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超能力という名の呪い  作者: ノーム
十三章 神人迎撃編
219/301

211話(神サイド) 神人戦⑧


 アリウスクラウンとダクネスの剣がぶつかり、何度も何度も金属音が響く。

 両者の身体能力は驚異的なもので、とてもじゃないが俺がつけ込む隙がない。

 創也が『時空放射』を完成させるまであと10分。

 他人任せで申し訳ないが、このままアリウスクラウン一人で時間を稼げる……なんて、あいにくそんな甘い考えは持ち合わせていない。

 いくら身体能力をダクネスと同等まで高めても、人間はそれに追いついていくための体力はない。

 

 ──アリウスクラウンのスピードが、落ちる。

 

 それと同時に俺はアリウスクラウンの横に立ち、共にダクネスの剣を受け止める。


「ッ……つっよ。私何分稼げた?」


「2分。さすがだな」


「これで2分……!体感だともう10分超えてるわよ……!?」


 かと言って、やはり俺のレベルじゃアリウスクラウンと二人がかりとはいえツラい……!

 ダクネスからは一切疲弊を感じないのが恐ろしい。


「あっはははは!死ね死ね死ね──死ね!」

 

 ダクネスは大声と共に、大上段に振りかぶる。


「ッ……!」


 その剣は俺の頭をかすり、一瞬俺の意識を刈り取る……が、アリウスクラウンが俺を抱えてバックステップ。

 ダクネスから大きく距離を取った。

 俺は痛む頭を『変化』で直す。


「──!すまん」


「いえ。作戦を立てましょう。私がダクネスをできる限り抑えるから、あなたは翼を切って。根本からもぎ取ればなんとかなる……と思う」


「無茶言うな……。だけど、分かった。必ずする」


「あはは。いいなーそっちは二人で!」


 ダクネスは瞬時に距離を詰め、横一線。

 アリウスクラウンは苦い顔をしながらも無難に剣で受け止める。

 

 ダクネスの顔が、ニヤリと歪む。


「ッ!クソッ」


 ダクネスの剣を受け止めているアリウスクラウンの頭上に、『光柱』が降り注ぐ!

 俺は受け止めようとするが……視界の端で瞑想する創也の頭上にもそれが……!

 

「眷属召喚──カオス!」


 俺が叫ぶと同時──創也の頭の上で、『光柱』が砕け散った。

 カオスの右手が、『光柱』を握り潰していた。

 俺も『変化』でアリウスクラウンから『光柱』を防いだのだが……思わず目がカオスに釘付けになる。


「お、おま……その姿」


「何だ──向井宏人」


 俺の目の前には、カオスの声をした美少年がいた。

 カオスは器用に二対のナタを両手で回転させながら、ダクネスを睨む。


「そんな事よりお前だダクネス。よくもこの前はアルドノイズ様を痛ぶってくれたな」


「あはは。やり過ぎて覚えてないやー……って言おうとしたけど、きみの事はほんとに覚えてないや。まあいいよ。邪魔するなら、きみも殺す」


「──ッ」


 ダクネスの翼がはためき、アリウスクラウンを後方に飛ばす。

 カオスは飛んできたアリウスクラウンを支え──ともに駆け出す。

 そこに会話はない。


 まあ、確かに今そんな事は必要ないな──目の前に、ダクネスがいるんだから。


 すると、頭の中でカオスの声が。


『向井宏人。俺はこの女の援護をする。だからお前は、予定通り翼を狩れ』


「ああ、頼む」


 俺も遅れて二人に続く。

 

 ダクネスの二対の翼が──巨大化する。


「切り裂いて──『堕天・翼壊』」


 ダクネスの翼が、辺り一面根こそぎ破壊し尽くす。

 その翼は立体化していた『光柱』諸共吹き飛ばし、俺たちに襲い掛かる。

 だがアリウスクラウンとカオスは構わず突っ込み、『光柱』の破片をその身に食らいながらもダクネスへと手を伸ばす。

 再度、アリウスクラウンとダクネスがその身一つでぶつかった。

 ただ今回はカオスが上手くサポートに回り、アリウスクラウンからは先程より余裕が感じられる。

 ただ、依然その顔は険しい。


 アリウスクラウンの秘技──『炎舞魔人』。


 『炎舞』による熱操作を己の身体能力に回し、人間の極限に体を完成させる異能。


 だがそれは、もちろん代償無しにとは──いかない。


 *


「尚更『炎舞魔人』を使わない理由が分からないです。使った後しばらく動けなくて不自由なだけなんですよね?」


 『炎舞魔人』の効果について語ったアリウスクラウンに、セバスは首を傾げた。

 宏人もうんうんと頷く。

 この話題を持ちかけたカナメはと言うと、今はどこ吹く風で優雅にパラソルで読書を嗜んでいる。


 一陣の風が吹き、アリウスクラウンの前髪が靡く。


「そんなの当たり前よ──死ぬから」


 *


「──ごふっ」


 アリウスクラウンの口から、大量の血が流れる。

 俺の頭の中に、かつてアリウスクラウンが『炎舞魔人』について詳しく説明してくれた時の言葉がリフレインするが、考えない様に努める。

 カオスはアリウスクラウンとダクネスの動きについていけていないが、アリウスクラウンが避けきれなかった攻撃をその身で受け止めてサポートしている。

 

「ッ。しぶと!」


 ダクネスはその驚異的な身体能力と共に、背中の翼を暴れさせ辺り一面を破壊し尽くす。

 俺は気付かれていると分かりながらも、ダクネスの背後に忍び寄り──翼に手を伸ばした。


 すると、まるで包丁で豆腐を切るように──すぱっと、俺の手が切断された。


「──ッ!」


「あはははは!ばっかでーい」


 ダクネスの翼が、俺に牙を剥く。

 だが好都合だ。

 これで、『カースド・ヘルエンジェル』をアリウスクラウンとカオスが、『堕天・翼壊』を俺が対応出来る。

 翼は独立した生物の様に、俺を殺さんとその鋭利な先端で攻撃を繰り出してくる。

 しかし俺は難なく『変化』を宿した手で受け止め、翼を破壊する──が。

 やはり再生してしまう。

 そして俺も腕を再生させる。


「やっぱゼロ距離か」


 俺は瞬時にそう判断し、ダクネスの元まで駆ける。

 立ちはだかる翼には全て『変化』で防ぎ──ダクネスの背中が、すぐそこに。


 俺は、その背に『変化』を──!



「──あはは。やっぱ、甘い」



 ダクネスの右眼が、紅く染まった。

 その事に気付いた時には、もう遅い。


 なにせ、俺とダクネスは今、向き合っている。


「──!」


 満面の笑みのダクネスの手が、俺の腹を貫いた。

 俺はその場で崩れ落ちるが、アリウスクラウンとカオスがダクネスの動きを止める。


 次の瞬間──カオスの左腕が飛んだ。


「あ……!ァァァァァァ……!」


 倒れるカオスの背中を陰にして、放たれる俺の『バースホーシャ』。

 アリウスクラウンとカオスを巻き込む恐れがあり避けていた必殺技だが、見事ダクネスに命中──が、やはり翼に遮られる。

 だがさすがに無傷とはいかず、ダクネスの翼は全焼する。

 時間が経てば再生するだろうが、これにてダクネスを守る壁はなくなった。

 

「……死ぬなよ」


「もちろん」


 俺はアリウスクラウンを見ずに、ノールックで声をかけると、アリウスクラウンもダクネスだけを見ながら頷いた。

 ゴシックロリータの様な、真っ黒な堕天使の服を着るダクネスの右目が、真っ赤に染まっている。

 それはまるで左目を紅く染めているアリウスクラウンと対比のようで。


「──あは!あはは。あははははははは!」


 ダクネスは奇声を上げながら一瞬で俺たちの目の前に移動する。

 その紅く美しい目に映る先は──俺。


 ダクネスの剣が、俺の胸を貫いた。


 スピードが異次元だ。

 とても対応出来るものではない。


「初めてだよ……心臓を突かれたのは」


「そんなこと言ってられるのも今の内だよー?」


 ダクネスの剣が、不快な音を響かせながら回転される。

 そんなダクネスの背に、アリウスクラウンの『暗龍』が振られる。

 だがダクネスは一瞬で俺から剣を抜き、刀身を背中に回し受け止めた。


 その間に、俺は『能力』をフル回転させ心臓を『変化』で修復──ダクネスに、今度こそ手を伸ばす!


「学習しないねぇ!」


 ダクネスの空いた手により、またもや切断される、俺の右腕。

 

 だが──止まりはしない!


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 俺は切断された右腕を一瞬で再生!

 そのままダクネスに、手で、触れてみせる!


 驚き対応に遅れるダクネスの目が大きく見開かれ──翼が、ダクネスを守る様に返り咲いた。


「──!?」


 背で鍔迫り合いをしていたアリウスクラウンは、そのまま翼に串刺しにされる。

 翼は今までにない程巨大に狂い咲き、今にもダクネスを殺さんと手を伸ばす俺を食らおうとする──その瞬間に、カオスが俺の背にしがみついた。

 翼がカオスの背を捌き、壊す。


「止まるな!なんとしてでも奴を殺せ──向井宏人ォ!」


 カオスの言う通り、俺は振り返らずダクネスに『変化』を──!

 乱れ咲き何重の層になった花のような翼を壊し見えたのは、天使の仮面を貼り付けた女。

 ダクネスの言葉が、紡がれる──!

 

 ああ──良かった。


 一度見たから、なんとか対応出来たのだろう。

 俺は、『変化』をやめた。


「──『堕天・翼壊』


「『バースホーシャ』」


 全てを壊す翼と、全てを燃やす業火の焔。

 それら二つのカミノミワザは衝突し、霧散した。

 ダクネスも相当なダメージを負い、なんとかギリギリで立っている中、俺とカオスは衝撃で吹き飛ばされ、意識を失う──そんな絶望的な状況で。


「みんなありがとう。よく頑張ってくれた──『時空放射』」


 *


 創也の『眼』が、蒼く染まる──!


「──ッ!?」


 そして放たれる、創也の──吐夢狂弥の必殺技。

 『時空放射』は見事ダクネスを呑み込み、大爆発を起こす。

 創也は膝から崩れ落ち、顔から地に倒れた。

 

 そして、足音。


「あはは……やっぱ全然駄目かぁ。最初に狂弥から託された12回分一気に使っちゃったからなぁ」


「──あは、は。随分とまあ好き勝手やってくれたなぁ狂弥。まあ、今となっては逆に嬉しいくらいだけど」


 肉や骨が露わになっても尚、しっかりと二本足で歩くダクネスは、創也の頭を片手で掴んで持ち上げた。

 宙ぶらりんになる創也。

 いつかの時と全く同じ構図で、二人は向かい合った。

 

「だって、今度こそちゃんとお前を殺せるんだもん」


「あはは。僕ってなんでダクネスちゃんにそんな嫌われてるんだっけ。正直本当に検討がつかないんだけどなぁ」


「まあそうだろうね。じゃあ私は今回初めてお前に言うのかな?まあいいや、だって今回が最後の『ループ』なんでしょ」


「ご名答だよ。それで?」



「私も、『ループ』してるのよ」


 

 ダクネスのその一言に、創也は大きく目を見開き──納得した様に、破顔した。


「なるほどねぇ……。じゃ、尚更ここできみを殺さないとね。そして、みんなに繋いでいかなきゃ」


「……まさか、アンタがいなくても『ループ』出来るの?」


 創也が意味深に笑うと同時、ダクネスは一拍遅れて気付いた──背後の存在に。

 ダクネスは創也を投げ捨て、とっさに対応するが──ダクネスの右腕を、宏人の手が掠った。


 宏人の、手が。


「──『変化』」


 *


 ダクネスの右手から、滝の様に血が噴出する。

 俺も何回もされた、慣れなど存在しない激痛と不快感。

 だが、ダクネスの場合は、それ以上に──再生不可能。


「ああああああああああああああ!あ、あぁ……あああァァァァァァァ!」


 号泣しながら悲痛な声で叫ぶダクネスだが、その目は決して俺から逸れておらず──次の瞬間、俺の右腕も吹っ飛んだ。


「ハッ。きっちり同じ部位にやり返すの好きだなぁダクネス!」


「死ね死ね死ね死ね死ね、死ね!」


 俺は瞬時に『変化』で右腕を再生させる。

 

 クラッと、体のバランスが崩れた。


 これはアスファスの時も経験した、『能力』切れのサイン……。

 早いとこ決着つけないと、本格的にまずい。

 俺は右手を開き、閉じ、動きに問題がないか確認し──ダクネスの目を見る。

 目は元より紅く染まっていたが、今のダクネスは泣いて赤く充血している様にしか見えない。

 

 さて──死ぬ気で死なす。


 俺が一歩踏み出すと、ダクネスは既に俺の目の前に。

 思わず片口が引き攣る。

 ここまで身体能力に差があると、敵ながらも感心してしまう。

 俺は思いっきり横顔をぶん殴られるが、『変化』で痛覚神経を遮断している俺に痛みはない。

 殴られた勢いで回転、そのままストレートで殴り返す──ことはさせてもらえず、驚異的な速さで腹部を蹴り飛ばされた。


「──!」


 腹が潰れ、大量の血が口から漏れる。

 たった一度の蹴りで、内臓まで傷付いた。

 だが俺は一瞬で『変化』で直す。

 

 そして──込める。


「──『焔』」


「させない!」


 俺の元へ怒りの形相で駆け出すダクネス──の胸を、背後から創也の『勇者剣』が貫く!

 ダクネスの目が大きく見開かれ、飛び出んばかりに創也を睨む。


「──ァァァァァァ」


 ダクネスは左手で創也の右目を潰しながら、怨嗟の声を発する。

 だが、それでも創也は俺に向かって叫ぶ。

 

「宏人──今だ!」


 創也の声と共に放たれる、アルドノイズの──俺の必殺技!

 『焔』は容赦なくダクネスを焼き尽くし、『勇者剣』でさえも溶けていく。

 

 だがしかし、目の前の神人はそう簡単に死んでくれない。


 体中に裂傷を浴び、内臓をズタズタに傷付けられ、体の一部と成った翼を引き裂かれ──心臓を貫かれた上に地獄の業火で燃やされても尚、生存本能が叫び続ける。


「──あはぁ」


 もう焼死体と言っても遜色ない程、醜い姿で、ダクネスは『焔』から飛び出した。

 

 その魔人が狙う先は、やはり──!



「吐夢、狂弥ァァァァァァァァァァァァ!」


 

 ダクネスの背から──再度翼が生える!

 

 俺は創也の元へ手を伸ばす。

 だが、やはり、届かない……!

 

 俺の手は、いつも──いつもいつもいつも!

 なんで、届かない!


「創也ぁぁぁぁぁぁ!」


 ──創也は、笑った。

 

 いつも通り、無邪気に。


 次の瞬間──翼が、創也を滅多刺しにした。


 今までとは一線を画す、死に体とは思えない威力の破壊。

 創也は、跡形もなく消え去った。


「──ダクネスゥゥゥゥゥゥゥゥ!」


 カルマが死んだ、黒夜も死んだ、創也も死んだ!

 お前は、ただでは殺さない。


「あっはははははは!あっははははははは!やったやった!やっと、狂弥を殺せたぁ!──次はお前だ、向井宏人ォォォォォォォォ!」


 ダクネスは狂いながら楽しそうに叫び、背中の翼を暴れさせる。

 その翼の威力は想像を絶し、この『世界』諸共破壊する。

 神人の、死に際による上限突破。

 それは容易く俺も巻き込み、体を粉微塵に引き裂かれる。

 『変化』が俺の命を繋ごうと、必死に体を再生させるが、このままでは──!


 *


「やっと追い詰めたよ。吐夢狂弥」


 それはいつの日か、いつの『世界』か。

 ダクネスの目の前では、吐夢狂弥が倒れている。

 ──激しい戦いだった。

 時を操る者同士の戦いは、この『世界』にいくつもバグを起こしながらも、最終的には『式神』を展開していたダクネスの勝利となったのだ。

 息も絶え絶えのダクネスは、ふらつく足取りで狂弥の元へ。

 神人である以上、殺し切るまで安心出来ない。


「──ダクネスちゃんはさぁ。なんで僕は式神を展開しなかったんだと思う?」


「……強がり?やめてくれるかなぁ、そういうの。私はちゃんと実力であなたに勝ったんですー。時操って別『世界』にやってくるからこんな最期になるんだよ。次からはもうしない事だね。あっ、いけない。もう次なんて──」


「分かったよ。もう次からは、きみには手出ししないようにするよ」


「ないんだけどね……。え、ちょ……え?何?この状況でまだ見逃してもらえると思ってるの?さすがにウケるよ?」


 ダクネスはうぇーと舌を出す。

 それを創也はあっはっはと面白そうに笑い──さも当然の様に言った。


「いやいや、見逃してくれてたじゃん。だって僕、式神の中に『戦う前』の僕を置いてきたんだから」


「……どういうこと?」


「だからさ、いわゆるバックアップってやつだよね。時間操作出来る僕らの最大の武器だよね、やっぱ。式神って時間の影響受けないから、これでまた次の『世界』で僕を生かせる」


「ねぇ、ちょっと待って。てことはあんたは──」


「ばいばいダクネスちゃん。まあ、出来ればもう会いたくはないなぁ。強いし」


 ──次の瞬間、『破壊』がダクネスを呑み込んだ。

 狂弥の自分の命を顧みない自爆。

 それは容易く『旧世界』を破壊し、ついにはダクネスも死ぬ寸前まで追い詰められた。

 

 激しい怒りと共にダクネスが立ち上がった時には、既に狂弥の姿は無かった。


 ──『式神』の中に、自我を置いていく。


 この日この『世界』から、狂弥が『ループ』する度ダクネスも『世界』を『ループ』する事になる。

 吐夢狂弥に対する、激しい怒りを抱えて。


 *


「……は?」


 『変化』を使い過ぎ、『能力』が枯渇し死ぬ──寸前。

 途端に、翼の暴走が終わった。

 俺の目の前には、ダクネスが立っている。

 ただ、立っている。

 顔は俯き、翼はそのまま。

 俺はふらふらと、だがちゃんと前に進む。

 

 『世界』が、ガラスの割れる様な音と共に砕ける。


 ダクネスは、何もしない。

 俺は、ダクネスの顔を無理やり上げた。


 すると、顔が砕けた。


 ダクネスは既に炭と化しており、なぜ今まで動けていたのか不思議なくらい。

 翼も、急にドス黒くなり、これまた同じ様に崩れ落ちた。


「……」


 俺は、地に落ちた炭をただただ見つめた。

 ダクネスに、勝った。

 そんな実感なんて、ない。

 俺はふと、顔を上げた。

 ダクネスはまだ、完全に砕けていなかったから。


 そして──絶句した。


 顔は砕けながらも、口元はまだ原型を留めており──笑っていた。

 

『あははははははは!』


 それと同時、脳内で、ダクネスの笑い声が響く。

 

「──ッ!」


 途端、激しい怒りが込み上げ、ダクネスを蹴り飛ばした。

 だが全身も既に様と化しており、ただ炭が舞っただけだった。

 だが俺は一心不乱に、ダクネスだった炭を、地を殴りつける。

 拳が割れる、血が溢れる、骨が砕ける──!


 そんな時、ハッと記憶が蘇った。



『私も、『ループ』してるのよ』



 それは、創也とダクネスが会話している時、ダクネスの隙を狙っていた際にたまたま耳に入った言葉。

 

 俺はそれを思い出して──笑う。



「あっはははははははは!お前まだ絶対生きてるだろ!お前がこんな簡単に死ぬはずねーもんなぁ!絶対に何度でも、殺してやる!絶対に何度でも殺してやる絶対に何度でも殺してやる絶対に何度でも殺してやる絶対に何度でも殺してやる!」



 俺の叫びは、崩れゆくこの『世界』の中に、どこまでも響いた。

 

 奇しくもかつて狂弥を殺したダクネスと同じ様に。

 宿敵がまだどこかの『世界』にでも、現存している事を信じて。


 そうして、俺は、俺たちは。




 ──ダクネスを、殺した。


   


 *


 ──たった一日の間に、この『世界』の最強の一角である神人の二人が死んだ。

 残る神人は七録家の長女と長男。

 その長男というのも、永らく神人のトップに君臨し続けたライザー・エルバックとの戦闘により意識消失状態。

 そんな中、唯一観客として視聴者に居続けた神人──七録菜緒は、やっとその重い腰を上げた。

 というのも、半ば強制だったのだが。


「なるほどねぇ。きみがジョーカーだったってわけか──新野凪くん」


 一陣の風が吹き、凪の前髪が揺れる。

 その奥に隠れる瞳──その中には何が渦巻いているのか、菜緒には分からない。

 世界真理は、人の心の中までは調べられない。

 凪は、その感情の見えない声で言う。


「俺と戦うのか?七録菜緒」



 生存専用ルールその5──設定されている区画外に故意に出た場合、その者は神人との戦闘命令が下される。



 菜緒は、その仕事のために地に降り立つことになったのだ。

 ルールを破った者──それはもちろん、凪。

 菜緒は虚空より本を取り出し、片手で凪の前に突き出しながら持つ。


「まあ、最低限やらなくちゃいけないことはやるつもりだよ──!」


 世界真理が、開く。


 

 これが、宏人たちとダクネスが戦っていた時の出来事。

 それが終わった今、もちろんこの戦いも既に決着がついている。

 今日この日は、この『世界』に大きな影響を与えた日と成った。

 だがしかし、それでも歯車は周り続ける──つまり。


 ──生存戦争が、再開される。


 






        第十三章 神人迎撃編──完



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