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超能力という名の呪い  作者: ノーム
十五章 最終決戦・前編
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229話(神サイド) 晩餐


「──お前たち、準備は整ったか?」


 凪は一言、皆にそう問うた。

 目の前には、智也、裕雅、生神、フィヨルド、モルル、セリウスブラウンの姿が。

 それぞれが違う思惑を掲げているため、その表情はさまざまなである。

 顔に曇りがないのは、智也とセリウスブラウンといったところ。


「なんだ凪。成功したのか」


 智也は凪の肩に手を組もうとし……弾かれる。

 凪の冷徹な瞳を向けられ、智也はつまんなと言いながら離れた。


「紹介しよう。こいつがアルベストに代わる、俺たちのリーダー。七録菜緒だ」


「はいはーい。みんなよろしくねー」


 菜緒は軽い挨拶と共に姿を現した。

 瞬間、菜緒の首に一筋の刃が。

 しかし菜緒はそれを人差し指で止め──裕雅に笑顔を向ける。


「次はないよ?」


「……。認めよう。本当に、アルベストを殺したんだな」


 裕雅の振った勇者剣と菜緒の人差し指の間には、凄まじい電流が流れていた。

 その電流でもって、勇者剣の一閃を止めたのだ。

 確かに裕雅は本気を出したわけではない。

 だがそれでも、なんでも斬れる勇者剣が止められたのだ。

 そのことに、フィヨルドも頷く。


「ふむ、なるほどな。神人が神の死体を取り込んでいるのか……それは、『世界真理』が可能にするのかな?」


「そうね。ソウマトウから聞いた?私のこと」


「……勝手ながら、似合わないとは知りながらも傷心中のため、彼女の名は出さないでいただきたい」


「あっそう。分かった分かった」


 菜緒は興味なさげにフィヨルドとの会話を切り上げる。

 そして、今度はモルルとセリウスブラウンの方を見た。


「お二方は確か生存戦争の生き残りだよね。そっちのオトナのオンナの方は死神の成れの果てに勝ったのだとか」


「いやいや、彼は本気を出してなかったから、とても勝ったとは言えないよぉ。加えて死体が突然気持ち悪い悪魔に変貌したからね。あれ、多分死んでないよ」


「そう。そちらのおチビさんは?なんか有名な人とか殺したっけ?」


「……」


 菜緒の目線には、虚な瞳をしたモルルが。

 モルルの目は焦点が合っていない。

 そんな無気力なモルルの前に、生神が立つ。


「今モルルも傷心中なのでね。そっとしておいてやってくれないか?」


「……生神、ねぇ。なんで今更あんたも地上界のこんな戦いに参加してんの?」


「なんで、と言われてもな……。知っていると思うが、近年七録カナメ一行による強者狩りが盛んだ。強者を仲間に勧誘し、敵意を見せれば殺される。私みたいな無駄に強い者はな、勝てる方に命を預けるしかないのだよ」


「それ、言ってて恥ずかしくないの?自分は地味に強い神で、カナメに狙われる対象だからニンゲンと一緒に戦いたいですーって。まあ、ぶっちゃけなんでも良いんだけどねー」


 菜緒は言いたいことだけ言って、生神とモルルから視線を外した。

 それを見計らい、凪は口を開く。


「宏人たちは、おそらく明日の朝一番には生存戦争跡地に向かうだろう。そこをお前らが襲撃しろ。俺と菜緒は、カナメを倒すために力を温存しておきたい。死ぬ気で殺しにかかれ」


 凪は変わらず冷徹な目を皆に向ける。

 だが、凪の視線に臆する者などこの場にはいない。

 そして凪は当日の作戦を伝える。

 智也と菜緒はまったく聞こうともしていないが……この二人は問題ないと割り切ることにした。

 というのも、正直言って負ける気がしないからだ。

 カナメ陣営は、カナメを抜くと一番強いのは向井宏人。

 ダクネス戦以降、神人級の強さを持つ宏人だが……勝てない敵ではないのだ。

 

(あいつは、『変化』さえ気をつければどうとでもなる)


 凪はそう確信し、ほくそ笑んだ。


 

 ──夜。



 凪が歩いていると、背後より智也に声をかけられた。


「なんだ」


「いんや?なんでお前はあんなあからさまに向井宏人を裏切ったのか疑問に思ってな。おかげで宏人、めちゃくちゃ強くなっちまうんじゃねーの?」


 智也は笑いながら凪の肩に手を組もうとし……バチンと弾かれた。

 

「相変わらずつまんねっ」


「別に理由はない。ただ、ハッキリさせておきたかっただけだ。宏人だけではなく、自分にも。これより、敵対するのだと」


「へっへー。ご立派なことで。時戻してまず仲良しこよしやってたことを無かったことにすりゃあ良かったのにな──それとも?その時戻しで何か企んでたりするのか?」


「……」


「けっ。だんまりかよ。まあ大雑把らしいが未来も見通せる菜緒がいるんだ。精々、裏切りの裏切りの裏切りだけはやめてくれよ?裏切り者さん」


 それだけ言うと、智也はどこかへ行った。

 ……裏切り者か、と凪は呟く。

 

「……そうだな。どこに行っても、俺は裏切り者だ」


 夜風に当たりながら、凪は静かに独りごちた。


 *


 生存戦争跡地への出立が明日の朝一に迫る前日の夜。

 俺たちは取り敢えずの拠点にしていたアパートから、ご立派な旅館へと拠点を移していた。

 瑠璃が、最後の戦いの前日ぐらい盛大にパーッとやりたい、と言い出し、みんなでワイワイ遊び……今、外のこれまたご立派な庭に来ている。

 俺は約束通り、那種に時間を取っていたのだ。


「違うか。今は『サタノファニ』使って傀羅なんだっけか」


「ああ。死んだ俺を憐れんだのか、それとも戦いが怖くなったのか。それは那種に聞かなければ分からない。ともかく、俺は那種の体を操って現世に存在を繋ぎ止めているだけの、ただの死者だ」


「……。そんなただの死者のお前は、なんでまだ俺たちに協力してくれるんだ?今の俺たちとお前には接点なんて一つも……それこそ、智也たちの方で戦った方が正解なんじゃないのか?」


「そうだな。そうかもしれない。だけど俺は、あなたに可能性を見出している」


 傀羅のまっすぐな瞳が俺を射抜く。

 ……可能性、ね。

 確かに、俺は可能性に満ちているだろう。

 なにせ俺には、アルドノイズの力と、狂弥の力があるのだから。

 俺からこの二人の力を取ると、俺はどうなってしまうのか。

 たまに、そんなことを考える。


「俺たちの方が凪たちに勝てる可能性が高いからここにいるのか?」


「そうじゃない。俺が今どう思っているかなんて関係ないんだ」


「……関係ない?」


「──ああ」


 そして、傀羅ははっきりと言った。

 もしもの未来への、保険を。

 那種という少女の心の内を。


 その話に俺は……。


「これはあなたに可能性があるからだけじゃない。責任の問題でもある。あなたが体の中で育ててきたソレに対抗出来る人間は限られている。だからこれは善意じゃない。悪意だ。そのことをぜひ、覚えておいてほしい」


 *


 思わず、ため息が出る。

 傀羅が去っていったあとも、俺はその場を離れないでいた。

 夜風が冷たい。

 相も変わらず、季節はバグっている。

 

「風邪引いて明日休んだらタダじゃおかないわよ?」」


 浴衣姿のアリウスクラウンが、背後から声をかけてきた。

 

「……お前こそな。あと浴衣って。明日朝一なのに面倒じゃないか?」


「私は『炎舞』で無理やり体温調整できるからいいのよ。逆に旅館に来て浴衣を着ない宏人のセンスの方がないわ。うんこよ」


「あっそう……。まあ、なんだ」


 俺は後頭部をガリガリ掻き、傀羅が言っていたことを相談しようとし……やめた。

 アリウスクラウンの姿から見て分かる通り、今は休みなのだ。

 満喫している奴に、わざわざ暗い話を持っていくのは野暮なことだ。



「頼むから、死なないでくれよ?」


「宏人がいれば死にたてなら大丈夫でしょっ」


 

 そこは死なないとか言ってほしいものなのだが。

 俺とアリウスクラウンが話していると、今度は瑠璃とセバスもやってきた。

 

「二人で楽しそうね。駆け落ち?」


「もしそんなことを考えているんでしたらもうさっさとやってくださいね?当日いない方が困ります」


「そんなことはどうでもいいとして……今旅館の中クンネルと傀羅か?めちゃくちゃ地獄だろ」


「地獄の式神持ってる宏人が言うのはシャレにならないわ。でも、確かにおもしろそうね」


『ねぇ楽しそうなのムカつくんだけどさっきからぁ!俺だけ仲間はずれ酷くない!?」


 突然通信機からカナメの悲痛な叫びが上がり、俺たちはとにかく笑った。

 そして、笑いながら、思う。


 願わくば、誰一人欠けず明日を乗り越え──凪の顔面をぶん殴れるように。


 俺は、そう思わずにはいられなかった。




 ──そして、朝。




「宏人。セバス。アリウスクラウン。クンネル。傀羅。そして、私こと瑠璃。──全員、生きてこの作戦を決行すること。いいわね!?」


 瑠璃のその一言を合図に、俺たちは生存戦争跡地へと、駆け出した。

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