ゆえに形を形成した──焔。



 アルドノイズの純粋な焔が、バトルフィールドを包み込む。



 観客からの鬱陶しい怒号のような叫びと、アルドノイズの焔をその身に浴びながら。




 俺は、アルドノイズへと一歩踏み出した。




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