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超能力という名の呪い  作者: ノーム
十三章 神人迎撃編
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210話(神サイド) 神人戦⑦


「──創也。聞きたいことがある」


 とある日のこと。

 『メンバーズ』のリビングのソファで寛いでいる創也に、俺は尋ねた。


「なんでお前は……いや、お前だけは、戦っているんだ?」


「どう言う意味?」


 俺は後頭部をガリガリ掻いて言い直す。


「なんで新人の中でお前だけは、何度も何度も『世界』を繰り返しながら、救おうと躍起になっているんだ?」


 創也の顔に、真剣みが帯びた。

 

「それはね──」


 いつも笑っている創也からの、笑えない話。

 それよりも、そのことを語っている創也の顔は、いつもの飄々としたものとは一変していて──


 *


 『奥義』を開放したダクネスを前に、創也が立ち上がった。

 その目はダクネスに向けられており、表情は見えない──けど、いつもの創也の雰囲気ではないことだけは分かる。

 続いて体を起こす俺とアリウスクラウンに、創也は振り返らずに呟く。


「あと、一回」


 その言葉が意味することを察せない俺たちに、創也は小さく笑う。

 ──ダクネスの顔が、歪む。

 

 創也は振り返り──蒼色の『眼』を宿した瞳をこちらに向けた。


「最後に一回、威力は保証出来ないけど『時空放射』が撃てる。結構タメが必要なんだよね。まあ、そんなわけだから──死ぬ気で僕を守れ」


 創也はそう叫ぶと同時に、再度戦いの火蓋が切られた。

 俺は迫り来るダクネスに警戒しつつ、ぼんやりと思う。


 初めての、創也からの命令。

 正直、俺と創也は深い関係ではない。

 いくら創也がこの『世界』をループし色んな俺を知っているとしても、俺からすればそんなこと知らないの一言で終わる、そんな関係。

 でも、心が、魂が──俺が。

 

 ──遵守せよと、叫んでいる。


「毎度毎度毎度毎度私の邪魔ばっかしやがって──いい加減に捻り潰してやるよ。吐夢狂弥ァァァァァァァ!」


「アリウスクラウン!やるぞ」


「ええ。ここが正念場ね」


 俺は虚空より再度神剣『黒龍』と『暗龍』を取り出し、アリウスクラウンに『暗龍』を渡した。

 『黒龍』を腰に掛け、いつでも抜刀出来るようにしておく。

 そして俺は、ダクネスに背を向けて走る。

 言葉はいらない──アリウスクラウンがダクネスの対処をしている間に、先ず俺はガーディアンを潰す!

 創也は『眼』を閉じ、戦場のど真ん中で瞑想をしている。

 そんな創也に、手を伸ばすガーディアン。


「──お前の相手は俺だ。デカブツ」


 俺は足から『バースホーシャ』を噴出し──抜刀。

 カナメのスペシャル特訓中にアリウスクラウンから倣った抜刀術。

 まだまだ付け焼き刃程度の技術だが、いかんせん神剣の威力が段違いなためあまり問題はない。

 ガーディアンの頭が、鼓膜を震わせる衝撃音と共に落ちる。


 残りのガーディアン── その数9体。


 ガーディアンは即座に俺を脅威と見做したのか、纏めてかかってくる。

 その巨体で走ってくる衝撃だけで、俺は軽く飛ばされそうになる。

 だが、俺に緊張はない。


 そして、唱える。


「──『重力』」


 これが、俺がガーディアンを相手にした理由。

 一気に全員無力化させ、あとは首を刎ねるだけ。

 しかしガーディアンは俺が殺す前に砂のように溶け──9体いたガーディアンの砂が、やがて一つに纏まった。

 ……嫌な予感がした時にはもう遅い。

 

 元々大きかったガーディアンが更に2倍ほど巨大化したのだ。

 明らかに腕や足も太くなっている。

 余った砂を傘の様に頭上に展開することで、まさかの『重力』を克服された。

 

 俺は『能力』を『変化』に切り替え、容赦なく粉々にするつもりでガーディアンに触れた──のだが、まるで効果がない。


「……マジか」


 余った砂はレインコートの様にも使われており、ガーディアンの全身を包んでいた。

 本体に触れなければ、俺の『変化』はいつまでも外角の『砂』を消すだけだ。

 これにより、俺の『変化』と『重力』が妨害されることになる。

 だが。


「問題ない」


 俺は神剣を構え、刀身とガーディアンを重ねる。

 どうやら、さっそくまた俺の剣術の腕が試されることになったようだ。


 *


 宏人が一体目のガーディアンの頭を斬るのと同時に、ダクネスの翼とアリウスクラウンの神剣がぶつかった。


「ねぇアリスちゃん。今までの恩義は忘れちゃったのかな?もしそうだったら、私は今すぐお前を殺さないといけないんだけど」


「いえ、忘れてないわ。死にそうだった時に助けてもらった恩もちゃんと覚えてる。その上で言わせてもらうわ──さっさと死ね」


「あはははは。──つまんな。処刑けってーい」


 鍔迫り合いの最中、突如上空に光のオーブが出現──これは。

 アリウスクラウンが瞬時にダクネスから離れた瞬間、アリウスクラウンがいた場所に『光柱』が落ちた。

 そしてダクネスは物体化した『光柱』をアリウスクラウンに投げた。

 およそ3メートルはあろう『光柱』はあり得ない速度でアリウスクラウンに迫るが──抜刀。

 それは、宏人とは比べ物にならない程洗練された抜刀術。

 初見では反応出来ない速度を持つ勢いで、『光柱』は見事綺麗に真っ二つにされた。

 驚くダクネスを尻目に、アリウスクラウンは神剣の刀身を撫でた。

 すると、炎が『暗龍』に塒を巻き、神剣が燃える。

 絶妙な炎の力加減を可能とする『炎舞』の『能力』を持つアリウスクラウンだからこそ可能な、炎の剣。

 

 ダクネスは『奥義』──『カースド・ヘルエンジェル』によって底上げされた身体能力で以ってアリウスクラウンに迫り、いつの間にか手に持っていた剣で斬りかかってくる。


「ッ。……『光柱』ね」


「正解。すごいね」


 ダクネスは再度手元に収まるサイズの『光柱』を作り出し、それを剣の形にした。

 二つ目の剣を作り、二刀流となるダクネス。

 それを見て、アリウスクラウンは冷や汗を垂らす。

 炎の剣を作ったのはダクネスが生身だと思っていたからだ。

 いくら神人といえど、アリウスクラウンにより温度を底上げされた『炎舞』を生身で受けると無事では済まない……はずだったのだが。

 

(得物を用意された以上、炎の剣の優位性は無くなったわね。せめて翼だけでも燃やせたらいいのだけれど、一回宏人がやっちゃってるし……)


 背後から、身の毛がよだつ程鼓膜を震わせる衝撃音、そして地震が迫ってくるが、振り返らずダクネスを見据える。


 そして──覚悟を決めた。


「……ん?」


 アリウスクラウンの目の色が、変わる。


 *


「この前も思ったけど。なんでさ、お前アレ使わないの?」


「「アレ?」」


 スペシャル特訓中、カナメがアリウスクラウンにそう聞くと、宏人とセバスも興味深そうにアリウスクラウンを見た。

 カナメにしごかれまくり、肩で息をしているアリウスクラウンは今すぐ部屋のベッドで寝転びたかったが、気合いで我慢する。

 カナメの言うことを無視すると、アリウスクラウンだけなぜか報復をされるのだ。

 昔ながらの知り合いのためか、一切遠慮がないのだ。

 最悪ベッドが爆破されかねない。


「……アレはもう使わないわよ。一回使うだけで『能力』が枯渇するのよ?そんな博打そうそう打つわけないってのよ」


「で、で。アレはなんです?」


 セバスはやけに興味津々でアリウスクラウンに駆け寄る。

 セバスはアルドノイズと出会う前まではただのオタクだったので、他人の『能力』をよく詳しく知りたがる。

 なんでも、セバスは『アンデット』で蘇生すると自由に『能力』を変更することが可能なのだが、まず『能力』について知らないと選択肢がないのである。


 アリウスクラウンははぁとため息を吐くと、投げやりに言った。


「ただ、『炎舞』で体の熱を操作するだけよ。血の巡りとか、色々ね」


 *


 体が急激に熱くなり、血の巡りが促進する。

 ドクンドクンと、心臓が高鳴る。

 

「『炎舞魔人』」


 それは、カナメの式神と同じ名。

 かつて『炎舞魔人』によってカナメに敗れた因果か、はたまたただの嫌味か。

 アリウスクラウンは、『炎舞』の最終奥義を開放した。

 身体能力を人間の極限まで上昇させる、アリウスクラウンの格闘術と併せることで最大限の効果を発する『炎舞』の極地。


 しかし、デメリットもある。


(『炎舞魔人』を使いたくなかった理由……それは、『能力』終了後からしばらくの間一切の身動きが出来なくなること……)


 アリウスクラウンは苦笑する。

 まるで金縛りにあったように、しばらくの間指先たりとも動けない状態が続くのは恐怖でしかない。

 でも……これをしないと、死んでしまうのなら。


「今は宏人の『変化』でどうにかなりそうだし……久々に本気出すわよ?」


 アリウスクラウンの目が真っ赤に染まり、体中に紅色の紋様が浮かび上がる。

 

「なにそれ。今にも死にそ──」


 『死にそうじゃん』とダクネスが言いかけた時には、アリウスクラウンは既に背後に。


「──ッ!?」


 だがダクネスもまた身体能力を極限まで強化した身。

 アリウスクラウンとダクネスの剣が、とてつもない衝撃波を撒き散らしながら衝突した。

 両者ともお互いの剣の重さを警戒し、背後に後退する。

 数秒、アリウスクラウンとダクネスの間に沈黙が走る。

 

 そのアリウスクラウンの背後で、大地が揺れた。

 ……ここが空の雲の上ということは置いといて。

 まるで大きな物が崩れ落ちたかのような、地響きが。


「宏人。遅い」


「悪い。遅れ──てはないな。あの数のガーディアンのタイムアタックは相当辛かったぞ」


「ほぼほぼ一体みたいなもんだったじゃない。それで?創也は」


「あと10分だと。耐えるぞ」


「もちろん」


 ──俺とアリウスクラウンは簡単に情報を共有すると、目の前の敵に備える。

 ダクネスの肩が、不気味に笑う。


「テメェら──」


 ダクネスの言いそうなことくらい、戦ってる最中で大分分かってきた。


 ──だってさ、今強く思ってることは、俺たちは一言一句同じ言葉だ。


 それはアリウスクラウンも例外ではない。

 俺たち3人は、叫ぶ。




「「「──さっさと死ね!」」」




 狂弥の『時空放射』の完成まで──残り10分。




 

 


 


 

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