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超能力という名の呪い  作者: ノーム
最終章 灼熱の魔神編
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283話(神サイド) 激震


 セバスの『生死尺玉』が発動する瞬前──俺は断腸の思いであまりやりたくなかった手札を切る!



「来い──藍津!」



「たははっ。この借りは高いですよぉ宏人様ぁ!」


「──ッ!」


 俺が叫ぶと同時、上空より無防備の藍津が降ってきた。

 目を見開くセバス。


 当然だ、『生死尺玉』は一撃必殺の超異能。

 カミノミワザでありながら威力はカミノキョクチに匹敵する、七録カナメが持つ最強の攻撃手段。


 セバスは苦虫を噛み潰したような表情で『生死尺玉』の発動を遅らせる──その隙を、俺は突く。


 藍津に目を奪われるセバスの死角から、俺の手が伸びる。


「──あはは。なかなかクズですね、宏人くん……!」


「まあ、否定はしねぇよ」


 次の瞬間、セバスの全身を『万里一空』が襲う。

 当然威力の調整は完璧なため、後遺症なくしばらくセバスの意識を刈り取る程度の衝撃波だ。

 カミノキョクチという異次元の魔法でも、神人と成ればその調整は容易いもの。

 狙い通り、白目を剥いて崩れ落ちるセバス。

 俺はセバスが倒れる直前に支えて、ニーラグラの隣で寝かす。


「ククク。死んでたらぁ宏人様を祟ってましたよぉ」


「そうだよぉぉぉ。めっちゃ怖かった。もうめっちゃ怖かった」


 相変わらずイラつく口調の藍津と、ずっとコソコソと隠れていた莉子が姿を見せる。

 藍津と莉子には最初からこの生存戦争跡地に待機させていたのだ。

 ……ダクネスが裏切った際の保険として。

 俺はその二人を無視して、座り込むアリウスクラウンの目の前に立つ。


「……どうして?」


「……」


 歪んだ腕を押さえつけながら悲痛な声を漏らすアリウスクラウンは、見ていて痛ましい。

 俺は思わず顔を俯ける。


「どうして宏人は、この生活を手離せるの?皆んなでやっと手に入れた平穏なのよ?それを、どうして……」


「……」


「アルドノイズなんてどうでもいいじゃない。那種だって身体くれるって言ってるじゃない。なのに!」


「……ごめん」


「ごめんじゃなくて!理由を、理由を聞かせて──」


 アリウスクラウンの言葉が急に途切れた。

 バッと俺が顔を上げると──そこにはアリウスクラウンの首に手刀を入れたダクネスが。


「……ダクネス」


「ごめんねー宏人くん。私も皆んなに仲間意識が芽生えちゃった?みたいな?そんな感じで──」


「御宅はいい。行くぞ」


 俺はふざけた言い訳をし始めたダクネスを放っておき、静かに眠るアリウスクラウンを抱える。

 そんな俺に、ダクネスはきょとんとした。


「……ありゃ。てっきり裏切ったのとか、アリスちゃんの話遮ったの怒るかと思った」


 ダクネスがアリウスクラウンの腕に触れながら上目遣いで俺を見つめる。

 『森羅万象』に含まれる『変化』により、アリウスクラウンの腕が完全に元通りとなると、俺はそのままセバスとニーラグラの隣にアリウスクラウンを寝かせた。


「分かってんなら最初からすんな。藍津も莉子も──」


 ──刹那。

 背後から鋭い殺気を察知し、俺は周囲を『万里一空』で吹き飛ばした。

 するとそこには……。


「……クンネル」


「クソ……!やはり私では、ダメか……」


 クンネルは苦しそうに呻きながら地面を叩いた。

 今のは『吸収者』……。

 クンネルだって、ちゃんと強くなっている。


「お前はいつかめっちゃ強くなるだろうよ。だから安心して引き続き鍛えてろ──そこに隠れてる流音と星哉と一緒にな」


「「ギクッ!?」」


 俺が遠方を指差すと、かなり距離があるというのに二人のびびった声が聞こえてきた。

 ……流音はともかく星哉、お前はそんなキャラじゃなかったろ……。

 流音から悪い影響を受けてしまったらしい。

 それはともかく。


「クンネル。強くなって、那種を守ってやってくれな」


「……当然だ。むしろ、私より那種の方が強そうだがな。なにせ──お前は、那種の中に居続けるんだろう?」


「はあ?どうしてそうなる」


 クンネルはまだ異能の極地にいないため、『魂』への理解が浅いのだろう。

 ……いや、だからこそか。


「死者は、死者らしく。お前たち生者も、生者らしく死者とは交わるな」


 クンネルから視線を逸らし、俺は踵を返した。


「行くぞ。藍津、莉子、ダクネス」


「はぁいぃ」


「うーい」


 そうして俺は。



 * * *



「クハッ」


 アルドノイズは、嗤う。

 向井宏人から解放されて以降片時も変化のなかった表情が、途端に笑みに歪む。

 そんなアルドノイズの顔を、楽しそうに覗き込む少年が一人。


「おっ。もしかしなくても、宏人が動き出した?」


 言うまでもなく、山崎智也だ。

 名前は普通の、されど異端な少年。


「ああそうだ。おもしろいことにダクネス・シェスの気配も感じるな」


「げっ!?俺あいつ苦手なんだよなぁ。任せたぜ」


 智也はダクネスの顔を思い出し、舌を出して「うぇー」と吐くフリをする。

 

「無論だ。お前は何もすることはない。これは俺の戦いだからな」


 アルドノイズは立ち上がり、宏人が指定した場所に向かう。

 目指すは──コロシアム。

 宏人からのメッセージは、ただ一言。




『明日、コロシアムで待ってやる。来たら殺す』




「クハッ。愉快だな」


 アルドノイズは上からの宏人の言葉に一瞬怒りが湧いたが……それをかき消すほど、宏人と戦えることが嬉しかった。

 やっと、この手で殺せるのが。




「……本当に、愉快だ」




 * * *



 パチパチと。

 一定のリズムで淡々と紡がれる拍手の音のする方を見ると、そこには菱花が。


「で?俺になんの用だよ」


「そう急かすな。時間にはまだ余裕があるだろう。なにせ、きみ自身がアルドノイズとの戦いを明日に回してくれたのだから」


「……チッ。ほんとのカミサマって奴はなんでもお見通しなんだな」


「そんなことはないさ。万能がゆえに、私たちは制限されている。自由な人間とそう変わらん」


 菱花はそう言いながら薄く笑う。

 ……決して冷笑ではない。

 これは、ただただ、疲れた人の笑顔だ。


「私の座を、きみに譲ろう」


 菱花はそのままそんな言葉を……って、は?


「おい、それは一体どういう──」


「──きみを、神ノーズの一柱とする。異論は、認めない」


 俺の言葉を、菱花の力強く真っ直ぐな言葉が遮る。

 断ることなど許さないという強い意志が伝わってくる。

 だが、俺にだって譲れないものがある。


「この身体は那種のだ。俺のじゃない。だから俺は死ななきゃなんねぇんだよ!」


「神ノーズになれば肉体の呪縛から解放される。そうなればきみはもちろんのこと、栗木那種もその身体で生存することができる」


「なっ……!」


「これ以上ない結果となるのだが、どうだろうか」


 菱花の無機質な目が、俺を逃がさない。

 ……那種だけじゃなく、俺も生きられる。

 

 ──神ノーズとして。


 俺が、この世界の頂点に……。


「……神ノーズって、三柱で一つの存在じゃないのかよ。もう俺が横入る席なんてないだろ」


「問題ない。近々その内の一柱がいなくなる予定だからな」


「は?誰だよ」



「無論──私だ」



 菱花のなんでもないその一言に──俺は頭の中を困惑に支配される。


「どういうことだ……?いなくなるって」


「死ぬということだ。神ノーズには約束事があってな、私はそれを破ったからな」


「破った?」


「きみたちと協力して新野凪の『崩壊』から『繁栄世界』を守ったろう。既にダクネスから聞いているだろうが、私たち神ノーズは『誓約』によって世界への影響を禁じられている。今回は過干渉すぎた。私はダガルガンドとハーヴェスト──私以外の神ノーズによって処刑される」


「おいおい……!まずその『誓約』に問題あるだろ!凪だって神ノーズだろ?なのに『誓約』無視して暴れ回ったじゃねーか。それをお前が止めただけだろ?それは干渉じゃなくて修正って言えるんじゃ──」


「確かにその通りだ。平時ならな」


「平時?」


「ああ。実はな、私は前々……いや、さまざまな世界線で吐夢狂弥に少々肩入れしていてな。そのことから吐夢狂弥によって起こされる問題は全て私に起因するのだ。ライザーとダクネス、この二柱をきみたちが殺したろう?あの時から、私の責任は取り返しがつかなくなるところまできていた。きみが気にすることはない」


 そうか、ダクネスがダガルガンドに神人に指名してもらったとか言っていたな……!

 つまり俺たちは知らない間にダガルガンドとやらの神ノーズの怒りを買っていたのか。

 今生きている……は通用しないだろうな。

 それは、ライザーを指名したであろうハーヴェストにも言えること。


「……なあ菱花。本当に、那種にこの身体を返した上で俺は神ノーズに成れるんだな」


「ああ。本当だ。私は嘘が好かん」


「そうか」


 菱花は俺には責任がないと言ったが、そんなことはない。

 ダクネスもそうだが、何より凪は俺たちだけで止めなくちゃいけなかった。

 それを菱花が手伝ってくれたから、菱花が死ぬ。

 ならせめて、菱花の後釜は俺がやるべきだ。

 これでアルドノイズを、俺のやるべきことをなせるに加えて──狂弥に、真意を問いただすチャンスを得ることもできる。



 

「……菱花。分かった、俺も神ノーズに──」




 ──刹那。



 ドクンッと、心臓が震えた。


 今までに感じたことのない異常。

 されど身の危険は感じていないという矛盾が、困惑に輪をかけてくる。


 なにより驚くべきが──あの菱花が、その顔を驚愕に染めていること。


「すまない向井宏人。急用ができた。話はまた後日で頼みたい」


「あ、ああ……。なあ菱花、今のは一体──」


「とにかく生きてくれ。何様かと思われるかもしれないが、私はきみを応援している。ではな」


 菱花が俺を一瞥した次の瞬間には、もうそこに菱花の姿はなかった。

 今のは一体……。


「……ダクネス」


「うん。私も感じたよ。こう、胸が、ズキッて」


 どうやら俺と菱花だけでなく、ダクネスも今のを感じ取っていたらしい。

 だが藍津と莉子は俺とダクネスの会話に首を傾げている……。


「ある程度上位の存在者だけが感知できる現象……か?」


「だね。私は古参の神人だけどこんなの初めてだよ。でもぉ──」


 途端、ダクネスの顔が歪む。

 憎悪に、嫌悪に。

 邪悪に。



「なんでだろうなぁ──なんで、狂弥が絡んでいるカンジがするのかなぁ……!?」



 世界の激動は、始まったばかり。

 しかし。

 俺はダクネスの頭をバンッ!と叩き、その両頬をつねる。


「いたぁ!?宏人くんなに──いやほんとなに!?」


「お前はあんま余計なこと考えるな。俺の指示に従ってればいいんだ」


 俺がダクネスの頬を限界まで引っ張ると、ダクネスは涙目ながらも噛み付いてきた。


「うおっ、いって」


「痛いのはこっちだよ!もう、宏人くんのせいで狂弥の気配が……はぁ。まあ、いいかな」


 ダクネスがやれやれと肩を竦める。

 

「菱花の予定なくなっちゃったからさ、アルドノイズに予定早めてもらえばー?それとも奇襲しちゃう?しちゃう〜?」


「しない。予定も早めてもらわないさ。だって、まだめんどくさい奴が一人残ってるからな」


 背後に人の気配がして、俺たちは振り返る。


 するとそこには、口を引き締めた瑠璃の姿が。



 ……なんだかんだ言って一番厄介そうな少女が、俺を見つめて立っていた。


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