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超能力という名の呪い  作者: ノーム
十四章 続・生存戦争編
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220話(神サイド) 生者の行進⑧


 ライオとモルルは、親から捨てられた者同士だからなのか、幼い頃から仲が良かった。


 ある日、モルルは森の中で神様と出会う。

 神様は言った、私の力は秘密にするんだぞと。

 モルルは強く頷いた。

 

 絶対に、この力を公開しないと。

 仮に晒してしまった場合には、何がなんでも目撃者を全員殺す、と。


 後日、モルルはライオに神様の力がバレてしまう。

 神様は言った。


「奴を殺せ」


 モルルは言った。


「やだ」


「……」


 それから、神様はなぜ自分の力を隠すのか教えてくれた。

 自分は今、とある神から追われている身であるということ。

 その神に見つからない様に、力を隠さなければならないのだという。

 モルルは神様の目をまっすぐに見つめて、ニッコリと笑う。


「大丈夫。ライオとわたしが、絶対にあなたを守る」


 *


「──生神!?」


 ライオに『ヴォルケーノ・マキシマム』が着弾する直前に、生神がその間に割って入った。

 生神の体は無惨に弾け飛ぶが、生神は神の再生能力をフルに活用し、なんとか原型を止めることに成功する。


「ライオ・セット。よくやった。だがもう潮時だ。撤退しろ」


「はぁ?逃げれるならとっくに逃げてるから。どこに出口があるんだよ」


「私の『生神』たる所以を忘れたか?私の異能は生きるために逃げることに特化している。問題ない」


「お、おお!そうか。どうすればいい?」


「今から全力で走りあの化物から距離を取れ。そこで私の『能力』を発動する」


「了解だ。じゃあお前はモルルを連れて」


「──何を言っている?あの娘は諦めろ」


 ライオの言葉を遮り生神はそう言った。

 何を言っているのか分からず、ライオは固まる。


「私はこれよりライオ・セットに憑依することにする。だからお前は私と」


「──俺が時間を稼ぐから、お前はモルルを連れて逃げろ」


 今度は、ライオが生神の言葉を遮った。


「……何を言っている。死ぬぞ?」


「死なない。死ぬとしても、モルルだけは絶対に助ける」


「……私はお前に来いと言っている」


「俺はお前と二人じゃ行かないって言っている」


 ──粉塵が晴れ、向井宏人と目が合う。

 宏人は驚いた様子で目を見開いたが、ライオの隣の生神を見ると事を納得していた。

 

 もう、時間がない。


「生神。モルルを助けてくれたら、俺の全部をやる」


「……なんだと?」


「俺自身をくれてやる。俺の体を、全てをくれてやる。……だから、モルルを助けてくれないか?」


 ゴツゴツした地面に横たわる、すやすやと眠るモルル。

 ライオは愛おしそうにモルルを眺め……生神の顔に視線を戻す。

 

 生神は──気色の悪い笑みで頷いた。


「良いだろう。良いだろう!その言葉、決して忘れるなよ?」


 生神はそう言った次の瞬間には、モルルを抱えて走り出していた。

 宏人の目が細まる。


「──」


 刹那、駆け出す宏人をライオの拳が捉える。

 宏人とライオの目の『蒼』が輝きを増した。

 ライオも『時空放射』の副効果である未来視を、完全に使いこなしていたのだ。

 だがそれは宏人も同様で、ライオの拳を軽く受け流す。

 そして、ライオは放つ。


 再度、至近距離での『破壊光線』を──!





「お前は強いよ」


 エネルギーが収束するライオの瞳を見ながら、宏人は呟く。

 凝縮された時間の中は、やけに時の流れがゆっくりに感じた。

 これは、向井宏人が戦っている最中何度も呟いていた言葉。

 まるで向井宏人自身は強くないとでも言っている様な、とても納得のできない単語。


「お前も強いだろ。だから俺は強くなってる。見せかけだけ」


 ライオのコピーは、コピーする対象が強くなければ強くなれない。

 だが宏人は、自嘲気味に笑う。


「これも言ったが、俺の強さはほぼ全て借り物の力だ。仕立て上げられた力、でもあるな。要するに、俺は強くさせられたんだ」


「……自慢か?」


 ライオが拗ねながらそう言うと、宏人は吹き出して笑った。

 しかし、そんか笑顔も束の間。

 宏人は、影のある顔で、ライオを見つめる。

 

「ははっ。確かに、自慢かもな」


「……」


「だから、申し訳ないんだよ」


「……謝るぐらいなら、すんなよ」


「するから謝るんだ。すまない。いや、ごめんな──『焔』」





 ライオよりワンテンポ早く繰り出された、宏人の『能力』。

 『破壊光線』を繰り出すことに夢中でコピーすることを逃したその『能力』は、初めて耳にするもので。

 ライオの中の『破壊光線』が、突然消失する。



「……あれ」



 気付いた頃には既に──下半身がなかった。


「ごふ……」


 口から血が漏れる。

 視界が暗転し、思考が渦を巻く。

 

 ああ、モルル──!


「ごめん」


 宏人はライオの瞳を閉じた。


 *


 モルルはいつの間にか生神に連れられて向井宏人の『世界』から脱出していたが、目が覚めるや否や生神の顔面をパンチ。

 悶絶する生神を他所に、モルルはライオの元に駆け出す。


(大丈夫……きっとライオは大丈夫。だってライオは、わたしの宝物で、ライオだって、わたしの事を宝物だと思っていて──)


 思考が不安で満たされ、意味を持たない言葉が渦巻く。

 モルルからは向井宏人の『世界』に侵入出来ない。

 その焦ったさが、余計にモルルを苛立たせる。

 そして、その時は訪れる。


 『世界』の崩壊。


 それは、向井宏人か、ライオ・セットのどちらかが敗れた証。

 モルルは信じる。

 勝ったのは、向井宏人ではなく、ライオだと──!


「次はお前だ」


「──」


 モルルの目に映るのは、向井宏人。

 モルルの思考が、暴走する──!


「ムカイ──」


 この時、モルルは初めて本気で叫んだ。

 本気で、怒ったのだ。


「宏人ォォォォォォォォ!」


 モルルは鎌を乱暴に振り、宏人に襲い掛かる。

 視界がぐしゃぐしゃで、ろくに前も見えない。

 それでも、モルルは宏人を殺そうとする。


 そんなモルルを、宏人は静かに見つめる。



「──このガキッ!」



 宏人がモルルに手をかざすと同時、横から生神がスライディングの形でモルルを掻っ攫った。

 喚くモルルの頭を押さえつけ宏人を振り向き──顔を青ざめる。

 だが生神は必死に去勢を張って笑顔を作りながら立ち止まり、背後の人物にコンタクトを取った。

 それと言うのも、今生神の背後には心強い味方がいるのだ。

 宏人もその存在には気付いている。


 ……違和感。

 

 宏人は──俺は、思わず困惑する。

 生神の背後にいる奴に。

 黒いコートの、フードを目深に被った男。

 生神に味方している時点で、宏人の敵。


 ──だから、これは、違う。

 だって、あいつは味方だから。

 だからこれは、間違ってて。

 だって、あいつはやさしいから。


 でも、確信がある。

 

 これは、このオーラは──!


 静かな雰囲気を纏う、無気力な少年。

 何を考えているのか分からないが、優しい少年。

 海の凪の様な性格をしている──凪。


 生神の前に出て、凪はフードを払い口を開く。


「久しいな、宏人」


 ── 一陣の風が吹き、俺の前髪を激しく揺らした。

 凪の気怠げな瞳が俺を射抜く。

 

「凪……!」


 夕暮れ時の森の中、俺と凪は邂逅する。

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