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超能力という名の呪い  作者: ノーム
十四章 続・生存戦争編
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216話(神サイド) 生者の行進④


 セバスとセリウスブラウンが戦っている頃──ライオとモルルは駆け出していた。

 

「モルル!あのおっさんどれくらい弱ってると思う?」


「ん……。多分、かなり」


「ぃよしっ!なら、今の俺たちにピッタリだな。あいつらにどこまで通用するか……あの男に、勝てるかどうか」


「そうだね。急ごう」


 ライオとモルルは、プライネットの元へ急ぐ。

 セリウスブラウンのパンチで吹き飛んだであろう予測地点から少し離れた所で、ライオは『千里眼』を発動した。

 茂みに隠れて、プライネットの様子を伺う。

 

「……いる。モルル、ついてきて」


「ん。わたしはどんな時でも、ライオについてく」


「おおぅ……。嬉しいこと言ってくれるな」


「だからライオも、ずっとわたしといてね?」


「あ、あったりまえだろ!俺もお前の事が大好きだからなおいちょっと待てこの展開既視感が──」


「隙ありぃ!」


 ──刹那、ライオとモルルがいた場所が消滅した。

 ライオはいつの間にかモルルに片手で担がれており、優しく降ろしてもらう。

 そして前を見ると、そこにはプライネットが。


「なんでバレたんだ……?」


「んふぅ。それは簡単。あなたたちの声がデカかっただけよ?」


「まあそうだよなぁ……。──モルル。いけそうか?」


「ん。余裕」


 次の瞬間、ライオの視界からモルルが消えた。

 それと同時に放たれる、プライネットの『光線』。

 

「あひぃ!狂い明かせ!秘技・『光線』乱れ打ちィィィィィ!」


「……ん」


 プライネットの眼前で、モルルの鎌と『光線』が激突する。

 だがモルルの『鎌』は神の名を冠する事もあり、鍔迫り合いに勝利。

 そのままプライネットに王手を──!


「あぐぅ!?」


「──ッ。ライオ!」


 『光線』が直撃し、ライオの片目が潰れた。

 モルルはライオの悲鳴を聞き、一瞬その手を止めてしまう。

 ──その隙を、プライネットは逃さなかった。


「ん──ふぅーん!」


 プライネットの拳が、モルルの腹部にめり込んだ。


「──ぁ!」


 白目を剥くモルルに、プライネットは続けて足蹴り。

 モルルはそのままライオの視界から消えた。

 まるで先程のセリウスブラウンへの仕返しの様なそれは奇しくもモルルに致命傷を与える事はなかったが──後に残されたのは、ライオ一人。


「ぐぅ……モルルッ……!モルル……!」


「あらもう、なっさけないわねぇ。あらかたあなたが偵察役で、あの娘が戦闘役?男が女の背中に隠れたんじゃぁないわよ」


 四つん這いでモルルの名を叫ぶライオの胸ぐらを、プライネットは片手で掴み持ち上げた。

 そして、殴る。

 殴る殴る殴る。

 血を吐きながら泣くライオの顔を、無言で殴り続ける。


「……はぁ?ほんっとにあんた自身は何も出来ないの?」


 プライネットは吐き捨てるようにそう言った。

 だがライオは答えず、ただ無防備に殴られ続けるのみ。


「つまんない。やーめた」


 プライネットは最後にライオを地に叩きつけ、踵を返した。


 プライネット・グローバルとは、あの『コロシアム』で名を馳せていた猛者である。

 だが宏人たちが観戦していた時の準決勝試合において、アトミックにボコボコにされたのだ。

 それからプライネットは特訓に特訓を重ね──遂には、強者の集いである生存戦争に招待された、という流れである。


 ライオとモルルを圧倒し気持ち良さげに鼻歌を歌うプライネットの足が、ガシッと掴まれる。


「……あらぁ。殺されたいのかしら?」


 プライネットは、めんどくさ気に振り返る。

 そこにはやはり、自分の足を掴むライオが。


 だが先程までとは違い──その目は、プライネットを捉えていた。


「さっきから好きに殴らせとけば……調子乗んじゃねぇぞ……?」


 ──プライネットは、油断などしていない。

 ライオを殴っている間も、しっかりと二人の『能力』について分析していたのだ。

 その結果、ライオの『千里眼』は完全に殺傷力がないことを確信。

 モルルに関しては不気味な『鎌』を持っていることから危険と判断し、見える範囲で気絶させておいたのだ。

 殺してもいいが、異様に不気味な『鎌』の所持者をわざわざ自分が殺さなくてもいいという考えのもと、立ち去る判断をした。

 ライオを殺さなかったのは、ただの情けだ。

 

 その情けを油断だったというべきか──ライオの目が、妖しく光る。


「そ、それは……!」


 ──まるでわたくしの『光線』。


 その言葉を紡ぐ前に、プライネットは光の奔流に包まれた。

 

 *


 モルルはハッと目を覚ました。

 そして瞬時に状況を理解する。


 ──まただ。


 また、ライオを一人にさせてしまった。

 モルルは泣きながら駆け出す。

 

「ライオぉ……ライオぉ……」


 目を真っ赤に腫らしながら、『鎌』に力を込める。

 ライオの『千里眼』は便利だが、戦闘においては一切役に立たない後方支援型。

 前線で戦うべきモルルがいない中、ライオは──!


「……え」


 モルルがライオの元に辿り着いた時に目撃した光景。

 それは、下半身だけになったプライネットが。

 その下で、ライオが血だらけになって倒れていた。

 モルルはライオを抱え、傷の具合を確認する。

 ライオ自信すごい怪我だが決して致命傷ではなく、血のほとんどはプライネットのものの様だ。


「う、ん……」


「ライオ!」


「んぁ?あ、モルル!」


 ライオが目を覚ますと、モルルは号泣しながら飛びついた。

 大泣きしながら抱きついているモルルを宥めながら、ライオは思考を巡らせる。


(俺の『千里眼』は、あの時だけ千里眼じゃなかった……。『千里眼』の『能力』は、遠視だけじゃないな)


 潰れた左目がズキズキと痛む。

 

(左目が潰れてから『千里眼』は変わった……?左目の分が全部右目に持っていかれて強化された、とか?いや意外と正解かもしれない。だって今まではなかったわけ)


「──ライオ?ライオ!大丈夫?」


「おわっ」


 ボーッと考え続けるライオの眼前に、いつの間にかモルルがいた。

 ライオは再度モルルの頭を優しく撫でる。


「大丈夫だよモルル。今度からは俺も、戦える」


「ライオ、どうやってあのキモイおじさん倒せたの」


「確かにそうだけどモルルも中々辛辣だな。まあそれはいいとして……なんか俺の『千里眼』が、おっさんのレーザービームをコピったみたいなんだ」


「コピる……。それって、ライオはわたしの『能力』も使える様になったってこと?」


「どうかなぁ。直前で見ないと分からないかも。……あのヤバい『能力』、一日一回だけなんだっけ?」


「ううん。一回使ったら一週間は使えない」


「なしなしなし。それ切り札ね」


 ライオはモルルから離れて、もう一度レーザービームを撃とうとする。

 だが……やはり発動しない。


「うん。多分これ条件キツいぞ……。今分かってるのだけで直前に見ること(受ける必要もあるかも)と、使えるのは一回限り」


「ん。いくつまでストック出来るのかも分からないね」


「そうだなぁ。まあ、今のところはおっさんに勝った事を喜ぼうぜ」


「ん。やったね、ライオ」


 朗らかに笑うモルル。

 ライオが今も生きている事を心から喜んでくれていることがありありと伝わる、愛おしいその笑顔。

 ライオは自然と左目に触れる。

 

 ──この力で、モルルは何としても守ってみせる……!


「おう!ありがとな、モルル」


 こうして、ライオとモルルはプライネットに勝った。

 生存戦争を後半まで単独で生き抜いている、紛れもない強者に。


 *


 ──ライオとモルルがプライネットを倒した事により、生存戦争の参加者は大きく四つのグループに分けられることとなる。


 向井宏人率いるグループ。


 セリウスブラウン率いるグループ。


 ライオ率いるグループ。


 そして──セリウスブラウンたちのいた洞窟では。


「──クク。クククククク」


「……誰あんた」


 セバスとの戦いから帰還したセリウスブラウンは、呆然と呟いた。

 洞窟から出てくるなという約束は、風磨も翠華もちゃんと守っていた。


 そのはずなのに、セリウスブラウンの足元には二人の首が転がっている。


「誰ですかー。ククク。ごめんなさい、僕そんな有名人じゃないのでー。でも、名乗ってあげますよ」


 相手を舐めてるとしか思えない、語尾の言葉を伸ばす男。

 本来生存戦争に参加する予定ではなかった男。

 生存戦争が始まる前に死んだ羅角の名義を使い、ザックゲインたち上位七人に頼み込んで無理やりこの戦争に参加した男──その名は。


「城坂墓。宏人くんのファンですー」


 神魔大戦に置いてきた弊害が、今更になって蘇る。

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