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超能力という名の呪い  作者: ノーム
十五章 最終決戦・前編
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230話(神サイド) 生存決戦①


 早朝、俺たちは目を覚ますと同時に生存戦争跡地へと駆け出した。

 深夜帯の方がいいという意見もあったが、やはり目の利く朝の方がいいだろう。

 凪には俺の思考なんて筒抜けだろうし……なんて、思考停止のようなことは言わないけれど。

 相手が凪となると、小細工は効かない。

 既に生存戦争跡地にて待機していることだろう。

 今回、俺たちは挑戦者側だ。


 なら、俺たちがやりやすい時間帯で戦った方が、正解なのだ。


 ──そんなこんなで走り続けること十数分。

 

 遠くの方に、仁王立ちで腕を組む男の姿が確認できた。


「……あれは裕雅……じゃないな。フィヨルドか」


「誰が相手するの?時間ないわよ」


 アリウスクラウンの問いに、セバスが笑う。


「僕にやらせてもらえませんか?すぐに終わります」


 セバスの謎の積極性に、瑠璃が首を傾げる。

 セバスはこの中でもトップクラスの実力を持つのだ。

 そうそう別行動を取らせるわけにはいかない……のだが、そうは言いつつも油断は禁物だ。


「いえ。ちょっとした因縁の相手の気配もするので」


「……私のお母さん?」


「はい。アリスさんと合わせるのは良くないと思いますので、宏人くんたちは先に行っておいてください」


「……任せるぞ?」


「心配し過ぎだよ、宏人くん。任せてください──もう、あの女には負けません」


 あの女……?

 俺が問う前に、その答えは目前で示された。

 セバスの首元に、鋭い刃が振られたのだ。

 それをセバスは鎌で弾き──ニヤリと笑った。

 悪魔のように……死神のように。


「また会えて嬉しいですよ。セリウスブラウンさん」


「私もびっくりだよー。まさかまさか、きみが生きていたなんてねぇ」


 二人の言葉の応酬を尻目に、俺たちはフィヨルドを通過し先を急いだ。

 フィヨルドはセバスにはセリウスブラウン一人では荷が重いと察したのか、特に俺たちを止める様子はなかった。

 

 そして、俺たちは生存戦争跡地へと到着する。


 *


 セバスは静かにセリウスブラウンとフィヨルドを見据える。

 その無機質な瞳には、なんの感情も見受けられない。

 セリウスブラウンは無感動を模したような人間であるセバスにちょっとした気味悪さを感じると共に、自分とは違う人間は興味深いと知的好奇心に溢れていた。


「きみ、やばい強いね?フィヨルド勝てそ?」


「……。貴様と共になら、勝率はないことはない」


「でもぉ──セバスくん、なんか出すつもりだよ?」


 セリウスブラウンの言う通り、セバスは背後の空間に穴を開ける。

 その穴よりいずる者は。


「来て──カール」


 禍々しくも、人の原型をしている化け物。

 死神の片割れにして、セバスの分身体──カール。

 カールが顕現した瞬間、セリウスブラウンとフィヨルドはすぐにセバスに襲いかかる。

 カールの不気味な雰囲気に圧倒されたのだろう。

 セバスはそれに、冷静に対処する。


「「「式神構築──」」」


 それは、三人同時に言い放たれた。

 初見殺しにして、絶対の必殺技である式神構築。

 新たなる『世界』を創造し、誘う者に独自のルールを課す最大にして最強の奥義。


「『幻想幻魔』」


「『海原蒼水』」


「『死屍累々』」


 三者それぞれの『世界』が拮抗し、三つの『世界』がごちゃ混ぜになった空間が誕生する。

 初めての事態に三人は困惑するが……戦い慣れしている三人はすぐに察した。


 ──誰か一人でもダウンすれば、その時点でこの『世界』の支配者が確定する、と。


「『爆破』」


 セバスはそう思考するや否やノータイムで大爆発を起こす。

 カナメのカミノミワザのもとである超級異能。

 威力だけでなく速度も申し分なく、攻撃以外にも様々な用途がある優れた能力。

 

 それをセバスは、おそらくこの中で一番の格下であろうフィヨルドに向けて集中して放つ。

 フィヨルドは年齢に見合わぬ華麗な動きで悉く爆発を交わすが──それをカールは許さない。


「ッ!?」


 カールも続けて『爆破』を行使し、驚くフィヨルドを容赦なく爆発に巻き込んだ。

 フィヨルドへの一旦集中砲火。

 それは、セリウスブラウンにとって格好の隙。


 セリウスブラウンは、もちろんそれを見逃したりなどしない。


 セリウスブラウンの短剣が、セバスの背中を貫く。


「あっはは。油断してるから」


「……ゴフッ」


 セバスは血反吐を吐きながら、膝から地へ崩れ落ちる。

 それと共に、セリウスブラウンは背後から『能力』の発動の起こりを察知。

 これは、未だ健在のカール。

 セリウスブラウンは、『爆破』に備えて回避の準備を──!


「──『光線』」


「……へっ?」


 それは、プライネットの異能。

 そう、カールは既にカールではなく──セバス。

 『光線』が、セリウスブラウンに直撃した。

 セリウスブラウンは白目を剥きながら彼方へと吹っ飛んでいく。


 それを見届けて──セバスは再度発動する。


 この『世界』の支配者とは誰か。

 そう、『世界』に問いかける。



「式神構築──『死屍累々』」


 

 死体が積み重なる、地獄絵図。

 死臭が漂い、死者の魂が躍る『世界』。


 『世界』は、そう変化した。


 セリウスブラウンとフィヨルドが、よろよろと立ち上がる。


「おぉぅ……。これ、まずいね」


「……まったくですな。はてさて。どうなるものか」


 そんな二人に対してセバスは──座って寛ぎ始めた。

 訝しみながらも、目を疑っている二人を見て、セバスはあははと笑う。


「カール。やって」


「──カカカ!ついに俺様の出番ってわけか!」


 今の今まで無言だったカールが、突然喋り出し、高笑いする。

 そんな光景も束の間、カールの手は既にセリウスブラウンの喉元へ。


「──ちょっ!」


 セリウスブラウンは死ぬ気で短剣でガード。

 カールの鋭いツメと鍔迫り合いになるが……段々とカールに軍配が上がっていく。


「フィヨルド!」


「分かっている!」


「させない」


 セリウスブラウンのもとに助太刀に行こうとしたフィヨルドに、セバスの牙が剥く。

 

「貴様は休んでいるのではなかったのか!」


「あれはちょっとカッコつけちゃっただけです。空気読んでくれます?」


 セバスの鎌がフィヨルドを貫く寸前、フィヨルドの服の中からいくつもの腐卵したナニかが飛び出し──やがてそれらは形を一つとし、鎌からフィヨルドを守った。

 死体の盾。

 死後硬直を利用した、死体の壁。

 それをフィヨルドの『ネクロマンサー』でもって形成したのだ。

 鎌を弾かれたセバスは大きくのけ反り──フィヨルドが反撃を警戒したが、それをすることはなく。


 ただ淡々と、言った。


「カール──『能力』解禁」



「カカカカカカ!いいだろう!──『アンダー・テイカー』ァ!」



 カールの『カミノミワザ』の、極太の光線がフィヨルドを包み込む。

 それはプライネットの『光線』とは格段に威力が違う、破滅の塊。

 

 ──しかし。


 漂う煙の中から、フィヨルドは姿を現した。


「──セバス・ブレスレット。確かに貴様は強い。そして私は弱い……だが。私たちには、七録菜緒という全智の神人殿がついていることを忘れるな」


 フィヨルドは、全身をドス黒いモノで覆い、手には刃渡り数十センチといった、とてつもなく大きな長剣を握っていた。

 するといつの間にかセリウスブラウンも、自身を式神で覆っている──これは、式神吸収。

 

 ここはセバスの『世界』だ。

 セバスの許可なしに、他人が式神を自在に操ることは許されていない。

 顕現という、ただ式神そのものを面に出す術しか、本来なら出来ないはずなのである。


「……七録菜緒の秘策、といったところですか?」


「そうねぇ。そんな感じだね」


「貴様は我々を、少しでも七録菜緒の負担を減らすための脇役にしか思っていないようだが……それは違うとだけ言っておこう。もう、一昔前までの私ではない。貴様すら殺せる、強者だということを忘れるな」


 今までの比じゃないオーラを放つセリウスブラウンとフィヨルドに、セバスは目を細める──


(これは……ほんとうにめんどうだな。多分だけど、この二人以外もこの領域まで強さを引きずり上げられている。本命のアルベストか菜緒を少しでも楽にするためかな──だとしても)


 セバスは鎌を背にかけ、ため息を吐く。

 『能力』量を温存していたかったが、そうは言ってられないのだ。

 幸い、『能力』の回復手段は用意してある。


「仕方ないですね──死ぬ前に一回、僕の本気を魅せてあげますよ」


 背後のカールが霞むような、まるで敵役のような──ヴィランの顔で、セバスはそう言った。

 

 なにせ、セバスは死神なのだから。


「もう一度だ、カール」


「カカカ!了解だ!」


「ふむ。気を抜くなよ?セリウスの」


「あはは。私はおじいちゃんのきみの方が心配だよ」

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