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超能力という名の呪い  作者: ノーム
十六章 最終決戦・中編
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248話(神サイド) 最期に


「──状況次第だけど、一度俺一人で菜緒かアルベストと戦う機会がほしい」


 凪たちとの戦いの前日。

 宏人たちは食後、旅館にて作戦の最終確認をしていた。

 その会議の終盤に、宏人はそんな爆弾発言をしたのだ。

 アリウスクラウンが「はぁ!?」と叫ぶ。


「確かに宏人が神人レベル強いのは分かるけれど、菜緒は『世界真理』でどんな悪どいことを考えているか分かったものじゃないし、アルベストに至っては純神のトップでしょう?人間がどれだけ足掻いても無謀の化け物たちよ……」


 アリウスクラウンは断固拒否の反応を見せた。

 それに対してセバスは、逆に俺の意見に肯定的だ。


「アリスさん、そうとは限りませんよ。宏人くんと菜緒、アルベストの戦力比が未知数なのは確かですけど、だとしても……いやだからこそなんです。宏人くんには幸い『変化』っていう反則レベルの回復手段があるんですし、ここはタイマン勝負で本気で戦ってもらった方が勝率が上がると思いますよ。ほら、僕たちがいると『黒焔』や『ヴォルケーノ・マキシマム』使いにくいでしょうし」


「だとしても──!……まあ、でもなぁ」


 アリウスクラウンはセバスの意見を否定できる材料を見つけられなかったようだ。

 カナメがいない現在、この組織の最高戦力は宏人だ。

 宏人がこんな提案をしたのは、少なくとも菜緒単体になら余裕で勝てると踏んでいるからである。

 そして先日のアルベストとの交戦──それでも、宏人は後一歩勝てるところまでいけたのだ。

 勝てずとも、殺される心配はない、これが宏人の考えだった。


「私も宏人とセバスに賛成よ。アルベストはともかく、菜緒に関しては私も文字通り死ぬ気で協力して『世界真理』を封じるつもりだから、菜緒が出てきたらさっそく宏人をぶつけてもいいと思うわ」


 瑠璃はさも当然というふうにそう言った。

 宏人の記憶を『読心』で覗き見て、菜緒とアルベストにも十分対抗できると確信しての発言なのだ。


 

 ──だから。



 菜緒は、目の前の光景が信じられなかった。


 菜緒にトドメを刺す散々だった宏人が、何者かにより放たれた光線により吹き飛ばされたのである。

 瑠璃は焦る気持ちを必死に抑えながら、未だ『世界真理』に『読心』で対抗しつつも光線が放たれた方向に出力最大の『読心』を発動する!

 

『ライオやったよ!私──ついに向井宏人を殺したよ……!』


 そんな、少女の声が。


「──傀羅!」


「分かっているッ!」


 傀羅は瑠璃が指を刺す方向に正確に狙いを定め──出力最大の『カット』を放つ!

 

 この世に存在するありとあらゆるものを切り裂くその『呪い』が、姿を見せぬ敵の体を切り刻む……はずだったのだが。

 対象に直撃する直前、何者かによって『カット』が弾かれた。


「ッ……!あれは生神ね。そしてさっきの光線を放った正体はモルルって子だと思う──アリウスクラウン、頼んだわよ」


「宏人は!宏人は無事なの!?」


 瑠璃の収集にその驚異的な身体能力で即座に応じたアリウスクラウンであったが、未だ肝心の宏人の安否が不明な点に激怒する。

 『破壊交戦』の威力は『者』級でもなんでもないただの『能力』の域を遥かに超えており、既に満身創痍であった宏人がそれに直撃した──心配なのは当然である。

 瑠璃なら『読心』で安否の確認が出来る……そう考えての発言であったが、アリウスクラウンはハッとした。

 今、瑠璃は『世界真理』に『読心』で対抗しているのだ。

 宏人が戦線離脱した穴をセバスたちが埋めている以上、ここで手を抜くわけにはいかないのだ。


「──!ごめんなさい。すぐに、あのジジイとクソ女をぶっ飛ばしてくるから」


「……ありがとう。任せたわ」


 会話を終えると同時、アリウスクラウンの姿が消える。

 そしてすぐに遠方から戦闘音が響き渡った。


 瑠璃の顔は険しい。

 一番は『世界真理』に対抗していることだが……これに辛かったのは初期のみで、今は踏ん張ればなんとかなる程度の苦痛なのだ。

 というのも、瑠璃は『世界真理』の発動を『読心』で読み解き、その内容を宏人たちに伝えることで最終的に『世界真理』を無効化する、という手筈を取っていたため、まず第一に菜緒が『世界真理』を発動しない限り瑠璃の出番はないのである。

 そして今、菜緒は『世界真理』に体をフルオートで任せているのみで、『勝ち筋』の検索を諦めたのか、先ほどより瑠璃の出番はなかったのだ。

 とはいえそれは油断をしていい理由にはならない。

 なにも『読心』は『世界真理』を読み解く異能ではない──対象の思考を把握する異能なのだ。

 だから今までずっと菜緒の思考を読み解いてきて……勝てると確信した時にモルルの『破壊光線』。

 完全に、第三者の介入の警戒を怠っていた自分の落ち度だ。

 だから瑠璃は休まず『読心』を発動し続ける──!


「……え?」


 ふと、一瞬意識が途切れた気がした。

 しかし瑠璃は休んでなどいられない。

 引き続き、その目を見開き、菜緒の──『世界真理』の心を読み解いていく。



「……瑠璃。俺は、そろそろ行こうと思う」



 そこで、傀羅が声をかけてきた。

 大事な局面の最中──だが、傀羅の「それ」は今の瑠璃たちには必要なこと。


「そうね……お願い、するわ」

 

 瑠璃は苦虫を噛み潰したような顔をしながら……力強く、そう言う。


 アリウスクラウンには言わなかったが、実は瑠璃は察していた。


 ──宏人が、もう助からないということを。


 *


「……」


 ……俺は、何をしていたんだろうか。

 ああ、そうだ、七録菜緒と戦っていたんだ。

 戻らなければ……あれ、なぜか体が動かない。

 どうしたものか……いや、なんだろうか。


 もう……なんでもよくなってきた……。


 不思議なことに、目を開けているのに世界が暗い。

 夜だろうか。

 まあ、記憶に残っている限り、最後に菜緒と戦っていた時には既に夕暮れ時だったのだ。

 夜だとしても、なんら不思議じゃあない……。


 ……眠い。


 寝ても、いいのだろうか。

 

「俺は……菜緒を、『世界真理』を……倒したんだっけか……?」


「──いや、あなたの使命はまだ達成されていない」


 突然、目の前からそんな声がした。

 これは那種の……いや、今は傀羅なんだっけか。

 なにより、それはどういうことなのだろうか──って、そうか。


 そうだ、俺は、負けたんだ。


「あなたはまだ死ぬ時じゃない」


「……そうかよ。でも、すまんな……『変化』が、もう発動しないんだ」


 もう、ダクネスの声が聞こえてこない。

 『重力』の気配ら完全に消失してる。

 ……死、か。

 不思議と、恐怖はない。


「あなたは、まだ死ぬ時じゃない。──俺が、なんとかしてみせる」


 傀羅は力強くそう言った。

 俺を助ける……か。

 そういえば、俺はまだ凌駕を救えていないし、凪だって倒せていない。

 欲張りの最期は、呆気ないものだな。

 

 思考が溶けていき、感覚が抜け落ちていく。

 視界は相変わらず暗いが、自分が本当に目を開けているのかどうかすら疑わしいほど、自分のことが分からなくなってきている。

 

 そんな俺の耳に。


 最後に、傀羅の言葉が届いた。



「あの夜の約束を、今果たそう──」



 あの、夜……?


 そこで、俺の意識は途切れた。

 もう二度と這い上がることの出来ない、深い深い深淵の中に誘われて──


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