202話(神サイド) カナメvsライザー⑤
とてつもない量の放射線が、カナメの体を壊していく。
体の細胞が破壊されていくと同時に、再生能力で細胞が蘇っていく。
その速度はあまりにも早く、カナメの再生が終わるのも時間の問題だろう。
──カナメは今、生身で宇宙空間に放り出されていた。
今こうして意識を保っていられるのも、おそらく神人だからだろう。
だんだんと意識が薄れていくなか、割れた空間の向こうでライザーが笑っているのが見えた。
それは怒りか対抗心か。
カナメはなんとか意識を引きずり戻し──!
*
ライザーの式神は、空間を指定する能力。
そのため別段宇宙空間に限定されてることはなく、マグマの中や地中の底にだって対象を送ることも出来る。
どんな最強の生物にも、必ず適さない場所は存在する。
神だって、太陽にでも送れば簡単に燃やせるだろう。
カナメの『能力』である『世界破滅』は、どんな存在でも爆破することが可能な能力。
その威力はライザーが今まで喰らってきたどの攻撃よりも高く、まさにカミノミワザ。
だが──それもこれも、撃てれたの話。
ライザーの式神で飛ばした宇宙空間では、能力はおろか息をすることさえ不可能。
(さて……こいつもここで終わりか)
ライザーはいつもと変わらない展開に少し落胆する。
ライザーは毎度、最後まで式神の本来の能力を隠し戦い、能力を使うに相応しい相手に式神を展開している……が。
今まで一人たりとも、『虚構蒼穹』から脱出出来た者はいない。
「……ん?」
すると、カナメが両手を合わせた。
その動作は式神展開、だがライザーが展開し、加えてカナメがその式神に囚われている時点で展開することは不可能……いやまて。
「顕現かッ!」
ライザーが気付いた頃にはもう遅く、人のシルエットをした炎が外側から『虚構蒼穹』を破壊した。
──式神顕現『炎舞魔人』
その二体の炎を侍らせ、壊れた『世界』からカナメが飛び出す。
その人差し指は熱が凝縮された様に紅く煌めいており──!
「正解だよ──『万華鏡』」
「ハッ──!」
カナメの手から放たれた『世界破滅』が練り込まれたビームは、ライザーを丸々飲み込んだ。
本来なら当たれば即死の一撃必殺。
だが相手は神人、簡単に死んではくれない。
「……ククク。正直、ここまで追い込まれたのは初めてだ」
『万華鏡』から発せられた煙を切り裂き、中からライザーの姿が現れる。
外傷は──ない。
一度目の『万華鏡』を喰らった時に再生能力は使い果たしていたはずだが……。
カナメは一瞬そう疑問に思ったが……ライザーの姿をはっきり見ると、口角が上がった。
「ははっ!めっちゃ必死こいてんじゃん──式神壊して回復に使ったな?まだちょっと力残してんのは割れた空間に殺傷力付けるためか」
「言っただろう?ここまで追い込まれたのは初めてでな。少なからず動揺している」
「それもこれもお前は舐めプし過ぎたんだよ。初っ端から宇宙出しとけば結果は分からなかったのによ」
「ほう。誰がもう決着はついたと言った?──まだまだこれからだろ?」
ライザーは笑いながらカナメに『割れた空間』を投げる。
「ッ!」
それに当たると、絶対防御を貫通しカナメの腕がえぐれた。
(まじかよ、空間を飛ばしてやがる。もうわけわからん)
ライザーの斬撃は止まらない。
カナメは苦い顔をしながらも爆破で対処し、ライザーに近付いていく。
二体の炎舞魔人と四方八方から襲いかかる。
だがライザーは、炎舞魔人を、空間の檻に閉じ込めた。
(!そうか、俺はなんでも破壊出来るからされてないけど、ライザーは空間を上手い具合に切り取って対処を閉じ込められるのか……!)
「……めちゃくちゃだ」
カナメは小さく笑う。
数分とはいえ、宇宙空間に生身で放り出されていたのだ。
『能力』を再生に回しすぎ、二度の式神の使用でもう『能力』が枯渇寸前。
それはライザーも同じだろうが、いかんせんカナメは余分にザックゲインと戦ってしまっている。
言い訳をするつもりはないが、かなりの痛手だ。
『──あっぱれだ。七録カナメ。貴様の事は忘れん』
脳裏に、エラメスが過ぎる。
あの時も、奇跡的に神人に成らなければ死んでいた。
なにも自分だけではない、誰も彼も、仲間たちはアスファスとエラメスに殺されてしまっていただろう。
『ライザーって奴に勝てそうか?パッと見ヤバイくらい強そうだが……』
「勝てるに決まってるでしょ」
カナメはライザーに肉薄、お馴染みの『爆破』『衝撃』パンチを繰り出す。
ライザーはその拳の到着地点の空間を割り強引に回避、カナメにカウンターが飛ぶ。
だがライザーの拳は何の能力も付与されていないため、致命的ではない。
カナメは軽く咳き込みながらも、足蹴りを叩き込む。
ライザーの腰に命中し、ライザーは苦い顔をするが──それと同時に至近距離での空間斬撃。
カナメの左目に命中し、目が潰れる。
しかしカナメは気にせずそのまま拳をライザーの腹部に。
「ガ──……!」
ライザーが血反吐を吐く。
少なくとも今、ライザーの何かしらの内臓が壊れた。
カナメはそこに『爆破』で追撃する!
「ハ、ハハッ!いいぞ!もっと力を出し切れ七録カナメ!」
「本当に?死んじゃうよ?」
ライザーは四方八方に空間斬撃を飛ばす!
至近距離にいるカナメを容赦なく切り刻むが、疲労のためか出力はそこまで。
それはカナメにも言えることで、今さっき撃った『爆破』もライザーの皮膚を焦がすだけに留まった。
「オレを仲間にするなど考えるな!先のことなどどうでもいいッ!今この時この瞬間に全力でオレに抗え七録カナメッ!そして──オレを楽しませろ!!!」
ライザーは叫びながら狂った様に笑う。
カナメはいくら切り刻まれようとも止まらずライザーに拳と『爆破』をぶつけ続ける。
カナメとライザーの『能力』残量はもう残り少ない。
神人であっても、アスファスも向井宏人戦でそうであったように、『能力』の枯渇は存在する。
だからカナメは思いましていなかった──もう、莫大な『能力』を使用しライザーが大業を出す事を。
実際、ライザーは今そんなことは出来ない。
だがしかし、『奥義』を発動するのに必要なのは、式神の強度──!
「『奥義』──『永続破空』」
ライザーがカナメの『万華鏡』からのダメージを回復するのに使用したのは己の式神の約9割。
1割の力の式神など、を少しでも発動すれば消滅してしまうほどの脆さ。
今度こそライザーは完全に式神を消費させる代わりに、式神の『奥義』を解放した。
それはライザーの式神の空間(式神吸収を行なっている場合はライザーの半径50m)を1×1マスに分割、その空間を破壊する御業。
『虚構蒼穹』という理不尽過ぎる能力を超えた先にある、最強の『奥義』。
だが──それが発動する同じタイミングに、既にカナメも準備を終わらせていた。
カナメの『世界花火』には数種類の能力がある。
スピード重視の『爆破』。
利便性に加え、威力増強も可能な『衝撃』。
スピードも威力も十分なバランスタイプの『花火』。
発動するのに時間がかかるが、『花火』よりも威力がある、高出力光線が『万華鏡』。
そして、己をも巻き込む最強の自爆技。
「出力最大──『正四尺玉』」
その巨大で綺麗な花火は、二人の神人を呑み込んだ。
*
カナメの『正四尺玉』は、上空にて放たれたのにも関わらず、生存戦争の会場すらも巻き込んだ。
これにより真ん中の更地を森が囲むように出来ていたこの場所に、新たな更地が生まれることとなった。
生存戦争の参加者も、また目的不明の部外者の一部も巻き込まれたが、『正四尺玉』の前では死体すらも残らず消滅する。
黒煙を掻き分け、血だらけのカナメが姿を現した。
「……俺の絶対防御の仕組みは単純でね、常に俺の体から『衝撃』が漏れているからなんだよ。俺の体に近付けば近付くほど『衝撃』は威力を増し、攻撃性を捨てる代わりに俺に触れさせないような『壁』みたいなものを作ってるってわけ。分かりにくいよね?まあ言ってる俺自身もまだよく分かってないからしょうがないんだけど。でもこの『壁』のおかげで俺は『正四尺玉』を軽減出来たわけ。それでもちょっと喰らったからね。自分で言うのもアレだけど、やばいよこの威力」
カナメの右腕が、ぼとりと落ちた。
とっくのとうに再生能力は限界を迎えている、もちろん目も潰れたままだ。
「ともかく、『壁』があるから俺に触れることは出来ないわけだけど、お前は『空間支配』で俺と『衝撃』の空間を切り離して攻撃してくれてたな。相当むずいでしょそれ。でもそれにリソースを割いてくれたおかげで、最後の『奥義』も全力を出せなかった。……それでも大分やばかったけど」
バキッと、カナメの膝が砕けた。
そのためカナメは立っていることが出来ず、仰向けに倒れる。
これでカナメは、ライザーを見上げる形になった。
どろどろとした血が、地面を這う。
「……でもまあ、それでも」
カナメとライザーに、少し強い風が吹いた。
するとライザーの体が──ぼろぼろと崩れていき、やがて灰となって空を飛んでいく。
ライザーの『永続破空』は、カナメだけには止まらず、ありとあらゆる生命を壊していった。
これが万全の状態で来たらと思うと……まあ、なんとかするけどね?
カナメは心の中でそう言い訳をし、かつてない強者に、微量の賞賛を込めた言葉で、この戦いを締め括った。
「言った通り、俺が勝つに決まってたんだよ。ライザー」