271話(神サイド) 第四世界─中編─
アリウスクラウンのカミノミワザ『炎舞魔神』。
それは『炎舞』がカミノミワザへと至った姿。
進化の仕方は宏人やセバス、凪と同様に、複数の異能の結合。
アリウスクラウンは『炎舞』と『勇者剣』──そして生神の『破壊光線』と『ライフ・ブラングレイク』を生贄にして、カミノミワザ『炎舞魔神』を創り出したのだ。
アリウスクラウンは、生神に協力を取り付けることに成功したのだ。
だがしかし、カミノミワザとはその名の通り神の御業。
生半可な努力で手に入るほど甘い代物ではなく、本来なら『炎舞』と『勇者剣』、『ライフブラングレイク』では獲得不可能だったのだが……生神の魂にはモルルの『破壊光線』も刻まれていたのだった。
だからアリウスクラウンは手に入れることが出来た──この戦いに参入できる資格を。
* * *
太陽をバックに両手を広げ、呵呵大笑する。
それはもう凪ではなく、凪の姿形をした獣──そんな凪が、一言。
「『シンナルタイヨウ』」
すると、凪の背後にある巨大な太陽が動き出した。
……これは、嫌な予感が。
「なぁセバス。これって、あの太陽が落ちてきたりしないよな……?」
「落ちてくるでしょうねぇ……。てかこれって本物の太陽ですよね?凪くんが改造したのはこの世界だけで、宇宙そのものじゃないですし」
「えぇ……。威力よりも今後が心配──ていうか人類滅びるじゃない。さっすが、太陽のカミサマの名前の能力持ってるヤツは違うわね」
「おいおいそんな呑気なこと言ってる場合じゃなくないか……!?──来るぞ!」
凪が掲げた腕を振り下ろす──その瞬間、太陽が凄まじい速度で迫ってくる!
地球と太陽の距離的にまだまだ猶予はありそうだが、もうこの時点で比喩でもなんでもなく焼けてしまいそうなほど暑い……いや熱い。
だがしかし──アリウスクラウンがその長い金髪をさらりとかきあげて、自信満々に言う。
「ふふん。私の異能を忘れたのかしら?太陽だって、熱よ──『温熱支配』」
アリウスクラウンが、太陽に手を伸ばし──グッと手を握る。
するとなんと、途端に焼けるような熱が霧散する。
それはカミノミワザ『炎舞魔神』の権能の一つ、『温熱支配』。
遍く熱を操る究極の力。
そうか、アリウスクラウンの『炎舞魔神』の進化前の『炎舞』は、熱全般を操作できる異能だった。
「忘れないでほしいのは、今のは太陽から一時的に熱を奪っただけ。落ちてくるのは変わらないし、太陽自体がえげつない温度なのも変わらない」
アリウスクラウンの言う通り、これでやっと戦いの舞台が整ったのだ。
本番は、まだまだこれから。
「──ガアアアアアアアアアアアア!」
凪が奇声を発しながら俺たちに襲い掛かる。
理性が欠如しつつあるとはいえ神ノーズである凪を相手取りながら、落下してくる太陽を止める……やるか。
「アリウスクラウンとセバスは二人で協力してなんとか凪を抑えてくれ」
「宏人くんは?」
「俺は太陽をどうにかする」
俺はそう言うや否や飛翔し、太陽に向かって空を駆ける。
アリウスクラウンのおかげで今の太陽には一時的に熱がなくなっているため直視しても目は焼けないが……それでも尚光り輝く太陽は眩しい。
目を細めながら、でも決して離さず。
『森羅万象』の『絶対耐性』を発動するのを忘れず──俺は大気圏を抜けて、太陽に手を伸ばす。
太陽に、触れる。
「──ッ!」
アリウスクラウンがいくら熱を奪っているとはいえ、太陽は太陽。
その無限に湧き出る熱は止まることを知らないのか、神人の頑丈な俺の身体を燃やし尽くす。
……アリウスクラウンがいなかったら本格的に詰んでいたなこれ。
俺は燃やされながらも触れ続け──発動する。
『変化』の、その先の。
「『森羅万象』」
『森羅万象』が太陽を包み込む──だがしかし、太陽の勢いを止めきれない!
その落下速度は圧倒的な質量と合わさり単なる暴力と化す。
それが落ちるのは、俺たちの住まう地球。
ここで止めなければ、何もかもが終わる……!
「うおおおおおおおおおおおおお!」
文字通り死ぬ気で押し返す!
両手で『森羅万象』をフル発動しながら力を込めるが、それでも太陽は止まらない。
まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい────!
『変化』で消すのなら簡単だ。
だがそんなことしたら人類は遠からず滅亡する。
そんなの、このまま落ちるのと何も変わらない。
カミノキョクチなんて最高位の、神ノーズたちが操る領域の異能を手に入れたって、出来ないものは出来ないのかよ……!
俺は心が折れそうになるも、決して諦めることはせず──そうしていると。
『大変そうだねー、宏人くん』
突然頭の中でそんな憎たらしい声が。
これはダクネス──の人格を吸収した『変化』。
この状況でダクネスの声はさすがにイラつく。
今俺が簡単に声を出せる状況にいないと察したのか、ダクネスは笑いながら言う。
『あっははは。じゃあそれ頑張って押し返しながら聞いて。なんと!『重力』のカミノキョクチ化に成功しましたー!』
「……ん?」
『というわけでハイ『万里一空』。大事に使ってねー』
ダクネスは楽しげにそう言うと、フッと気配が消えた。
あとには止まらない太陽と必死な形相の俺だけが取り残される。
「ちょ、え!?ダクネス!おい──クソもうどうにでもなれ!」
俺は『森羅万象』を発動したまま、確かに俺の中に存在していたもう一つの異能を発動させる。
「だからダクネスは嫌いなんだ──!」と叫びながら。
その、異能の名は。
「カミノキョクチ──『万里一空』ッ!」
『万里一空』が、その真価を発揮する。
果たしてその力は──
* * *
アリウスクラウンの足と凪の足が交差する。
それだけで辺りに衝撃が迸り、大地を揺らした。
アリウスクラウンの『炎舞魔神』の権能の一つ、『勇者装甲』と凪の『天照大神』の権能の一つ、『武器装着』がぶつかった結果だ。
つまり今アリウスクラウンの全身は『希望ノ剣』、凪の全身は神剣『翡翠龍』と同義ということ。
ちなみに『勇者剣』は『炎舞魔神』に取り込まれ権能の一つになったことにより、『希望ノ剣』に進化していたのだ。
アリウスクラウンと凪が近接戦を繰り広げる横で、セバスは両手を合わせる。
「式神展開──」
だが、発動はしない。
(やっぱりここは改変された現実世界であるとともに凪の『世界』でもあるみたいだ。式神は無理……それなら)
カナメの『世界破滅』には、最強の威力特化の権能がある。
それはもちろん『生死尺玉』。
『終末世界』の中で本領を発揮するが、それでも威力はダントツであることに変わりない。
だがしかしこれはタメがでかい上に自分諸共辺り一面を巻き込む権能だ。
セバスだけなら『神風領域』があるため問題はないが、宏人とアリウスクラウンはそうはいかない。
最悪死ぬ気で特攻することを考慮に入れ、セバスはアリウスクラウンに援護する。
簡単に撃て、かつ破滅的な威力が込められている『万華鏡』を何度も放つが、凪はそれを悉く弾き返す。
「ッ……!やっぱりカナメくんへの対策は万全だなぁ……!」
セバスは舌打ちを一つして、自分も近接戦に加わる。
破壊に特化した異能を持つカナメなら援護に回った方が役に立てると踏んだが、カミノミワザの効き目が薄いとなれば直に殴った方がダメージが入ると判断。
カナメは殴る際のインパクトに爆発の衝撃──『真空波』と爆発そのものを付与しているため殴るだけでそこらの人間など爆発四散するほどの威力を秘めているのだ。
しかも自分自身は常時『神風領域』で保護しているのでノーダメージときたもの。
理不尽の権化……なのだが、上には上がいるとはよく言ったもので。
「あぁ……もう!いくら神ノーズでも無茶苦茶じゃないですかねこれ!?」
「ホントそれね!さっきから受け止めるのがやっと……反撃!?したらその隙に殺されるわよ!」
セバスの愚痴にアリウスクラウンも続く。
『魔神』という新たな特殊種族へと至ったセバスと、神人レベルに十分太刀打ちできる力を持ったアリウスクラウン二人でやっとギリギリ抑えられる……凪はそれくらいの化物と化していたのだ。
「それにこれ本気じゃないわ……!なぜかしら」
「まあ進行形で太陽操っているわけですしね。さすがにその状態で他の力使われたらたまったものじゃないといいますか──て……」
セバスがそんななんの根拠もないことを言っていると……見事にフラグが立った。
凪がその獰猛な獣のような、だけれど変わらず鋭い瞳を向けながら、一言。
「──『ウリエル』ゥゥゥゥゥ!」
刹那、轟く雷鳴が吹き荒れる。
これはまるで、ザックゲインのような──とセバスは思ったが、その力の源の存在を思い出す。
「アルベストの……そうか、純神は、神ノーズの成れの果てなんでしたっけ」
「……どういうことなの?」
「ああ、これは僕が『デッドブレッシング』を手に入れた時に、同時に死神の記憶が蘇ったから分かったものでして……簡単に言うと、神ノーズが死ねば、その力は分散されて──八柱の純神と化すらしいですよ」
「へぇ……力が分散。ということは」
「はい──神ノーズは、純神の力を全て持っている!」
「しかも純神より強いときたわ!ああああああー!やってやるわよ!」
アリウスクラウンが半分泣きながらそう叫ぶと同時──ついに雷が牙を剥く!
それに対しアリウスクラウンは拳に炎を収束させ、爆炎の拳で以ってシンプルに殴って威力を殺していく。
セバスもシンプルに周囲一帯を爆発四散させることで雷そのものを殺す。
だが──純神の力はアルベストだけではないわけで。
ウリエル。
それは、天使たちを収める者の名。
アルベスト。
マトモテリオ。
ダストル。
アスファス。
ニーラグラ。
アルファブルーム。
ソウマトウ。
ソクラノトスを除いた八柱の純神のカミノキョクチが、一気にアリウスクラウンとセバスに襲い掛かる──!
だがしかし。
「俺の前では、放出系統の異能なら、たとえカミノキョクチだって敵じゃない。存在を滅し尽くせ──『変化』」
凪の『ウリエル』によって生み出された純神の力は、いつの間にか戻ってきていた宏人の手の内に飲み込まれ──消失した。
「あ……!」
アリウスクラウンは咄嗟に空を見上げる。
すると──太陽は、いつもと変わらず地球を照らしていた。
宏人が、『シンナルタイヨウ』を止めたのだ。
──これであとは、三人で協力して凪を倒すだけ
──アリウスクラウンとセバスだけでなんとか対応できたのだ。
──そこに宏人が加わるならば、これでもう──
アリウスクラウンとセバスがそう確信した直後。
「『ビックバン』」
何気ないような凪の一言が、そんな楽観的な思考を簡単に切り捨てた。
──刹那。
凪の付近にいる遍く全ての存在が、跡形もなく消し飛んだ。