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超能力という名の呪い  作者: ノーム
十五章 最終決戦・前編
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233話(神サイド) ルーツ


 セバスが辺り一面に噴射する『炎舞』を、セリウスブラウンは華麗に避ける。

 そんなセリウスブラウンをカールが追跡し攻撃を加えるが、それすらも悉く受け流していく。


(洗礼された戦闘スタイル……アリスさんの上位互換みたいだ)


 そして、セリウスブラウンは一気にセバスに距離を詰める。


 セバスは『炎舞』を内部出力に切り替え、身体能力を底上げする。

 『炎舞』は炎を放つ異能だがその真髄は炎を操作できること。

 認識する炎の範囲は幅広く、それは体の熱も含まれる。

 

 それでもって底上げした身体能力で、セバスはセリウスブラウンの振り上げた腕を掴んだ。

 セリウスブラウンの手からは、短剣が顔を覗かせている。

 

「カール」


 セバスはカールに『アンダーテイカー』の発動準備を命令し、全力でセリウスブラウンの動きを止めた。

 

「おぉ。自分も射程の中に入ってるのによくやるよ。まあ、死んでも復活できる前提だろうけど」


 そう言いつつも、セリウスブラウンはセバスの拘束を解こうとしない──セバスの背筋が凍る。

 これは──まずい。

 

「カール!やめ──」


「──『アンダーテイカー』ッ!」


 セバスの静止よりも前に放たれるカールの最大火力光線。

 

 それと同時、セバスの予感が当たる。


 セリウスブラウンは、水を極限まで圧縮し──それをセバスの胸に放った。

 これはセリウスブラウンの式神、『海原蒼水』の異能を応用したもの。


「──ッ!」


 そのままセバスは『アンダーテイカー』に呑み込まれ消失。

 そして瞬時にカールと存在を交換──すると目の前には、いつの間にかセリウスブラウンが──!

 

 セリウスブラウンは、一度セバスとカールの存在交代を見ている。


 セバスは咄嗟に反応して腕を交差しガードするが、セリウスブラウンの短剣がセバスの肌を切り裂く。

 カールがいない状態で、セバスの左腕が死んだ。


「これは、なかなかですね……!」


「うふふ。油断してると死んじゃうよ?」


 セバスは苦し紛れに炎を散らした。

 しかし、やはりと言うべきかセリウスブラウンはそれを簡単に回避する。

 戦闘に慣れている、完璧なヒットアンドアウェイ。

 ここに『無効』が組み合わさることで、完全な戦闘スタイルが完成する。

 七音字幸太郎とはベクトルが違う身体能力。

 セバスは苦し紛れに右手で炎を撃ち続ける。


 そして──ついにセリウスブラウンは生身でセバスに肉薄した。


 ……セバスが、ニヤリと笑う。


 *


「──七録カナメくん。今日からきみは、私の子です」


「……は?」


 右方から「おかーさま!こんな奴いりませんっ!」という悲鳴を聞きながら、セリウスブラウンはニコリと笑った。

 それは、セリウスブラウンの生前のこと。

 まだ七録カナメとアリウスクラウンが幼かった頃のこと。

 肉親を亡くし、姉と引き離されたカナメを、セリウスブラウンは保護したのだ。

 実の娘であるアリウスクラウンは大変反対していたが、次の日になれば興味を無くしたのか何も言わなくなった。


 セリウスブラウンは元軍人である。

 そのため『能力』を応用した軍式戦闘術を自在に扱え、日々アリウスクラウンとカナメに叩き込んでいたのだ。

 ……結局カナメは今でも出来ていないのだが。


「おかーさま!鬼!」


「……まじ無理」


「はいはーい。休まない休まない」


 アリウスクラウンとカナメの言葉を聞き流し、セリウスブラウンは毎日欠かさず戦闘術を二人に教える。

 たまにカナメの友人である七音字幸太郎も訓練に加わったりしていた。

 幸太郎は二人とは違い積極的に参加していたためメキメキと成長し、あっという間にカナメを抜き、天才と言えるアリウスクラウンと並ぶまでに至ったのだ。

 

 やる気のない天才と、やる気のある秀才……そしてやる気のない凡才。


 セリウスブラウンは、そんな彼らを育てるのに喜びを感じていた。

 ある日、カナメがサボりながらセリウスブラウンに聞いてきた。


「サボらないでー?」


「なあ、あんた何に急いでんだよ」


「……え?」


 子供ながらになかなか鋭い言葉に、セリウスブラウンの言葉が詰まる。

 ……当のカナメは鼻をほじりながらだったが、セリウスブラウンには見えていなかった。


「なに、急に。急いでるって?」


「いや急いでんだろ。毎日毎日休みなく俺たちを鍛えて……菱花でも殺したいのか?」


 菱花。

 闇裏菱花。

 この『世界』の頂点たる精神生命体である『神』をその身に降ろすヒトの一柱。

 そして、カナメの家族を殺した者。


(……まあ、あれは菜緒ちゃんの能力がヤバめだから致し方なくだろうけど)


 基本神ノーズは現世に関わらない……否、関われない。

 干渉できないよう、三柱の神ノーズが互いを監視しているのだ。

 そんな中、七録家の虐殺。

 おそらく、七録菜緒の『世界真理』から消したい情報でもあったのだろう。

 セリウスブラウンの知るよしではなのだ。

 

「そんなわけないよぉ。だって私菱花って人に怨みないもん。むしろカナメっちがウチに来てくれて嬉しい感じだよー?」


「……とても家族殺された俺に向ける言葉じゃないと思うんだが。まああんたみたいな変人の言葉なんぞいちいち気にしないけど」


 変人て。

 それよりも。


「サボんなー?」


 嫌々と訓練を再開するカナメを尻目に、セリウスブラウンはカナメの言葉を反芻する。


(急いでる、ねぇ……。そりゃあ急ぐよ)


 ──そして、予感は的中する。


「やあ、初めましてかな?私の名はアスファス。こっちはエラメスだ。きみに話がある」


「……」


 ある日、突然アスファスとエラメスが家に押しかけてきたのだ。

 そしてセリウスブラウンは──咄嗟に逃げる判断をした。


 セリウスブラウンはアスファスたちが来るのを予感していた──それはアスファスが強者を収集しているからだ。

 ここにはセリウスブラウンだけではなく、アリウスクラウン、カナメ、幸太郎といった、『者』級に準ずる者たちが集まっていたからである。

 

 逃げるために踏み出した足が、なぜか止まった。


 頭の中に、アリウスクラウン、カナメ、幸太郎の顔が浮かぶ。


(私は生きたいの。あの子たちを育てたのも、私を助ける戦力が欲しいからで……!)


 目指す道は、一つ。

 ただ、生きること。


 そう決めたセリウスブラウンは、次の瞬間──


「──式神構築」


 *


「……あっはは。二回目なのに、まぁた死ぬ」


 乾いた笑いをこぼしながら仰向けに倒れるセリウスブラウンを、セバスは無表情で見下ろす。

 そんなセバスの顔を見て、セリウスブラウンは今度は楽しそうに笑った。


「いやいやぁ。まさか、きみもあの死神くんと同じ異能使えたんだね」


「この式神は『アンダー・テイカー』を解放するための『世界』ですからね。当然です」


(まあ、カールが死んでる時にしか使えないけど)


 セバスは内心でそう思いながら、無難に答えた。

 


 ──セリウスブラウンがセバスに肉薄してきてから、勝負は一瞬でついた。

 

 セリウスブラウンの短剣が届く前に、セバスは奥の手、『奥義』──『アンダーテイカー』を放つ。

 セリウスブラウンはそれに驚いたが、そこらの人間と一線を画す動体視力でもってそれを認識……『無効』を発動。

 

 その瞬間、セバスは『無効』に『適応』をし──セリウスブラウンは『アンダーテイカー』に呑み込まれたのだ。

 一瞬の間に繰り広げられた『能力』の応酬。

 セバスは、それに勝ったのだ。



「先程僕がお腹に穴を開けたのに治ってたのは、『無効』ですよね。てっきり『適応』と同じように攻撃を無効化する類いのものかと思ってましたが、まさか傷も無効に出来るとは思いませんでしたよ」


 セバスはそう言いながら、倒れ伏すセリウスブラウンの目前に指を添える。

 その指先に、莫大なエネルギーが収束していく──


「……あっはは。せめて、最期にアリスちゃんの顔、見たかったなぁ」


 セリウスブラウンがそう呟いた次の瞬間──『アンダーテイカー』が吹き荒れた。


 *


「カカカ。相変わらず容赦ないものだ」


「きみに言われたくないよ、カール。『アンダーテイカー』、ギリギリ僕を殺さないよう調整できたでしょ」


「本気で言っているのか?オマエは死んでも問題ないだけで痛覚はあるからな。苦しまぬよう一撃で殺してやっただけよ」


 セバスはフィヨルドの死体を燃やしながら、カールと会話していた。

 フィヨルドの『呪い』である『ネクロマンサー』は、死体を操る異能。

 この『世界』を崩壊させたら死体も勝手に消滅するとはいえ、年には念のためだ。

 セリウスブラウンは『アンダーテイカー』で跡形もなく消え去っている。


「ねえ、カール」


「分かっている。我たちは繋がっているのだぞ。おかげで我も──アルドノイズを救出したいと思ってしまっている」


 カールの言葉を聞き、セバスは立ち上がった。

 途端にフィヨルドの死体は爆発し、吹き荒れる風がセバスの髪を揺らす。



「この決戦が終わったら──宏人くんを、殺す」


 

 宏人の中のアルドノイズが、ドクンと脈打つ。




 

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