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超能力という名の呪い  作者: ノーム
十四章 続・生存戦争編
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213話(神サイド) 生者の行進①


 これは、ダクネス戦が終わってすぐのこと──。


「……宏人。今、話せそう?」


 アリウスクラウンを無事に基地に運び終えた後、瑠璃がおそるおそるとそう聞いてきた。

 何にそんなかしこまって……と思ったが、自分の顔を触ってみると、その答えは解ける。

 俺は了承し、瑠璃からダクネス戦の裏で起きていたことを聞かされた。

 

 それは──凪について。


「凪と会って、私はすぐに『読心』を発動したのだけれど……逃げられて情報はあまり掴めなかったわ。ごめんなさい」


「お前が謝ることじゃない。むしろそんな何考えてるのか分からない凪に『能力』を使ったことを讃えられるべきだ。……それで?少しは掴めたんだろ」


「ええ。それが──」


 凪は七録菜緒を倒し、この戦場から離脱するつもりだ、と。


 藍津から生存戦争の生存者を聞き出したセバスの元へ、俺が辿り着いた時には、既にそのリストに凪の名は無かった。



 ──そして、今。



 俺は、たった今人を殺した。

 少年だ。

 名前はなんだったか……確か幅木夜門とか言っていた覚えがある。

 不思議なほど、何も躊躇はなかった。

 

『──生存戦争にて蘇った過去の怪物を、全員殺せぇ』


 藍津の言葉を上手く理解出来ない程、俺は馬鹿じゃない。

 これはつまり、仲間以外──『メンバーズ』以外を殺したら、藍津は七録菜緒に話を付けてくれるということだ。

 ライザーとダクネスが居なくなった今、神人の席にいるのは七録カナメと七録菜緒の姉弟だけ。

 今俺が勝手に生存戦争から抜け出して七録菜緒が処罰しに来ようともカナメがなんとかしてくれるだろうが、今カナメは重症だ。

 神人の力で日々回復に向かっているものの、いかんせん外傷が酷すぎた。

 今となってはもう見た目は元通りだが、体の機能は非常に落ちている。

 無理をさせるわけにはいかない。


「……」


 俺は夜門の死体を一瞥し、決意を固めた。



 俺は『メンバーズ』以外の生存戦争の参加者を全員──殺す。



 容赦なく、一人も余さず。


 *


 ライオとモルルは隅から隅まできっちり警戒しながら、森の中で歩みを進める。


「……ねえライオ。そんな怖いなら秘密基地作ってそこで暮らそうよ。安全だよ?」


「まあそうなんだけどさぁ。でもおれらって普通に強いじゃん?だからルールにある『能力』奪えるやつやってみたいんだよねー。夢じゃん?『能力』2個持ち」


「そうかなぁ。わたしは今のままでいいよ?何でも変わるのは怖いよ。ずっとライオといたい」


「お、おう。嬉しいこと言ってくれるな……」


 ライオは頬をポリポリ掻き、明後日の方向を見る。

 モルルの顔も少しばかり火照っており、ぽわぽわと和やかな空間が出来上がる。

 とても殺し合いのゲーム中だとは思えない。


「あ、モルル待って。誰かいる」


 そんな中、ライオの『千里眼』が敵の存在を感知した。

 ライオはモルルの手を引き、一切音を立てずに茂みに隠れる。

 ライオが生き残るために全神経を敵に捧げる中、モルルはるんるんと草冠を作り始めた。

 楽しそうに作り続けるモルルに、ライオも頬が弛む。

 やがて二つ草冠が完成する。

 その内の一つは当然ライオのためのもの。

 モルルは笑顔でライオの頭に草冠を被せた。

 思わず吊られてライオも笑顔になり、自分もモルルに花冠を被せてあげようと──すると、いつの間にかモルルの背後に見知らぬ男が。


「──ッ!?モルル!」


 ライオは悲痛な声をあげて、モルルに飛びつく。

 でもこれじゃ、何の解決にもならない……!


「ヒヒッ!こんなところでイチャイチャしてるからっ」


 男の突き出された右手が、淡く輝く──!


 男の『能力』が発動する寸前、そんな危機的状況にも関わらず、モルルは変わらずライオに優しい笑みを向け続ける。


「ライオ。安心して?こんな奴──わたしの敵じゃない」


 瞬間──男の体が左右にパックリと割れ、地面にドサッと落ちた。

 唖然とするライオに、赤く染まった血が降り注ぐ。

 名も知らぬ男は、一瞬で二つに解体され、天に召されたのだ。


 モルルは振り返り、またライオに優しい笑みを向けた。


 その手に持つのは、『生神の鎌』。

 モルルの体に宿る、生神の武器。


 この鎌は『死神の鎌』と同等の威力を誇り、生神特有の力──超速再生能力を有しているのだ。


「だから、大丈夫だって言ったでしょ?ライオ。わたしの力は、ここでもちゃんと通用する」


 生存戦争に招待された時は、生きた心地がしなかった。

 確かにモルルは強く、ライオの『能力』もかなり利便性のあるもの。

 とはいえ、それが世界の強者たちに届くのかと問われれば、首を傾げるしかなかった。


 でも──これなら。


 ライオとモルルは知る由もないが、今殺した男は生存戦争の参加者ではない。

 しかし、これは結果的にライオの心に自信をもたらしたのだ。


「ごめんモルル。俺、ちょっとビビってたみたいだ。これからは逃げるだけじゃなくて、隙あらば狩る方向でいくことにするよ」


「ん。それがいい。私たちならどんな敵でも──」


「……モルル?」


 突然、モルルは呆然とした表情で硬直した。

 ただただ、何もない森の奥を見つめている。

 それは強者ゆえの直感か、ライオには何が見えているのか分からない。

 ライオはモルルに吊られ、おそるおそる『千里眼』を発動する──時には既に、遅かった。

 森をかき分けて、一人の少年が顔を出す。


「──あ、ぁぁぁぁ」


 ライオでも分かる程圧倒的なオーラを放つその強者に、モルルは蚊の鳴くような声で震えた。

 その少年は、ライオたちと目が合うなり口を開き──!


「あの……瑠璃って人、知らないか?」


「……へ?」


 その少年は、後頭部を手で掻きながら、かしこまってそう聞いた。

 困惑するライオに、少年は言葉を続ける。


「ちょっと探してて。知らない感じ?」


「は、はい……存じない……です」


「そうか。まあそりゃあ知らないわな。この森めっちゃ広いし……。邪魔しちゃってすまんな。それじゃ」


 少年はライオとモルルから踵を返して、忙しそうに駆け出した。

 取り敢えず一難去った……のか?と未だ困惑しながらも、ライオははぁと肩の力を抜き膝から崩れ落ちる。

 正直、生きた心地がしなかった。

 そんなライオに追い打ちをかける様に、少年が振り返る。


「そういえば、お前らってここの参加者?」


「へっ?どういう……?」


「いや、生存戦争の参加者かって聞いてんの」


「……?まあ、はい」


 ──刹那。

 ライオの真横に、少年がいた。

 

「──!?」


 直前までまったく気付かなかった、とても人間とは思えない高速。

 ライオは、今の言葉がどういう意味を含んでいたのか分からないが──直感で、殺気と確信した。

 背後で、モルルが悲痛な叫びをあげている。

 

 ──それは、死ぬ間際に苦し紛れに放った、『千里眼』で捉えたもの。

 ライオはとにかく、この少年は生存戦争の参加者を殺そうとしていると思い至り、『千里眼』で見つけたただの男女二人組。


「あそこに、創也って人と、カルマって人がいます」


「──!」


 少年の手が、止まる。

 そして次の瞬間には──既にそこに、少年の姿は無かった。


「……」


 ライオとモルルは、二人同時にバタリと倒れた。


 ──どくんどくんと、心臓が爆発する。


「はぁ、はぁ、はぁ──生きてる?モルル」


「も、もちろん。い、生きてるよね!?ライオ!」


「お、おう。今までにない声量だな……。ともかく、これでもう安心していい感じ?」


「だ、だめだよ。少なくともここからは逃げよう。またあの男の人が来るかもしれないし」


「そうだよな。よし、そうと決まればさっさと行こう!」


 そうして、ライオとモルルは生き残った。

 謎の少年という、トラウマを抱えて。



 ──それから二週間。



「──ふぅ。こんなものか」


 ライオは女の腹部から手を引き抜き、息を吐きながら額を拭った。

 大量の血が噴出し、またもやライオに紅色の雨が降り注ぐ。

 そんな中、ライオは満面の笑顔で振り返った。

 その視線の先にいるのは、もちろんモルル。


「やっと、戦えるようになったぜ!」


「すごいよライオ。これであの男にも勝てるかもしれないね!」


 ライオとモルルは、生きるために戦い続ける。

 突然放り込まれた『生存戦争』という地獄の中で、かつて自分たちを恐怖に陥れた『少年』を避け、かついつか倒すことを目標に掲げて。



 

 

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