238話(神サイド) 生存決戦⑧
──不意打ちの『時空放射』を浴びて、凪が彼方へ吹っ飛んだ。
『世界』の中心で俺はじっと待つ。
すると次の瞬間、遠方から青白い光線が放たれた。
俺は手を前に突き出す。
青白い光線──『時空放射』は、俺の『変化』で消え失せた。
「他人の真似事……。なんか最近多くて困るぜ」
「バカ言うな。俺以外のぽっと出たちに多かっただけだろ」
凪は煙をかき分けて姿を現した。
凪の『能力』──『模倣者』。
一度見た異能を完全にコピー出来る超級異能。
とはいえ、コピー系統は今までに何度も戦ってきた。
ダクネスの『旧世界』もそうだったし、ライオの『千里眼』もそうだったのだ。
今更、遅れは取らない。
「『サンドライトニング』」.
カミノミワザによって作り出される電撃。
凪はそれを攻撃にではなく、自身の速度を上昇させるために発動。
文字通り光速の凪が俺に肉薄する。
だが見飽きた異能でもある。
ザックゲインしかり、アルベストしかり。
「『焔』」
いくら速かろうが、人間である以上炎のカミノミワザの中にはいられない。
俺は『焔』を周りにばら撒き、俺を中心に爆炎が円形に展開された。
これで襲撃の心配はなくなる──そう思っていた俺の背後から、殺気が。
「──ッ」
刹那、俺の横腹が抉られる。
凪はいつの間にか俺の背後にいた。
もちろん『焔』のサークルの中だ。
ありえない──『サンドライトニング』の速さは体験しているはずなのに。
しかし、そこでハッと気付いた。
凪の異能は、『模倣者』のみではない。
「なるほどニーラグラのか。きっと今頃泣いてるぜ?」
「だろうな。だからなんだと言わせてもらうが」
俺は横腹を『変化』で修復しながら今の攻撃について思考を巡らせる。
まあ、十中八九『凪』だ。
それもアスファスと同じ本来の『凪』を、命中率を上げるために分散させたタイプの。
逆に本来の『凪』が出来ない可能性の方が濃い。
アスファスは常に堅実な戦い方をしていたため、本来の『凪』なんか滅多に使わないからだ。
そしてその『凪』を『サンドライトニング』の身体強化で当てられたのは、ニーラグラの風系統のカミノミワザが関係しているのだろう。
「音速風速光速とか欲張りかよ」
凪は今度は黒い円球を辺りに不均等に浮遊させた。
不思議なことに、まるで凶悪性を感じない。
だが、どこかで見たことあるような……。
すると、黒い球同士が結びつくように、これもまた黒い線で紡がれた。
それらは段々とスピードを速くしながら、また一個、さらに一個と繋がって行く。
このまま行くと、逃げ場が消えそうな勢いで。
俺は嫌な予感がしたためとりあえずカオスを召喚してみた。
「よっ」
「……おい。どういう要件だテメェ。軽々しく召喚すんなよ」
「別に大したことないお願いなんだが、その黒いの触ってみてくんないか?なんか怖くて」
俺がそう言うと、カオスは吹き出し、大声で笑う。
そして俺を煽りながら黒い球に手を伸ばす。
「おいおいおい!こぉんななんの威力のない玉怖がっちゃってんのかよ。やっぱ大したことねぇクソ野郎だな。いいぜ、触ってやるよ。ほら、これでどう──」
すると、死んだ。
「……凪。これ、ソウマトウのだな?」
「さすがに気付くのが遅すぎるな」
瞬間──先程までとは段違いのペースで黒い線が紡がれていく!
俺はとにかく再度『焔』で安全圏を構築。
俺の周りの黒い球──『闇』を破壊する。
この当たれば即死のソウマトウのカミノミワザの欠点は、それ自体の威力耐久力が全くないということ。
『焔』で『闇』を対処した俺を、またもや無数の『凪』が襲う。
浅くない傷を刻まれながら、俺も負けじと特大の『バースホーシャ』を発動。
分散型にしているためか、それで『凪』は消え去った。
濃い水蒸気が発生し、目が遮られる。
そんな俺を、凪は襲う──。
俺の右腕が、落ちた。
「ッ……!容赦ねぇな」
背後を見ると、凪が背を向けて立っていた。
おそらく『サンドライトニング』だろう。
光速で俺の腕を飛ばしたのだ。
そんな凪に俺は『焔』を発射する。
凪はそれを、『世界爆破』で撒き散らした。
これはカナメのカミノミワザ。
近距離での大爆発により、俺と凪に致死レベルの熱風が降り注ぐ。
俺は『時空放射』で常時一秒前に時を操ることにより何事もなく乗り越えたが、凪は『旋』で全ての風を収束、さらに威力を高めて俺に投げつけてくる。
本当に、容赦ねぇな……。
『時空放射』で伸ばした体感時間でこの風をよく観察してみると、どうやら『焔』もブランドされている。
真顔でこんな凶悪なことするのマジで勘弁。
まあともかく、しかしながら、とりあえず。
俺はそれを、手で掴んだ。
「──『変化』」
まるで何もなかったかのように、俺の手は虚空を掴んでいた。
俺の『変化』は万物を飲み込む空腹の神。
たとえ神であろうと、俺の手は全てを喰らい尽くす。
両者一歩も引かない攻防……なのだが、実際はそんなことはない。
「まるで今までの総復習だな……」
狂弥の『時空放射』に、アルベストの『サンドライトニング』、アスファスの『凪』、アラドノイズの『焔』、ニーラグラの『旋』、カナメの『世界爆破』……。
どれも強力なカミノミワザ。
多様な神の力を一人で扱える少年……なんて言ったら聞こえはいいが。
「でもな、足りないよ。凪」
「……」
「どれもこれも、超強い。いやめっちゃ強い。理不尽なくらいにな。だけどな、おまえのはどこまでいってもニセモノだよ──アイツらの『カミノミワザ』とじゃあ、全然違えよ」
「黙れよ──俺が一番知っている」
凪が叫ぶと同時──『世界』にヒビが入る。
一瞬まるで意味が分からなかったが……それはライザーの『空間支配』。
俺の『世界』が、割れようとしている。
無論そんなことをさせるつもりなんてない。
その前に、決着をつける。
俺は凪に手を向ける。
そして──唱える。
「『奥義』──『ヴォルケーノ・マキシマム』」
それは、破滅を齎す終わりの始まり。
全てを無に帰す破壊の権化。
「……」
『ヴォルケーノ・マキシマム』が着弾する迄の数瞬。
俺は凪と目があった。
この『奥義』をなかなか使わなかったのは、心の準備をしていたからだ。
『ヴォルケーノ・マキシマム』は、全てを破壊する。
凪だって、殺す。
それが分かっているのかどうなのか、今となっては定かではないが、凪は特に抵抗する素振りを見せず俺を見据えていた。
俺も凪を見る。
──だから、気付けた。
凪の手に、狂弥の『時空放射』が詰められた石──『ループ』に必要な石があることを。
「──ッ!」
俺は駆け出す。
あれは──まずいッ!!
また、凪と目が合う。
『ヴォルケーノ・マキシマム』の脚光が目を焼く。
そんな中、凪は呟いた。
「時を──戻せ」
「待て……待ってくれ──凪!」
俺は手を伸ばす。
でも、届かないッ……!
いつもそうだ。
いつもいつもいつもいつも、いつも!
俺の足裏から爆炎が噴出される。
『バースホーシャ』の応用だ、だが届かない。
「ニーラグラ──今だけ、貸してくれ──!」
思わず叫んだ俺の声が届いたのか。
俺を、風のベールが包み込む。
凪によって封印されたニーラグラの風が、『ホリズンブレイク』が俺を更に加速させる!
あと一歩、これで凪に──!
「おまえじゃ俺を止められない──そろそろ理解しろ。宏人」
俺の手は、虚空を掴んだ。
やはり俺の手は、届かなかった。
あと一歩のところで、『ループ』が発動した。
俺の前から凪が消えた。
果たして、それが意味することとは。
ただ立ち尽くす俺に、行き場を失った『ヴォルケーノ・マキシマム』が降り注いだ。
第十五章『最終決戦・前編』──完