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超能力という名の呪い  作者: ノーム
十六章 最終決戦・中編
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252話(神サイド) 頂上決戦⑫


 ──『世界真理』とアリウスクラウンの足が交差する形で激突する。

 吹き出る真空波。

 セバスはそれを横目に清龍の『フリーズフローズン』に『バースホーシャ』で対抗した。


(アリスさんの身体能力は制限時間があれど神人クラスだからなんとかなる……と思いたいなぁ。『世界真理』の『検索』に対抗できるのって同じ土俵で戦える宏人くんレベルかアリスさんみたいな純粋な身体能力だけだと思う)


「他人の心配より己の心配をしたらどうです」


 冥龍が『カースドノエル』を発動──セバスの『バースホーシャ』が霧散した。

 周囲の冷気に充てられるだけで人間の体を容易く凍てつかせる冷気がセバスを襲う。

 セバスはそれを掴み──『変化』。

 

「──ッ!?」


 セバスは衝撃で背筋が凍る。

 確かに『変化』で『フリーズフローズン』を消滅させることはできたのだが、『フリーズフローズン』が持つ異能の勢いがそのままぶつかってきたのだ。

 カミノミワザのため当然の如く超スピードだ。

 宏人は『変化』でカミノミワザすらにも対抗できるように、他対象、痛覚神経の遮断、身体能力の上昇、常時身体の修復を同時に行なっていたのだ。


「……ふう。やっぱすごいなぁ宏人くんは」


 セバスは思わずため息を出す。

 今のセバスになる前のため記憶は定かではないが、セバスが死神だった頃の宏人は、ただの弱者だった。

 搾取されるだけの愚かな人間、それがセバスの感想だった。

 今は違う。

 なにせ宏人を見下していた自分が宏人の異能で神々に対抗しているのだから。


 そして、セバスはついに実行する。


「うん、掴めた」


 清龍と冥龍の手がセバスを定める。


「いい加減しつこいよセバス──」


「菜緒様のためにも、そろそろ終わらせましょう」



「そうですね。それには僕も賛成ですよ──『リンク』」



 構築するは、『エンチェンジ』。



 * * *


 

 アリウスクラウンにとって、宏人は当初『メンバーズ』の組織を運営するために必要なピースでしかなかった。


 アリウスクラウンは常に誰かとの繋がりを求めてきた。

 それは母であるセリウスブラウンが、孤独だったがために辛い運命を背負っていたからだ。

 女手一つでアリウスクラウンとカナメを育てていたセリウスブラウンは、アリウスクラウンたちを守るためにこの世を去った。

 

 アリウスクラウンは思う。

 別にアスファスの配下になったってよかったのではないかと。

 確かにアリウスクラウンやカナメは幼い時から戦場に駆り出され、将来の道は戦場以外閉ざされていただろうが……実際、今アリウスクラウンとカナメは戦場にいる。


(……って。それは結果論よね)


 だからアリウスクラウンは、人との繋がり──組織の盤石さを求める。

 アスファス親衛隊を掌握していたアスファスが失墜した瞬間、アリウスクラウンの居場所は消え去った。

 だから『メンバーズ』の──凪と宏人の下についた。

 ……それは吐夢狂弥という化物を仲間にできるならしたい、なんて考えもあったのだが。


 ともかく、アスファス親衛隊が潰れたその時その瞬間から、アリウスクラウンにとって『メンバーズ』は守るべき組織になったのだ。

 

 セバスと初めて会った時、彼はこう言った。


『世が落ち着き、アルドノイズ様の天敵がいない世界になった時に──僕は宏人くんを殺しますよ』


 この時、アリウスクラウンはこの居場所を守るために、絶対にセバスを止めてみせると誓った。


 でも、今はそんな動機じゃなくて。

 ただただ、宏人のことを守りたくて。

 心配で。


 だけど。


 アリウスクラウンはそんな不安に押し潰れそうになりながらも、必死に『世界真理』に食らいつく!


 そして、アリウスクラウンと『世界真理』の足蹴りが交差する。

 横目でセバスが清龍の氷結を無難に対処しているのを見ながら。


「……っ!さっきから私の土俵で戦ってるみたいだけれど一体何のつもりかしら」


「ただのデータ収集なのでお構いなく。勘違いなされぬよう言っておきますが、私が『奥義』を一発放つだけでここら一帯を焦土に変えることが可能であることをお忘れなく」


「とことん舐めてるわねっ!」


 アリウスクラウンの猛攻の悉くを『世界真理』は簡単に受け流す。

 これでもアリウスクラウンの身体能力は神人クラスなのだが……そこでアリウスクラウンはハッとした。

 明らかに、先程よりも『世界真理』の練度が上がっている。


(いや確かに今データ収集するために手加減して様子見されてることは知ってるわよ?だけれど……なんですぐそれを実行に移せるのよ!?)


 アリウスクラウンが攻撃するたび、『世界真理』はその全てを吸収していくのだ。

 アリウスクラウンの顔から段々と余裕が消えていく。

 ……そろそろ、『世界真理』が動き出す頃合いだろうか。

 もうアリウスクラウンから学ぶことがなくなれば、『世界真理』はすぐに本気を出して殺しにかかってくるだろう。

 そんな状況でも、アリウスクラウンは諦めない。


 なぜなら、まだ希望は残っているから。


 アリウスクラウンは正直、藍津や莉子に任せた『最終兵器』に期待してなどいない。


 では何に期待しているのか。


 それは──宏人である。

 アリウスクラウンは確信している。

 宏人は生きている、と。

 理由はセバスが未だ『随伴』で宏人の異能を使用できているからだ。

 主とすべき者が亡くなれば『随伴』の権能は消失する。


 だが、セバスの異能はまだ残っている。


 これが、希望なのだ。

 自分たちが時間稼ぎをすれば、宏人は絶対戻ってきてくれる──そう信じて。



 しかし。



 セバスが『エンチェンジ』を発動しようとしたその瞬間──『随伴』の効果が失われた。


「えっ……?」


 セバスがその一言を漏らした頃には──清龍の氷結がセバスを飲み込んだ。

 瞬時に粉々に砕けるセバス……だが幸いギリギリ五分経っており、カールに受肉して復活する。

 

 その一部始終を見ていたアリウスクラウンが、おそるおそるセバスに問う。


「せ、セバス……?『随伴』は……?」


「……。だめ、みたいです。宏人くんは、もう──」



「──だから。なーに戦闘中にくっちゃべってんだよ」



 刹那──アリウスクラウンとセバスは、突如出現した氷の手によって握り締められた。

 苦悶の表情を浮かべる二人を見て清龍がおもしろそうに笑う。


「向井宏人と言い、きみたちもすごいよね。ヒトの身で僕らと遊べるぐらい強くなっちゃうんだから」


「同感です。清龍の言う通り向井宏人はかなり例外的な立ち位置にいるほどの強者でしたが、それ以外では池井瑠璃もなかなかでした。彼女の思考能力はとてもヒトとは──」


「──強者でしたって!何勝手に死んだことにしてくれてんのよ!」


 『世界真理』の言葉を遮りアリウスクラウンが叫ぶ。

 その激情に応えるように、『炎舞』が暴走し氷結を溶かし──アリウスクラウンは立ち向かう。

 

 この世界の、頂点たちに。


「七録菜緒!あんただって恥ずかしくないの!?あのままモルルって奴の助けがなかったら死んでたじゃん!よく平気な顔して戦闘続けていられるわね。本当なら宏人に負けてたってのに」


「子供のような言い分ですね。物事は結果が全てです。確かに、向井宏人はあの一瞬、池井瑠璃の妨害があったとはいえ私の思考能力を上回りました。しかし、結果として私が──菜緒様が勝利した。それだけのことですよ」


「分かってるわよ!分かってるけど……私が納得できないの!」


「アリスさんッ!」


 アリウスクラウンは無謀にも単独での特攻を試みる。

 あまりにも無茶な行動にセバスが悲痛な叫びを上げるが、今のアリウスクラウンの耳には届かない。

 放たれる清龍の『フリーズフローズン』。

 

 それに対し、アリウスクラウンの灼熱の炎が雄叫びをあげ── 一瞬でこの場を地獄と化す。


 アルドノイズの式神を連想させるような灼熱地獄。

 あまりの熱量に清龍の氷結は一瞬で霧散した。

 さすがにこの現象には清龍も間抜けな声を出さざるをえない。



 そう──アリウスクラウンは今、覚醒したのだ。



 『炎舞』から、『炎舞者』へと。

 ただえさえ驚異的な身体能力を有していたアリウスクラウンであったが、『者』級へと昇格することによりさらなる強さを身につけるに至る──はずだった。


 トスッと、不吉な音が児玉する。


「よくやってくれました。冥龍」


「いえ。それもこれも、菜緒様が全てを見通していた結果でございます」


 ──冥龍の手が、アリウスクラウンの胸を貫いていた。

 冥龍は投げ捨てるようにアリウスクラウンから手を抜く。

 噴水のように流れる血が冥龍を汚す。


「──ッ!!!」


 セバスも己すらも焼き尽くす勢いで『炎舞』を噴出!

 想定通りセバス自身も重傷を負ってしまったが、なんとか氷結から脱出することに成功し、急いでアリウスクラウンのもとへ駆け寄る。

 アリウスクラウンは現在『式神吸収』により『血花乱舞』をその身に纏っているため一度だけなら回復不可の致命傷を受けても復活できるのだが、あくまで一度だけだ。

 

 ……こんな絶望的な状況では、とても挽回できそうにはないが。



「……アリスさん。どうしますか」


「うふふ。まあ、今回は失敗ねぇ……。宏人がダウンした時点で薄々察していたけれど」


「じゃあ、自滅覚悟で特攻しましょうか。楽しそうですし」


「そうね。それもいいわね──」



「──そんなことする必要はありません。もう終わらせますので──『雷楽滅堕』」



 それは最強の『奥義』。

 アリウスクラウンやセバスがいくら足掻いたところで太刀打ちすることのできない、絶対の一撃。


 純粋なら死の塊が、容赦なく二人に降り注ぐ──!


 アリウスクラウンは、ぎゅっと目を瞑った。

 やはり覚悟していても、死は怖いのだ。


 

 そんなアリウスクラウンを、笑う声が。



 それは『世界真理』や清龍、冥龍ではなく。

 もちろん隣のセバスでも……宏人が復活してくれたわけでもない。



 人を馬鹿にするようで、だけれど嫌味のない憎めない奴──七録カナメの。




「宏人じゃなくて悪いな。俺で我慢してくれ」




 カナメは振り向いてニヤッと笑ったあと──自慢の大爆発で破滅の雷を消滅させた。


「か、カナメ……?なんで」


「やっと、藍津さんと莉子さんの仕事が終わりましたか。……助かりましたぁ」


 呆けるアリウスクラウンと、安堵で倒れ込むセバス。

 

 そんな二人の前で、ライザーから最強の地位を奪った『メンバーズ』の頂点──七録カナメは『世界真理』を見据える。

 否、『世界真理』の無表情の裏で笑う、血の繋がった実の姉を。

 『世界真理』もそれを察したのか──いや、菜緒が『世界真理』のオートモードを切断したのだろう。

 さっきまでの無機質な顔が、楽しそうな華やかな笑顔に変わる。



「あんたはやりすぎたよ。もう殺すしかなくなっちまった──覚悟は出来てるな?クソ姉貴」


「ははは。出来るもんならやってみ──クソ弟」



 最強の姉弟対決が、幕を開ける。

 

 

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