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超能力という名の呪い  作者: ノーム
十六章 最終決戦・中編
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263話(神サイド) 最強の神人


 『終末世界』が完成すると同時に、カナメは発動する。

 超威力の破滅を繰り出す大技──『生死尺玉』を──!


「クソ……!」


 凪は出力最大の『絶対防御』を展開!

 しかしカナメの『生死尺玉』は凪の努力を嘲笑うように易々と『絶対防御』を破壊し──凪の身体を破壊し尽くした。

 

 ──だが。


 凪なガッと目を見開き、必死に意識を繋ぎ止める。

 いくらまだ再生能力に余裕があろうと、意識が飛べば意味がない。

 そして凪は思い出す──カナメが、凪の『世界』を異能一つで破壊した光景を。

 だから凪もそれを実行する。


 凪の放った『絶対零度』が、『終末世界』を破壊した。


 またもや舞台は通常の『世界』へ──しかしこれもまたまたもや。



「「式神構築!!」」



 重なる両者の声。

 カナメはニヤリと笑い、凪は顔を顰める。

 なにせこれは先程の二の舞だからだ。

 

 だが、ここで番狂わせが起きることとなる。


「……あ?」


 カナメが、突然よろけたのだ。

 その一瞬の隙が、命取り。



「悪いなカナメ──『暗黒世界』」



 今回打ち勝ったのは、『暗黒世界』。

 しかもカナメからしたら厄介なことで──今回の式神の精度は完璧。

 カナメは軽く舌打ちをしながらも、冷静に凪を観察する。


(さっきはぶっちゃけ、何が起きてるのかすら分からなかった……。だけど今回は二回目。全部は無理だとしても、一部だけでも避けたいな)


 凪の『奥義』──『戦乱百花』。

 初見殺し的な技とはいえ、先程カナメはこれで大ダメージを食らったのは事実。

 その剣の軌跡だけでも覚えて乗り越え、次に繋がるという覚悟で以って、カナメは目を見開きその時を待つ。

 

 だが、現実は残酷であり。

 無情であり、非情である。



 カナメの四肢が、バラバラに裂かれた。



「……嘘、だろ?」


 カナメは愕然と、既にカナメを通り過ぎていた凪を見つめた。

 神人のカナメですら、いつ斬られたのかすら分からなかったのだ。

 しかも凪は剣に『絶対攻撃』を付与している。

 

 つまり──もう四肢のないカナメの勝利は絶望的。

 

 そのはずなのに、なんと凪の目の前でカナメの四肢は生えてきたのだ。


「……は?」


 呆然とする凪に向けて、カナメは容赦なくノールックで『万華鏡』!

 凪は対処に間に合うことなくその身で『万華鏡』を食い──やがて煙が晴れた先にいた凪は、ボロボロだった。



 傷が、癒えていなかった。



「……クソ。存外、神人も完璧というわけじゃあないんだな」


「当たり前だろ。なにせお前、『万華鏡』とかはともかく『生死尺玉』を二回食らってるからな。ライザー二回殺せるぜ」


 凪の目の前には、凪と対称的にここにきて全回復をしたカナメの姿が。


「……なるほど。お前の『生死尺玉』で俺の『絶対防御』が破壊されたから、その後すぐ『絶対攻撃』に切り替えてもその効果が十分に発揮されていなかったんだな」


「らしいな。だから俺はこの機に左腕も生やさせてもらったよ」


 カナメが左腕をぐるぐると回す。

 そしてそのまま、カナメはパチンと指を鳴らした。


「『打ち上げ花火』!」


 それは無数の打ち上げ花火。

 空を多様な色が覆い、爆ぜ、壊し──『暗黒世界』が破壊された。


 ガラス状の結晶が降り注ぐ通常の『世界』にて。

 両者はまたもや式神を展開しようとした。



 だが──不発。



 両者とも能力残量はまだまだ余裕があるが、『世界』を構築するのは能力だけではないのだ。

 

「「──ッ!!」」


 そうと分かれば両者の行動は合致する。

 ただ、『世界』を展開せずに勝てばいいのだ、と。


 カナメの『万華鏡』と凪の『絶対零度』が激突し辺り一面に衝撃波が巻き起こる。



「『ブラックホール』」


「『真なる太陽』」



 両者の常軌を逸した破壊同士がぶつかった。

 これは先程互いに相殺される関係と証明されている。

 だからカナメは──それを利用した。


「──!」


 凪は目を見張った。

 カナメが突然、凪の目と鼻の先に現れたからだ。

 カナメは『ブラックホール』の引力をちょうどいい具合に調整して、無理やり凪との距離を殺したのである。

 凪は「これだから規格外は……!」と呻きながらも、迫りくるカナメの拳を受け止めた。

 弾け飛ぶ凪の右腕。

 『真なる太陽』に『絶対攻撃』を付与した以上、今の凪には完全な防御も、カナメを攻撃する手段すらないのだ。

 本来なら『ブラックホール』も『真なる太陽』もそれ一つでどんな存在も制することのできる大技。

 だというのに、このカナメと凪の戦いの中では牽制手段でしかないのだ。


(……クソ。やはり、七録カナメは天才だ……。俺なんかじゃとても及ばない、とてつもなく高い領域にいる人間だ)


 凪は心の中で悪態を吐く。

 凪は強くなった。

 アルベストを利用して、七録菜緒を利用して……そして最強の領域であるカミノキョクチ『天照大神』を獲得して。


 そして今、七録カナメに押されている。


 それも当然だ。

 『天照大神』は凪の身の丈に合わない代物だ。

 身に余る力は、時に所有者の身を滅ぼす。

 凪はそのことを知りながらも、理解はしていなかった。

 

 それは、凪の得意とするものが、モノマネだから。


 以前の異能である『模倣者』は、他人の異能をコピーするものだったから。

 それは神の悪戯か。


 それが、カナメと凪を分つ決定打となったのだ。



 ──凪の生やした真っ赤な拳が、カナメの脇腹をふっ飛ばした。



「──ッ!マジかよ……!」


 カナメは思わず口角が引き攣る。

 なにせ凪の右腕を破壊した次の瞬間には、凪の右腕に『真なる太陽』が腕の形をしたモノが付いていたからだ。

 突然の反撃にカナメは反応し切れず、横腹から血を垂れ流す。



「悪いな。反撃開始だ」



 これは凪も意図していなかったことだが、構わず凪は畳み掛ける。

 だがカナメもこれで失速したりなどしない。

 

 両者の異能が宿った左右の拳が衝突する。


 どちらも爆発的な威力が込められた力。


 しかし──だからこそ、異能の格の違いが明確に現れる結果となった。


 カナメの左腕が、霧散したのだ。


「やっべ……。えげつなすぎ」


 カナメは凪との間に小規模爆破を発動。

 無理やり凪との距離を離そうと試みたが、凪はそれを腕を一振りするだけで弾け飛ばした。

 だがそれはカナメだって予想していたこと。

 このレベルの戦いでは、一挙手一投足が、一つの行動の一瞬一瞬が致命的となり得るのだ。



「出力最大──『万華鏡』ォ!」


「──!」



 しかし凪もそれは分かっている。

 もう、『絶対防御』に切り替えない。

 その身に『絶対攻撃』を宿したまま、最高威力の『万華鏡』をありのままで受け止めながらカナメのもとへ突き進み──!




「俺の勝ちだ──カナメ」




 カナメの腹部を、その腕で突き破った。



 * * *



「……そ、そんな──そんなぁ!」


 セバスの隣りで、アリウスクラウンが叫んだ。

 カールに守ってもらいながら、セバスとアリウスクラウンはカナメの戦いを終始見守っていたのだ。

 二人ともそれはカナメのピンチに駆けつけるためだったのだが……いかんせん、セバスたちではあのレベルの戦いにはついていけなかった。

 だから、凪の王手に間に合うことが出来なかったのだ。


 セバスとアリウスクラウンの目の前で、凪の拳が、カナメの腹を突き破った。


「クッ……!アリスさん、僕がいきます。あなたは智也くんたちをお願いします!」


「はぁ!?そんなことしたらあなただって死ぬわよ!凪はレベルが違いすぎるわ!」


「僕は一回死んだって大丈夫だからですよ!それよりもカナメくんです。彼が死んだら──それこそ皆んな死にますよ!」


 アリウスクラウンは気圧されながらも、必死に次の言葉を紡ごうとして……でも、出来ない。

 セバスは自分が思っていたよりも大きな声を出していたことを自覚し……一つ息を吐いて智也、流音、星哉の方を見る。


「智也くん。きみは流音さんと星哉くんと一緒に藍津さんと莉子さんのところに行ってください。頼みますよ」


 智也はむすっとしながらも、こくりと頷く。

 セバスはそれを見届けると──カナメのもとへ駆け出した。


「ちょ、ちょっとセバス!まだ私納得してないいわよ待っ──」


「智也くん!アリスさんも頼みます!」


「ったくめんどくせぇなぁ!わあったよ。行ってこい」


 セバスは深く頷き、踵を返した。



 * * *



「……カナメ。俺の『天照大神』はな、『模倣者』の特性も引き継いでいるんだ」


「たはっ。分かってたさ。お前がまだ手札隠してたことくらいよ……ゲホッ」


 凪がゆっくりとカナメから手を抜く。

 カナメの腹部には巨大な穴が。

 その穴は塞がれることなく、沈黙し、血を噴き出すのみ。

 凪の『絶対攻撃』は、いかなる回復をも許さない。


「さらばだ。カナメ──安心しろ。お前は多分、この世の誰よりも強い。神ノーズですら、お前なら倒せただろう」


「ハッ……。そんな俺を倒したお前に言われても何も嬉しかねぇんだよ……」


 カナメの額に、凪の指がトンッと置かれた。

 その指に宿るは──カナメがよく知っている光。


「『万華鏡』……か。さすがだな」


 カナメはゆっくりと、その瞼を閉じた。

 青白い閃光が、瞼の裏側からでも分かる──破滅の光線。

 凪は、それを──!


「カナメくん!」


 次の瞬間、凪の指が宙を舞った。

 凪は瞬時に指を再生させ──切断した犯人をその冷徹な瞳に映す。


「セバス、か」


 セバスは構わずカナメに肩を貸す。

 そしてすぐに逃げようとしたが……カナメはその場から動かなかった。


「か、カナメくん?」


「セバス……。もう俺が死ぬのは確定だ。無理すんな」


「させない。させませんよ。今カナメくんが死ぬのはカナメくんだけの問題じゃないこと分かってます!?戦況的にも、今後のためにも──なによりも、一人の人間として!……僕は、きみに死んでほしくない……!」


「ハハッ……。最初は何考えてるか分からん奴だったのに、随分と変わったなぁ、お前」


 凪が、再度その指に力を込める。

 終わりは近い──そのことに、カナメはフッと笑う。



 

 ──気がつけば、目の前に菜緒がいたのだ。




 真っ白な世界で、微笑む菜緒。

 それは先程まで戦っていた時の菜緒ではなく……幼少期によくやっていた、心からの、満面の笑み。

 カナメは呆然とそれを見つめ……後頭部を掻きむしった。


「……。ハッ。まさかまさか、死ぬ寸前であんたを見るとは。俺も末期かね」


「安心しなよ。末期そのものだから。まさかまさかと言いたいのは私の方よ。なにせ、私が死んだばっかだってのに、アンタも死ぬんだから」


「うっせーなぁ。そもそも論な?あんたと戦わなかったらもっと上手く戦えてたんだよ」


「そりゃねぇ。そこは素直に賞賛するところだよ。神人が神人を連続で相手してんだもん。……まあ、凪に至ってはもう『神人』すらも超えてそうだけど」


「おい不穏なこと言うなよ。俺が死んだら俺の仲間が凪の相手しなきゃなんだぞ。おいちょっと待て、これ本格的にまずいのか……?」


「今更?本格的にじゃなくて、もう絶望的よ。要の向井宏人とアンタが死んだんだもの。もう戦いじゃなく、蹂躙の始まりよ」


「いや……やっぱ大丈夫か」


「えぇ?今私の言ってたこと──」



「宏人は、死んでないからな」



 カナメの真っ直ぐな目線が菜緒を射抜く。

 それを見て、菜緒は「相変わらずバカね……」と言いながらも、頬を緩くした。


「なにせ、ここにいねぇからな」


「言うと思った。まあ期待するだけならタダだしね。するだけすればいいと思うよ」


 菜緒はそう言って踵を返す。

 

「あ?どこ行くんだよ」


「向井宏人が生きてるかもしれないから大丈夫って思ってるのはアンタだけってことなに忘れてんのさ。──アンタだって、なにか残してやんなよ」


 菜緒が後ろ手でどこかを指差す。

 カナメがその手の先を見ると──そこには静かに涙を零すセバスが。

 カナメはそれをギョッと見て……はぁとため息を吐いた。


「お前、さっきも言ったけどそんなキャラだっけ……?」


「僕は、死神と混ざったからなんか気味悪い奴になっちゃっただけで……ほんとはただの学生でしたから。死神との関係が薄れつつある今、僕はただの臆病な奴でしかなくなってきてて……」


「おいおい調子狂うなぁ。まあ、いいや。セバス」


「は、はい!」



「──全部、お前にやる」



「……え?」


 セバスはすっとんきょんな顔をする。

 それを見てカナメは爆笑し……菜緒のもとへ走って行く。

 セバスはそのまま硬直してしまったが……ハッとし、カナメを追いかける。

 だが走っても走ってもおいつけない。

 セバスは必死に走り続けるが──距離は縮まるどころか、離れていくばかり──!


「カナメくん!」


 セバスが立ち止まってそう叫ぶと、カナメと菜緒が振り向いた。


「僕に、出来るでしょうか?」


 カナメが、ニヤリと笑う。



「知らねーよ!」



 ──なんというか、カナメくんらしい。

 セバスは、そう思った。



 * * *



 カナメが、死んだ。


 凪の『万華鏡』が、セバス諸共カナメを極太の光線で包んだからだ。

 カナメの身体は消滅し、行き場を無くした能力が空に幻想的な紋様を描いた。

 ライザーの時と違い、カナメは膨大な能力を溜め込んだまま死んだのだ。

 それを凪の『絶対攻撃』が無理やり死に至らしめたからこそできる、皮肉なほど綺麗な景色。




 そしてその光は── 一人の少年に降り注がれた。




 セバス・ブレスレット。

 『神人』の力を宿す──死神。




「ふん……。次はお前か、セバス」



「凪くん……いや、凪──きみは、タダでは殺さない」


 






    


       第十六章 最終決戦・中編──完

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