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超能力という名の呪い  作者: ノーム
十三章 神人迎撃編
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207話(神サイド) 神人戦④


 暗龍の咆哮とともに、両者は動き出した。

 ダクネスは再度上空にて『天使』の攻撃を降らすべく、天に昇ろうとする。

 だがそうされるとダクネスに攻撃を与えること自体不可になるため、俺と黒夜も暗龍に乗って空を飛ぶ。


 ──およそ『式神』の中とは思えないほどの空だ。


 太陽が煌めき、風が心地良い。

 それもそのはず、ここもちゃんと、昔といえど普通の世界に変わりはないからだ。

 その空で、天使が笑う。

 その天使は容赦なく上昇中の俺たちに『殲滅天使』を降らしてきた。


 それを俺が『変化』で、黒夜が『魔弾』で、暗龍がそのブレスを繰り出し──


 高度約70メートル地点にて、俺たちは対峙した。


「相変わらず役割に無駄がないね。宏人くんと黒夜ちゃんで暗龍に乗って私の『殲滅天使』の範囲から出て戦う。そしてそして、その間にカルマちゃんがアリスちゃんの看病……でもアリスちゃん助からないと思うよー?結構深くやったし」


「……そうかよ。ならお前をさっさと倒して帰って飛鳥に診てもらうしかないな」


 俺は相変わらず余裕のフリだ。

 ダクネスには完全にそれが虚勢だと知られているが、そんなの関係ない。

 こうしていないと、今すぐにでも戦意を喪失してしまいかねない。

 それくらい、俺たちの力には差がある。


「ふーん。でもどうするの?確かに私はもう神人としての回復能力はないけど、宏人くんの『変化』があるうちは無敵だよ?」


「……そうだな。確かにお前が『変化』を持っている限り、俺たちはお前を倒せない」


「だよねー。なら──」


「だけどな」


 俺はダクネスの言葉を遮り、ダクネスに歩み寄る。

 ダクネスは動かない。

 それは動く必要がないから。

 俺たちが、今の『能力』で戦う限りダクネスは悉く無効化、反撃してくる。

 

 だから、欺くしかない。


「俺は、お前に勝つと言った」

  

 俺の能力結晶が、黒く染まる──!


「──『重力』」


「──!」


 俺はダクネスに直に触れ、『重力』で地に落とす!

 ダクネスは突然の事態に目を見開きながらも、冷静に天使の翼を広げ飛翔を試みる。


「させるわけないだろ」


 俺も俺自身に『重力』を発動し、落ちる勢いそのままでダクネスの腹部に拳を叩き込む。

 ただの拳ではない、『重力』を付与した拳。

 ダクネスはあまりの重さのパンチに嗚咽するが、小さく笑い『変化』と唱える。

 俺と創也の死ぬ気で行った『時空放射』の作戦を嘲笑うかのような、完全回復を可能とする俺の異能。

 言った通り、俺はダクネスが『変化』を持っている限り勝ち目はない。


 だが──俺が『重力』を使用している間は、俺のなかの『変化』は消滅する!


 これは『重力』が新たに獲得した『能力』ではなく、『変化』の特性上様々な要因が重なり奇跡的に『変化』したもの。

 

 ダクネスは『変化』が発動出来ないと確信し──笑みが一転、怒りの形相に変わる。


「『重力』!」


 だが俺が『重力』を使っているということは、ダクネスも『重力』を使えるということ。

 ダクネスは重力を操り落下を止めるが、その瞬間に俺はもう一度拳を叩き込む。

 狙うはダクネスの顔面。

 だがダクネスはインパクトの直前で腕で受け止め、そのままの勢いで俺を振り払う。

 しかし俺は離さずダクネスの腕にしがみつく。

 格好が悪くたっていい、この勝機を逃さない!

 ダクネスはしつこい俺に苛立ち、俺の左腕を引き抜く。

 

「──ッ!」


「いい加減にしな宏人くん。しつこい」


 だが俺は『変化』で一定以上の痛覚神経を失くしているため、腕に響くは無くなった不快感のみ。

 若干平衡感覚が鈍るが、空中ではそんなことは関係ない。

 俺は一瞬で『変化』で腕を治し──その腕で再度ダクネスの顔面をぶん殴る!

 

「ァ──!」


 さすがは神人というべきか。

 ダクネスは白目を剥きながらも、殴った状態の無防備な俺の腹部を蹴飛ばし、俺とダクネスの距離が遠のく。


「黒夜!暗龍!」


「はい!宏人様!」


 黒夜は黒龍から飛び降り、そのままダクネスを神剣『黒龍』で斬りつける。

 だがダクネスは空中で体を捻って回避、その勢いで黒夜の鳩尾を蹴りつけた。

 黒夜も剣で体を庇うが、ダクネスの力に押し負け反撃を断念し、距離を取った。

 ダクネスの肌が裂け、鮮血が舞うが浅い。

 その後立て続けに黒龍がその巨体でダクネスに体当たりし──遂にダクネスを地に落とすことに成功した。


「──カハッ」


 神人の防御力に、加えて途中で『重力』により速度が緩和されたとはいえ、この高さから落ちたのだ、タダでは済まない。

 おそらくダクネスの内臓はズタズタだろう。

 だがまだ油断は出来ない。

 俺も着地し、ダクネスと黒夜のもとへ急ぐ。


 ダクネスまでもう少し──そこで、気付いた。


 ──ダクネスの目が、血走る。


「黒夜──逃げろォォォォォォォォ!」


 俺が叫んだ瞬間──ダクネスの全身から天使の翼が咲き乱れた。


 *


 ──あたしはあたしが嫌いだ。


 カルマ・ネーベルはアリウスクラウンの背に最低限の血止めをしながら、そう思った。

 上空ではダクネスと宏人たちが戦っている。

 そんな中自分はといえば負傷者の介護だ。

 それも回復手段がない以上、本当に最低限の応急手当。

 

 ザックゲインを裏切ったのは、裏切られる未来が簡単に見えたから。


 上位七人は、ただ故人の中で優秀な七人が蘇っただけのことで、その七人は味方というわけではない。

 逆にそれぞれプライドが高い以上、纏まるなんて無理な話だ。


 それを、ザックゲインは可能にした。


 持ち前の強さと狂気で。

 だからみんな彼に従った。

 ……ニカイキも裏切っていたみたいだけど。

 それはともかく、カルマだって上位七人の一人だ。

 『世界』に認められ、恐れられた能力の持ち主。

 そのはずなのに、今は何も出来ない。

 シェリカの件もあり、創也や宏人にはまだ信用されていないが、黒夜やアリウスクラウンにはよくしてもらった──だから。


「……なんてね。らしくないわぁ……」


 ──あたしは、黒夜を庇ったのだろう。

 自分の『能力』で死ぬ。

 

 案外、悪くない。


「カ、カルマ……?」


 後ろに突き飛ばされた黒夜は、何が起こったのか分からない様子で目を白黒させている。

 天から地に堕とされた天使──ダクネスの全身から、『天使の羽』が咲いたのだ。


 そして──カルマの体を、無数の羽が貫いた。

 

 *


「黒夜」


 へたり込む黒夜に、俺は敢えて冷淡な声で言う。

 目の前で、カルマが死んだ。

 ダクネスから『天使の羽』が消失したことから、それは簡単に察せた。

 付き合いが短いのに加え、直前まで本当に味方になったのか疑っていたのだ。

 正直、悲しくはない。

 でも──黒夜は別なわけで。


「あはははは。宏人くんも分かってるでしょ?もうその子は手遅れだよ」


 彼女のために、なんて格好つける気はないが、今ここで、絶対にダクネスを倒さなければならない。

 黒夜は未だカルマを見つめている。

 俺の呼びかけに、黒夜は口だけ動かした。


「ひ、宏人様。す、すみません。私……」


「……まだ、戦えるか?」


「はい!もちろんです!」


 黒夜はそう言い切り、俺の隣に立つ。

 するともじもじと、上目遣いで俺に問うた。


「……宏人様は、私が死んだら悲しい……ですか?」


「ああ。悲しい」


 俺が即答すると、黒夜の顔に花が咲く。


「嬉しいです」


 そして、まるで花が散るように──彼女は塵と成った。


 『炎舞』による、『バースホーシャ』の遠隔操作。

 ダクネスはアリウスクラウンが気絶すると同時に、誰も狙わず、ただただ『バースホーシャ』を発動していた。

 『炎舞』で操作出来る以上、最大限に警戒していたのだが……俺はダクネスに蹴飛ばされ、黒夜と距離を離されてしまい……その結果がこれだ。


 背後で、暗龍が倒れた。


 振り返りはしない、どうなっているのかは知れている。

 暗龍の腹部にはぽっかりと穴が空いていて、その穴の先に──黒夜がいた。


 ダクネスの『バースホーシャ』は、暗龍を貫くだけでは止まらず、黒夜までも呑み込んだ。

 俺の避けろの叫びは、ダクネスの翼のことではなく『バースホーシャ』のことだったんだが……まあ、そりゃ対応は無理だな。


 何はともあれ。


「──ダクネス。殺す」


「聞き飽きたよ宏人くん。だから殺す」


 俺とダクネスに、一陣の風が吹く。

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