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超能力という名の呪い  作者: ノーム
最終章 灼熱の魔神編
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278話(神サイド) 感謝を


 朝起きて、ご飯を食べる。

 終わったはずの俺の人生なのに、今日も今日とて皆んなと朝を迎えている。

 迎えられている。

 洗面台の鏡の前に立ち、俺は俺と向き合う。


 そこに立つのは向井宏人ではなく、栗樹那種という名の少女。

 

 俺は……向井宏人は、死んだのだ。

 俺を殺したのはモルルだった。


 モルル・ヘーゲル。


 生存戦争の後半で俺が殺した、ライオの恋人。

 

「……ライオを殺さなかったら」


 不意に、そんな言葉が出ていた。


「くだらない」


 俺はそう一蹴して吐き捨てる。

 タラレバなんてこの世で一番無駄で、みっともなくて、そしてくだらない行為……なのに。

 どうして、考えずにはいられないのだろうか。


「……なあ、ダクネス」


 俺が呼びかけると、視界の隅からぴょこっとダクネスが飛び出してくる。

 相変わらず、ふざけた奴だ。


「俺が死んだら、お前も死ぬんだよな」


「そうだね」


「お前は、死にたくないんだよな」


「そうだね」


「……那種を、頼むぞ」


「……そうだね」


 ダクネスはそれ以上何も言わなかった。


 

 * * *



 俺はアリウスクラウンとセバスと一緒に生存戦争跡地に赴いていた。

 生存戦争の会場でもあり、最終決戦の場でもあり……何かと因縁のある地だ。

 ただそれ故に戦闘の余波で森林が吹き飛ばされてしまっている。

 中央にしか荒地がなかったというのに、今となっては全てが荒地だ。

 何もない大地を三人で無言で歩き続ける。


「……ここか」


 やがて俺たちが着いたのは、無理やり穴をくり抜いたような、人工的な洞窟が。

 どうやらここはニカイキやセリウスブラウンが拠点にしていたり、菜緒が『神の間』の転移先を封印した場所といった、色々裏で活用されていた所らしい。

 

 その奥には、二つの墓標が鎮座している。


「一週間ぶりだな──カナメ、凪」


 俺は入ってくるなり開口一番にそう言った。

 後ろからアリウスクラウンとセバスが続き、まずセバスからカナメの墓に酒をかける。

 別にカナメも凪も酒が好きだったわけじゃないが、嫌いというわけでもなかったからな。


「……僕に勝手に後を押し付けてくれた以来ですね、カナメくん」


 セバスはため息混じりの笑みを浮かべて切り出す。

 

「でも、そんなきみの自由さに救われました。きみに託されていなかったら、僕はきっと宏人くんと敵対して……つまらない人生を送っていたと思います」


 セバスは少量となった瓶をあおり、そのまま一気に喉に押し流す。

 ほんのり火照った、優しい笑顔で。


「今までありがとうございました。また来ますね」


 ……思えば、セバスは最初に会った頃から文字通り劇的に変わった。

 それは死神との融合率の変化とのことだったが……それ以外に言うのならば、カナメの影響だろう。

 先頭に立って仲間を導き、一人一人訓練に付き合っていたカナメは、とても頼もしかった。

 

 そんなセンチな気分に浸っていると──セバスが凪の墓を蹴った。


「ちょ、おい!」


 俺は思わず叫ぶ。

 セバスはそんな俺を気にせず、バシャッ!と一気に強めに凪の墓に酒をかける。


「きみのことは死んでも許しません。……でも、許したいとは思ってますよ」


 セバスはそれだけ言うと踵を返す。

 俺とアリウスクラウンの間を通り抜け、一人で帰っていった。

 ……相変わらず、カナメとはまた違う自由さの塊だな。

 次はアリウスクラウンが酒を……飲んだ。

 カナメと凪に飲ませてやるために買ったはずなんだけどな。


「……」


 アリウスクラウンなりの考えがあるのだろう。

 俺はとりあえず無言で成り行きを見守ることにする。


「カナメ。負けるのはいいけれど、なに死んでるのよ。ダッサイわね」


 俺はアリウスクラウンに突っ込みを入れようとしたが……その顔を見て、やめた。

 アリウスクラウンは泣いていた。

 俺の行き場を無くした手が虚しく下がる。


「もう!それもこれも全部凪のせいだから!」


 そしてアリウスクラウンも凪の墓を盛大に蹴る。

 

「ちょっ、お前もかよ!」


 凪の墓がピシッと音を立てた。

 空耳だと思いたい。


「また会いにくるから。次会った時カナメが死んだままだったらまた蹴り飛ばすわよ」


 ンな無茶な……。

 ため息を吐く俺の横を通り過ぎ、アリウスクラウンは洞窟を出ていった。

 アリウスクラウンはセバスと違い、洞窟の外で俺を待っていてくれてるらしい。

 最後の捨てゼリフが不穏過ぎるが、俺は笑って二つの墓に──二人に言う。


「だそうだぜ、カナメ、凪。凪の場合、カナメ生き返らせないとマジでお前の墓無くなるぞ……」


 改めて凪の墓を見ると、なんだか無性に殴りたくなってきた。

 あまり人のこと言えないかもしれないな。

 ……殴らないが。

 

「カナメ。セバスがお前の力を継いだ。当然お前より弱いけど、最後の戦いはなんとかなったよ。神魔大戦もダクネス戦もそうだけど、今までの大きな戦いは全部お前がいたからなんとかなった。……お前がいなければ、俺はアスファスたちに殺されていたよ」


 神魔大戦は、ほぼ負け戦だった。

 アスファスもそうなのだが、何よりエラメスはあの時の俺にとってはあまりにも格上過ぎた。

 だがそんなエラメスの相手をカナメが引き受けてくれたのだ。

 あの時はカナメでも荷が重い敵だったろうに。

 そして見事、勝ってくれた。

 神人と成って。

 その後ダクネスから俺を守ってくれたり……やっぱ、俺はカナメがいたから生きてこられた。

 だからこそ。


「凪。俺も、お前を許さない」


 「でも」と、俺は続ける。


「今でも、お前を救えたんじゃないかって、後悔もしているんだ」


 凪は、俺を導いてくれたから。

 戦う力と勇気をくれたのは、凪だったから。


「……俺もそろそろお前たちのところに行くよ。那種に身体を返して。やるべきことをやってから」


 アルドノイズを、殺す。

 それが終われば俺は──


「だから期待して待ってろ。アルドノイズと一緒に、お前らのところ行ってやる。そして凪、お前をぶん殴る。覚悟してろよ?」


 俺が倒した凪は、もう凪じゃなくなってたからな。

 ちゃんとした凪をぶん殴ってやらなきゃ気が済まないのだ。


「じゃあな!」


 俺は二人に笑いかける。

 なんとなく、二人も笑った気がした。



 * * *



 その日の夜中にて。

 リビングのソファで寛いでいる瑠璃に俺は話しかけた。


「なぁ、今日カナメと凪の墓行ってきたんだけど」


「ええ、聞いているわ。三人で凪の墓に亀裂を入れてきたんですってね」


「俺はやってないぞ!?」


 まったく、大方アリウスクラウンが酔っ払って瑠璃にそんなことをほざいたのだろう。

 ……というか、本当に亀裂が入っていたのか。

 なぜか悲しい。

 凪が死んだのが、辛いからだろうか。

 今はそんなことより。


「黒夜や、死んでいった皆んなの墓って作ってなかったよな」


「そうね。お墓を作ったのは今回が初めてよ。余裕ができたから、かしらね」


「……他のみんなのも──」


「もちろんよ。ちゃんと、作るわよ」


「……ああ。ありがとな」


 誰が死んでも、世界は変わらず回り続ける。

 無慈悲に、無情に、無関心に。

 それでも……この世界は美しい。


「──宏人」


 瑠璃のよく響く綺麗な声が鼓膜を叩く。

 俺が瑠璃の顔を見ると、瑠璃は見つめ返して。



「勝手に、どこかに消えたりしないわよね?」


「……。ああ」



 俺がカナメと凪に言った言葉をアリウスクラウンが聞いていたのか。

 まったく、おしゃべり過ぎるだろ。


「大丈夫だよ」


 何が大丈夫なんだろうか。

 身体が那種だからか、どこか他人事のようにそう思った。

 俺はそのまま自分の部屋に──


「──さあ!」


 戻ろうとして、突然の耳に響く高音の声に足を止めた。



「さあさあさあさあ!バトルロワイヤルを、始めようっ!」



 リビングの中央にて。

 ニーラグラが、楽しそうに歯をニカッ!とさせてそう言った。






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