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超能力という名の呪い  作者: ノーム
十六章 最終決戦・中編
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260話(神サイド) 新たな神人


 粉塵吹き荒れる腐敗した『世界』──『蟻地獄』にて。


 カナメの目の前には、実の姉である菜緒の背中から胸に手を突き刺した凪の姿が。

 カナメの鋭く逃さない眼光と、凪の冷徹な瞳が交差する。


「お前、宏人から逃げたって聞いたけど、ずっと誰かしらを不意打ちするチャンスでも狙ってたのかよ」


「その解釈で間違いない。俺は狂弥から受け取っていた宝玉の異能──『時空決定』を発動しただけだ」


「なるほどな……。今までのように過去に飛んで『世界』をやり直したんじゃなく、未来。つまり今に飛んでそのままの勢いで姉貴をグッサしたってわけか。ったく、反吐が出る」


 凪が勢いよく菜緒から手を抜くと、菜緒は膝から崩れ落ちた。

 その瞳からは、既に光が消えている。

 菜緒がアルベストを吸収したことによって得た超再生能力は、出力最大の『デウス・エクス・マキナ』に使用したこともあって残量が残り少なかったのだ。

 だとしても、胸を貫かれた程度で死ぬような残量でもなかった。


 凪の、『変化』。


 この一撃必殺の魔の手が、菜緒の心臓に直接発動されたのだ。

 神人ですら一撃で屠る最強の宏人の異能。

 カナメは『変化』の真髄を今一度確認し──とある事実に気付いた。

 最悪で、最低な、事実に。



「ハハッ……。凪、お前が宏人を気にかけていた理由は、『変化』を成長させて自分のものにするためだったんだな」


「よく分かったな。そうだ。俺の野望を成し遂げるためには力がいる。だが力とはそう簡単に手に入らないからこそ意味があるのだ。俺はもう数えられないくらい生きているが、未だ『者』級の域から抜け出せないカスだ。これから成長したって、カナメ。お前みたいなイレギュラーはいつだっている。だからこそ、宏人の異能は魅力的だったんだ。どんなイレギュラーだって、一撃で殺せるんだからな」


「そうかよ。じゃあどうする。このまま俺とタイマンでやり合う気か?未だ『者』級の域から抜け出せない、カスのお前がか?」


「……ああ、そうだ。俺はカスだった。だから無い頭を必死にひねって、ねじって、絞って。やっと、手に入れたんだ──!」



 刹那、凪から膨大なドス黒いエネルギーが吹き荒れる。


 そして凪はカミノミワザ──『虚空支配』を授かった。


 カナメは舌打ちをしながらその光景を見つめる。

 これは、カナメの時と同じ。



 人が神人となる瞬間。



 つい先程までカナメにとって脅威でも何でもなかった凪が神の領域へと足を踏み入れたのだ。



 やがて禍々しいオーラが霧散した頃には、そこには新たな神人──新野凪が佇んでいた。


 

 

 * * *



 

 凪は『無限思考』で思考スピードを超加速させた状態で、脳内空間にてとある人物と相対する。

 それは七録菜緒──の、外見をした『神話掌握』。

 この『無限思考』は『神話掌握』の権能だ。


 つまり、凪の中には今『神話掌握』がいるということになる。


 菜緒の胸を貫いたその時、凪はその権能を奪い取ったのだ。

 否、正確に言うのならば、凪は『神話掌握』が凪へと渡れる道筋を作っただけであり『神話掌握』が凪の中にいるのは『神話掌握』の意思なのだ。

 これは異能自体に意思があるからこそ可能な芸当。

 凪は一か八かでの行動だったため、結果的に成功した形である。


「……菜緒様は」


 『神話掌握』が、小さな声量で言葉を紡ぐ。


「菜緒様は、あのままだと七録カナメに敗れ、従ってしまっていたと予想します」


「それの何がいけないんだ。七録菜緒本人の意思だろう」


「いえ。菜緒様は私に、『私が勝つように全力でサポートして』と命令されました。つまり、私は七録カナメに勝たなければならないのです。七録カナメに従うなど、それは敗北したことと同義──私は、それを覆さなければならない」


「……つまり。どんな手段を使ってでも勝つつもりなんだな。──七録菜緒の安否はともかく」


「はい。そのための手段があなた──新野凪です。そのため私は七録カナメを殺すために全力であなたに協力しましょう。ただし、今回限りです。カナメを殺した後は私は『検索』と『確率操作』を駆使してなんとか菜緒様を蘇らせることに全力を費やすつもりです」


「そうか。つまり、後に控えているアリウスクラウンやセバスとの戦いの頃にはお前はもう協力してくれないんだな?」


「当然です。それは一体私に何の得が──」


 『神話掌握』が話している最中、凪は『神話掌握』に手を向けた。

 すると『神話掌握』の身体が、みるみる凪に吸い込まれていく──!



「……ッ!これはどういうことですか新野凪!?なぜ、私の身体はあなたに吸い込まれている!?」


「異能に意思なんていらない、それだけだ。なぜ主人である俺が異能如きの戯言を聞かなければならない。お前はこの世界の異能の頂点──カミノキョクチだ。この機会に、俺が神人に成った際に獲得したカミノミワザ──『虚空支配』と融合させて、俺も俺だけのカミノキョクチを作ることにしよう」



 凪は淡々と何でもないようにそう語る。

 『神話掌握』は絶叫しながら必死に凪の魔の手から逃れようとする──しかし既に凪の異能と化した『神話掌握』では、主人である凪の命令には逆らえないのだ。

 それがたとえ、異能の最高到達点であるカミノキョクチだとしても。



「──!新野凪!あなたも分かっているでしょうが、神ノーズが監視に徹しているのは菜緒様方神人がここ数百年相互監視状態を続けていたからです。私を取り込んで七録カナメを殺しても、その後は遂に神ノーズが動きます。だからあなたがすべきことはここからどうにか菜緒様の蘇生方法を考えることで──!」


「神ノーズは、カミノキョクチを持つ奴らのことだ。お前を取り込めば自ずとアルベストのカミノキョクチだって手に入る。それらを融合させた俺のカミノキョクチ──これなら、神ノーズだって敵じゃない」



 『神話掌握』の顔が歪む。

 たかが人間如きが神の領域へと至り、さらに生物最上位存在ですら敵でないと抜かす。



 ──この男は、狂っている……!と。



 『神話掌握』は抵抗虚しくやがて凪の中に溶け消え去った。

 そして凪は手に入れる──二つの『カミノキョクチ』を。


 それらを、たった今獲得した凪の『虚空支配』と融合する。

 本来ならありえない最上級異能の複数結合。

 凪自身、多彩な術を操った方が敵の隙をつけ戦い方にバリエーションを持てると知っていたながらの行為。

 『神話掌握』なら凪に完全に支配された今でもなんとか抵抗する可能性もあるというのが最もだが……何よりも凪は、己の力でこの戦いに終止符を打ちたいのだ。




 そして誕生するは、新たなカミノキョクチ──『天照大神(アマテラス)』。





 凪の中から、『神話掌握』が消え去り──その権能の一つである『無限思考』が強制切断された。



 再び動き出す世界。

 砂嵐の中、凪とカナメは相対する。



「仲間の力を得て覚醒ってところか?泣けるなぁ」


「嫌味のつもりかカナメ。付き合いは短くないから察せるが、お前は強がってるだけだろう。表面では嫌っていても、お前は七録菜緒のことを気遣っていた」


「はっはー。そうだな、確かに強がってるさ。菜緒もそうだし──何よりお前だ、凪。お前、こんな奴じゃなかったろ」



 カナメの悲しそうな目が凪を射抜く。

 そんなカナメに、凪は酷く冷徹な瞳で見つめ返す。



「問答はもういいだろう。もう十分宏人とやったからな」


「宏人、死んだぞ」


「……。知っているさ。見ていたからな」


 凪は一瞬だけ目を伏せたが……かぶりを振って余計な思考を除去した。




「さて、お相手願おうか。七録カナメ」


「いいぜ。神人の先輩として、『メンバーズ』のリーダーとして……徹底的にしごいてやるよ。新野凪」




 まだまだ、この長い夜は明けない。


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