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超能力という名の呪い  作者: ノーム
十七章 最終決戦・後編
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270話(神サイド) 第四世界─前編─


 第四世界──『八紘一宇』


 それは凪が発動した式神の名称。

 式神構築──式神と能力を用いて、己だけの『世界』を創り出す超級異能。

 

 だが凪は──式神で、この世界そのものを改変したのだった。


「──!うっそだろ……!?」


 俺は頬を引き攣らせながら目の前の非現実のような現実を見る。

 魅せられる。

 

 この世界は、三つの『世界』で出来ている。


 ハーヴェスト・ウェスティが支配する、『天上世界』。

 ダガルガンド・ロードスペルが君臨する、『地獄世界』。


 そして闇裏菱花が管理する、この『世界』──『繁栄世界』。


 つまり、世界とは、神ノーズの式神なのだ。


 そして今、新野凪も神ノーズの一柱へと至ることとなった。

 これが意味すること。

 ハーヴェストとダガルガンドが焦る理由。 

 菱花が神ノーズの二人から責められている訳──その全ては、新野凪による新たな『世界』の誕生。

 

 ──菱花の『世界』を、凪の『世界』が塗り潰していく──!

 

 だがその時、急に頭の中に菱花の声が響いた。


『聞こえているか向井宏人?時間がない、手短に言うぞ』


「は!?おいどういう──」


『私が新野凪の世界を抑えてやる。だが期待はするなよ、抑えるのは少しの間だけだ。その時間で凪の攻撃に慣れておけ』


「お前も協力しろよ!神ノーズなんだろ?」


『神ノーズだからだ。私はお前たちに過干渉し過ぎてはいけないからな。なにはともあれ、あとは任せたぞ』


「あとはって、せめて抑えてくれる正確な時間をだな──!」


「ガアアアアアアアアアアアアア!」


 突如凪が狂ったように叫ぶ。

 その身を禍々しくドス黒いオーラに包み、真っ赤に染まった瞳で俺を睨む。

 それはもう、俺の知っている凪ではなくて──ただの、獣のようで。

 それと同時、俺と菱花の通信が途絶える。

 菱花が何言っているのか大体分からなかったが──一つだけ確かなのは、まだ世界が完成されていない今、この間に凪を倒すしかないということ。


「──『ウリエル』ッ!」


 雄叫びをあげていただけの凪が突然、その権能の名を口にした。

 狂弥から聞いた、神ノーズが持つ『神ノーズ』の権能──『七代天使』。

 その中の一つの権能が、その効果を発揮する。


 刹那──無数の雷が天より降り注ぐ。


「……!これは、アルベストの──?」


 俺は『森羅万象』の『変化』と『絶対耐性』により雷──おそらくカミノキョクチレベルに至った『サンドライトニング』を無効化する。

 『絶対耐性』は自然現象からの害を無効化できる権能だ。

 『絶対攻守』から分かる通り、これらの『絶対』は絶対とは言い難い。

 なにせカミノキョクチでならカミノキョクチを無力化できるからだ。

 だから俺は『絶対耐性』で無効化し切れなかった雷を『変化』で対処し──凪に向かって駆け出した。


 神剣『暗黒龍』に『森羅万象』を惜しみなく注ぎ込み、真っ赤な瞳を爛々と輝かせる凪に向かって振るう。

 

「……!」


「……『ミカエル』」


 それは絶対的な天使長の守護。

 俺の『森羅万象』を纏った『暗黒龍』が、凪に届く直前で遮られる。

 だが俺は諦めず連撃を繰り返す。

 

 今にも菱花の『世界』が凪の『世界』に塗り替えられているのだ。


 ──常に攻撃を与えて、世界を構築する速度を少しでも遅らせるために。


「『ラファエル』」


 次の瞬間、俺の凪の周囲の木々が一気に生い茂る。

 驚く俺を他所に、ありとあらゆる植物が、俺の身体を絡め取った。

 しかし俺はそれを一刀両断。


「──!」


 横目に右方でチラリと閃光が映った瞬間──細いながらも極大威力の光線が俺を襲った。

 俺はそれをギリギリで『変化』で対処。

 右手で握り潰す──その手が、左方からの攻撃で切断された。


「ッ……!」


 気付いた頃にはもう手遅れ。

 俺はずっと凪を意識していたが──いたの間にか、この戦場には三柱の天使が。


「『スリエル』『レミエル』『ゼラキエル』──ヤレ」


 『スリエル』が俺の右手を。

 『レミエル』が俺の左頬を。

 『ゼラキエル』が俺の『横腹』を。


 それぞれの特徴的な、されど鋭い剣で貫いた。


「クッソ……!」


 朦朧とする意識の中、なんとか『変化』で身体を再生させようとするが──三柱の天使たちは、剣を抜かずそのままにし、三者とも拳を固く握る。


 そして──その瞬く輝く拳を一斉に俺に放つ!


「──『刻々断絶』!」


 その拳が俺に命中する直前に俺は時間を停止!

 『森羅万象』の権能の一つであり、狂弥から託された『時空支配』の一つ。

 時を止める──それは確かに超強力な異能だが、それを先程から使わなかった理由は、神ノーズレベルと成ると止まった時間でも活動が可能だからだ。


 現に、『刻々断絶』が発動中だというのに、凪の足蹴りが炸裂する!


「──!これ、蹴りの威力じゃねぇだろ……!」


 俺は歯を食いしばりながら真正面から蹴りを受け止めた。

 腕がひしゃげるが、フルオートの『変化』で一瞬で回復。

 俺はそのまま反撃に──そんな俺の背後から、三柱の天使たちが。


「クソ!おい凪お前滅茶苦茶たぞ!」


「がぁぁぁぁぁぁぁぁ……!」


「だァァァァァァァ!お前頭脳担当だろ!なのになんでそんな頭悪そうな声しか出せねぇんだよ!」


 俺は必死に迫り来る天使たちの剣を『森羅万象』の権能の一つ、『万能領域』で全方位に正確な視界を広げ──的確に『暗黒龍』で対処した。

 『森羅万象』を使っている以上凪以外に押し負けることはないが、それでも天使たちが脅威なのは事実だ。

 だから俺は、もう十分休憩をしたであろう男の名前を叫ぶ。



「休憩は終わりだ──セバス!」


「あっははは。この感覚久しぶりだね」



 俺は『四大悪魔』を発動し、四大悪魔の一角でもあるセバスを呼び出す!

 今のセバスの外観は瞳や髪の色、雰囲気等セバスの部分を残したままのカナメ、と言ったところ。

 カミノミワザ『デッドブレッシング』により、カナメの権能を全て行使できる状態にあるらしい。

 

「『万華鏡』──!」


 セバスの高出力熱光線が『レミエル』の腕を壊した。

 

「セバス、天使は任せる」


「了解。でも大丈夫?凪を宏人くん一人で」


「全然大丈夫じゃないからさっさと頼む……というか、カナメの姿形でお前の口調って似合わねぇな」


「あっはは。うるさい──それで、まだ『第四世界』は完成してないんだよね?」


「菱花が抑えてくれている……だけどアイツのことだ。そろそろ諦めるだろうな。それでも。完成させる前になんとしてでも倒すぞ」


 三柱の天使をセバスに任せ、俺は凪に斬りかかる。

 理性が無くなりつつあるとはいえ、凪は凪。

 俺の付け焼き刃程度の剣術などものともせず的確に対処していく──が、突如軌道が変わった俺の剣が凪を斬り裂いた。


「……!」


 凪の目が驚愕に見開かれるが、すぐにタネが分かったのかその瞳を細めた。

 なんてことはない、『変化』でリーチを弄ったのだ。

 凪には初見しか通じないことは分かりきっていたからこれでかなりのダメージを与えたかったが……そう上手くはいかないらしい。

 今はとにかく耐えることだけを考える。

 しばらく俺が凪を抑えられれば、天使たちを倒したセバスが迎えに来てくれるはず。

 反撃はそれからでいい。

 なにせ凪は神ノーズ。

 どんな恐ろしい量の回復能力を保有しているか分かったもんじゃないのだ。



「『変化』!」


「『神ノーズ』」



 互いの最大攻撃が激突する。

 

「……!」


 相も変わらず『神ノーズ』の光線の威力はやばい。

 カミノキョクチ『森羅万象』でやっと相殺できるってレベルなのだ。

 だが相殺できることも事実。

 このまま凪の攻撃を対処し続ければなんとか……!

 そんな俺の思考が読まれたのか、凪の『神ノーズ』の狙撃先が──セバスに変更される。


「ッ!なんで暴走してる見た目しておいてそんな理知的に戦うんだよ……!」


 セバスに向けて放たれた『神ノーズ』を俺が受け止める。

 『変化』を付与した手がひしゃげ、肘が割れる。

 ……まずい、どんどん威力が上がってきた。


 俺に向けて放たれるのならともかく、天使たちと戦っているセバスに放たれるのならば俺は絶対に受け止めなければならない。

 だからこのままでは俺が押し負けかねない……だから。


「凪!いい加減にしろ!」


 俺は攻撃態勢へとシフト。

 『森羅万象』を全力で発揮して『暗黒龍』で攻撃する──その時。



 どこからともなく、「パリンッ」と、何かが割れる音が。



 刹那──世界が『世界』に切り替わる。


 水平線の向こうまで、何もない、無機質な世界──凪の世界が誕生した。

 緑豊かな自然の都である地球から、一切合切色を切り捨てた、鋼色の大地のみが広がる世界。

 それ以外に色は、真上に浮遊する太陽のみ。


 爛々と灼熱に輝く太陽を前に。

 凪が、両手を広げて俺たち──人類を見下していた。


「サァ、ハジメヨウカ──オワリヲ」


 第四世界『八紘一宇』が、第二世界『繁栄世界』の一部を完全に侵食することに成功した。

 一部……それは日本全土。

 未だ世界全体には行き届いてはいないが、それも時間の問題。


 菱花が、ついに世界の押し合いで敗れたのだ。

 

 俺は太陽をバックに君臨する凪を見上げ、拳を固く握りしめる。


 

 ──その俺の手が、誰かの手に優しく包み込まれた。


 穏やかで、だけど苛烈で。

 だからこそ、安心できる。



「さっきぶりだな、アリウスクラウン」


「ええ。あなたが死んだぶりね、宏人」



 俺の右横には、いつの間にかアリウスクラウンがいた。

 アリウスクラウンはニコリと微笑んで俺の手を離すと──全身から炎を出現させる。

 比喩でもなんでもなく、アリウスクラウンが炎上した。

 しかしアリウスクラウン自体には何の被害もなく、むしろその炎がアリウスクラウンを守っているようで。



「カミノミワザ『炎舞魔神』よ。これで私も、あなたちの戦場に立つ資格を得たわね」


「──まあ、それで最低限なんですけどね。カミノキョクチ……ほんと、面倒なモノを使う敵ですね」



 俺の左横から、セバスが現れアリウスクラウンにそう言った。

 

「天使たちは智也くんたちに任せました。僕たちは、敵の首魁を倒すことにしましょうか」


 セバスの言う通り、遠方にて智也、流音、星哉の三人が三柱の天使たち相手にギリギリの戦いを繰り広げていた。


「……アイツら大丈夫かよ」


「問題ないわよ。あの三人だって、もちろん私だって進化してるのよ。あなたほどじゃないけれど──神人さん?」


 神人──そうだ、俺は神人だ。

 アリウスクラウンに言われて、今更ながらにハッとする。

 

 ついこの間まで、絶対に敵わない存在として見ていた位置に、俺がいる。

 ライザーやダクネス、菜緒やカナメといった最強の存在たちの種族に、俺が……。


「アリウスクラウン。セバス。ありがとう」


「えっ、急にどうしたの?」


「とりあえずどういたしましてとは言っておきますが……」


 俺がポツリと言うと、アリウスクラウンとセバスが困惑に染まった口調で返してきた。

 そして何やら「外見だけじゃなく、心も女の子になっちゃったのかしら?」やら「あながち間違いではないかもしれませんよ……?」とか聞こえてきたが、今は無視しておく。

 こんな状況だというのに相変わらずな二人に、思わず苦笑する。


「俺がここまで強くなれたのはお前らのおかげだからな。なんか、今言いたくなって。あ、もちろんお前らの中にはカナメだって、黒夜だって──凪。お前だって含まれるんだぞ」


「……」


 凪は答えない。

 ただただ、その凶悪なエネルギーが内包された指先を俺に向けるのみ。



 俺は目を閉じ、一つ息を吐き出し──静かに目を開けて。



「アリウスクラウン!セバス!──凪を、殺すぞ」


「ええ」


「もちろんですよ」


「がァァァァァァァァァァァァァァ──!」



 第四世界『八紘一宇』にて。

 俺たちは抗う──この世界の神……新野凪に。


 

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