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超能力という名の呪い  作者: ノーム
十四章 続・生存戦争編
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214話(神サイド) 生者の行進②


「なあモルル。そろそろザコ狩りはやめよう」


 ライオは短剣の刃を磨きながら、ふと思った事を口にした。

 自分でもなぜわざわざ死にゆく可能性が高い方を選ぶのか疑問だが、それもこれも戦場という人殺しが正義の空間に長らく閉じ込められているからだろう。

 するとモルルも、ふんすと鼻息を荒くしながら答える。


「ん。私もそう言おうと思ってた。以心伝心」


「そうだよな!よしっ、目指すはあのふざけた男だ」


 そうと決まれば話は早く、ライオは『千里眼』を限界まで使用し、2週間前に自分たちを襲った少年を探す。

 その少年は、瑠璃という名前の人を探し、かつ創也とカルマ、はたまた生存戦争の参加者に強く反応していた。

 それらが敵なのか、もしくは味方か。

 それすらも分かってないが、その少年を倒すために──というより、どんな敵からもモルルを守れるようになるために、ライオは死ぬ気で自分を鍛え上げたのだ。


 そしてその目に映るのは、また別の少年と少女が並んで歩いている光景だった。


 *


「ここから逃げる……。そんな事が可能なのか?」


 風魔は訝しみながら、セリウスブラウンに聞き返した。

 翠華は何の話か分かっていない。


「やっと可能になったってところかな。で?どうするぅ?危険なことだけど、ここにいるよりは安全だと思うからね」


「じゃあすいか逃げたい!」


 元気にそう言う翠華とは対照的に、風魔の表情は曇っている。

 セリウスブラウンは小さく息を吐き、風魔の頭を撫でた。


「……何をする」


「風魔くんの考えはお見通しだよー?翠華ちゃんを、危険な目に合わせたくないんだよね?」


「そうなのー風魔ぁ?」


「ああそうだよ!悪いかっ」


 風魔は今度は顔を真っ赤にしながら翠華の頭をわしゃわしゃする。

 くすぐったそうに笑う翠華を見て、風魔も吊られて笑う。

 そんな二人を微笑ましそうに見つめて──セリウスブラウンは覚悟を決めた。


「二人とも、悪いけどちょっとここで待っててね」


「……おい。俺はまだ逃げるだなんて言ってないぞ」


「分かってるって。ほんのちょっと散歩に行くだけだよ。だから──絶対に出てきちゃ駄目だよ?」


 セリウスブラウンはそう言うと、伸びをしながら洞窟の外に出た。

 脳裏に今さっきの風魔と翠華の顔が焼きついて離れない。

 その二人の顔をみるだけで、自分がどんな顔をしていたか容易く想像がつく。

 だが、そうでもしないといけなかったのだ。


 この化物を倒すのには、足手纏いがいると困る。


「──やぁ少年。ここに何の用かな?」


「その顔……もしかしてアリウスクラウンさんのお母さんですか?」


「……ほぇ?」


 セリウスブラウンは、唖然として固まった。

 殺気を察知し、どんな化物が来るのかと思えば、なんとただの少年だった。

 パッとしない、普通の少年。

 背に背負う禍々しい鎌が不気味だが、それ以外は特に脅威は感じない。

 加えて勘が鈍ったかなと思った矢先、アリウスクラウンという名前。

 

「えっ、きみアリスちゃんの事知ってるの!?」


「ええ。知ってるも何も、彼女は大切な仲間ですよ」


「そっかそっかー。私が死んだ後も、アリスちゃんはちゃんと生きてたんだねぇ。良かった。ほんとに良かった」


 セリウスブラウンは今まで気掛かりだった事案が一気に解消され、へなへなと足の力が抜け地に直に座り込んだ。

 セリウスブラウンの言葉に、少年の表情が変化した。


「なるほど。生き返った……。あなたは生存戦争の参加者という事でよろしいですか?偽物じゃなく」


「え、うん。そりゃね──」


 刹那、セリウスブラウンの視界から少年の姿が消える。

 それは人の領域を超えた、まさに神速。

 普通の人間なら少年が移動した事すら気付かず死するだろう。


 だがしかし、セリウスブラウンという女はそれに当て嵌まらない。


「んー。80点、かな」


「……マジですか」


 少年の鎌は、容易くセリウスブラウンの小太刀で受け止められていた。

 バックステップで後退する少年に、セリウスブラウンは更に腰からもう一本小太刀を取り出し、刃先を向ける。


「きみ、名前は?」


「僕の名前は──セバス。セバス・ブレスレットです。こう見えても、死神なんですよ?」


 朗らかにそう言うセバスに、セリウスブラウンも自分の名前を笑顔で伝える。

 手に持つ物を除けば、それはまるで穏やかな日常の一コマ。


 だが次の瞬間には──両者の得物がぶつかり合った。


 セリウスブラウンの小太刀と、セバスの死神の鎌。

 だがセリウスブラウンはセバスの一撃を片手で抑える。

 そして空いた手で瞬足の突き。

 セバスはギリギリ対応し、ワンテンポ遅れながらも回避。


 セバスの右耳から、血が垂れる。


「……強いですね」


「んー。きみ、なんか弱体化とかしてる感じ?なんか違和感すごいよ」


「おぉ、すごいですね。御名答です。安心してください。それで言い訳なんかしませんよ」


「じゃあ安心かな。それじゃさっそく『式神展──」


 セリウスブラウンが両手を併せる瞬間、鼓膜を荒く叩く大音量が震撼した。

 両者共耳を固く塞ぎ、音のした方へと視線を向ける。


 そこには、ピエロがいた。


「なに、きみ……」


 困惑しながら呟いたセリウスブラウンの言葉に、そのピエロは答えた。


「わたくしの名は、プライネット・グローバルと申しまぁす。以後、お見知り置きを」


 *


 ライオとモルルは、『千里眼』で見つけた少年少女の元に駆け出していた。

 立ち姿を見るだけで分かるその強さに、興味を惹かれたのだ。


「あいつらなら、あの男にリベンジするための訓練にぴったりだ」


「ん。でも油断しないでねライオ」


「当たり前だ。モルルこそ、頼むから無茶しないでくれよ」


 やがて先程まで少年と少女がいた場所まで到着すると、二人で慎重に、警戒しながら歩みを進める。

 そうして二人は、人工的に作られた様な洞窟の前に辿り着いた。

 

 そして──目撃する。


「ライオ、伏せて!」


 モルルに無理やり姿勢を低くされた瞬間、先程まで頭があった場所を何かが通り過ぎていった。

 それは莫大なエネルギーのレーザービーム。

 不幸中の幸いか、今のはライオに向けて放たれたものではなかったということ。 

 戦いの流れ弾。


 そう、ライオとモルルの目線の先には──セリウスブラウン、セバス、プライネットが。


 隠れながら様子を伺うライオとモルルは、思わず逃げずにその戦いに無茶になる。


 これが──トップレベルの戦いなのだと。


 *


 セバスは極太のレーザービームを回避し、苦虫を噛み潰した様な表情をした。


(うーん。セリウスブラウンって人もプライネットって人も強いな。死んだら『能力』がリセットされるからって、『式神』も『適応』も『アンデット』もカールの中に置いてきたのは大失敗だ)


 プライネットから放たれる、『光線』という名前のレーザービーム。

 そのレーザービームはただでさえ超威力だというのに、それが一斉にあちらこちらにばら撒かれる。

 避ける先などほぼなく、避けきれないのは鎌で切り裂く。

 だが威力が威力のためか、その度にとてつもない衝撃が体を走る。

 まともに受けたりでもしたら、現在不死性を失っているセバスでは即死しかねない。

 

 そんなセバスを置き去りにして──セリウスブラウンがプライネットの元へ駆け出す!


「ぬぬ!?」


 プライネットが驚くのも無理はなく、セリウスブラウンはレーザービームをその身に受けながら突き進む!

 その光景にセバスは唖然として──気づく。

 

 そもそもセリウスブラウンは、『光線』の影響を受けていない、と。


 そんなセバスを他所に、セリウスブラウンの拳が握られる。

 プライネットの顔が、恐怖で歪む──!


「必殺──いっっっっったいパンチ!」


 セリウスブラウンの拳が、プライネットの鳩尾に撃ち込まれる!


「──ぶふぉおぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」


 プライネットはあまりの威力に白目を剥き、文字通り空の彼方に吹き飛んでいった。

 拳から煙を出しながら、悠然とセリウスブラウンがセバスに向かい歩む。


 そして──繰り出す。


「式神展開──『海原蒼水』」


 セリウスブラウンとセバスを、『世界』が呑み込む──!

 

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