240話(神サイド) 頂上決戦①
「──『雷撃豪雨』」
「──『死屍累々』」
七録菜緒が現れると同時に戦いの火蓋は切られた。
突然『式神』を構築する菜緒に、セバスも対抗するよう『式神』を展開した。
七録菜緒は『世界真理』による絶対知識により確実に『式神』の押し合いでは負けないというのは予想がついている。
今回セバスも『式神』を展開したのは単なる時間稼ぎだ。
『式神』の押し付け合いの最中は、両者の権能は封印されているから──今が、攻め時だ。
「「『式神吸収』ッ!」」
俺とアリウスクラウンも『式神』を構築。
ただし展開するのではなく、身に纏う──ライザーの戦法だ。
俺は『変化』でかなり楽に技術を習得、さらに譲渡できる。
この数日で、俺とアリウスクラウンは『式神吸収』を完全にモノにしていた。
俺は『変極廻在』を、アリウスクラウンは『血花乱舞』を吸収する!
俺、アリウスクラウン、セバスが『式神』を展開している最中、残りの智也、流音、星哉が菜緒のもとへ駆け出す。
「いやぁぁぁぁぁぁ!怖いぃぃぃぃぃ!」
「僕らの身体能力なら大丈夫です!……多分」
「お前ら、黙って戦えよ」
智也は『悪魔』を発動──その姿が異形に変わる。
漆黒の外郭を纏い、白い目と歪んだ口はまさに悪魔。
そしてその鋭いツメで以って菜緒に斬りかかった。
それは一振りすれば風圧のみで全てを切り裂く凶悪な一撃。
しかし菜緒は、その前に既に動いていた。
「『雷装バリア』」
「──ッ!?」
智也のツメが菜緒に触れようとする手前で強烈な電撃が発生。
それは背後から奇襲をかけていた流音も同様で、二人して地に倒れた。
あれはおそらくアルベストの電撃を『世界真理』で改造したもの。
ただでさえ自由な電撃のカミノミワザが、『世界真理』と交わることにより凶悪度が増している。
そんな中、星哉は持っていた剣を投擲。
しかしそれは『雷撃バリア』に弾かれて終わる──が。
いつの間にか復活していた智也が、背後から菜緒を切り裂いた。
「……!やるね」
「来る攻撃が分かってんならあとは我慢するだけだからなぁ!」
アルベストの強力な再生能力と、菜緒の神人としての再生能力が組み合わさり、菜緒の傷は瞬く間に塞がる。
だが気にせず智也は再度ツメでの攻撃を繰り出す。
その身に電撃を浴びながらも、智也は止まらない。
そしてまたこれもその前に、菜緒は虚空より剣を出していた。
神剣──『清龍』。
それは、アルベストの使役する龍が宿りし神剣。
神は、時間と共に進化する。
龍も、また同様で──。
菜緒がその神剣を一振りしただけで、智也の『悪魔』が粉砕された。
「──なぁッ!?」
菜緒は続けてもう一振り、生身と成った智也へ神剣を──!
「──遅れた、すまん。よくやった」
「あとは、私たちが主軸で戦う」
俺の神剣『暗黒龍』とアリウスクラウンの『勇者剣』で、菜緒の『清龍』を受け止めた。
おそらく俺の『暗黒龍』と菜緒の『清龍』は同格だ。
そこにアリウスクラウンの『勇者剣』が組み合わさることで、俺たちは菜緒の神剣を楽々と弾き返す。
そして、俺は前に手を突き出しアリウスクラウンの道を作る。
「『変化』」
『変化』が『雷撃バリア』をぶち壊す。
もう、菜緒を守るものはない。
アリウスクラウンが渾身の一撃を菜緒に叩き込む!
『勇者剣』の異能は絶対攻撃。
いかなるものも切り裂く、まさに勇者に与えられし聖剣。
それは神人も例外ではなく──菜緒の胴体が、スパッと切断された。
その次の瞬間、アリウスクラウンの目の前に、菜緒が。
「──ッ!?」
「私、再生能力だけには自信があるんだ」
今度は菜緒がアリウスクラウンを切り裂く。
俺はアリウスクラウンに攻撃をしてガラ空きになった菜緒の背中へ手を伸ばす!
発動するのはもちろん。
「──『変化』」
それは、一撃必殺。
たとえ対象がどれだけ凄まじい回復能力を保持していようと、問答無用で死を与える他対象の『変化』。
だが、逆に俺の手が破壊される。
「……っ。やっぱりか。状態異常系統は克服されてるな」
俺は『変化』で手を直す。
するとアリウスクラウンも自己再生したようで、俺の隣に並んだ。
アリウスクラウンは今『血花乱舞』を見に纏っているため、必死ダメージを食らうか、能力残量の続く限り無限に回復できるのだ。
「剣使いなさいな。せっかく立派なものもってるのだから」
「そうさせてもらう」
俺は神剣『暗黒龍』を軽く振り──暗黒龍を顕現させた。
「グギャアアアアアアアアアアアア!」
その巨体をのけ反らせながら暗黒龍は俺たちの鼓膜を破る勢いで鳴く。
「へぇ。宏人くんは生身で戦うの?」
興味深げに俺を見る菜緒の目の前で、俺は手を神剣『白龍』に『変化』する。
「こっちの方が慣れているものでね」
「なら、私も顕現させちゃお」
菜緒は、『清龍』を投げ捨てた。
そして顕現するは龍──ではなく。
タキシードを着たバトラー然とした、顔立ちのいい好青年。
次の瞬間──その青年が、付近にいた星哉の腹に穴を開けた。
「……へ?」
「星哉ッ!」
俺は『バースホーシャ』をフル活用し瞬時に青年の目の前へ。
おそらく、こいつが清龍──!
俺はノールックで背後の星哉を触り『変化』で修復。
そんな俺の隙を見逃してくれないのか、清龍は笑いながら拳を一発。
その拳を俺は空いた右手で受け止めた。
すると、俺の右腕が爆発四散する──!
「……!これは、カミノミワザ──!?」
「あっはは。誰が龍種はカミノミワザ使えないって言ったよ。愚鈍な弟妹たちと一緒にしないでほしいなぁ」
俺が『変化』で腕を修復するのと同時に青年──清龍は俺の目の前に人差し指を添える。
これはまずい──!
「『フリーズ・フローズン』」
それは氷結のカミノミワザ。
ありとあらゆるものを凍てつかせ、凍らせる異能。
それが俺に届く瞬間、アリウスクラウンが間に割って入って身代わりになった。
アリウスクラウンの全身を覆うように氷が成長するが──その異能の真価が発揮される前にアリウスクラウンの全身から炎が溢れ、氷は霧散した。
俺とアリウスクラウンは星哉を連れて瞬時に後退する。
智也と流音が急いで俺たちの背後に来た。
無理もない。
正直言って、レベルが違う……!
暗黒龍が俺たちの真横を突き抜け墜落した。
目の前には、悠然と佇む菜緒と清龍が。
「七録菜緒。メイナス呼んどきましたよ。他の龍は大丈夫そう?」
「ありがと。メイナスくれば十分でしょ。あ、でもカナメ来たらまずいからとりあえず声かけといて」
上位純神たちの龍は少なくともあと三体いる。
神自身が死のうとも、龍にはなんら影響はないらしいな。
アスファスやアルドノイズたちの龍を基準にしていたが、やはり悠久の時を生きる神々の龍は別格だ。
暗黒龍もその域には達してはいるが、アルドノイズとソウマトウの生きた年月を足してもアスファスよりも上といったレベル。
不幸中の幸いは龍種は式神を持たないところだな。
あとは瑠璃さえ間に合ってくれれば──
『──宏人ッ!』
刹那、通信機からカナメではない声が響く。
この合図は──!
「セバス。時間だ」
「ふぅ、戦う前から疲れたよ」
式神を維持していたセバスが、肩を回しながら俺たちのもとへ歩いてきた。
菜緒がそれを怪訝な顔をしながら見つめ、『世界真理』で状況を検索する。
すると調べがついたのか、はあとため息を吐いた。
「やっぱり、私の天敵はきみかぁ──池井瑠璃」
*
瑠璃の役割──それはセバスの式神の維持。
七録菜緒は『世界真理』で絶対に式神を展開する方法を検索、実行してくる。
それを瑠璃が『読心』で読み解き、傀羅に指示することで、『カット』を用いて菜緒の式神の外角を攻撃。
展開の邪魔をする。
それだけではなく、瑠璃は菜緒が『世界真理』によって得た知識をそのまま通信機で宏人たちに伝えることにより、菜緒の『世界真理』を無効化する!
菜緒はそれこそ瑠璃の『読心』を『世界真理』でジャミングすることは可能だが、そこに機能を回すと式神の強度が落ち、瞬時にセバスの『世界』が完成する。
完璧な作戦──だが。
「ごふっ……!」
瑠璃の目から、鼻から、口から夥しい量の血が溢れる。
『者』級でもない、ただの『能力』が『カミノミワザ』に抗っているのだ。
これで済んでいるのも幸いと言えるほど。
だが、瑠璃が倒れぬ内は菜緒の『世界真理』を無力化出来るのだ。
ここで、安易に倒れるわけにはいかない。
「さあ、お相手よろしくね。カミサマ……!」
宏人たちが戦う付近の高台にて。
傀羅とクンネルに心配されながらも、瑠璃は顔を血で濡らしながらも『世界真理』を解読していく。