257話(神サイド) 頂上決戦⑯
『奥義』──『デウス・エクス・マキナ』
それは、『神話掌握』によってアルベストの異能を改造した究極の必殺技。
最強で絶対的な存在──まさに神を『雷楽滅堕』を生贄に創り出した神業……その猛威が、カナメに目を向けた。
「あっはははははは!すごいよ『神話掌握』!これ、やっばい!」
菜緒が興奮しながら己の手より創り出した存在を指差し笑う。
アルベストの超強力な電撃によって形作られた巨人──『デウス』、を。
デウスの理不尽で絶壊の拳が、カナメを襲う。
「──ッ!笑っちゃうね」
カナメは苦笑いしながらその拳を迎え撃つ。
およそカナメの全長すら超える巨大な『デウス』の拳を、カナメは爆風で突進しながらその拳に『世界破滅』を乗せて激突させる!
辺りの空間に衝突の激震が走り、カナメの右半身が吹き飛んだ。
しかしカナメは一瞬で右半身の再生を完了させ、デウスの目の前から消える。
そして背後に回り、デウスの後頭部に人差し指を向け──爆破。
ノータイムゼロ距離による特大威力のカミノミワザ。
しかし、デウスはカミノキョクチである『神話掌握』によって生み出された擬似神。
カミノミワザなど、恐るるに足りないのだ。
デウスの後頭部がみるみるうちに再生し──その剛腕が、カナメを掴む。
カナメは自らを爆破させ無理やりデウスの手を破壊し、後退した。
「あーあ。死んじゃったよ、あんた」
「あ?」
菜緒の意味不明な言葉にカナメが首を傾げた瞬間──カナメは地に叩きつけられた。
「──ッ」
朦朧とする意識の中、デウスの眼光がカナメを射抜く。
先程まで上空にいたのにもかかわらず、カナメは今地に寝転んでいる……それも、カナメが気付かぬほど異常な速度で。
神人の再生能力を惜しみなく駆使しなんとか回復。
カナメは首を鳴らしながらデウスを見上げた。
(多分……っていうか絶対掴まれた時になんかされたな。電気だから反発する力だろうなぁ。それも神レベルだから威力もエグい。おそらくだけど俺とデウスが近付くと今みたいに俺が地面にめり込む……絶対また直で食らったら死ぬ。どうしたもんかね)
カナメは重くため息を吐きながらそう考える。
そんなカナメを、菜緒は不思議そうに見つめた。
「あれ?思ったより深刻な顔してないね。自分がピンチだってこと分かってる?」
「まあピンチだな。でも無理ゲーじゃねぇから、案外イケるかもって思っただけだよ」
「……ああそう。デウス、さっさとして」
菜緒の命令に答えるように、デウスが声にならない雄叫びを上げてカナメに腕を振りかぶる。
ただのシンプルな体術が、デウスが行うだけでカミノキョクチという異能最高峰のその先の権能へも変わる。
その理不尽さに、カナメは思わずエラメスを思い出していた。
「カミノキョクチ……ね」
カナメはその言葉を最後に──デウスの巨腕に押し潰された。
……はずだったが。
カナメの口角が、吊り上がる。
「慣れた」
次の瞬間、デウスの腕が吹き飛んだ。
そして姿を現すはカナメ。
今度はカナメが腰を落とし──全力でデウスにパンチ!
およそパンチの威力でないそれはデウスの腹部に巨大な穴を開け──それだけに止まらずデウスを吹き飛ばした。
「……は?」
菜緒はその一部始終を見て戦慄する。
『神話掌握』も震える声で今の現象を菜緒に説明した。
デウスがカナメにつけた電気の反発する力を、カナメは無理やり軌道を変え、それを利用し己の異能を乗せた結果なのだと。
当然常人ならそんなことは不可能のため菜緒は理解したって無駄とばかりに頭を振って思考を切り替える。
七録カナメは、イレギュラー過ぎる──!
「『神話掌握』ッ!本気で行くよ!」
『もちろん最初からそのつもりです!清龍のカミノミワザの進化は既に終えています!』
「ナイス!いけ──『絶対零度』」
瞬く間に、世界が青みがかった透明に変わる。
それは何人にも砕くことのできない氷結の世界。
しかしカナメはそんなことをまるで気にせず放つ。
「『線香花火』」
刹那、今度は世界が爆炎に包まれた。
カナメと菜緒の『世界』が拮抗する不完全な『世界』。
そんな『世界』の均衡が、カナメに軍配があがりつつある。
「クソ……!『神話掌握』、私に合わせて!」
菜緒は『エレクティックバイオレンス』をその身に纏い超加速でカナメを翻弄する。
これは先程完膚なきまでに敗れた戦法。
だがしかし、その際のカナメの対処法を封じた今、これは菜緒にとっての最高のアドバンテージなのだ。
それも当然で、その速度は光の速さを遥かに超える。
いくらカナメでも、そんな速さの存在に対処するどころか、認識さえすることが出来ない。
だからカナメは。
「──『ブラックホール』」
それは、完全でありながら不完全の球体。
その嫌味なほど綺麗な暗黒は見るものを魅了する──時間さえも。
『緊急事態です!!信じられませんが……アレは、時の流れを遅くするようです……!」
『神話掌握』の声が、震える。
カナメの権能の一つ──『ブラックホール』。
これは、『世界破滅』のエネルギーを最大限高め……それを、超高密度に圧縮するだけ。
自身の破壊力に耐えきれなくなった『世界破滅』は、霧散するように空間に溶け込む──そして生み出されるのが、この『ブラックホール』。
空間を破壊し、時空を歪める。
それを、カナメは単純な破壊力のみで実現しているのだ。
「姉貴。これぐらいか?」
「あっははははは……はは。舐めんなよ……舐めんなァァァァァァァ!」
菜緒は今のままでは確実に負けると判断……そのため思い切った行動に出た。
自身の無駄に有り余る超回復能力を、全て『神話掌握』のエネルギーに注ぎ込む!
『ありがとうございます。菜緒様──これより、反撃の時間です』
『神話掌握』がその言葉を紡いだ直後──菜緒の周囲を十本の閃光が大地から天に向かって伸びる。
その光は段々と収束していき……。
「出力最大──『デウス・エクス・マキナ』!!」
やがて現れるは、十柱の『デウス』。
その中心で、菜緒は嗤う。
『神話掌握』が──命令する。
『殺せ』
シンプルに、合理的に、端的に。
「欲張りにも程があるんじゃねぇかオイ!」
カナメはそう叫びながらも楽しそうに立ち向かう。
その直後、鎮座していた『ブラックホール』が遂に動き出す──が、菜緒の『絶対零度』がそれを空間ごと凍らせる!
そして動き出す大量のデウス。
いくつもの巨大で、カミノキョクチという凶悪な権能を秘めた手がカナメを狙う。
カナメは放つ。
楽し気に、美しい華を咲かす。
「爆散型──『万華鏡』ッ!」
撒き散らされる破壊。
本来なら単体攻撃の『万華鏡』を最大限までエネルギーを収束させ、爆散させ無理やり全体攻撃にした大爆発。
その威力は絶大ながらも、デウスを倒すには至らない。
しかしそれはデウスが異常なだけであり──カナメと菜緒の入り混じった歪な『世界』が砕け散る!
「「式神構築ッ!!」」
両者の『世界』が、再度生み出される。
「『終末世界』」
「『万世ノ理』ッ!」
再び交わる姉弟の『世界』。
だがしかし。
菜緒は、既に大半の力を使い果たしていた。
──カナメが、笑う。
『……ッ!』
『神話掌握』が菜緒に警告するより早く、『世界』は勝者を選定した。
それは、『終末世界』。
菜緒は、怒りと焦りでとにかく叫ぶ。
「ああああああああああ!もう、なんなのよ!なんっなのよあんた!ふざけんじゃないわよ!」
「ハッ!ここにきて癇癪起こすのかよ。さっきまでの威勢はどうしたよ!」
やがて『終末世界』が構築された。
この『世界』の権能は……無い。
その代わりに。
神人レベルの権能を犠牲にすることを代償に、とことん一撃の威力を最大限まで高めた凶悪な必殺── 一撃必殺を可能としているのだ。
それは、カナメの最強最大の攻撃──『生死尺玉』。
この異能をこの『世界』に放つことにより、カナメ諸共ありとあらゆる全ての存在を破壊する絶対攻撃。
無論これは『奥義』ではないため通常時の『世界』でも放つことが可能なのだが……この『終末世界』にいる限り、逃げ場はない。
『終末世界』全土を破壊し尽くすカナメの暴威からは、何人も逃れることは出来ない──!
『「デウス!!」』
菜緒と『神話掌握』の命令に、デウスは再度動き出す。
二人が出した命令は、絶対にカナメに『生死尺玉』を撃たせないこと。
カナメの『世界破滅』はタメが長いほど強力になっていく。
その頂点が、『万華鏡』──そしてその限界の先こそが『生死尺玉』なのだ。
タメというが、それは数秒。
たった数秒カナメを自由にさせてしまうだけで、菜緒の命は尽きることとなる。
「行くよ、『神話掌握』」
『な、な……!』
「……ん?どうしたの、『神話掌握』」
『い、いえ!なんでもありません。七録カナメを、倒しましょう』
「……?そうだね」
菜緒はなにか焦っている『神話掌握』を不審に思ったが……今はそれどころではないため、あまり気には留めずカナメに立ち向かった。
──『神話掌握』は、『検索』してしまった。
七録菜緒が、死んでしまう確率を。
『確率操作』を必死に使用しても、覆らない約束された未来を。
その確率は、『神話掌握』のみぞ知る。