208話(神サイド) 神人戦⑤
黒夜とカルマが死んだ。
アリアスクラウンは血だらけで倒れている。
今立っているのは、俺とダクネスの二人だけ。
ダクネスが今使用出来る能力は『重力』、『バースホーシャ』、『炎舞』。
『変化』と同様に、『重力』は『重力』で相殺出来るため、危険視すべきは『バースホーシャ』と『炎舞』。
もちろん俺も『バースホーシャ』は使えるが、ダクネスが『炎舞』を持っている以上迂闊に使えば操作され俺自身に牙を剥くことになるだろう。
「宏人くんが私に勝てる可能性がある方法を教えてあげようか?」
「やめろ」
「アリスちゃんを殺すこと。だよね!」
「黙れ──クソ野郎」
ダクネスがさも当然とばかりに言い放つと同時──俺はここら一帯に『重力』を展開!
『旧世界』は自然現象は否定出来ないため、『重力』なら常時発動可能だ。
神人であるダクネスでも、収縮されたとてつもなく重い重力の前では立つことすら困難。
だが、先述したように──『重力』は『重力』で相殺可能なわけで。
ダクネスは普通に立つと、『バースホーシャ』を連発する。
何も対抗手段がない俺に向かって、いくつもの『バースホーシャ』が迫る。
だから、俺は叫ぶ。
「いい加減起きろ。アリアスクラウン!」
「──ったく、人遣いが荒いわね」
次の瞬間、ダクネスの『バースホーシャ』は霧散した。
アリウスクラウンの『炎舞』が、ダクネスの『バースホーシャ』を打ち消したのだ。
──これで、準備は整った。
「ダクネス。シンプルに殴り合いといこうか」
「……なんでかな?私は神人、最高峰の『カミノミワザ』を持つ──」
「じゃあさ、なんか『能力』使ってみろよ」
俺の言葉に、ダクネスの顔が引き攣る。
カルマは死に、『天使』は消滅。
黒夜も死に、『魔弾』も消滅。
『変化』は俺の能力結晶が『重力』に変換されたことにより使えない。
その『重力』も俺の『重力』で相殺可能。
『バースホーシャ』、『炎舞』ともにアリウスクラウンの『炎舞』で相殺可能。
ダクネスはもう、俺に対抗出来る手段はない。
「あんまさぁ……神人舐めんじゃねぇよ!」
ダクネスは怒りの形相で俺に拳を振るう。
それに対し俺は手に『重力』を付与し、ダクネスの拳を割った。
ダクネスは涙目になりながら蹴りを入れてくるが、回避し顔面を殴る。
当たれば無事じゃ済まないだろうが、こと格闘術に関しては俺の方が自信がある。
「ァ……!」
ダクネスはうめき声を上げて地を転がった。
「俺の勝ちだ、ダクネス」
俺は未だ蹲ってるダクネスを見下した。
そんな俺をダクネスは睨みつけるも、何も出来ないことに変わりは──
「……あはは」
「……?」
「あはは……あっははははははは!なーにバカなこと言ってんだよ人間!私がテメェらに負けるわけないだろォォォォォォォォ!」
瞬間──『世界』が、崩壊した。
「ッ!?」
まさかのここで『旧世界』の解除に、俺はダクネスから視線を外してしまい──次見た時には、そこにダクネスはいなかった。
「宏人!あそこ!」
焦る俺に、アリウスクラウンが大声でどこかを指差す。
その指の先には──全力で逃げるダクネスの姿が。
「……ッ!あいつ……!」
確かにダクネスには戦闘に対する意欲は感じられないとは思っていたが、まさか敵に背を向けて逃げるとは思っていなかった……!
俺も全力で追いかけるが、神人の身体能力の前には歯が立たない。
段々、段々と、ダクネスが小さくなっていく……!
せっかく黒夜とカルマが命を賭して戦ってくれたのに、ここでダクネスを逃すわけには──!
──すると、ダクネスの足が止まった。
ダクネスの先に、人影が見えた。
その人影が、俺に向かって叫ぶ。
「大丈夫!僕がいる」
……ああ、そうだな。
俺は、創也の元に駆け出した。
*
宏人がアリウスクラウンに『変化』を使用し回復させ、共にこちらへ駆け出している間。
創也は静かにダクネスと相対していた。
「……テメェが吐夢狂弥なんだって?よくもまあ私とこんな近くでノコノコと生きていられたもんだよなぁ」
「怖がっていればよかったの?ああ、僕の正体がバレれば怖くて恐ろしい神人様に殺されてしまうんだーって?」
「舐めるのはいい加減に──!コホン。まあ、いいよ。私は優しいからね、特別に見逃してあげるよ。だからそこ、どいて?」
ダクネスは途端に態度が急変し、打って変わって優しい顔付きになる。
元来の美少女の顔を遺憾なく発揮し、上目遣いでウインクした。
しかし創也はそんなダクネスに構わず指摘する。
「そんなかわい子ぶったって無駄だよー?というか全身の打撲やばくない?背中のとか内臓まで傷付くやつじゃん。よくそれで生きてられるね──化物」
「よし──殺すね!」
*
俺とアリウスクラウン、そして創也の前には、痛々しい程傷付いたダクネスが。
それでも、今の俺たちと互角か、それ以上の力を持つ正真正銘の化物。
「宏人。二人は?」
「……死んだ」
「そう。二人には感謝しないとね。お陰でこいつを、殺せる」
ダクネスは何も言わず、だが確かに怒っている。
視線の先は創也……いや、狂弥か。
今動く気配がないのは、少しでも息を整えるためか?
「創也。カナメはいいのか?七録菜緒はともかく、アルベストには警戒しなきゃまずいだろ」
「大丈夫だよ。カナメ起きたし。まだ全く再生出来てないけどね。それにセバスと瑠璃もいる。何も問題ないさ。ところでアリウスクラウンは大丈夫なの?」
「ええ。宏人の『変化』のおかげでね。もう少し遅かったら本格的にやばかったと思うけど。……これからもっとやばくなりそうな予感がするのは置いといて」
俺たちは最低限必要な情報を共有すると、戦闘態勢をとった。
また『旧世界』を発動されようと、今回は創也がいる。
俺とアリウスクラウンの『能力』は相殺でき、『魔眼』も創也が何とか対応出来るだろう。
そして勇者剣。
これがあるだけで、俺たちはかなり有利に事を運べるはずだ。
だが──ダクネスは、面白そうに笑った。
「あはっ。あはは。あはははははは!そんなに死にたいなら魅せてあげる!私の『カミノミワザ』の真骨頂──『新世界』を!」
「──ッ!」
途端──景色が変わる。
『旧世界』の時はどうせ『式神』の押し合いでは勝てないから対応しなかったが、今回は展開されるまで気付かなかった……!
しかもこのこの『世界』は『旧世界』とは全く違う、まるで天国のような神々しい雲の上の世界で──!
「式神展開『神々天死』」
ダクネスの『カミノミワザ』、その名は『新旧世界』。
『新旧世界』は二つの能力に分けられており、その一つが『旧世界』。
己以外の『能力』の実体化を禁止し、かつ己以外の『能力』を『世界』より与えられる、一方的な暴力を可能とする最強の『世界』。
そして、『新世界』。
『旧世界』は『世界』を閉じると、獲得した『能力』は全て使用出来なくなる。
だが、『能力』は魂の奥底に沈むだけであり、決して消滅したわけではない。
『新世界』は、その中の一つを蘇らせる『カミノミワザ』。
しかし『新世界』の真の力はそれではない。
『能力』を──『カミノミワザ』へと昇格する力。
「……カルマの『天使』、か」
目を焼き尽くさんばかりの、神々しい光。
雲の上に巨大な神殿が建てられており、まさに楽園を体現したような世界。
その上空で、天使の羽を背に宿したダクネスが、慈愛の瞳で俺たちを眺める。
そして──!
「『ジェノ・エンゲイル』」
ダクネスがその言葉を紡いだ瞬間、光の柱が降り注いだ。