237話(神サイド) 生存決戦⑦
「──『スラッシュ』」
「『吸収』」!
傀羅の斬撃と、クンネルの異能が飛び交う。
それを迎え撃つは流音と星哉。
二人は『身体能力向上・特大』を持つ、人間の可動域の限界を超えた化け物。
……アリウスクラウンの『炎舞魔人』よりレベルは低いが。
だがしかし、両者とも一歩も譲らない戦いが続いていた。
……この時までは。
「くそ……!このままだと負けるな」
傀羅は舌打ちをしながら、悔しそうに拳を握る。
『呪術者』という『呪い』の最高位異能者であるというだけに留まらず、毎日毎日訓練を欠かさず行ってきたと言うのに……こんなザコらに……!
傀羅の思考を悟ったのか、流音が「ザコ言うなし!」と叫んでいるが傀羅には聞こえない。
そんな傀羅の横で、クンネルが「あっ」と声を漏らした。
「宏人に極犬・ケルベロス借りているが、どうする?もう使うか?」
「……」
傀羅の限界突破した叫び声とクンネルの謝罪と共に、決着はついた──!
「な、納得いかないっす!」
「……無念」
流音と星哉は、こうして呆気なく負けたのだった。
*
「つくづく、感謝するぜ。アリウスクラウン」
智也は漆黒の翼を背に、両手を広げて笑みを浮かべる。
まるで、自分が神に成ったとでも言わんばかりに。
これからマジモンのカミサマと戦う予定のあるアリウスクラウンとしてはたまったもんじゃない。
アリウスクラウンははぁとため息を吐いて答える。
「別にあなたに恩を売った覚えはないのだけれど」
「暗黒龍なんて規格外の存在と戦わせてくれたことだよ。まあ、なんか本気を出せていないようだったけど」
暗黒龍は宏人の『変化』によって、黒龍と暗龍を無理やり融合させた姿。
そのため宏人の『変化』の影響を常時受けられない現在、暗黒龍は存在維持に大半の力を使う必要があったのだ。
アリウスクラウンは神剣を撫で……剣先を智也に向ける。
「そろそろ終わりにしましょう。さすがに疲れてきたわ」
「そう言うなよ。冷めるだろ?」
刹那、智也の翼が巨大化していき──咲き乱れるように鋭い翼が乱舞する!
しかしアリウスクラウンは冷静にそれを神剣で対処していく。
(もっと早くて威力がエグいものを知っているからかしら──楽勝)
アリウスクラウンは翼を悉く回避し、ついに智也の目の前に辿り着く。
「うおっ。すげぇなオイ!」
智也は楽しそうに再度ツメを生やし、アリウスクラウンの神剣を受け止める。
今度は割れない。
翼が生えたこともあるし、また一つ進化したのだろうか。
アリウスクラウンは智也と鍔迫り合いをしたまま、智也の胴体に強烈な蹴りを叩き込む!
「──はっ!いってぇ」
智也の体からガラスが割れたようにパリンと音が鳴り……黒い破片が溢れる。
そこから覗くのは、智也の肌。
腹部の悪魔の外郭が割れたのだ。
人間に、戻りつつある。
アリウスクラウンはそこに勝機を見出し、再度足蹴り。
だが智也もそこは警戒していたらしく、ツメを乱雑に振り回して強引に後方へ退がった。
しかしアリウスクラウンはそれを許さず追撃。
再度アリウスクラウンの剣と智也のツメがぶつかる。
「……たく。容赦ねえな」
「当たり前よ。さっきはよくも痛ぶってくれたわね」
アリウスクラウンは真顔で、されど怒りを匂わせながら、至近距離で智也に手を向ける。
智也の顔が引き攣る──!
「『炎舞』」
炎の塊が智也に着弾。
先程と同様に悪魔の外郭はそれをものともしないが……割れた部分の肌を焼く。
智也は歯を噛み締め耐え抜き、再度翼を展開する!
「『魔羽乱舞』ッ!」
智也の翼が意思を持ち暴れ狂う。
だが、それでもアリウスクラウンにそれは効かない。
身体能力を極限まで向上させ、神剣を手に持つアリウスクラウンは、どんなスピードの攻撃も難なく対処することが可能なのだ。
アリウスクラウンを殺さんと襲いかかる翼は、全て一閃の元に斬り捨てられる。
そして──アリウスクラウンは智也に肉薄する。
突然目の前に現れたアリウスクラウンに、さすがの智也も言葉を失う。
『悪魔』の攻撃の真骨頂である翼が、まるで効かないのだ。
これが、ダクネスとの戦いを乗り越えたアリウスクラウンの力。
アリウスクラウンは、そのまま智也の首を切り裂こうと──した瞬間。
「……あ、れ?」
目から、鼻から、口から。
至る所から、夥しい量の血が舞った。
硬直する智也の前で、アリウスクラウンはそのまま膝から崩れ落ちた。
──『炎舞魔人』の限界。
アリウスクラウンの『炎舞魔人』は、ダクネスとの戦いを経て、確かに更に強く成った。
しかし──制限時間は、以前存在したまま。
体を壊すことを前提に身体能力を向上させるのだ。
ずっと使っていて平気なわけがない。
智也が、嗤う。
それを聞き……アリウスクラウンは立ちあがろうと力を込めた。
だがまるで力が入らず、血が更に噴出するだけ。
そんなアリウスクラウンに、智也は翼を振りかざす。
その直前。
「──ダメですよ智也くん。彼女を殺したら、あなたも殺さないといけなくなる」
アリウスクラウンの前に、突如カールが割って入った。
翼に串刺しにされようとカールは不死身。
そんな中、セバスは智也の背後から歩いてくる。
「……セバス?」
「はい。もう安心してください」
セバスは必死に顔を上げるアリウスクラウンに笑顔を向けながら、智也の首を撫でた。
「どうします?このまま僕と連戦します?」
「……冗談じゃねぇよ。はいはい、降参降参ー」
智也は盛大なため息を吐き……両手を挙げた。
「その感じだと、セリウスとフィヨルドは死んだ?」
「ですね。僕としてもこれ以上は勘弁なので良かったですよ」
セバスは智也から一歩離れて、あははと笑う。
立ち上がれそうもないアリウスクラウンをカールが持ち上げる。
「……ごめんなさい。こんなザコたちに負けてしまって」
「おい。ザコ言うなし」
智也は『悪魔』を解き元の姿に戻る。
アリウスクラウンは智也を見ながら、思う。
戦闘経験が足りていないだけで智也の『能力』は別格だ。
それこそ上位七人レベルであり、そこらの『能力』とは一線を画している。
セバスもそれに気付いたのだろう。
智也の肩に手を置き、ニッコリと笑う。
「ぜひ、僕たちに寝返ってください」
「……分かったよ。でも、死にそうになったら逃げるぞ?七録菜緒はマジでやばいからな」
「……七録菜緒が、ですか?アルベストではなく」
「ああそうか。お前らは知らないのか──七録菜緒はアルベスト殺して、それを『神の代姿』にしたんだよ。いつかのアスファスと同じだな」
純神の強さはそのしぶとさにある。
『神の代姿』──これこそ純神の真骨頂。
生物を己の身代わりとすることにより、殺されてもその生物を身代わりにすることで、その中にいる『神』は何ら影響なく完全に復活することが出来るのだ。
それだけではなく、『神の代姿』とした生物の異能まで行使できるようになる。
──つまり。
神人による超高速再生能力と、純神による半永久再生能力。
そして『世界真理』というこの世の理が記されたカミノミワザと、電撃を操る純神のカミノミワザを合わせ持つ──それが、今の七録菜緒。
『ッ……!』
通信機の向こうで、カナメが息を呑んだ。




