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超能力という名の呪い  作者: ノーム
十四章 続・生存戦争編
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217話(神サイド) 生者の行進⑤


「……おかしいな。まったく正規の参加者に会わない」


 俺は『変化』で見知らぬ男の頭を潰しながらそう一人ごちる。

 藍津から聞き出した情報を照らし合わせると、この男も生存戦争の参加者ではない、異端者。

 おそらく何らかの『能力』によって呼び出された被害者、または異能生命体。

 だが容赦はしない。

 心が痛まないわけじゃない。

 殺すことに躊躇がなくなったわけじゃない。

 ただ自分を殺すことで、仲間を助けられるのなら、俺の目が届かない部分を切り捨てる覚悟が出来ただけだ。

 

 だから、俺は目の前の少年少女に告げる。


「あの時は見逃したが……生存戦争の参加者は全員殺すことになったんでな。すまない」


「俺もアンタに逢えるのを楽しみにしてたよ──いくぞ、モルル」


「ん。わたしたちはもう負けない。いこう、ライオ」


 *


 ── 一時間前。


「さて、この戦争も残すところあと五日。そろそろ動こうぜ。モルル」


「ん。わたしも言おうと思ってた」


 朝起きるなりそう言うライオに、モルルは食い気味で肯定した。

 ライオなりに覚悟決めての発言だったが、モルルの何食わぬ顔を見て毒気を抜かれる。

 ……まあ、自分たちはこうでないと、と思わず笑う。

 

「あの男を倒すにあたり、準備をしようと思う」


「準備……罠とか?」


「そう罠……トラップ!定番のやつを作ろう」


「定番。めんどくさい」


「だいじょぶだいじょぶ。なにせ、モルル!お前にはその強力な鎌があるからな!」


「わたしがやるのかぁ……」


 嫌々そうなモルルには悪いが、トラップを作ってもらうことにする。

 その間にライオがやるべきはもちろん、あの男を探すこと。

 当然そんな簡単に見つかるとは思ってない。

 いつもなら、ここでモルルが話しかけてきて、ほんわかしてるところを背後から奇襲されてきたが……今回は違う。

 そのためにモルルにトラップ作りをしてもらっているというのもある。

 

「『千里眼』」


 こうして、ライオはあの男を探す──。


「──ライオ。出来た」


 そこから数十分経った後、ライオの肩にモルルは手を置いた。

 だがライオは『千里眼』に集中しているのか、気付く様子がない。

 

「……ライオ?」


 モルルは思わずライオの顔を覗き込む。

 

 ──ライオの体が、小刻みに震えている。


「なぁ、モルル」


 すると、突然ライオが口を開いた。

 震えたまま、怯えた様子で。

 いつもの様な自信の含まれた言葉とはかけ離れた、弱気な様子で言葉を紡ぐ。


「勝てない。逃げよう」


 ライオが見たのは、あの男が一瞬で能力者の男を殺したこと。

 それだけなら生存戦争では日常茶飯事だが、殺し方がいけなかった。

 あの男は、ただ触れただけだった。

 

 ライオの脳裏に、あの男と少し戦った時の事を思い出す。


 手から放たれる、異様な死の気配──そこで、ライオの考えは決まった。


 挑むにしても、少なくとも今ではない……!


「モルル、今すぐ逃げる支度を──!」


「──ダメ。ライオ。もう気付かれてる」


 モルルの言う通り、ライオも『千里眼』で確認すると、既にあの男はこちらに向かってきていた。

 だが、だとしても。

 迎え撃つよりもいち早く逃げ出した方が安全──そう叫ぼうとしたライオの頭を、モルルの胸が包み込んだ。


「──!モルル……?」


「大丈夫。大丈夫だよライオ。たとえあの男がどんな『能力』を持っていたって、ライオの『千里眼』も同じことが出来るから。それに、わたしもいる」


 モルルの口が、ライオの頬に触れる。

 驚くライオを無視して、モルルは笑う。

 いつものように。

 ただ、無邪気に。


「モルル」


 ライオも、笑う。

 いつものように。

 ただ、吊られて。


「きみは、絶対に俺が守る」


 ライオは、モルルにというか、自分自身にそう言った。

 たとえどんな事があっても、目の前の少女だけは何としてでも守り抜くために。


 ……さて、モルルに吊られてライオが笑ったということは。


「あの時は見逃したが……生存戦争の参加者は全員殺すことになったんでな。すまない」


 あの男──向井宏人の瞳が、ライオとモルルを射抜く。


 *


 セリウスブラウンは駆け出していた。


 ──風磨と翠華が死んだ。


 つい先程。

 しかも目の前で──城坂墓によって、殺された。

 短い付き合いだったとはいえ、あの兄妹には情が湧いていたのだ。

 セリウスブラウンは怒った。

 その時は、本気で城坂を殺そうとしたのだ。

 だがしかし──!


「……なにあれー。さすがにムリムリ」


 セリウスブラウンは苦笑いで走っていた。

 その顔からは、到底自分の子供の様に守っていた人を殺された人とは思えない。

 

 ──これが、アリウスクラウンが実の母親であるセリウスブラウンのことを好きではない理由。


 セリウスブラウンの愛は、基本ただの見せかけなのだ。


「アリスちゃん、元気にしてるといいなー」


 そう呟き、セリウスブラウンは生存戦争の戦場の果てまで来た。

 戦場の外に出れば、たちまち神人が襲いかかってくるという、普通怖くて立ち寄れない場所。

 そのデッドラインを、セリウスブラウンは堂々と踏み越えた。


 すると、目の前に黒いコートの、フードを目深に被った男が現れる。


「──俺たちの仲間になるということでいいんだな?セリウスブラウン・カシャ・ミラー」


「うんうん。出してくれてありがとね。ほんとに感謝してるよー」


「……お前の娘がいるのは向こうだが、いいのか?会った様子はないが」


「いいわよいいわよー。私、親子対決とか夢だったし」


「……そうか。なんでもいいが、こちらとしてもお前が仲間になってくれたのは嬉しい誤算だ。てっきりあの兄妹を守るために独立するものかと思っていたからな」


「そのつもりだったんだけどねぇ。まあアクシデントは付きものでしょ?だから、よろしくね──新野凪くん?」


 一陣の風が吹き、男のフードが捲れる。

 顔が露わになった凪は、フンと鼻を鳴らして踵を返す。

 

 そこで、セリウスブラウンは付近にかなりの人がいる事を察知した。


「──へぇ……。こりゃすごい組織に入っちゃったね」


 セリウスブラウンは思わずといった風に呟いた。

 そして、先を行く凪についていく。


 こうして、セリウスブラウンは生存戦争から離脱した。


 *


「……お前たちは、付き合っているのか?」


「……は?いや、え?」


 覚悟を決めて向井宏人と対面するライオであったが……突然の言葉に固まる。


(なんだ……?なんで今そんなことを。あ、まさか俺から繊維を削ぐための巧妙な手口……?いやこの人ふっつーにめっちゃ強いんだからそんな事しなくても全然──)


「──そう。というか結婚する仲」


「モルルさん!?」


「え、ライオ……違うの?」


「あ、いや違くないよ!結婚しよう!」


「ライオ、ちゃんとわたしをお嫁さんにしてくれる?」


「もちろん!でも今はこんな事言ってる場合じゃないよね!?」


「……なるほど。よく分かったよ」


「は、はぃ……。なら、よかったです……?」


 小さく笑う宏人を見て、ライオは毒気を抜かれた様な表情になる。


(開口一番ではなんか物騒な事言ってた気がしたけど、案外悪い人じゃない……?そういや、あの時だって見逃してくれてたもんな)


 ライオはそう考え、ここは穏便に済ませようと口を開く──その前に、宏人は虚空から剣を取り出した。


「──だから残念だ。お前たちを殺すのは」


 宏人が持つ剣が黒く輝き──顕現する。


 その身を漆黒の鱗で覆い、見上げる程大きな龍が。


「神剣黒龍──顕現」


 向井宏人は、手の『能力』だけじゃなかった──!?


「モルル!死ぬ気で勝つぞ!」


「ん!絶対に殺す!」


 ライオは『千里眼』を発動しながら、そう叫ぶ。


 巨大な龍と、不気味な雰囲気を放つ少年を前に──!

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