表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超能力という名の呪い  作者: ノーム
十七章 最終決戦・後編
273/301

265話(神サイド) 魂①


 ………………。

 …………。

 ……。


「あ……」


 そうか、俺は死んだのか。

 何もない真っ白な世界で、俺はポツンと一人突っ立っていた。

 最後に見た光景は、那種の姿をした傀羅が、俺に何か言っていたこと──思い出そうとしても、その内容はモヤが掛かったように曖昧だ。

 死ぬ寸前だったのだ。

 仕方ないと言えるだろう。


 それなら、今のこの状況はなんだと疑問に思うのだが……。


「あ、あの、お久しぶり……です?」


 突如、背後からそんな声が。

 振り返ると、そこには傀羅……いや、なんか雰囲気が違うな。

 俺が訝しんでいるのを感じ取ったのか、傀羅(?)は慌てて言った。


「あ、今は本物の那種です。ああっ、別に傀羅のことをニセモノって言ってるわけではないですよ!?」


「は、はぁ」


 早口で目を回らせながらそう言う那種に俺は思わず後ずさる。

 なんというか、対人能力に問題があるというか……久しぶりに普通の人と話したような気分だ。

 この間まで、自分が全部正しい!とか思ってそうな強者とぐらいしか会話してこなかったからな。

 新鮮な気分だ。


「それで?ここは一体なんなんだ。俺は死んだと思っていたんだが、助かったのか?それに傀羅はどうしたのか……って、すまん一気に言い過ぎたな」


 俺が疑問を口にする毎に那種の目がぐるぐるし始めていたため、とりあえず俺は。


「戦いの状況とか、分かるか?」


「すみません……。私の『サタノファニ』では、私の意志を全て上書きされるので。外の状況は」


「……そうか。すまん、無神経だった」


「いえいえ。それが、私の役割ですから」


 那種はそう言って、儚げに笑う。

 「私の役割」──それは。


「……そうか。これが傀羅が言っていた約束、か」


 俺はそう呟き……昨夜のことを回想した。



 * * *



 冷たい夜風が吹き注ぐ決戦前夜。

 皆が旅館で騒いでいる中、俺と傀羅は対峙していた。


 そして傀羅は告げる。

 傀羅の、自分自身の心情を無視して、ここにいる意味を。

 否……俺たちの──俺のもとにいる意味を。


「それは那種が──あなたなら『世界』を文字通り変えられると信じているからだ」


「……俺なら、『世界』を変えられる……?」


「ああ。そう確信しているから、俺のこの借り物の身体の主……那種の意志を尊重して、俺はここにいるんだ」


「ちょっと待て。なら尚更なんでだよ。那種はお前より俺といる時間……つーかまずロクに話したことないだろ。なのになんで那種はそんなこと」


「──七音字幸太郎。黒夜。太刀花創也……。那種はかつて死んでいった英傑たちから、お前を託されたんだ。俺は、その繋ぎとして派遣されたまでのこと」


「ッ……!」


「結局俺は反逆者新野凪に何一つ抵抗できず死んだ身だ。繋ぎの役割を任されたのは単に那種と付き合いが長かったからに過ぎない」


「……あっそう。それで?」


 夜風が吹き、俺と傀羅の前髪を揺らす。

 傀羅の夜色の髪は夜に溶け込んでおり、神秘的で、幻想的だ。

 俺はそんな彼──彼女の瞳を真っ直ぐに見つめて。


「結局のところ、お前は何が言いたい?」


「あなたが死んだ時、あなたの『魂』を保護するのが、俺の役割だと伝えておきたいだけだ」


 傀羅の瞳が、俺を見つめ返す。

 真剣で、譲らないという強い意志を感じる。

 そんな傀羅に……俺は酷く怒りが沸いた。


「ふざけんな。俺は死なないし死ぬ気もない。仮に死んだとしてもその時はその時、他人を犠牲にしてまで生き返りたいとは思わない。それにな、那種の身体だって──」


「──それは、あなたの意見でしかないッ!」


「お、おう……」


 傀羅の気迫に、俺は思わず気押される。



「あなたは確かにそうかもしれない!だけど残された仲間はどうだ!?今神人に立ち向かえるのはあなたしかいない。その自覚をもっと明確に持つべきだッ!」



 傀羅の顔が、苦痛に歪む。

 それは、今にも泣きそうなくらいに……。


「あなたの命は、もうあなただけのものではないということを、忘れないでくれ……」


「お前、なんでそこまで──あっ」


 俺は傀羅に疑問を投げかけようとして……ハッと気付いた。

 さっきからずっと疑問だったのだ。

 

 なんで傀羅は、那種は、何の関係のない俺らの味方についてくれるのだろうかと。

 それに先程出た幸太郎と、黒夜と創也の名前。

 二人と全く関係のない、死してしまった俺たちの仲間。


 ……この『世界』では。


 これは黒夜から聞いた、凪の言。



『今となっては俺と凌駕と狂弥だが、本来なら10人はいたんだ。だが狂弥に記憶を維持してもらいながらループ出来るのは二人まで。俺は常にその内の一人だった』



「お前、もしかして、創也に……」


「ああ。実は、創也から過去の『ループ』の記憶をもらっていたんだ。だから今となっては、俺もかなり強くなっている……が。それでもあなたの方が何倍も強い。なにせさっきも言ったが、新野凪に手も足も出なかったんだからな。──だから俺は、明日は瑠璃の傍であなたたちの戦いを見守る」


「……それで俺が死んだら、駆けつけて那種の『サタノファニ』で、今のお前みたいに俺の意志を宿らせる……か」


 自分で言ってみて、傀羅の言葉の意味を噛み締める。

 つまり俺が死ねば、傀羅の意志は消滅することとなるわけだ。

 

「それはなんというか……責任、重大だな」


「そんなことはない。そもそも今回の戦いで負けることの方が責任重大なんだ。だから死んでも逃がさない──あなたが、この『世界』の救世主なのだから」


 ……俺が期待されてる理由。


 それは創也が……狂弥が、俺に期待していたからだろう。

 超能力の分際で、カミノミワザとも渡り合えるイレギュラーな異能──『変化』。

 触れるだけで、物理法則や質量保存の法則なんて気にせず物質を変化させる、超級異能。

 確かにこれと共にあれば、状況次第でなら……この『世界』の救世主となれる素質は十分にある。


「お前の言いたいことは分かった。話も受け入れよう……だけどな、俺だって死ぬ気はない。お前の出番なんてないからな。覚悟しとけよ?」


「そうしてほしいものだな。では、次の話に──」


「……その前に。お前の言いたいことは分かった。でもまだ、那種の言葉を聞いていない。那種の口から、聞かせてくれないか?」


 俺がそう問うと、傀羅は小さく笑った。



「フッ……それは、本人の口から聞けばいい。──その時に、なったらな」


 

 * * *



「……そうか。その時ってのは今のことなのか」


 俺は傀羅との会話を思い出し……ポツリとそう呟いた。

 目の前にはオロオロしている那種が。

 おそらく俺が突然黙りこくったからだろう。


「蒸し返すようで悪いが、お前は『サタノファニ』発動中は外とは遮断されてるって言ってたけど、傀羅と話せたりしなかったか?」


「あ、それは出来ました。だから私、傀羅から宏人さんへの伝言を託されているんです」


「……ちなみに、なんて?」



「那種は、別に気にしないぞ。って」



 朗らかな笑顔でそう言う那種。

 そんな那種を見て……俺は余計に那種という人間が分からなくなる。

 俺が今ここにいる理由。

 そして那種と傀羅の言いたいこと──それは那種の身体を俺が乗っ取り、現世に蘇らせること。

 今俺たちのチームには、神人クラスの者は俺だけだから。


 ……そんな俺が、負けたから。


「私は、宏人さんの役に立ちたいんです」


「……」


「不思議ですか?」


「ああ。なんだろうな、この感じ……ぁ」


 それはずっと疑問に思っていたこと。

 那種の雰囲気に、なにか既視感を覚えたのだ。

 

 黒夜だ。


 黒夜も、何もしていないはずの俺を、慕ってくれていた。

 もういない彼女の笑顔が、脳裏でフラッシュバックする。


「私も、狂弥さんから『ループ』の記憶を返してもらっていたんです」


「……ははっ。つくづく、知らないところで色々やってた奴だな」



「──でも、そんな僕のお陰で何度も死地を乗り越えられたってこと、忘れてないー?」



 突然背後から間伸びした声が。

 ムカつくけど憎めない、そんな雰囲気を纏った──あいつの声が。



「狂弥。久しぶり」


「宏人も。元気してた?」



 何もない真っ白な世界の中心にて。

 俺は再び、狂弥に会えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ