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超能力という名の呪い  作者: ノーム
十三章 神人迎撃編
211/301

203話(神サイド) そして


「う、嘘でしょ……」


 呆然と静まる神の間に、ダクネスの声が響く。

 カナメの『正四尺玉』が大爆発を起こし、カナメ自身やライザーだけに止まらず、生存戦争の会場の森までもが容赦なく破壊されていき──最後に立っていたのは、カナメだった。

 その状況に驚いているのはダクネスだけではなく、アルベストも。

 おそらくライザーの強さをよく知っているからなのだろう。

 俺たちとしては嬉しい限りだが……画面の向こうでカナメが倒れるのが見えて、少し嫌な予感がした。


「カナメが勝ったわけだし、俺は釈放ってことでいいんだよなダクネス、アルベスト」


 俺は席を立ち、ダクネスとアルベストを交互に見ながら言った。

 ダクネスは呆然としていて、アルベストは苦笑いをしている。

 

「あ、はは。いやごめんごめん取り乱してた。僕はライザーが勝つと思っていたからね」


「どうでもいいよ。早く生存戦争に帰してくれ。まだやるべき事が残ってる」


「そんな急がなくてもいいんじゃないか?向井宏人、特別にきみに神の世界を観光出来る権利を──」


 俺はアルベストの言葉を遮り、『眼』を蒼く輝かせる。


「早く帰せと言っている」


「……お前、すごい度胸だね。お前一人で僕に敵うとでも?」


「一人じゃないさ。ここには黒夜も瑠璃もアリウスクラウンもカルマもいる」


 俺とアルベストが一触即発の雰囲気を発する中、ダクネスは構わず間に入った。

 俺はダクネスにも『眼』を向けたが──


「……っ」


 ……ダクネスの発するオーラの前で、臆してしまった。

 先程まで話せていた事が嘘のような、言葉の伝わらない怪物。

 ダクネスの目は、本気だった。


 そう──ダクネスは、ライザーとの戦いを終えて弱っているカナメを、今のうちに殺すつもりだ──!


「アルベスト。いいよね?」


「言葉が足りなくて何がいいのか分からないな。だから取り敢えずいいよと答えておこう」


 アルベストは神の間の転移装置を発動させた。

 すると俺たちがここに来た時に立っていた場所が、青白く発光する。

 これがカナメの元に繋がる転移……!

 ダクネスはそれを確認すると、淡々とその場所に歩いていく。

 

 俺は、ダクネスの前に立ち塞がった。


「どけよ」


「どかねーよ。カナメをどうするつもりだ?」


「察せよ。殺すに決まってるでしょー?」


 ダクネスは笑顔を崩さない。

 だから俺も笑うことにする。

 ……多分、というか絶対引き攣ってるだけだ。

 ダクネスは今、今までにない程の殺気を俺に向けている。

 ダクネスがカナメを殺すのはライザーの復讐のためではない、神人の力のバランスが崩れたからだ。

 ライザーが死んだ事により、名実ともに神人最強はカナメになった。

 ダクネスは恐れているのだ──カナメに殺されることを。


 だからそれを逆手に取る。


「カナメにはお前に手出ししないよう言っておいてやるぞ?」


「……いい加減にしろよ向井宏人。やろうと思えば瞬殺出来るんだよ?そろそろ退いた方が身のためだよ」


 正直……怖い。

 発せられているオーラだけで分かる、強さ。

 アルドノイズよりも、アスファスよりも、ザックゲインよりも強い、力の塊──『神人』ダクネス・シェス。

 

 ──だけどさ。


 挑まずにはいられないんだ。

 

 アルドノイズの時だって、本来の俺なら足元にも及ばなかった。

 でも狂弥が、俺をアルドノイズと同じ土台まで引き上げてくれた。


 だから今回も──お前の力、使わせてもらうことにする。


「……宏人くん。やめな」


 俺の『眼』が、どんどんと蒼く染まっていく。


「やめなって。ここは神の間。壊したらアルベストだけじゃなくて神ノーズだって黙っていないよ」


 俺の『眼』は止まらず、遂には紫色に変わった。

 目が耐えきれず、血の涙が頬をつたる。

 本来神人だけにしか使用することが許されていない程の、圧倒的な力の本流が俺の目に宿る。


「やめろって──言ってンだろォォォォォォォォ!」


 ダクネスは俺を蹴飛ばし、転移台になって姿を消した。

 およそ少女とは思えない威力の蹴りに、俺は血反吐を吐きながらもよろよろと立ち上がる。

 未だ、『眼』は爛々と輝いている。


「……追わなくていいのか?」


 アルベストは少し遠慮した口調でそう聞く。

 その問いに対し俺は──笑った。


 *


「……怖がらせやがって。マジでこの後殺そうかな」


 ダクネスはカナメとライザーが最後にいた更地を歩きながら、悪態を吐く。

 まあでも、気分はいい。

 なにせこれで、自分が神人最強──つまり、神ノーズとアルベストが許す限りは何でもし放題なのだ。


(今までは本気を出し過ぎるとライザーに狙われちゃうから抑制しなきゃダメだったけど……それもこれも、今日から変わる)


 意識を失っているカナメを見下ろしながら、そんな事を思う。

 ダクネスの背後から、隠す気のない足音が響いてくる。


「……宏人くん。いい加減に諦めなって」


 ダクネスの目の前には──片目に紫色の『眼』を宿した宏人が。


「諦めるもんかよ。というかダクネス、もう終わりにしよう」


「……本気?私はカナメくんを殺すだけで勘弁してあげるつもりだったんだけど……いいの?神人の掟分かってる?」


「身近に神人がいるもんでな、もちろん知ってる。神ノーズか相手の許可なしに殺しはやってはいけないってやつだろ?分かった上で言ってる」


「へぇ……。いいよ、相手したげる。まあ私が負ける要因は、その『時空放射』をどれだけ抵抗出来ずに浴びちゃうか、ぐらいだと思うけどね」


「そうか。ところでさ、お前って全力の『時空放射』を抵抗出来ずに2回喰らったら死ぬ?」


「うーん。随分変なこと聞くね?そうだなぁ、死んじゃうんじゃないかな?今の宏人くんの『眼』、ライザーやアルベストだってタダじゃ済まな──」



「だそうだ、創也」



 刹那──紫色の光の奔流が、ダクネスを背後から包んだ。


(え──?)


 ダクネスが気付いた頃にはもう遅く、それでも自分が今なんの攻撃を受けているのか知覚していた。


 吐夢狂弥の『能力』──『時空放射』。


 吐夢狂弥が死ぬ間際に宏人に預け、それを宏人が2年熟成させ続けた、神人をも殺す最強の一撃。

 一瞬の攻撃のはずなのに、永遠に思えてしまうほどの激痛が体を走る。

 体が壊れ、再生する。

 それを何回も何回も何回も何回も繰り返す。

 そんな中、ダクネスは思った。


(ああ──良かった)


 ダクネスは正直心の底から宏人の『時空放射』を警戒していた。

 あれほどの凝縮された『時空放射』はただでさえ強い『時空放射』の力を完全に越していて、防御面に自信がないダクネスはおろか、ライザーですら浴びたらただじゃ済まないと考えていたからだ。

 だが今、ダクネスはかなり余裕で耐えていた。

 再生能力もまだまだある。

 ここでダクネスは結論付けた──やはり、超能力者如きがいくら足掻こうと、神人の私たちには届かない、と。

 七録カナメのように神人に進化すれば話は別だが、あれは今後もないであろうただの奇跡だ。


 ダクネスはそう納得すると、『時空放射』が終わった後に宏人をどう惨たらしく殺そうかと楽しそうに考え──致命的な問題に気付いた。


(なんで──なんで私は今『時空放射』を受けている!?)


 ダクネスは、宏人の『時空放射』に何よりも警戒していた。

 そして『時空放射』を浴びたのは背中から。

 

 やがて一瞬の、ダクネスからしたら年単位だと錯覚するほどの『時空放射』が収束したあと、耐え切ったダクネスはおそるおそる背後を見た。

 

 するとそこには──太刀花創也が、満足気に笑っていた。

 その隣りには藍津もいたのだが、ダクネスの目には映らない。

 本来なら見えない数百メートル程向こうの光景。

 だがダクネスの神人としての身体機能がそれを可能にしていたのだ。

 

 背後で、宏人が『時空放射』を放とうとしている。

 本来なら真っ先に対応するであろうそれに、ダクネスは見向きもしなかった。


 ダクネスのなかで、情報が結びついていき──やがて、全てを理解した。


 ダクネスの顔が、声が、オーラが、怒りに染まる。


「お前が……お前が吐夢狂弥かァァァァァァァァ!太刀花創也ァァァァァァァァァァァァァァァァ!」


 ダクネスは、今度は宏人の『時空放射』に呑み込まれた。


 *


「──はぁ……」


 俺は『時空放射』を放ったあと、ドッと疲れ地に膝を付いた。

 神の間に行く前に与えられた1日で決めた作戦が、今見事に成功したからだ。

 俺たちがカナメ無しでダクネスに勝つ方法はたった一つと言っても過言ではなく、それは『時空支配』にある。

 俺がアルドノイズと戦う際に吐夢狂弥から譲り受け、俺のなかで2年の年月と共に熟練されていった、最強の業。

 だがここで一つ問題が生じた。

 当たり前の事だが、どんな最強の業でも避けられたら意味がないのだ。


 そこで俺は創也に頼み、神の間には行かずに生存戦争の場に待機してもらい、ダクネスが地に降り立つと共に──『時空放射』を撃ってもらった。


 創也だって、『時空支配』を使えるのだ。

 とはいえ俺のように年月をかけて熟成したわけではない創也の『時空放射』は、本来の吐夢狂弥並みの『時空放射』を撃つのは不可で、到底ダクネスには致命傷を与えることは出来ない。

 だがそれでいいのだ。

 ダクネスに困惑してもらい、少しでも、一瞬でも隙が出来ればそれでいい。

 そこで作戦を完璧にするため、俺は藍津にも協力を求めた。

 

 藍津の『能力』は『必中』。


 どんな形であれ、必ず指定した『能力』を対象に必中させるという能力。

 藍津は喜んで協力すると言ってくれたが、まあ奴に頼み事をすればミッションがくるのは変わりなく……それでも、内容は簡単だった。


『必ずダクネスを殺してくださぁい。出来ますかぁ──宏人さん?」


 ああ、出来るさ。


「……」


 ──やがて俺の『時空放射』によって出来た粉塵が晴れ、その中から人型のシルエットが。

 

「やっぱりお前なら耐えるよな──ダクネス」


「あは、あはははははは。殺す」


 ダクネスの姿は見るも無惨で、既に美少女の面影はなかった──のだが、急激に再生しいつも通りの姿に。

 だが俺は焦らず、冷静にダクネスを見つめる。

 

 確信だ──ダクネスはもう、再生出来ない。


「あははは。よかった死神の隠し玉持ってて。それ犠牲にしなかったら今頃私死んでたよー」


「はは。ぜひ今ので死んでもらいたかったんだけどな……」 

 

 背後から、三人の足音が。


「遅いぞ──黒夜、アリウスクラウン、カルマ」


「すみません宏人様!でも間に合ったようで良かったです……!」


「……ちゃんと創也と『時空放射』撃ったのよね?なんでまだダクネス生きてるの……」


「え、ちょ、アタシまじチビってきたんですけど」


 それは俺もだ……とは言わず、4人でダクネスと向かい合う。

 多分、というか絶対今まで戦ってきたどんな奴よりもダクネスは強い。

 だけど、俺は勝ってきた。


 アルドノイズにも、アスファスにも。


 しかも今回は4人だ。


「宏人様。先ほど瑠璃がカナメをセバスの元に預けました。当のセバスは諸々の理由でカールが仮死しているため『アンデット』が使えなく、かつザックゲイン戦ということもあり休ませておきました。……これでよろしいでしょうか?無理してもらってでも連れてきた方が良かったでしょうか……?」


「ここまで創也が来るのにあと5分と言ったところかしら。……間に合わないわね」


「いいさ。俺たちで勝てる」


 俺が黒夜とアリウスクラウンに返答すると、満面の笑みのダクネスが口を開いた。


「おい向井宏人ー。そこのザコ3人は置いといて私はお前だけを狙うからねー?」


「あと5分で創也──狂弥が到着するってよ。いいのか?この期に殺しとかなくて」


「おもしろいこと言うね──」


 ダクネスの顔が、みるみる歪んでいき、やがては怒りの形相に。

 例えるなら、おたふくから般若だ。

 ……ダクネスの前では決して言わないが。


「もちろん──テメェを殺した後に決まってンだろうがよォオイ!」


 ──『世界』が、切り替わる。


「式神展開──『旧世界』!」


 さて、神人戦だ。


 

 

 

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