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超能力という名の呪い  作者: ノーム
十六章 最終決戦・中編
255/301

247話(神サイド) 頂上決戦⑧


 魔龍。


 それは純神が四柱目、ダストルに仕える龍の名称。

 上位純神の最下位でありながらもヒトの姿形を獲得した古き龍。

 

 そんな存在が宿った剣──神剣『魔龍』を、『世界真理』が振った。


 ──刹那、耳をつんざく大音量が響き渡る。


「……!?」


 次の瞬間、俺の体が無数に切り刻まれた。

 清龍も、冥龍も何もしておらず、『世界真理』が剣を振っただけなのに。

 ……なるほどな。


「魔龍は、音を操るのか……!?」


 『世界真理』はそれに答えず続けて異能を発動する。


 これ以上まともにカミノミワザを受けるのはさすがにまずい。

 そう考え──俺は耳に無理やり小指を差し込んだ。

 いくら痛覚神経を遮断しているとはいえ不快なものは不快だ。

 だがこれで魔龍のカミノミワザから逃れられると思えば……!


「──ァ!?」


 脳を掻き乱すような騒音が俺の頭の中を支配する。

 どうやらこれは脳に直接届ける異能らしい……!

 しかもこの異能は大音量だけじゃない。

 聞くたびに俺の体が無数に切り刻まれるのだ。

 音波で体の細胞でも破壊しているのだろうか。

 『変化』で修復できるとはいえ『能力』残量には限りがある。

 何としてでもまずあの剣をなんとかしなくては……。

 とりあえず鼓膜を直しておく。

 

 混乱する俺に向かって、清龍は笑いながら、冥龍は慎重に攻撃を仕掛けてきた。


「『フリーズフローズン』!」


「『カースドノエル』」


 『カースドノエル』は攻撃にも使えるのか。

 どんな効果があるか分からない以上食らうのは悪手だ。

 俺は両手から『バースホーシャ』を放ち両者の異能を打ち消した。

 それと同時、俺は『時空支配』で時を止める。

 

 『時空支配』は文字通り時を止める異能だ。

 俺以外の全てを切り取った時空の中に押し込み、俺だけが自由に行動できるカミノミワザ。

 とはいえこれは万能ではない。

 時が止まるというのは、万物が停止するということ。

 もちろん発動者の俺はそれの対象外だが……俺以外のなにか、に変化があった瞬間に時は再び動き出してしまう。

 つまり、時が止まった空間で一方的に攻撃する、というのは不可能なのだ。

 だが戦闘中に十分な思考時間と相手の隙をつける位置に移動できる、これだけでも最強の異能といえるだろう。

 しかし神レベルの戦いになると一瞬の時間さえあれば対応されてしまう。

 

 だから──清龍に触れる直前で再び動き出した時の中で、俺の手は『世界真理』によって切断されたのだ。


「──ッ。化け物が」


「それはお互い様です」


 刹那、頭を掻き毟る大音響が。

 俺は歯を噛み締めながらも、なんとか神剣『魔龍』を掴むことに成功した。

 

「この手は……!」


 『世界真理』が俺の手を見て目を見開く。


 なにせ、俺の手が俺自身よりも巨大な暗黒龍の手に『変化』されていたからだ。


「久々の、ちゃんとした『変化』だ」


 俺はそのまま勢いよく神剣『魔龍』をひったくった。

 しかし『世界真理』はそれを警戒していたのか、瞬時に対応── 一瞬で天より俺めがけて雷が降り注ぐ。


「『雷神』ッ──!」


「『時空放射』!」


 本来なら対応できない速度の『雷神』でも、時空の概念の塊である『時空放射』なら対応できないものはない。

 とはいえ即席の『時空放射』であったためか、『雷神』を完全に消し切るには至らず……僅からながらも強力な電撃が俺の体を蝕む。

 しかし神剣『魔龍』の奪取には成功だ。

 俺は何よりもまずそれを平時神剣『暗黒龍』をしまっていた異空間に投げ捨てる。

 だがそんなことをしている俺は格好の獲物で──!


「さっさと凍っちゃえよ──『フリーズフローズン』」


「クソ……!」


 清龍に隙を突かれ、俺の下半身が完全に凍りつく。

 俺は清龍に向けて『バースホーシャ』を放つ──その直前、何者かの拳が俺の下半身の氷を砕いた……!


「なッ──!?」


 粉々に粉砕する俺の下半身。

 さすがにこれは本気でまずい──!

 拳を叩き込んできた張本人──冥龍と無防備な状態で向かい合う。

 背後からは『世界真理』と清龍の気配が。


 

「アアアアアア───────!!!」



 俺は絶叫しながら持てる力を全て放出する!

 辺り一面にドス黒い焔──『黒焔』が撒き散らかされた。

 それに対し『世界真理』は瞬時に自身と二柱の龍に『電撃バリア』を生成。

 だが『黒焔』は最高位のカミノミワザ。

 所詮カナメの真似事である『電撃バリア』では相殺し切れず──『世界真理』自身が清龍と冥龍を庇った。

 『世界真理』のその行動に衝撃する清龍と冥龍。

 しかしそれも当然だろう。

 『世界真理』には脅威的な回復能力があるが、清龍と冥龍には回復能力の一切がないのだ。

 『世界真理』はあくまでも合理的な判断をするだけ。


 三柱が『黒焔』に対処している間、俺は静かに『変化』に集中した。


 そして完成するは完璧な悪魔の肉体。

 俺は人間社会で生活するために悪魔化の進行を『変化』でセーブしていたが、それを一気に解放したのだ。

 ヒトの肉体を初っ端から無くしていた下半身は既に人間の部分を残しておらず、完全に悪魔と化している。

 

 ……瑠璃も言っていた通り、これは最後の戦いだ。

 これさえ乗り越えれば、身勝手な神々の独裁も終わる。

 

 ──それさえ叶うのなら、何でも捨ててやる。

 

 ヒトであることさえも。

 

「……あなたには驚かされてばかりです。向井宏人。まさか目を離したこの一瞬で完全な……否。少しは人間の部分を残しているようですが。ここまでの悪魔と成るなんて想定していませんでした」


 『世界真理』が呆れるようにそう言う。

 

 俺は返答しようと言葉を紡ごうとするが……頭が、回らない。

 これは……『能力』の枯渇が近い合図……!

 

 そう察すると同時、俺は瞬時に『世界真理』に手を向ける。


「清龍、冥龍、離れたところで休んでいてください。ここからは少々手荒にいきますので、巻き込まれる恐れもあるためです」


 『世界真理』も同様に俺に手を向ける。

 そして全く同じタイミングで両者からカミノミワザが放たれた。

 俺からは『時空放射』を、『世界真理』は『サンドライトニング』を。

 俺の方がワンテンポ早かったため、『世界真理』はどんな異能よりも最速の『サンドライトニング』を選択したようだが、カミノミワザとしての格が違う。

 『サンドライトニング』を掻き消した『時空放射』が『世界真理』の体を焼く。

 追撃しようとした俺の足が凍り──砕け散った。


「あっはっは!もうそろそろ死ぬきみに最後の贈り物だよ」


 冥龍に抱えられた清龍はそれを言い終わると同時、二柱とも瞬時に消え去った。

 どうやら最後の最後にここら一帯の地盤を全て氷づけにしたらしい。

 本当に厄介極まりないな。

 足が無くなり俺は倒れそうになるが、倒れる前に修復しなんとか持ち直す。

 しかしその一瞬の隙が命取り──再度放たれた『サンドライトニング』が俺の全身に駆け巡った。


「ッ────!!!」


 『世界真理』は既に全回復を終えていたようだ。

 よろける俺に、『世界真理』は背後に更に『サンドライトニング』を無数に展開!

 明らかに段々と同時展開出来る数を増やしている。

 先ほどまでの十個を超える、無数の『サンドライトニング』──そんなもの、『奥義』一つで事足りる。



「出力最大──『ヴォルケーノ・マキシマム』ッ!」


「──ッ!?」



 俺は背後に巨大な六穴の弾倉が出現──それと同時に放たれる俺の『奥義』。

 五回攻撃の『ヴォルケーノ・マキシマム』が、無数の『サンドライトニング』を容易く消し去り、終いには『世界真理』を爆発四散させた。

 しかし相も変わらず『世界真理』は超高速再生により瞬時に完全に回復。

 回復すると同時に『世界真理』は『雷楽滅堕』を発動。

 既に真っ黒な天空を、更に黒く染め上げ雷をチャージする。


 ……今更だが、ここは通常の『世界』だ。

 俺は『式神吸収』で『式神』を身に纏っているから『奥義』が発動できるが、なんで『世界真理』は未だセバスと『世界』の押し合いしてるのに『奥義』が発動できるんだよ──!?


 そんな俺の内心を嘲笑うかのように、当たれば即死の死の雷が降り注ぐ。


 俺は『黒焔』を辺り一面に放ちつつ、『雷楽滅堕』に対し──最後の一発、『ヴォルケーノ・マキシマム』。


「……!理解。弾倉は六つ、先ほど私が受けた攻撃は五回……温存していましたね」


 地に流れる『黒焔』を回避しながら、『世界真理』はそう呟く。

 とりあえずこれで『フリーズフローズン』によって作成された地の氷を溶かすことに成功する。

 足元いっぱいに氷が広がっているこの状況はまた清龍が横槍を挟んできた際に危険だと思ったのだ。

 

 俺は足元から『バースホーシャ』を噴出し、一瞬で『世界真理』の目前へと迫る。

 だが『世界真理』はそれに動揺することなく対応しており──俺と同様、その手には『奥義』の塊が。

 ……考えることは同じかよ。


「──『ヴォルケーノ・マキシマム』」


「──『雷楽滅堕』」


 再度激突する究極の『奥義』。

 まるで神々が怒り狂っているような破壊現象を背景に、俺と『世界真理』も戦う。

 俺の眼が蒼く光り輝く──そして放たれるは『時空放射』。

 『世界真理』は対処し切れず直撃……体の半分が消し飛ぶが、やはり再生。

 ……いや、明らかに再生速度が落ちている!

 俺はそのまま追撃の『バースホーシャ』。

 だが灼熱の炎が『世界真理』を焼く直前、『奥義』が衝突した余波が今更ながらに襲いかかってきた。


「「──ッ!?」」


 俺と『世界真理』は同時に吹っ飛ぶ。

 それだけではなく、俺が放った『バースホーシャ』が分散し、『世界真理』だけでなく俺にもその炎が襲いかかる。


 俺の体の至る所に大きな穴が空く。

 あまりにも高い温度の火の粉を浴びただけでこれである。

 『バースホーシャ』でこれだ。

 速さ重視だったこともあり、『黒焔』を使わなくて本当によかったと思う次第だ。

 『黒焔』だったら『変化』する間もなく消失していただろう。

 俺は穴を『変化』で塞ぐ……が、全身の火傷は残ったまま。

 『世界真理』の超高速再生と同様……いや、それ以上に『変化』の出力が落ちている。


 『バースホーシャ』で大ダメージを受けたのは俺だけではなかったらしく、全身に火傷を浴びた『世界真理』が姿を現す。


「お互いボロボロだな。頼むからそろそろ倒れてくれ」


「それはこちらのセリフです。あなた、とても元ヒトの成り立て悪魔とは思えませんよ……」


「そいつはどーも。……さて、終わらせようか」


 俺は手を『世界真理』へと向ける。

 そして──再度『ヴォルケーノ・マキシマム』を放つ。

 対応されると危惧していたが、その必要はなかったらしい。

 すんなりとまた『世界真理』に直撃し、『世界真理』の体をズタズタに壊していく。

 

 ──いける。


 俺はそう確信し、ここにきて『式神構築』を発動する。

 勝利を確信した以上、ここで逃すわけにはいかない。

 加えて『世界』を隔絶すれば、もう清龍と冥龍に横槍を入れられる恐れがないからだ。


「式神構築──『極変──」


 そこで、俺は地に膝を付いた。


 ……は?


 視界がボヤけ、体が痺れて動けない。

 困惑する俺の目の前には──悠然と佇む『世界真理』が。


「……あなたが『奥義』を撃つ直前、微小の、されど感電させることに特化した『サンドライトニング』の応用を使いました……。目論見は成功のようで、何よりの結果です」


「……ぁ……!ク……ソォ……!」


「先ほども言いましたが、あなたはヒトの身で頑張りました。よくぞこの領域にまで足を踏み入れましたね。あなたはまだ人類には希望があると証明してくれた英雄です。その栄誉に讃えて──安らかな眠りを」

 

 俺の腹に『世界真理』の手が添えられる──これは……!


 動け……!


 動け動け動け動け動け動け動け動け動け動けよ──俺の体──!!!


「『輝』」


「──」


 俺の決死の想いは届くことなく、俺の腹を中心に大きな穴が開く。

 さすが悪魔の体と言ったところか、人間だったら今ので全身が消し飛んでいただろう。

 ……『変化』が、悲鳴を上げる。


 おそらくこれが最後──ああ、よかったよ。


 まだ、最後があって。


「『変化』ァ!!!」


 上半身の巨大な穴が瞬時に修復される!


 俺の『変化』での再生は体のガワを繋ぎ止めて見た目を直しているだけ。

 臓器や神経といった内側の重要器官についてはあまり考えていないことから、それらが一体どうなっているのかなど検討もつかない。

 考えたくないと言った方が正しいか。

 

 穴が開けられた後には、心臓が無かった。

 ……正直、『変化』で修復出来たとは思えない。

 持って、あと数分というとこか……?


 十分だ。


「『変化』──!」


「──それを見越した上での、やむを得ない損害ですよ」


 俺の手が、『世界真理』の胸に触れた──それが意味することは。

 『世界真理』の体が霧散する。

 これは俺の他対象の『変化』により、存在の消滅を発動した結果。


 だがしかし。


 所詮『神の代姿』でしかなかったアルベストの肉体が崩壊したところで……その中より、生身の菜緒が生まれた。

 無傷の完全な菜緒──『世界真理』が姿を現す。

 今『世界真理』が言葉にしていたように、俺の『変化』を食らう上での『輝』だったのだろう。

 

 ──だけどさ、それは俺も理解ってんだよ。


 背にしていた左手から、透明なエネルギーの塊が生まれる。

 『世界真理』の目が、驚愕に見開かれた。

 『世界真理』は一度『変化』を食らった上で菜緒の姿で反撃しようとしたようだ。

 だが、俺は右手で『変化』を発動すると同時、左手には『エンチェンジ』を生成していた。

 

 そう、俺はこの一瞬で、『リンク』の解放対象を『黒焔』から『エンチェンジ』に変更していたのだ。


 瞬時に異なる異能をそれぞれの手に作成する──だけでなく、さらに内部での異能の効果変更。

 ……かなり高難易度の挑戦だったが、火事場の馬鹿力とでも言うのだろうか、なんとか成功したようだ。

 しかし相手は『世界真理』。

 森羅万象の叡智を司る、この『世界』の頭脳。

 それ故に、『世界真理』は如何なる状況でも適応してくるのだ。

 

 だから今も、『世界真理』の膨大なエネルギーが込められた手が俺に向けられる。

 その手より顕現するは『雷楽滅堕』──!


 『世界真理』の誤算。


 それは、既に魔龍の存在を除外していたこと。



「『ヴォクス・メモリアム』」



「そ、それはッ──!?」


 それは、神剣『魔龍』のカミノミワザ。

 頭の中を掻きむしりつつ、音波砲で体をズタズタに切り裂くカミノミワザが、『世界真理』の動きを止める。

 

 俺の『エンチェンジ』が、無防備な『世界真理』の眼前に出現する。

 

 渦を巻くように。

 包み込むように。


 『世界真理』の顔が、絶望に歪む。



「──あぁ。ああああ……!計算外緊急事態非常事態対応不可申し訳ございません菜緒様──!」


「さあ、決着をつけようかぁ!『エン──」



 俺が『エンチェンジ』を放つ直前、視界の隅で遠方の右方より白く輝く何かが見えた。

 悪寒が、走る。

 なにせ、悪魔化することによって聴覚が跳ね上がった俺の耳に、聞き覚えのある少女の声が──異能の名が入ってきたのだから。


『宏人──避けて──!!!」


 イヤホンより響く瑠璃の悲鳴。


 その少女の名はモルル。

 かつて殺した、ライオという少年を愛していた少女。

 

 モルルは、嬉しそうに言い放つ。



「ライオ、見てくれてる?わたし、やっと復讐が果たせるよ──『破壊光線』」



 全てを飲み込む破壊の本流。

 それは、俺を木っ端微塵に吹き飛ばした。


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