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超能力という名の呪い  作者: ノーム
十四章 続・生存戦争編
232/301

224話(神サイド) ヒトの身で


 『雷迎豪雨』という『世界』の中で、『極変廻在』という『世界』を見に纏う俺とアルベストの肉体をその身に降ろしたザックゲイン。

 二つの『世界』は拮抗する事なく調和し、権能はそのままの状態で両者に与えられる。


 俺の『エンチェンジ』が、ザックゲインを襲う。


「これ、遠距離型の『変化』だ。怖すぎ!」


 ザックゲインは何でも斬れる異能が付与された勇者剣で俺の『エンチェンジ』を斬り裂く。

 そして落とすはおよそ十束の稲妻。

 『雷迎豪雨』の式神の役割を担う、変幻自在の雷たち。


「『黒焔』」


 だが俺が上空に向けてドス黒い焔である『黒焔』を放つと、雷雲によって支配されていた空が晴れる。

 『黒焔』は全てを無と化し灰燼と帰す。

 そんな天候さえも操る『黒焔』に、ザックゲインは苦笑いした。


「それやっばいね」


「次はお前に当てる」


 暗黒龍が『バースホーシャ』を穿く。

 ザックゲインはそれを『サンドライトニング』で相殺しながら、その目を暗黒龍に向ける──。

 

「まずはきみだね」


 ザックゲインは『サンドライトニング』を駆使し、一瞬で暗黒龍の元へ。

 その首に勇者剣を振るうが──硬質な暗黒龍の外郭は、そんな攻撃じゃ傷つきすらしない。

 ザックゲインのガラ空きになった背中に、ケルベロスが『重力』を発動。

 地に叩きつけられるザックゲインは、口から血を垂らしながら笑う。


「たはは……。『リンク』中はこいつらに宏人の『能力』が共有されるんだね」


「呑み込み尽くせ──『エンチェンジ』」


 俺の手から、どんなモノでも消滅させる『変化』の塊が顕現する。

 ザックゲインはそれに対し──勇者剣を投げつけた。


「──!」


 俺の『エンチェンジ』はザックゲインではなく勇者剣を呑み込み、役割を終えた。

 

「……そうか。お前は今アルベストに『適応』しっぱなしなのか」


「そうだよ。まったく困るよぉ『適応』使えないって。……でもまぁ。無くても全然問題ないくらい強いんだけどねぇ──」


 次の瞬間、ザックゲインは『サンドライトニング』でケルベロスの三つある内の一つを裂いた。

 ケルベロスの悲鳴が児玉する。


「これ、勇者剣よりも素手の方が強いや」


「……」


 ケルベロスは瞬時に後退し、『変化』で裂かれた頭を直す。

 突然、ザックゲインのオーラが跳ね上がる。

 それこそ、まんまアルベストのように──!


「慣れてきた」


 ザックゲインは、無数の『雷神』を一気に暗黒龍に浴びせる。

 暗黒龍は地に叩きつけられるが、そんな事で死ぬほど柔くない。

 俺はケルベロスと共にザックゲインの元は駆け出た。

 するとザックゲインは電気を見にまとい俺に待ち構える。

 しかし、俺は直前で足を止めた。

 

「──『時空支配』」


「えっ──?」


 これは、時空を操るカミノミワザ。

 先ほどからわざと『放射』しか撃たず、『支配』の存在を秘匿していたからこそ出来る、背後からの奇襲。

 俺はザックゲインへ、一撃必殺の『エンチェンジ』を放つ──よりも早く、ザックゲインは動き出していた。


「奥義──」


 ──これは。

 背筋が、凍る。

 これは、これだけはまずいと──!


「『雷楽滅堕』」


「──!」


 ザックゲインが唱えた直後、俺の全身に電撃が駆け回った。


 *


「──私はどうしたら強くなれるの?」


「……は、はぁい!?」


 瑠璃がそう問うと、藍津は珍しく素っ頓狂な声を上げた。

 そんな藍津に、瑠璃は不満気な表情をする。


「なにかしら?私じゃぁンなことは出来ないって言いたいのかしら?」


「いえいえいえぇ!決してそんなこたぁないのですがぁ……いやはや想定していた問いとかけ離れていたもので。てっきり、宏人様がこれから何をするのか聞きたいのではないかと思っていたんですけどねぇ。やっぱ、口一つで数々の強敵とやり合ってきた瑠璃様には及びませんねぇ」


「茶化さないでちょうだい。私は、未だに何も出来ていないわ」


 瑠璃は、途端に表情を曇らせる。

 

「もう、安全圏からみんなを送り出す役割はごめんなの……!」


 これまた珍しく瑠璃の大きな声に、藍津だけではなくセバスもアリウスクラウンも目を見張る。

 藍津は難しそうに顔を顰めながら、ポツリと呟く。


「……そうと言われましてもねぇ」


 そう言った直後、藍津は顰めっ面から一変──挑発する様な顔で、瑠璃に言った。


「俺の超難易度ミッションを、達成出来ますかい?」


 *


 黒龍とケルベロスとの『リンク』が切れた。

 ……おかしいな。

 あいつら本来ならめちゃくちゃ強いはずなのに、立て続けにやられまっている。

 まあ、仕方ないだろう。


 ──相手は、あのアルベストを受肉したザックゲインなのだから。


「はっはー!すげーね宏人!今の『奥義』も耐えるんだ」


「……まあな」


 正直、ギリギリもいいところだった。

 アルベストの『奥義』──『雷楽滅堕』。

 『雷迎豪雨』内に、自分以外の全てに『雷神』を堕とすという、まさに神の怒り。

 他の純神の『奥義』の様な一撃に全てを注ぎ込むものではなく、ただただ純粋な殺意と共にばら撒かれるカミノミワザ。

 加えて厄介なことに追尾機能もある。

 ザックゲインという逃げ場はあれど、どんな対策をしようにも回避することは不可能という

必中攻撃。

 まず先に図体がでかい暗黒龍とケルベロスに直撃したため、『リンク』が切れて『変化』が戻ってきた事が救いだった。

 更に『雷神』が俺と暗黒龍とケルベロスに分散したのも大きい。

 

 ……次発動されれば、死にかねない。


 そうと分かれば、俺は再度『時空支配』でザックゲインの背後へ。

 

「ダメだよ宏人。二回目は」


 当然、ザックゲインは俺を察知し背後に放電。

 だがそれを見越していた俺は既に後退しており──俺の突き出した手に、エネルギーが集中する。


「『奥義』──『ヴォルケーノ・マキシマム』」


「な──!?」


 ザックゲインは着弾の瞬間『雷神』を己に落とし威力を分散させたが、だとしても消し切れない威力の『奥義』が直撃。

 さすがのアルベストとはいえこれを喰らえば──


「──『雷神』」


「──ッ!?」


 漂う煙をかぎ分け出てくるのは、ザックゲイン。

 それと同時に発動された『雷神』が、外す事なく俺に直撃した。


「……うそだろ」


 俺は膝から崩れ落ち、バタンと倒れた。

 ……ありえない。

 いくらアルベストで、神人と同格かそれ以上と言われている存在だからって、神人に匹敵する俺の『奥義』が効かないなんて──!


「……なにこれ」


「……は?」


 ザックゲインは、体が痺れ中々立ち上がれない俺を卑下するでもなく……ただ自分の両手を眺めている。

 俺は『変化』で損傷した部分を直しながらよろよろと立ち上がった。

 そして、すぐに発動する。

 これ以上長引かせるのは、多分……本当にどうしようも出来ない存在になる可能性がある。


「『焔』」


「おっとと、『輝』!」


 爆炎と超ボルトの電圧の激突に、辺り一面に凄まじい衝撃波が生じた。

 俺たちは気にせずオートで体を修復しながら突き進み、両者共々異能を生み出す。

 

「『時空放射』」


 ワンテンポ遅れたザックゲインに『時空放射』が着弾。

 ザックゲインの脇腹が抉れるが、アルベストの自然治癒が一瞬で体を再生する。

 舌打ちをする俺に、今度はザックゲインの『サンドライトニング』。

 発動速度と到達速度がおそらく異能史上最速のカミノミワザが、俺の体を電気で蝕む。


「……『変化』での対応がむずいな、電気」


「いいねいいねぇ!すんごく楽しいよ宏人!今までの僕らがどれだけ低次元の戦いをしていたのかってありありと実感するよ!」


「そうかよ」


 俺は『時空支配』で転移──するのは『バースホーシャ』。

 俺と勘違いしいち早く『バースホーシャ』に対応したザックゲインの頬が引き攣る。

 そして放つは『焔』。

 ザックゲインの体が炎に支配される。


「当たると言ったからな」


「宏人それ自分に甘すぎない!?僕が聞いたのは『黒焔』だよ」


 ザックゲインの笑みが深まる──!


 これは、『奥義』。


 

「『雷楽滅堕』ィ!」



「『ヴォルケーノ・マキシマム』!」



 ザックゲインの全体最強攻撃と、俺の単体最強攻撃が荒れ狂う。

 本来交わるはずのない『奥義』という究極にして絶対のカミノミワザが、互いの力を競い合う!

 ザックゲインは一度体が消滅するまで嬲られ、俺は完全に意識を失う結果となる。

 一秒か、はたまた一分かそれ以上か。

 ともかく俺は目を覚ました瞬間ザックゲインの元へ追い討ちで『ボースホーシャ』を放つ──が、到達する前になんらかの異能と相殺された。


「……『サンドライトニング』」


「……クソ」


 目の前には、俺と同じ様に満身創痍のザックゲインが立っていた。

 思わず……どちらからともなく笑みが溢れる。

 そんな中、ザックゲインは珍しく滔々と言葉を紡ぐ。


「ははは……なんか、夢が叶った気分だよ。ライザーとカナメが戦ってた時……あ、次元が違うな。この領域にはいけないんだろうな、って、悲しい気持ちが僕の心を襲ってきたんだぁ」


「……」


「でも、今の僕は強い。これは僕じゃなくてアルベストのだって分かった上で……うれしい。多分、僕は強くなりたかったわけじゃないんだろうね」


 ザックゲインは、付きものが落ちた様な、スッキリとした表情で空を見上げる。

 雷雲鳴り響く真っ黒な雲は、『奥義』同士がぶつかった衝撃で、一時的に吹き飛ばされていた。

 決して青い空とは言えないが、穏やかな空とザックゲインの目が合う。


「……僕は、ただただ楽しそうに、自分の、世界をひっくり返せる様な力を出し合うライザーとカナメの事が、羨ましかったんだ」


 するとザックゲインは、俺の目を見て、続けた。


「ありがとう宏人。おかげで夢が叶ったよ」


「……あっそ。正直なところ、心底どうでもいい──だが。……お前の気持ちは、分からないわけじゃない」


 ザックゲインは一瞬驚いた様な顔をして……すぐにいつものふざけた笑みに戻った。


 それも束の間で──すぐに人殺しの目になる。

 

「さて宏人。ここまで無理やりアルベストに『適応』した僕の体はもう保たないだろう。最後に二つ、面白いお知らせをあげよう」


「……」


「悪い知らせと良い知らせってやつだ。どっちから聞きたい?」


「悪いとやらだ。……大方察しはついている」


「あっはは。だろうねぇ。なにせ、藍津の言っていた生存戦争の生存者の中に、彼だけはいなかったもんねぇ──チャンくん、だっけ?いやどっちやね──」


 ザックゲインの言葉を待たずに、俺は神剣『暗黒龍』でザックゲインの首を刎ねた。

 アルベストの首は転がるが……それは『適応』の限界と神の治癒能力によるバグか。

 首だけの状態で、ザックゲインは笑う。

 そんなザックゲインの顔を、何度も何度も何度も……刺す。

 だが、ザックゲインは笑い続ける。

 

 そして、言った。


「良い知らせは、アルベストの権能は僕が使ったので全てだ!嬲り殺すにしろ、味方につけるにしろ好きにすればいいさ──さぁ、神を全殺しだぁ向井宏人!」


 次の瞬間、俺の剣がザックゲインの命を絶った。


 *


 ──『世界』が崩壊し、俺は外に出た。

 すると完全に見計らっていた藍津がそこに。


「生存戦争の参加者、味方以外全殺し……やはり宏人様ならぁ出来ると思ってましたよぉ?」


「……御託はいい。これでいいんだよな?」


「はいはいもちろん!ささ、もう出ちゃっていいですよ〜」


 藍津の言葉を背に、宏人は──ラインを超える。


 生存戦争終了四日前にして、外に出る事に成功したのだ。

 ……これで、凪に会える。


『だけどな──俺はお前には負けない』


「……言ってろ」


 宏人は凪の言葉を思い出し……小さく舌打ちを吐く。

 ──問い詰めなければいけない。

 なぜ裏切ったのか、なぜ……宏人を見捨てたのか。


 怒りに任せて、宏人は駆け出した。



「待ってろ──凪」



 そんな宏人を遠目に、藍津はいつまでも見続ける。

 いつまでも、いつまでも。

 しかし、やがて。


 藍津も、ラインを超えた。

 

「あひゃひゃ……やっとこれから面白くなるなぁ。さてさて、もう少しでこのヒトが神に抗う物語は──終幕です」


 ざわめく森を背後に、藍津はそう楽し気に呟く。









                     第十四章『続・生存戦争編』──完

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