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超能力という名の呪い  作者: ノーム
十七章 最終決戦・後編
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274話(神サイド) 使命


「……凪ぃ……まじぶっころ──ハッ」


 パンッと鼻水風船が割れた音で、俺はベッドから跳ね起きた。

 そうして自分がふかふかのベッドで寝ていたことに気付く。

 あの後セバスたちが運んできてくれたのだろうか。


「はは……神人に成っても、戦いが終わったあとに気絶する癖は治らないのね……」


 なんか、毎度最後には気絶している気がする。

 そもそも毎回毎回敵が格上なのが悪いんだ。

 そのため戦うたびに限界を超えなくちゃいけないわけで……まあ、終わったんだから別に気にしてないのだが。

 

「ん?」


 片足に重みがありそちらに目を向けると……俺の足の上でアリウスクラウンが眠っていた。

 俺のことを診ていてくれたのだろうか。

 俺はアリウスクラウンの頭をポンポンと軽く叩き、チラリと窓の外を見る。


 ──何も変わっていない、面白味のない平凡な景色。

 

 ……だからか、安心した。

 一歩間違えれば凪によって世界は──というか宇宙ごと全て書き換えられるところだったのだ。

 ……まあ、もう既に一度書き換えられているのだが。

 そんなことになっても、菱花は完全な形で世界を復元してくれたらしい。

 

 とはいえぶっちゃけ言うと、世界を救えて良かったっていうより──凪が、世界の敵にされなくて良かった。


 俺が、あいつに終わりを届けてやれて……良かった。


「……ははっ。何言ってんだ」


 俺は乾いた笑いと共に、おセンチな気分を一蹴した。

 自分を誤魔化すようにあくびをしながら寝室を出ると──


「宏人!」


「グホッ」


 瑠璃と目が合った途端、突然走り出してハグをされる。

 

「心配したんだから……!」


「ごめんな、無茶ばっかして……いやそういえばこっちのセリフでもあるじゃん。お前だってめっちゃ無茶してただろ」


「私はいいの!」


「……あっそう」


 俺はアリウスクラウンみたく瑠璃の頭も優しく二回叩く。

 瑠璃は今回ただの能力で神人の菜緒に対抗したのだ。

 負担だけを考えると俺と同等かそれ以上だろう。

 それから数分俺と瑠璃は無言で抱き合った。


「そういえばだけど、いつもより距離近くないか?」


「あなたが性転換したからよ。ハグなんて挨拶と同じよ」


「性転換とか言うなよ。……間違ってはないが」


 気を取り直して、俺は瑠璃に戦いの後のことについて聞くことにした。

 瑠璃によると、どうやら今はほぼ全員眠っているのだという。

 ……智也は「じゃあ裏切るぜー」と言って消えたらしいが。

 確かに裏切る時は言うとかなんとか言っていたがまさか本当に裏切るとは……地味にショックである。

 俺がため息を吐いていると、机の上にバンッとコップが置かれた。


「お待たせしましたっす!私特製の『麦香る芳醇ハーヴティー』っす!」


「お前……流音か」


 目の前に、メイド服に身を包んだ流音の姿が。

 流音はふふんと鼻を鳴らして胸を反る。


「どうっすか!?可愛いっすか?」


「戦闘中にアイデンティティを失ってる奴に魅力はあるのだろうか」


「くっ……!痛いとこ突くっすね。不肖この流音、ぶっちゃけ『っす』を完全に忘れてたっす」


 てへへと流音が後頭部を掻く。

 その姿を見て……カナメを思い出した。


「瑠璃、カナメは」


「……ごめんなさい。間に合わなかったわ」


「いや、いいんだ。俺だって死んでたんだ。どうしようもなかった」


「簡単なのだけど、お墓を作っておいたわ。あとで会いに行ってあげて」


「そうだな」


 戦いは終わったんだ。

 だからだろうか。

 瑠璃と話していて、緊張がほぐれた気がする。


 ……なぜだろうか。

 俺の目元から、涙がこぼれ落ちた。


「……宏人。ありがとうね」


「……なんだろうな。この身体、目から突然水が出てくる」


 瑠璃に頭を撫でられながら、俺はしばらく泣いていた。



 * * *



「久しぶりだなぁ──アルドノイズ」


 智也は宏人たちと別れてすぐに、アルドノイズのもとへ来ていた。

 『カミノミワザ』を手に入れたことで、『契約』の根本──アルドノイズの居場所を調べることが用意になったからである。

 智也のカミノミワザ『天魔波旬』はアルドノイズの異能を生贄にしているため、彼等の繋がりはより強固なものに成っているのだ。


「智也か」


 再会を喜ぶ智也に対し、アルドノイズは素気なく返事するだけ。

 普段の智也ならムッとするところだが……今はそれよりアルドノイズの容姿に笑いを堪えることができなかった。


「てかアルドノイズなんだよその姿!なんだぁ?ずっと一緒にいて好きになっちゃったのかよ、アイツのこと」


「……」


 アルドノイズはチラリと智也を一瞥しただけで、それ以上は何も反応を示さない。

 そんなアルドノイズの態度に智也は「ハンッ」と鼻を鳴らした。

 智也だって、なぜアルドノイズがこの姿──この遺体を『神の代姿』としているのかは分かりきっている。

 だからこれ以上弄ることはせず……しかしながらも若干慣れない雰囲気に顔を顰めながら、アルドノイズに今回手に入れた力を自慢することにした。


「アルドノイズ。俺が戦力にならないと思ってるんならそれは間違いだぜ。なんたって、ついにカミノミワザを手に入れたんだからなぁ!」


「……そうか。ついにお前もその極地へと至ったか。さすがだな。俺を助けただけのことはある」


「……あと純神はアスファスとニーラグラの二柱だけ。お前が完全な『神』と成るまであと少し──なんだが、ここで一つ悲しいお知らせだ」


「なんだ」


「カミノキョクチって、知ってるか?」


「……。続けろ」


 アルドノイズの顔が歪む。

 「なぜお前がそれを」とでも言いたげな顔だ。

 智也は気にせず言われた通りに話を続ける。


「ニーラグラがそいつを獲得していた。カミノキョクチ──『須佐之女』」


「そう、か。やはりな」


 アルドノイズは舌打ちをして再度考え込む。

 智也は先程からアルドノイズの様子がおかしいと感じ、「どうかしたのか?」と問うてみた。

 するとアルドノイズは淡々と答える。


「純神とは、神ノーズの成れの果て──神ノーズの力が八つに分散した純粋なる神のことだ」


「そうだな。……それで?それが関係何か関係あるのか?」


「要するに、俺たちは一つなのだ。純神の中の一柱でも高みへ至ったらなら、残りの純神もその高みへと到達できる関係になっている」


「それが──ああ……。なーるほど……」


 智也は疑問の声をあげようとしたが──ハッと、アルドノイズの言いたいことに気付いた。

 智也が指摘するよりも早く、アルドノイズは言う──己の、今の異能を。




「俺のカミノミワザが──カミノキョクチ『迦具土神(ヒノカグツチ)』へと、神化したのだ」




 運命の歯車が再び動き出す。

 より苛烈に、鮮烈に。


 最後の戦いは、まだ終わらない。



 * * *



 ──経験し過ぎてもう慣れてきた真っ白な空間に、いつの間にか俺はいた。


「……狂弥」


 俺は目の前でニコニコと笑っている狂弥を見て、名前をポツリと呟く。

 狂弥はパチパチと手を叩いた。


「素晴らしい。さすがだよ宏人。まさかまさか、神ノーズに成った凪すらも倒しちゃうんだね。きみはいつも僕の予想以上の──」



「──これも、お前の狙い通りの展開なんだろ」



 俺は狂弥の言葉を遮ってそう言った。

 狂弥の笑顔と言葉が止まる。

 

「お前は死んでないし、今回の結果も想定内。なんなら──お前は、これから本格的に動くつもりなんだろ?」


 これはほぼ確信だ。

 俺だけじゃ気付かなかった。

 だけど、今の俺は那種でもあるのだ。

 那種も狂弥の『ループ』仲間だったから。

 そのためいくらでも記憶を漁れた。

 

 そして確信したのだ──狂弥は、凪たちに隠れて何かしているということを。


 だから俺は断定口調でキツく言った。

 ……那種の可愛らしい声だから、威圧感などないだろうが。


「すごいね。正解だよ。正直ここでバレるのは計算外だったね」


「どうだか。俺と那種を繋げたのもお前だし」


「あっははは。そうだね。那種と言うと、きみのことだから彼女の『魂』を保護でもしてるのかな?」


「ああ。那種にはあげると言われたが、俺はいつかこの身体を返すつもりだ。『魂』が無事だったとはいえ、俺の身体は死んだんだ。俺の肉体が死んだ以上、現世に長いは無用だろう」


「いつか……ね。それは、きみの役割が終わったら?」


 狂弥は疑問系でそう言うが、どうせこいつは分かりながら聞いている。

 いつもと変わらず、ニコニコ顔で。

 ダクネス戦で狂弥が死んだ時、俺は心の支えを失った気持ちだった。

 だから無情にライオを殺してしまった。

 ……だから、モルルに殺されてしまった。

 

 ──だから、那種の身体で現世に舞い戻ってきたんだ。

 

 まだ、俺の役割は終わってないから。

 これは、俺だけの仕事だから。




「ああ。俺が死ぬのは──アルドノイズを殺してからだ」




 エピローグには、まだ早い。


 さあ。


 

 俺の最後の使命を果たすとしよう。








     第十七章『最終決戦・後編』──完


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