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超能力という名の呪い  作者: ノーム
十六章 最終決戦・中編
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259話(神サイド) あの頃


「こんなん出来るか──ッ!」


 Gottmordの組織本部の関連施設にて、宏人のそんな悲痛な叫びが響き渡った。

 宏人がアスファス親衛隊に潜入調査すると言い出してから早三日。

 凪は「式神構築を習得したら行ってもいい」という条件を出したのだが、宏人は一向に習得する素振りを見せない。

 だから今日は丸一日式神を構築して『世界』を創る特訓に費やすことにしていたのだ。


 凪は思わず深い息を溢す。


「あのな、この調子じゃいつまで経っても習得出来ないぞ」


「いや……いやいやいや。いやいやいやいや!普通出来ないから!ポッと『世界』作るのなんて!」


 宏人は半泣きで凪に食ってかかる。

 だが凪は素知らぬ顔でさらりと受け流し、容赦なく宏人を攻撃した。

 半泣きだった宏人の目からついに涙がこぼれ落ちる。


「大変だなぁ宏人は」


 そう呟くは、炎天下のもと一人パラソルで優雅に寛ぐカナメ。

 そんなカナメを横目で見て、ニーラグラはやれやれと頭を張った。


「そういうカナメも、どうせ式神構築できないでしょ?」


「あ?ガキの頃には出来るようになってるわ。そういうお前はどうなんだよ」


「もちろん出来ますとも!なにせ私、神ですから⭐︎」


 無い胸を逸らし、誇らしげにドヤ顔するニーラグラ。

 カナメは思わず吹き出す。


「ってなんで笑うの!?今笑う要素あった!?」


「すまんすまん……神ちゃちいって思って」


「ちゃちいってなにちゃちいって!?神様そんな乱雑に弄ってたらそろそろバチ当たるよ!関係ないけどちゃちいの語呂可愛い」


「うるっせェぞテメェら!昼メシの用意が出来たぞ」


 裕雅が声を荒げてそう叫ぶ。

 魔王剣による影響とはいえ荒い性格をしている裕雅だが、なんと料理が得意なのだ。

 本人曰く生きていくために必要な最低限の必須技術とのことだが、最近では人参が星やハートの形で盛り付けられていたりする。

 絶対料理好きである。

 そんなこんなで裕雅の喧しいけどありがたい、まさに母親のような声を聞いて、食卓に皆が集まった。


 宏人に。

 凪に。

 カナメに。

 ニーラグラに。

 裕雅に。


 それに飛鳥に、華に、クンネルに、ナンチャンに。


 それぞれが談笑しながら、食に手をつけていく。

 本日のメニューは裕雅特性チャーハンだ。

 最近ではお袋の味と評判の一品である。


 宏人たちが丁度食べ終わった頃、瑠璃が背後に少年を連れて姿を現した。

 

 その少年の名前はクリストフ・ナイン。

 『ナンバーズ』の生き残りで唯一戦線から外れた者だ。

 その際は誰も責めなかったとはいえ、本人は罪悪感に苛まれていたらしい。

 だから街でアスファスの動向について調べてくれていた瑠璃と偶然会ったことを機に、クリストフはここまで来たのだと。

 主に宏人とナンチャンがそんなことないと慰め、なんだかんだあってクリストフも祐雅のチャーハンを食べることに。


「……。パサついてる」


 刹那、裕雅がクリストフをぶっ飛ばした。

 顔を引き攣らせる宏人。

 ため息を吐く凪。

 爆笑するカナメ。

 クリストフを助けようと駆け出すニーラグラ。

 なんでもない、ただの一日の一コマ。

 

 凪は毎晩、こんな日常を思い起こして眠りに就く。


 そうしないと、眠れないから。


 そうしないと──『世界』を壊し、狂弥を休ませるために動き続けることが出来なくなってしまうから。

 

 この『世界』が続く限り、狂弥は止まらず歩み続ける。

 困難な未来に。

 約束された敗北を前に。

 

「狂弥。なんでお前は、この『世界』を護りたいんだ?」


「あれれ。言ってなかったっけ?」


「ああ。なんなら誰がいつどうやって滅ぼすのかすら聞いてない。俺としてはその滅ぼした先に何が残るのかも聞いておきたいところだが」


「そうね〜。ぶっちゃけていい?」


「……」


 凪は猛烈に嫌な予感を覚えながらも、重苦しく首を縦に振る。

 すると、案の定というかなんというか。



「世界滅ぼすの、僕みたいなんだよね」



 凪はとりあえず、ため息を吐いといた。



 * * *



 これもまたとある日の切り取り。

 過去の物語であり、凪の夢。

 

 そして、凪のターニングポイント。


「宏人。お前、誰がラスボスか知りたがってたよな」


「お、おうそうだが。急にどうした凪。せっかく上位七人無事撃退祝勝会やってんのに連れ出すなんて」


「その上位七人無事撃退祝勝会とやらを今やっているからこそ完全にお前と二人だけの時間を作れたんだ」


 冷たい夜風吹くメンバーズ組織本部のバランダ。

 先程まで凪が見ていた夢から、もう一年と半年以上が経った。

 もう数えていないほど長い年月を生きてきた凪にとっても、長いようで、あっという間の日々。

 今までの血生臭いループとは違い、過酷ながらも希望に満ちた宏人の世界線。

 

 そんな凪の希望である宏人が、訝しげに目を細めた。


「……気になるから早く言ってほしいんだが」



「そうだな。俺だ」



「いやあっさりー。って、やっぱお前か」


「……なんだか釈然としないな。お前こそあっさりじゃないか」


「そうか?──で、誰に操られたりするんだ?」


「……?」


「だから、今の内にお前を操る奴倒そうって。そうすりゃ凪がラスボスとやらになることはないだろ?」


 凪は、思わず笑う。

 笑って、嗤って。


「さあな」


 そう言って、誤魔化した。


「はぁ?なんじゃそりゃ」


「まあその内の事だしな。お前は全力で俺に立ち向かえよ」


「相変わらず面倒な言い回しするよな凪って。まあいいけど。慣れたし」


 そして、宏人は「わけわかんねー」と呟きながら皆のもとに戻っていった。

 その背中を見送り、凪は一言。


「盗み聞きとは、行儀が良いな」


「凪だって裏切る宣言を堂々と事前告知していいのかよ。俺がいること知った上で言ったっしょ」


 凪の隣りに、そう言いながらカナメが姿を現した。

 カナメのニヤけながらも、鋭い眼光が凪を射抜く。

 そう、凪はカナメがいることを知っていて宏人に話した。

 宏人は凪に絶対の信頼を置いているため今の話を気にも留めないだろうが、この男は。



「俺が敵になった暁には、容赦なく殺すことだな」


「言われなくても、もちろん」



 凪とカナメは微笑しながらグラスを交わす。

 カナメのグラスに、ピシッとヒビが入った。



 * * *



「『時空支配』を持つ者の定めだね。最高の運命を決定出来る立場にいるからこそ、『時空支配』自らが使用者の魂を改造して、己が望む方向へと導いていく。今の僕だって、僕であって吐夢狂弥じゃないだろうしね」


「……だからお前は毎回必ず、ループ終盤には死ぬようにしていたんだな」


「うん。凪に僕の『時空支配』が極限まで込められた宝玉渡してから僕いなくてもループ出来るようになったからね。平和を脅かす神々の脅威を取り除いて──僕自身も殺して初めて僕の目指す『世界』が完成する。だから僕は毎回心苦しいながらも後のことは皆んなに任せて、先に死ぬんだ」


「そうか。じゃあ、お前が目指すその『世界』とやらは一生成立しないな」


「え?なんでなんで」


「俺もお前と同じ『世界』を目指しているつもりだ……ただ一点明確に違うのは、お前もその平和の享受を受けることが条件の点だ。だから、お前が死ねばその時点で俺もループすることになるだろうさ」


 凪は、狂弥に助けられた。

 だから凪は狂弥を助けたい……それは感謝の気持ちだけでなく、凪が狂弥のことが好きだからだ。

 死んでほしく、ないからだ。


 だが──狂弥は笑う。

 さも当然と、諦めたように。



「そんなことないと思うよ──だって。凪だって、『時空支配』に犯されつつあるから」



 だから、凪は戦う。

 その、「だから」の意味も知らずに。




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