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超能力という名の呪い  作者: ノーム
十五章 最終決戦・前編
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227話(神サイド) 謀略


 それは、宏人たちが戦っている時のこと。


「──菜緒。どうして僕がカナメを殺しにいかないか分かる?」


「あら、答えてくれるの?」


 アルベストの問いに、菜緒は興味深そうに食いついた。

 ダクネスと宏人たちの戦いが苛烈を極める中だが、両者はそれを見向きもせずに向かい合う。


「ああ、いいよ。でもお前にはやってほしいことがある。引き受けてくれるかい?」


「内容によるよさすがに。何命令されるか分かったもんじゃないからね」


「おおー信用ないね僕。でも、このお願いはきみのためにもなることは絶対だ」


「へぇ。聞かせて。とっても興味深い」


 『世界真理』は全てを把握出来るカミノミワザだが、それは一度でもこの『世界』に顕現されたものに限られる。

 人の頭の中までは見通せない。

 アルベストはそれをよく知っている。

 そんなアルベストのことも、菜緒はよく知っている。


「カナメを排除する簡単なお仕事さ。引き受けてくれるかい──おねえさん?」


 *


 カナメはバンッ!と円盤型のテーブルを叩き割った。

 神の間にて、一人の残されたカナメは、映像越しに手を振る姉──七録菜緒を睨む。


「やってくれたな……クソ姉貴」


『聞こえないよ。なーんにも』


 カナメは菜緒の映る浮遊するディスプレイを『爆破』し、はぁとため息を吐く。

 先程セバスたちが再度ルール5に抵触し、カナメは神人として出撃の権利を得ることが出来た……が。

 転移装置が、発動しない。

 ここは神の『世界』の一つ。

 転移でしか現世と移動手段のない外界。

 そんな重要な役割を持つ転移装置を、何者かによって破壊された。

 常に淡く光輝いている転移装置が、色を失っている。


 つまり、カナメはこの『世界』に取り残された。

 封印、された──!


 状況的にも、知識的にも、こんな事出来るのは菜緒しかいない……!


 カナメは後頭部をガリガリ掻き、ポケットから『通信石』を取り出す。


「セバス。アリウスクラウン。瑠璃。宏人。緊急事態だ」


 *


 カナメからの連絡を受けてから、セバスたちは宏人の元へ急ぐ。


「カナメの封印……。これ、かなりまずくないかしら」


「でもマルフィットって奴がへんてこな通信機作っていてくれてたのが不幸中の幸いね。……カルマの死体から見つかったってんだから思うところはあるけれど」


「そんなことより今は宏人くんです。彼が死ねばアルドノイズ様が顕現してしまいます。この状況での復活はさすがに困ります」


 セバスたちはカナメに指示されながら『メンバーズ』本拠地へと向かっている。

 宏人に渡した通信機の現在地がそこなのだ。


「カナメくん。七録菜緒はどうしますか。彼女なら今の僕たちと宏人くんがいれば勝てます」


『駄目だ。言っとくけど、あいつが俺の姉貴ってことはまったく関係ない。ただリスキー過ぎるだけ。考えてみろ、仮に菜緒を殺せたとしても、背後から凪たちアルベスト軍に襲い掛かられたら全滅だぞ』


「ええ。カナメの言う通りよ。彼女の相手は──私に任せて」


 瑠璃は、力強くそう言った。

 それから三人は、黙って先を急ぐ──。


 

 メンバーズ本拠地に着くと、一同の足が止まった。



「え、うそ……」


 アリウスクラウンの足が震える。

 瑠璃の顔が強張る。


 そんな中、セバスは一歩を踏み出した。

 セバスはもう瓦礫と言ってもいいほど壊れた本拠地の中を歩き続けると、人の気配が。

 慎重に扉を開け……その向こうにいた人物を見て一息つく。


「ただ今帰りました。クンネルさん、那種さん」


 *


「……ぁ」


 やけに強い朝日を浴び、俺は目を覚ました。

 ……生きている。

 あと少しでも意識を保てなかったら、俺はあのまま殺されていただろう。

 凪、に……。

 気絶して目を覚ましたあとは、決まって凪が『目を覚ましたか』とか言ってくれて──。


「目が覚めましたか?宏人くん」


「……なんだ。セバスか」


「おっと、なかなか酷い反応ですね」


 セバスは鎌を磨きながら、あははと笑う。

 生存戦争が終わるまでまだ時間が残っていた以上、セバスがここにいるということはカナメもいる──


「カナメくんはいませんよ。七録菜緒に嵌められて封印されました」


「……そうか」


 俺は反応する気力も湧かず、再度ベッドに横になる。

 

「……みんなの死体は」


「埋葬しましたよ。酷い惨状でしたね」


 セバスは俺を見ずに鎌を磨き続ける。

 本当に、こいつは何を考えているのか分からない。


 俺はセバスを残して部屋を出ると、やはりここは『メンバーズ』の本拠地ではなかった。

 宿屋……以前カナメと瑠璃、そしてニーラグラと拠点にしていた所だ。


『宏人。調子どう?』


「カナメか。そっちこそ無事かよ」


『いっやーほんとに暇で忙しいよ。ここ何にも出来ないし。ディスプレイで見れるのは生存戦争の会場だったなんの変哲もないつまんねぇ森しか見えない始末。ヤになっちゃうね』


「俺たちはどうやったらお前をそこから引き摺りだせると思う?」


『とりま生存戦争が終わるまで耐えてくれ。そうすりゃ自動的に解放されるはずだ。……逆に。姉貴や凪たちアルベストは、その間に攻めてくると思え』


 そこでカナメとの通信を終えた。

 マルフィットという上位七人が作ったらしいこの機械、ないとは思うがバッテリー切れとかになると困るからな。

 カナメを更に暇にしてしまうのは悪いが、ここは我慢してもらわないと後々が心配なのだ。

 

「──宏人。来たわね」


「ああ。久しぶりだな、瑠璃。俺何日寝てた?」


「私たちが保護してから丸一日よ。だから、カナメが解放されるのは三日後ね」

 

 優雅に紅茶を飲む瑠璃の真正面に俺も座る。

 カナメの解放まで三日……。

 カナメの予想が正しければ、この三日以内に奴らは来る。


『僕らにはやるべきことがあるんでね』


 逆に凪やアルベストは、今何をしている……?


「瑠璃。お前はどう思う?凪やアルベスト……そして智也、祐雅、フィヨルドの目的について」


「一気に言い過ぎ。……まあでも、私あってないから知れないから分からないわ」


「そうか……。まあ、当然だよな」


「隣、いいか?」


 考え込む俺の横に座ってきたのは、クンネル。

 いつもハキハキとしている彼女だが、やはり今は元気を感じられない。


「……『NoS』と『YES』なんてふざけた組織の元メンバーも、ついに俺らだけになっちまったな」


「ハハ。確か凪も智也もだったと記憶しているが?」


「凪はともかく、智也は絶対にカウントしないわ。今の今まで呑気にしてたくせして、いざこの状況になったら寝返るんだもの。まったく、一番警戒すべきは味方ね」


『えー。俺って古参じゃな感じ?』


「おいカナメ。こんな雑談に大事な通信機使うんじゃねぇよ……」


「そうだぞ。……あ。そうだ、私とは話すのが初めてだったな七録カナメ」


『ん……?そうだな。新人?』


「……カナメ。あなた絶対殴られた方がいいわ」


 瑠璃のその一言で、俺らは笑った。


 久しぶりに、本格的に休めた気がする。

 来る日も来る日も戦いの日々の中、細やかな楽しささえ愛おしくてしょうがない。

 

 ……ダクネスと戦って以降、俺の頭の中では常にあいつの笑い声がする。

 

 その声をひとときの間だけでも忘れられたことが、何よりも救いだった。


 *


「やっ。無事カナメを封印出来たみたいだね」


「ええ。おかげさまでね」


 全知の神人である菜緒の前に、アルベストが気さくに現れる。

 もちろん、菜緒はアルベストが来ることを知っていた。


「そんなに、強くなりたいんだ」


「ああ。これから僕は神に楯突く叛逆者を全て殺さないといけないからね」


「随分な変わりようだね。ついこの間までは向井宏人たちの動向を見て楽しんでたじゃん」


「はは、知ってるくせに。状況が変わったのさ。神ノーズから許可が出た。今までは僕の敵ですらなかったから楽しんで見ていられたけど……向井宏人たちは、さすがに強くなり過ぎた」


「それは、あのザックゲインとの戦闘を見て?それとも──昨日死ぬ寸前まで追い詰められたから?」


「ははっ。やっぱ知られちゃってたか。恥ずかしいな。まあ、今更だけど断言する。今の僕じゃ彼らには勝てない」

 

 アルベストは、清々しくそう言った。

 そして、アルベストは問う。


「菜緒。どうしてお前は、僕から逃げなかった」


「それは簡単──私もあんたに用があるから」


 菜緒とアルベストの間に一陣の風が吹く。

 

 アルベストは、笑う。



「あれっ?お前、僕と同じ目的?」



「──あれ、バレちゃった?」



 刹那。

 菜緒の拳が、アルベストの腹部に打ち込まれた。

 アルベストは、驚きに目を見開く。


「おぉ。きみって接近戦タイプなんだ。意外」


「あんまり効いてないよねー。でもま、問題なしっ」


 菜緒はニヒルな笑みを浮かべながら、架空より一冊の本を取り出す。

 その表紙の名は。


「──『世界真理』」


「はは。僕は『ループ』のことなんて知らないけど、きみが戦うのは初めてなんじゃない?菜緒」


「そうかもね。今までは特に戦う理由とかなかったから」


 菜緒はそう口にしながら、アルベストの方は見ずに『世界真理』のページを捲った。

 すると、本の名前が変化する。

 アルベストは不思議に思い、目を凝らしてタイトルを見た。



 『アルベストの殺し方』



「……はは。ふはははは。面白いね、楽しそうだ」


「私もあんたを殺す理由は強くなりたいから。それだけ」


 菜緒は既に、自らの体を神の『神の代姿』として役割を果たせるように改造している。

 カナメの神人化、ライザーの死、ダクネスの死、宏人の覚醒……時代は変化しつつある。

 『世界真理』は、菜緒にも変化を要求してきた。

 ……しなければ、死ぬぞと。

 菜緒は『世界真理』に従う。

 今の菜緒に足りないのは圧倒的な強さだ。

 なら、純神という神ノーズ候補である本物の神の中で、現段階で最強ともいわれる存在のアルベストの力を取り込めば……強くなることは必然なのだ。


 カナメは『神の間』に封印。

 邪魔な要素などない、完璧な状況。


 菜緒とアルドノイズの口角が吊り上がる──!


「「式神構築」」


 両者の声が、重なる。


「『雷迎豪雨』」


「『全知全能』」


 両者の『世界』が構築されていく中、アルベストは楽しそうに言った。



「さぁ──勝った方が、負けた方を『神の代姿』にするゲームを始めようかッ!」



 宏人たちの見知らぬ所で、神人と純神が激突する──!

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